第15話:濮陽奪還戦
第15話:濮陽奪還戦
天狼隊がその旗印を掲げた頃、鄄城の空気は決戦前夜の緊張感に包まれていた。呂布に奪われた本拠地・濮陽を奪還し、兗州の戦いに決着をつけるべく、曹操は総攻撃の準備を進めていたのだ。
「天狼隊の初陣を、この濮陽奪還戦で飾る。異存はないな、飛翼」
軍議の席で、曹操は劉星にそう告げた。その目には、息子を試すような色が浮かんでいた。
「はっ。お任せください」
劉星は、静かに、しかし力強く答えた。
天狼隊の役割は、主力部隊が城の正面を攻めている間に、別動隊として城の側面や背後を突き、敵を混乱させること。まさに、彼らのためにあるような任務だった。
出陣の前夜、劉星は天狼隊の隊員たちを集めた。
「聞け、狼ども! 明日は、俺たちの初陣だ。相手は、天下に名高い飛将・呂布の軍。だが、恐れることはない。俺たちは、俺たちのやり方で戦う。闇を駆け、敵の喉笛を、音もなく食い破る。それが、俺たち天狼隊の戦いだ」
「「応っ!」」
隊員たちの士気は、最高潮に達していた。
翌朝、曹操軍の総攻撃が開始された。夏侯惇率いる本隊が、城の正面から猛然と攻めかかる。城壁の上からは、呂布軍の矢が雨のように降り注ぎ、激しい攻防戦が繰り広げられた。
その喧騒の裏で、劉星率いる天狼隊は、静かに動いていた。彼らは、城壁の死角となる川沿いを、音もなく進むと、守りの手薄な裏門へと忍び寄った。
「今だ!」
彼らは、用意していた鉤縄を城壁に投げかけ、次々と壁を乗り越えていく。
天狼隊の、鮮烈な初陣の幕が、今、切って落とされた。