第3話 フランシーヌの店。
「まあ!リーサ様?」
フランシーヌの店に入ると、女主人が自ら出迎えてくれた。
奥の個室に通される。まあ、いつもの事。
「きゃあ、可愛い!」
「いいわね、短い髪も。ギャルソンみたいね。」
女の子たちがきゃあきゃあ騒ぎ出す。
お嬢のコートを脱がせて、女の子に預ける。自分のコートも頼む。
「あらまあ、ほんとに思いきりましたね?お似合いですわ。」
「ありがとう、マダム。この春から本格的にこちらに移ってきた。今後ともよろしく頼むよ。」
「まあ、こちらこそ。とりあえず何かお飲み物を?」
「お腹がすいている。何かつまむものを頼む。私はぶどうジュースでいい。飲んできたから。スーは?何も飲んでないだろう?」
「お任せで。」
お嬢の向かいの席に座る。
お嬢はもう女の子に囲まれている。ギャルソンね、ふふっ。本当に少年のようにも見える。用意されたカナッペを美味しそうに食べ始めた。
「スーも食べなさい。大きくなれないわよ?」
俺はもう、190センチある。これ以上大きくなれってか?ふふっ。
小さい頃はそう言って、たくさん食べさせられた。おかげで大きくなった。
でもまあ、腹がすいていたので、食べる。お任せの飲み物はシャンパンだった。
カナッペ、といってもさすがにこのフラル国一の娼館と言われるだけあって、豪勢だ。キャビアだのフォアグラだのブルーチーズだのが綺麗にのせられている。
牛肉のトロトロになるまで煮込まれたシチューや、鴨のテリーヌ…
デザートにはフルーツがこれでもか!というほどのせられたタルト。いろんな種類のプチケーキ…。洋ナシのソルベとアイスクリームも出てきた。
・・・正直、その辺で高級レストランといわれる店より美味い。
俺は立場上は同席を許されるような者ではないが、以前から当主に連れられてきていたここは、いつもお嬢の向かいの席に座るのを許可された。最初はわあきゃあと女の子に囲まれた。
「あらやだ、いい男じゃないの?お姉さんがいろいろ教えてあげるわね?」
「まあ、私の方がいいわよねえ?」
・・・まあ、愛想笑いぐらいはするが、お嬢の逆鱗に触れてしまった。
「お前は私の護衛騎士だろう?女の子といちゃいちゃして不意打ちにあったらどうするつもりだ?」
「・・・・・」
正直…この店の護衛は選りすぐりだ。
店の前にいる店員風の男も、ピリピリするほどの威圧を感じる。
そもそも、許された人間しか入れないのだ。店の看板が出ているわけでもなく、路地を一本入ったところにあるので入り口さえよくわからないだろう。
以来…俺の隣に座るのはマダムぐらいかな。
*****
食後にコーヒーが出た。ミルクと砂糖を入れてもらう。
「リ―サ様。以前からご希望のあったヘイロン商会の展示会の招待状を手に入れておきましたよ?」
「さすがだな!マダム!助かるよ。」
「うふふっ。リーサ様のお願いですからねえ。ただ…。」
「ん?」
「こちらからも一つだけお願いがございますの。」
「ああ。それはもちろん聞くよ。ヘイロン商会で扱っている絹織物をどうしても手に入れて来いって、とある人から命令されてね。」
「まあ、リーサ様に命令できる者など限られますわねえ。うふふっ。」
「そういうことだ。で?お願い事とはなんだ?」
マダムが目配せする。
いつもマダムについている、給仕係の格好をしてはいるが、ただものではない男。隙が無い。スーといい勝負か?いや、体格では負けている。もう少しスーを大きくしなければな。
ちらりと向かいに座るスーを見る。
ピリッと緊張したのが伝わる。
下った男が、程なく女の子を連れて戻ってきた。
歳は15.6といったところか?下働きの格好をしている。グレーのワンピース。
この子?
「この子をしばらくお預かり頂きたいの。そうねえ、半年ぐらい?」
「?」
「一年ぐらいになるかもしれないわねえ。リ―サ様の商会で働かせてもいい。できれば少し教育していただきたい。護身術とかもね。うちでお預かりしていたんだけど、そろそろ支障が出だしてね。」
「ん?」
「リーサ様の商館なら、小さな師団ほどの力がございますでしょう?少し、かくまっておいて頂きたいの。」
「ん?ああ、いいぞ。女の子一人ぐらい。」
「掛かった経費は私に請求してくださいね。問題ございませんので。」
「ああ。わかった。それぐらいでいいのか?招待状の対価?」
いくら望んでも、手に入らない物。たとえ身分が高くても、金があろうとも、手に入らないとされる。ヘイロン商会の会頭のお眼鏡にかなった者でないと手に入れれない招待状。女の子一人預かるくらい、大したことではない。
おおかた…どこかの貴族の御落胤?とか?年若いが、愛人、とか。その辺かな?
癖のある柔らかそうな金髪。秋口の空のような澄んだ青い瞳を伏せ気味にしている。
年の割にはほっそりしているようにも見えるが、他人のことは言えない。
帰りはマダムの所の馬車で、屋敷まで送ってもらった。
女の子は、一言も口を開かなかった。




