第7話 展示会。
「その後、カミーユお嬢様はいかがかしら?」
そっとマダムがささやく。
今日のくすんだ赤のドレスも、大きな胸がこぼれそうで怖い。ドレスのスカートは太もも近くまでスリットが入っていて、危うい。不思議とこの人が着ていると品があるのが不思議だ。
「きちんと勉強しておりますよ。剣術の練習も休みませんし。社交の勉強も始めました。」
「うふふっ。」
「帳簿の見方も教えています。今までの家庭教師からの勉強も、理解していたようで、難なく進みそうです。」
「まあ、あなたの所に預けて良かったわ。」
「光栄です。」
マダムの横に並ぶ私は、夏用のスーツ。小姓みたいに見えそう。
スーは侍従の格好。マダムのいつもの用心棒も控えている。
6月初め。待ちに待ったヘイロン商会の展示会に来ている。招待状はマダム宛てなので、我々はその側人、という感じだ。
受付でマダムが招待状を見せると、奥から若い男が走ってきた。歳は…25歳くらいか?華国人は年が若く見えるので、もっといっているかも。華国の正装だ。
「マダーム。来ていただけて嬉しいです。私のことはヘイロンとお呼びください。」
マダムはにっこり笑って、手を伸ばす。その手にフラル風の挨拶のキスをして、そのまま手を引いて奥に案内される。
私たちのことは目に入っていないようだな。心底嬉しそうだ。
「お茶にいたしますか?商品をご覧になってからにしますか?」
「そうねえ…先に見せて頂こうかしら?」
ヘイロン商会の会頭の跡取り息子だというその男に案内されて、商品を見て回る。
広い屋敷内はほんのり華国風。ほのかにお香の香りもする。
色とりどりの絹の反物。
それで仕立てられたドレスのサンプル。
いい!手触りが違う。
お香。
翡翠。
大きな水晶。
たくさんの香料。
マダムの隣ではしゃいでいるヘイロンを観察する。
華国人でよく見る真っすぐな黒髪を背中あたりでゆるく結んでいる。瞳も黒。
あまり背の高い華国人を見たことが無いが、この人はスーより少し低いくらい。
何か武術をしているんだろう、肩から首にかけての筋肉が盛り上がっている。華国風の服なので体のラインは良く見えないが。
流暢にフラル語を話している。
ちらりとスーを見ると、目が合った。軽く頷いている。
スーは…同じ黒髪だが、癖がある。見慣れた顔。
一番奥の部屋は沢山の絨毯。エキゾチックな模様が織り上げられていたり、この国向けの無難なものもある。物はかなりいい。
虎?の敷物。剥製。
なんかの毛皮のコート。
タペストリー。
丁寧に一つ一つ説明している。
絨毯は華国の内陸部の遊牧民と提携しているらしい。
絹も、原材料から契約して作っているらしい。まあ、それだけ手間暇かけた物。それだけの価値がある。
「いかがでした?マダーム。何か気になったものはありましたか?」
「そうね。どれも素晴らしい商品でしたわ。これからも、偽物に負けないように頑張っていただきたいわ。うふふっ。」
マダムがそう言うと、ヘイロンの顔が少し歪んだ。
「この国だけじゃなくて、隣のブラウ国にもユテイニ国にもヘイロン商会を騙った商品が出回っておりますでしょう?はっきり言って粗悪品です。お早めに手を打たれたほうがよろしいかと。ね?」
「・・・・・」
「続きは私のお店で。ご紹介したい人もおりますのでね。うふふっ。」
そう言うとマダムが、ドレスの胸元から一枚のカードを出した。
真っ黒のカードに、深紅のバラが描かれている。
知ってる。VIPカードだよね。国中の貴族連中が欲しがっているカードだ。
そのカードに軽くキスをして、ヘイロンに手渡す。流れるようなしぐさだ。