第11話:天狼隊、始動
第11話:天狼隊、始動
典韋という思わぬ強敵を得たことで、天狼隊の訓練には一層の熱がこもった。劉星の訓練方法は、徹底した実戦主義だった。
「戦場に型などない! あるのは生死だけだ!」
劉星は、隊員たちにそう言い放った。彼の訓練では、隊員たちは常に二手に分かれ、本物の武器に近い木製の武器で、本気で打ち合うことを求められた。怪我人は日常茶飯事だったが、不思議と大きな事故にはならなかった。劉星が、常に戦場全体を見渡し、危険な状況になる前に割って入るからだ。
「周倉! お前の力は、ただ前に進むだけでは半分も活かせん! 味方の壁となり、敵の陣形を崩すために使え!」
「そこのお前! 逃げるな! 敵の背後へ回り込め! 狼は、正面からだけ牙を剥くのではない!」
劉星は一人一人の動きを観察し、的確な指示を飛ばす。彼の指導のもと、元はただのならず者の集まりだった男たちは、次第に統率の取れた動きを見せるようになっていった。彼らは、劉星の戦術――機動力を活かした一撃離脱、陽動と奇襲の組み合わせ――を、身体で覚えていった。
この常識外れの訓練の噂は、すぐに夏侯惇の耳にも届いた。心配になった彼が練兵場を訪れると、そこでは泥だらけの男たちが、まるで本物の戦のように怒声を上げながらぶつかり合っていた。その光景は、およそ軍の訓練とは呼べない、野蛮な乱闘のようにも見えた。
「劉星殿! これはいったい何の真似だ! このようなことでは、規律も何もあったものでは…!」
夏侯惇が思わず声を荒らげると、劉星は訓練を中断させ、彼に向き直った。
「夏侯惇殿。戦場で、敵は我々の都合に合わせて動いてはくれない。規律正しく整列した兵よりも、泥水を啜ってでも生き残ろうとする狼の方が、俺は強いと信じている」
その瞳には、揺るぎない確信が宿っていた。夏侯惇は、言葉に詰まった。劉星の言うことにも一理ある。いや、もしかしたら、これこそが乱世を生き抜くための、新しい戦い方なのかもしれない。
「…好きにしろ。だが、死人だけは出すなよ」
そう言い残して去っていく夏侯惇の背中は、どこか諦めと、そして微かな期待が入り混じっているように見えた。
訓練が終わると、劉星は隊員たちと車座になって同じ釜の飯を食った。身分も過去も関係ない。そこでは、彼は将軍ではなく、ただの仲間の一人だった。彼は、男たちの身の上話に耳を傾け、時には冗談を言って笑い合った。
初めは遠巻きに見ていた男たちも、次第に彼に心を開いていった。この若き将は、自分たちと同じ目線に立ち、自分たちの痛みを理解してくれる。そして何より、自分たちを決して見捨てない。その信頼が、天狼隊という集団を、単なる兵の集まりから、一つの「家族」のような強い絆で結びつけていった。
狼の群れは、その牙を研ぎ澄ましながら、少しずつ、しかし着実にその形を成しつつあった。