第18話:宿敵、相見える
第18話:宿敵、相見える
濮陽を奪還したものの、曹操軍の損害もまた、甚大だった。そして、呂布は、依然として兗州の東部に拠点を構え、反撃の機会をうかがっていた。
戦いは、終わっていなかった。
そんな中、劉星と天狼隊は、その遊撃部隊としての能力を高く評価され、敵陣の偵察と、補給路の攪乱という、重要な任務を与えられていた。
ある日、劉星が、少数の手勢を率いて敵地を偵察していた時だった。
彼は、森の中で、偶然、敵の小部隊と遭遇した。その部隊を率いていたのは、呂布軍の中でも、ひときわ落ち着いた雰囲気を漂わせる、精悍な武将だった。
劉星は、まだ彼の名を知らなかったが、その佇まいには、只者ではない何かを感じさせた。
「ここまでだ、曹操の犬め」
その武将――張遼の声は、静かだが、鋼のような意志が込められていた。
「面白い。貴様、名は?」
劉星が問う。
「呂布将軍配下、張遼文遠。貴様こそ、名を名乗れ」
「劉星。…天狼隊を率いる者だ」
会話は、そこまでだった。二人は、同時に地を蹴った。
張遼の槍は、精密機械のように正確無比だった。突き、薙ぎ、払い。全ての動きに無駄がなく、流麗でさえある。それは、長い経験と鍛錬によって磨き上げられた、「静」の武だった。
対する劉星の動きは、予測不可能だった。彼は、張遼の攻撃を最小限の動きでかわし、獣のように低い姿勢から、その懐へ飛び込もうとする。変幻自在の、「動」の武だった。
静と動。槍と短剣。二人の英雄の戦いは、互角の死闘となった。
劉星は、戦いながら感じていた。この男は、強い。呂布とは違う種類の、底知れない強さを持っている。
「見事な腕だ、劉星。だが!」
張遼の槍が、不意に軌道を変えた。劉星の肩を、穂先が浅く切り裂く。
「ぐっ…!」
体勢を崩した劉星に、張遼の追撃が迫る。万事休すか、と思われたその時、横から巨大な斧が飛んできて、張遼の槍を弾き飛ばした。
「旦那に指一本触れさせてたまるか!」
周倉が、劉星の危機を察知して、助けに駆けつけたのだった。
張遼は、増援を見て、ちっと舌打ちすると、静かに槍を収めた。
「…今日は、ここまでにしておこう。だが、覚えておけ、劉星。次に会う時は、どちらかが死ぬ時だ」
張遼は、それだけ言い残すと、部隊を率いて森の奥へと消えていった。
劉星は、傷ついた肩を押さえながら、張遼が消えた方向を、じっと見つめていた。
(張遼文遠…)
彼は、その名を、心に刻んだ。いつか、必ず、雌雄を決しなければならない、宿敵との、運命の出会いだった。