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第27話:無血開城

第27話:無血開城

曹操軍が宛城に迫ると、城内では激しい議論が交わされていた。

城主の張繡は、血気盛んな武将だった。

「曹操の軍勢など、恐るるに足らず! 我らの力を見せつけ、返り討ちにしてくれるわ!」

だが、その張繡に、一人の男が静かに進言した。その男は、賈詡かく、字は文和ぶんわ。かつて董卓に仕え、その知謀で幾度となく窮地を乗り越えてきた、当代きっての謀略家だった。

「将軍、お待ちくだされ。曹操軍の勢いは、今や天下に鳴り響いております。正面から戦って、勝ち目はありませぬ」

「では、どうしろと申すのだ、賈詡!」

「降伏なさいませ」

賈詡の言葉に、張繡は激高した。

「何を馬鹿なことを! 戦わずして膝を屈するなど、武人の恥だ!」

「戦で死ぬことだけが、武人の道ではございません。今は、一度頭を下げ、好機を待つのです。曹操という男は、降伏した相手には寛大です。しかし、その内には強い驕りも隠されている。いずれ、必ずや隙を見せましょう。我らが動くのは、その時です」

賈詡の冷静な分析と、未来を見据えた言葉に、張繡はしぶしぶながらも納得し、降伏を決断した。

曹操軍が宛城の目前まで来た時、城門は静かに開かれ、張繡自らが曹操を出迎えた。

「これほどの軍勢を前にして、戦うは愚の骨頂。この張繡、曹操殿に降伏いたします」

あまりにも呆気ない勝利に、曹操軍の将兵たちは、拍子抜けしたようだった。

「なんだ、戦にもならなかったな」

「張繡も、大したことのない男よ」

陣営全体が、勝利の喜びに沸き、そして、弛緩した空気に包まれていった。

劉星は、その様子に、一抹の不安を覚えていた。

(簡単すぎる…)

まるで、何の抵抗もなく口を開ける、巨大な獣の顎のようだ。彼は、降伏を勧めたという軍師・賈詡の存在が、どうにも気になっていた。あの男は、決してこのまま終わるような人物ではない。

兄の曹昂も、同じように感じていたらしかった。

「飛翼、どう思う? 少し、都合が良すぎる気がしないか?」

「ええ。油断は禁物です。特に、あの賈詡という男には、気をつけた方がいい」

二人は、互いの懸念を共有した。だが、軍全体の楽観的な空気の前では、彼らの警戒心は杞憂として流されてしまう。

曹操自身も、この容易い勝利に、すっかり気を良くしていた。彼は、張繡の降伏を快く受け入れると、宛城に入城し、盛大な祝宴を開くことを命じた。

英雄は、自らの手で、悲劇の舞台を整え始めていた。そのことに、まだ誰も気づいていなかった。

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