第12話 近衛騎士2名。
「ありえない。なぜ僕が…。」
「ここまで来たんだ。諦めろ。」
王太子妃の私室に続く廊下。警備にあたっている新しく配置換えされた近衛騎士、2名。
二人は前を真っすぐ見ながら、小声で話している。
「はめられたな、マダムに。」
「・・・・・」
「初めからあの人の掌の中で転がされてたってことかな。ふふっ。面白い人だ。」
「笑いごとか!」
「声がでかいよ。フェルマン君。あ、お兄様。」
「・・・・・」
まったく…。人の今後のスケジュールまで把握していたとはな。展示会が済んだらひと月ほど羽を伸ばす予定だった。だったのに!!
いそいそと洗濯女中が通る。チラチラこちらを伺っている。
廊下を通る侍女や女中の数が増えた。
新人が物珍しいのか?
「きゃあ!」
洗濯物の籠を抱えて転んだ女中を弟が助け起こす。
「お嬢さん、大丈夫ですか?」
「・・・まあ、ありがとうございます。ジスラン様。」
頬を染めて小走りで去っていく。
「よくやるよ。あれ、わざとだろう?女の子はここでよく転ぶよね?そして、後でお礼にお菓子とかくれるんだよね?」
「・・・甘いの好きでしょう?お兄様。」
「お前、いいの?サーラに張り倒されない?」
「は?なぜ?」
「なぜって…。」
こいつら自覚無し?
フランシーヌの店であんなに込み入った話してるとき、こいつの媚薬使用疑惑で大喧嘩しやがった。どこで使っただの、誰と使っただの…。なんなの??こいつはしらっとしてるし、サーラは青筋立てて怒ってるし。俺はびっくりしたけど、マダムもカミーユも笑ってるし…。意味わからん。
今回王太子妃付きに新しく配属されたのは、華国人の母を持つフェルマンと、ジスランの兄弟。
兄はストレートの黒髪を緩く縛っている。弟はやはり黒髪だが、少しくせ毛の短髪。
顔はさほど似ていないが、二人共、違ったタイプのいい男だ。まあ、俺の方がモテるけどね。
『しかしなあ…。経歴書とか?出生証明とか?何でもありかよ?』
『そうみたいだな。』
『思ったよりおっかない人なんだな、マダム。』
『そう?お兄様の希望通りでしょう?』
『・・・・・』
『早いとこ尻尾捕まえて、帰りましょう。』
『・・・そうだな。』
二人しかいないが、念のため華国語での会話。こいつが日常会話まで出来るのに驚いた。
警護は3交代制。
今週は早番。朝からの勤務。
寮は個室。たいして広くもないが、寝に帰るだけだから充分。ご飯は使用人用の食堂で3食食べられる。夜中もやっている。すごいね。
王城で働く人は何人ぐらいいるもんだろう?500人ぐらいか?もっといるか?
王子用の東棟は若い使用人が多いな。
王太子妃の私室のドアの前には、別に2人警護している。
そう易々と外部の人間は入ってこれない。
ここ数日観察したところでは、マダムの知り合いの例の大臣。こいつは胡散臭い。財務大臣らしいが宰相も兼ねている。目つきも悪い。いつも控えている俺たちをちらりと見ていく。マダムが騙されているんじゃないかと心配になるよ。大体において、国の宰相が王太子妃とは言え、たかが小娘の機嫌伺を毎日するなんて、おかしいだろう??
あとは王太子妃の実父が来るらしい。まだ会っていないが。
・・・それからもちろん、王太子。
ガリガリに痩せて、目の下の隈が酷い。側使いを従えて来るが、側使いも皆いい男だ。能力はわからないがな。
毎日のように色々なところから贈り物が届く。
王太子が妃のいいなりな以上、誰に媚を売るべきか、みんなよくわかっている。
どこの誰から、というのはもちろん把握されているが、綺麗な梱包を解く権限はなさそうだ。中身は側付きの侍女がメモしているだろうが。
たまに東棟の中庭で王太子妃主催のお茶会が開かれるらしい。
この時のプレゼント攻撃もすごいのだと、食堂で小耳にはさんだ。
お茶会にお声がけいただけるだけで光栄なんだそうだ。
まあ、噂に聞いた通りかな。
のこのこチンロン商店の店主が来ることなんか、まあ、ないな。会ったこともないけど。
「くくっ。」
笑いをこらえながら通り過ぎて行ったのは、最近王城にお戻りになった第二王子のカミーユ様。後ろに厳しいと評判の家庭教師が一人。短い金髪の青年。色白でお人形みたいなやつ。もう一人、王城のお仕着せを着たの30過ぎの侍女。一番後ろに第二王子の護衛のじいちゃん。
チラ見しながら笑ってんじゃねえぞ?
来週のシフトは、弟と夜勤番。




