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「お疲れさまでございます、●●さん」
クエスト管理棟二階で廊下の窓を拭いていると、声を掛けられた。僕には彼女が廊下の向こうから歩いてくるのがわかっていた。受付嬢だけが履く、制服と揃いのヒールの音で。
すぐそばまで来た彼女の姿は、窓に反射して見えていた。
お疲れさまは会釈の15度。
僕が振り向く前なのに、丁寧な所作で頭を下げる。
「あ、どうも。お疲れさまです。今日暑いですね」
「そうですね」
僕は言いながら作業服の袖で額を拭うが、彼女の白い顔には汗ひとつ浮いていない。
「今からお昼ですか?」
「はい。●●さんはもうお済みですか?」
「いやぁ、自分はまだ。コレが切りの良いところまで終わってからです」
と、親指で背後の窓を指して見せる。
キュウウ……クルル
何とも間が悪く腹が鳴った。
「切りが良くなるまで、こちらをどうぞ」
彼女は制服のポケットから飴の包みを取り出して、僕にくれた。
「あ、すいません。ありがとうございます」
ぺこぺこと頭を上げ下げする。
「とんでもないです。こちらこそ、いつもお掃除ありがとうございます」
親しみを感じる敬礼30度。受付嬢としてじゃない、昼休みの彼女の角度。
美しいヒトだと思った。
貰った飴は、痺れるほどに甘かった。