第25話:義の武人
第25話:義の武人
下邳城が陥落した後、捕虜となった関羽の処遇を巡って、軍議は紛糾した。
「あれほどの猛将、生かしておいては後々の災いとなります! 斬るべきです!」
多くの将が、そう主張した。
だが、曹操は、関羽の武勇と人柄に、強く惹かれていた。何とかして、自分の配下に加えたいと考えていたのだ。
劉星もまた、この義の武人に、深い興味を抱いていた。彼は、軍議の席で、進み出た。
「父上。関羽殿を殺すのは、あまりにも惜しい。一度、私に、彼と話す機会をいただけないでしょうか」
曹操は、その申し出を許可した。
劉星は、牢にいる関羽の元を訪れた。関羽は、捕虜となっても、その態度は少しも変わらず、堂々としていた。
「何の用だ、曹操の息子よ」
「関羽殿。あなたの武勇、そして義理堅さは、敵ながら天晴れなもの。なぜ、劉備玄徳のような、先行きも分からぬ男に、そこまで尽くすのですか? 我が父の下に来れば、あなたは、将軍として、最高の栄誉を手にすることができるはずだ」
その問いに、関羽は、静かに答えた。
「兄者との誓いは、栄誉や富よりも、重い。我らは、桃園で、漢室を助け、民を救うと誓った。その義のために、この命はある」
その言葉に、劉星は、心を打たれた。自分が、父への憎しみや、母への思いで戦っているのとは、全く違う次元の、大きな「義」のために、この男は戦っている。
「劉備玄徳とは、それほどまでに、大きな人物なのですか」
「兄者はな…」
関羽の厳しい顔が、ふっと和らいだ。「特別な何かを持っているわけではないのかもしれん。だが、あの方には、人を惹きつけてやまない、不思議な徳がある。あの方のためなら、死ねる。そう思わせる何かが、あの方にはあるのだ」
劉星は、この赤ら顔の武人に、深い敬意を抱いた。彼こそが、真の武人だ。生き方そのものが、一つの「義」を体現している。
この出会いは、劉星のその後の人生に、大きな影響を与えることになる。彼は、自らが目指すべき武人像の一つを、この関羽という男の中に見出したのだった。
結局、関羽は、三つの条件を出すことで、一時的に曹操に降ることになる。