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第12話:再戦、典韋

第12話:再戦、典韋

天狼隊の訓練が軌道に乗り始めたある日の午後、事件は起きた。

いつものように模擬戦が繰り広げられていた練兵場に、地響きのような足音と共に、典韋が歩み入ってきたのだ。これまでは遠巻きに眺めているだけだった彼が、初めてその内側へと足を踏み入れた。

「訓練の邪魔だ。用がないなら帰ってくれ」

劉星が冷たく言うと、典韋はにやりと笑った。その笑みは、虎が獲物を見つけた時のそれに似ていた。

「用ならある。小僧、俺と勝負しろ!」

その言葉に、練兵場の空気が一瞬で張り詰めた。天狼隊の隊員たちは、一斉に武器を構え、典韋を取り囲む。だが、典韋は全く動じなかった。

「邪魔だ、雑魚ども。俺の用事は、そこの小僧一人だ」

「やめろ、お前たち」

劉星は、隊員たちを手で制した。これは、自分とこの男との問題だ。

「いいだろう。その挑戦、受けてやる。だが、今度は手加減なしだ」

劉星と典韋が、練兵場の中央で対峙する。一度目の対決は、庁舎での不意打ちだった。だが、今度は違う。互いに相手の実力を認識し、万全の状態で臨む、真の勝負だった。

「うおおおおっ!」

先に動いたのは典韋だった。彼は武器を使わず、ただその圧倒的な質量とパワーで劉星を捕らえ、力でねじ伏せようとした。だが、劉星はそれを予測していた。迫りくる巨体を、水面の葦のようにしなやかに受け流し、その勢いを利用して関節を狙う。

典韋の剛に対し、劉星の柔。力と技の応酬は、激しい火花を散らした。典韋の拳が空を裂き、劉星の蹴りが地を削る。一瞬でも気を抜けば、勝負が決まる。その息詰まる攻防に、周りで見守る者たちは息をのむことしかできなかった。

何度目かの攻防の末、二人はついに互いの拳を捉え、がっぷりと組み合った。純粋な力比べ。さすがに、体重も体格も倍近くある典韋の力が、徐々に劉星を押し込んでいく。劉星の足が、地面にめり込んでいく。

「どうした小僧! 技が使えねば、その程度か!」

典韋が勝利を確信し、力を込めた瞬間。

「…お前こそ!」

劉星は、不意に全身の力を抜いた。押す力が突然消えたことで、典韋の体勢が前のめりに崩れる。その一瞬の隙を突き、劉星は足で典韋の軸足を払い、同時に頭突きをその顎に叩き込んだ。

「ぐっ…!」

二人はもつれ合うようにして、同時に地面に倒れた。

「はあっ…はあっ…」

肩で息をしながら、二人はしばらく睨み合った。だが、やがてどちらからともなく、ふっと笑い出した。

「はっはっは…」

「ふふ…あははは!」

勝負は、つかなかった。だが、それで良かった。この激しいぶつかり合いを通じて、二人の間には、言葉では言い表せない奇妙な友情が芽生え始めていた。

「お前、強いな」

起き上がりながら、典韋が言った。その声には、以前のような敵意はなく、純粋な感嘆がこもっていた。

「お前こそ、化け物だ」

劉星も、泥を払いながら答えた。

「俺の名は典韋。お前、名は?」

「劉星。…まだ字はない」

二人は、固い握手を交わした。悪来と狼は、互いの力を認め合い、無二の戦友となった。この日から、典韋は監視者としてではなく、時折ふらりと現れては劉星たちの訓練に混ざる、良き好敵手として練兵場に顔を出すようになった。

天狼隊の訓練が軌道に乗り始めたある日の午後、事件は起きた。

いつものように模擬戦が繰り広げられていた練兵場に、地響きのような足音と共に、許褚が歩み入ってきたのだ。これまでは遠巻きに眺めているだけだった彼が、初めてその内側へと足を踏み入れた。

「訓練の邪魔だ。用がないなら帰ってくれ」

劉星が冷たく言うと、許褚はにやりと笑った。その笑みは、虎が獲物を見つけた時のそれに似ていた。

「用ならある。小僧、俺と勝負しろ!」

その言葉に、練兵場の空気が一瞬で張り詰めた。天狼隊の隊員たちは、一斉に武器を構え、許褚を取り囲む。だが、許褚は全く動じなかった。

「邪魔だ、雑魚ども。俺の用事は、そこの小僧一人だ」

「やめろ、お前たち」

劉星は、隊員たちを手で制した。これは、自分とこの男との問題だ。

「いいだろう。その挑戦、受けてやる。だが、今度は手加減なしだ」

劉星と許褚が、練兵場の中央で対峙する。一度目の対決は、庁舎での不意打ちだった。だが、今度は違う。互いに相手の実力を認識し、万全の状態で臨む、真の勝負だった。

「うおおおおっ!」

先に動いたのは許褚だった。彼は武器を使わず、ただその圧倒的な質量とパワーで劉星を捕らえ、力でねじ伏せようとした。だが、劉星はそれを予測していた。迫りくる巨体を、水面の葦のようにしなやかに受け流し、その勢いを利用して関節を狙う。

許褚の剛に対し、劉星の柔。力と技の応酬は、激しい火花を散らした。許褚の拳が空を裂き、劉星の蹴りが地を削る。一瞬でも気を抜けば、勝負が決まる。その息詰まる攻防に、周りで見守る者たちは息をのむことしかできなかった。

何度目かの攻防の末、二人はついに互いの拳を捉え、がっぷりと組み合った。純粋な力比べ。さすがに、体重も体格も倍近くある許褚の力が、徐々に劉星を押し込んでいく。劉星の足が、地面にめり込んでいく。

「どうした小僧! 技が使えねば、その程度か!」

許褚が勝利を確信し、力を込めた瞬間。

「…お前こそ!」

劉星は、不意に全身の力を抜いた。押す力が突然消えたことで、許褚の体勢が前のめりに崩れる。その一瞬の隙を突き、劉星は足で許褚の軸足を払い、同時に頭突きをその顎に叩き込んだ。

「ぐっ…!」

二人はもつれ合うようにして、同時に地面に倒れた。

「はあっ…はあっ…」

肩で息をしながら、二人はしばらく睨み合った。だが、やがてどちらからともなく、ふっと笑い出した。

「はっはっは…」

「ふふ…あははは!」

勝負は、つかなかった。だが、それで良かった。この激しいぶつかり合いを通じて、二人の間には、言葉では言い表せない奇妙な友情が芽生え始めていた。

「お前、強いな」

起き上がりながら、許褚が言った。その声には、以前のような敵意はなく、純粋な感嘆がこもっていた。

「お前こそ、化け物だ」

劉星も、泥を払いながら答えた。

「俺の名は許褚、字は仲康ちゅうこうだ」

「劉星。…まだ字はない」

二人は、固い握手を交わした。虎と狼は、互いの力を認め合い、無二の戦友となった。この日から、許褚は監視者としてではなく、時折ふらりと現れては劉星たちの訓練に混ざる、良き好敵手として練兵場に顔を出すようになった。

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