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第7話:街の無法者

第7話:街の無法者

翌日から、劉星は鄄城の街を隅々まで歩き回った。昼は、活気のある市場や職人たちの仕事場を。夜は、酒場や賭場といった、欲望が渦巻く場所を。彼は人々の会話に耳を澄ませ、この街の力関係、人々の不満、そしてどこに「力を持て余した者」がいるのかを探っていた。

分かったことがいくつかある。この街は、曹操の軍事拠点として一応の秩序は保たれている。しかし、呂布との戦いで流れ着いた元兵士や、仕事を失ったならず者たちは、徒党を組んで小さな縄張り争いを繰り返しているらしかった。

彼らのような人間は、腕は立つが、組織に属することを嫌う。普通のやり方では、まず兵にはならないだろう。だが、もし彼らを束ねる「頭」を屈服させることができれば、話は別かもしれない。

劉星は、賭場の隅で酒を飲みながら、男たちの会話から一つの名を拾い上げた。

周倉しゅうそう

その男は、元は黄巾党の残党で、山賊働きをしていたところを曹操軍に討伐され、命からがらこの鄄城に逃げ込んできたという。今では、城下の南側一帯のならず者たちを束ねる、元締的な存在になっているらしかった。身の丈は六尺を超え、岩のような筋肉を持ち、大斧を軽々と振り回す怪力の持ち主だという。

「面白い…」

劉星の口元が、自然と綻んだ。これ以上ない相手だった。この男を叩きのめし、その力を吸収することができれば、天狼隊の礎を築くことができる。

その夜、劉星は周倉の縄張りだという、街で最も大きな賭場へと向かった。扉を開けると、むっとするような熱気と、男たちの怒声や罵声が渦巻いていた。中央では、上半身裸の筋骨隆々の男たちが、賭け腕相撲に興じている。その中心で、一際大きな体躯の男が、挑戦者を赤子のようにねじ伏せては、銅銭をがなり立てながらかき集めていた。額には、黄巾党の印であった黄色い布を巻いている。間違いない、あれが周倉だ。

劉星は人混みをかき分け、ゆっくりと周倉の前に進み出た。

「あんたが、この辺りの元締めか?」

周倉は、挑戦的な目をした小柄な少年に、訝しげな視線を向けた。

「いかにも、俺様が周倉だ。なんだ小僧、俺様に腕っ節を試してえのか? 銭は持ってるんだろうな?」

周囲の男たちが、ゲラゲラと下品な笑い声を上げる。劉星は、静かに答えた。

「銭は持っていない。だが、賭けるものはある」

「ほう、何だ?」

「俺の命と、あんたの全てだ」

その言葉に、賭場の空気が一瞬で凍りついた。周倉の顔から笑みが消える。

「面白いことを言うじゃねえか、小僧。いいだろう、その勝負、受けてやる。ただし、負けたらてめえのその生意気な首、胴体から切り離してやるぜ!」

周倉は立ち上がり、ゴキゴキと指の骨を鳴らした。その体は、まるで黒々とした岩山のようだった。だが、劉星の瞳には、恐れの色は微塵もなかった。むしろ、強敵を前にした喜びに、その魂が打ち震えているのを自覚していた。

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