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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第五章 日常と非日常と

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第八十話

 俺のプレイしていたゲームにおいて『音楽家』というのは半ば生産職であり、その役割は『街やダンジョン内で、作成した楽譜の音楽を鳴らす』というものであり、それにより範囲内の人間に補助効果を付与する、というものだった。

 戦う力は全生産職の中で最も低く、だが補助を広範囲に撒けるのは非常に有能だ。

 が、その補助は『音楽が鳴っている間だけ』という弱点があった。

 だから、前線に出ても『演奏しながら敵の攻撃が来たらひたすら回避』というスタイルを求められる、ピーキーな職業なのだ。

 そして、サブジョブとして設定しているのは『踊り手』。

 これはキャラクターの性別により名称が変化し、女性キャラの場合は『踊り子』となる。

 生産職のサブに設定しているため、この職業のスキルは使えないが、それでも踊り子には変わった特徴がある。

『攻撃手段が素手と足に限定され、なおかつ攻撃モーションが元々早い』のだ。

 技を使うことは出来ないが、スピーディーに踊るように戦うことが出来るという訳だ。

 さらに、音楽家にも当然用意されている『救済用ぶっ壊れスキル』がある。


「ふぅ、少々頭が痛い。楽器を構えたらどうなることやら」

「わぁ……なんだか凄く……カッコいい? それとも恐そう……? よく分からないけど、目を引くんじゃないかしら? お名前なぁに?」

「ん、この姿は『ハッシュ』って言うんだ。目は……確かに引くかも」


 このキャラ、ネタキャラなんですよ半分。

 セイラが『爆乳お姉さん』っていう、ネトゲあるあるな容姿をしていたが、当然『別路線』のあるあるネタも存在する。

 ズバリ『クッソイケメンで乙女ゲームに出てきそうな銀髪ロン毛の鬼畜っぽいキャラ』だ。

 なんか……楽器弾いてるイケメンってこんなイメージない? 女のフレンドには好評だったけど。


「んー……? ハッシュの声って、なんだか凄く耳に残るのね? どうしてかしら」

「あー……一応音楽家だから……なのかなぁ」


 そういえば意識していなかったけど……キャラクターの姿になっている時のそれぞれの声って、ゲーム時代に『ボイスを担当していた声優さん』の声になってるんだよな。

 これって実は凄く貴重というか、ご褒美なのではないだろうか?


「ねぇねぇ! ピアノ、ピアノ弾いてくれる!? どんな風に鳴るのか聞いてみたいわ!」

「よし来た。じゃあ……一瞬だけ動きが止まるかもだけど、心配しないで。ハッシュの知識を覚える準備みたいなものだから」


 そうだな、なにはともあれ検証だ。

 果たして、ちゃんと楽器を弾けるのか。そして――『ゲーム時代の楽譜以外の曲も弾けるのか』。

 そう、例えば――『日本人なら絶対知っているような曲も弾けるのか』、だ。




「よし……行くぞ」


 ピアノの前に座り、蓋を開けて鍵盤に指を乗せる。

 その瞬間、予想通り奔流のように知識が、資料が、映像が、そして音楽が脳内に流れ込む。

 セイラの時の比じゃない、音が激しい分……脳が揺さぶられ、眩暈がする。

 目を閉じ、必死に情報の渦に耐え、自身の身を抱きしめるように身体を丸める。

 ……一緒に流れてくるのは、ハッシュの経験と知識。

 ストーリーの内容が、境遇が、感情が流れてくる。


「く……ぐぅ……!」


 宮廷楽師だったんだ。その魅惑の声と言動、優れた容姿で貴族の子女に人気の。

 妬まれ、追い出されたんだ。そして……野に下り、自分の音を探し放浪の旅に出る。

 人々との交流、時には荒事への介入、王道で、どこか平和で、時々闇に触れる、そんな冒険活劇。

 サブにどの職業を設定していても変わらないストーリーだったはずだ。


「そうだ……俺は、私は……音楽は楽しいものだと……伝える為に……」


 ハッシュの感情をすぐ近くに感じる。音楽を愛する心が伝わってくる。

 メルトにピアノを弾いてとせがまれて、とても喜んでいるのが伝わってくる。

 ……良いヤツだな、ハッシュ。凄く、良いヤツだ。

 …………若干女癖が悪いけど。ここは俺がしっかりしないとダメだ。


「ハッシュ、大丈夫……? 無理に弾かなくてもいいのよ?」

(いや、大丈夫だよメルト。もう平気。じゃあ早速弾いてみるよ)

「ご心配おかけしました、可愛い子狐さん。もう問題ありませんので、早速貴女に捧げる一曲を奏でさせて頂きます」


 !?

 なんか! 変! ただ喋っただけなのに!


(なんだこりゃ!? 口が勝手に!?)

「これは驚いた。私の紡ぐ言の葉は、優美な音色へと在り方を変えてしまうようですね」


 ただ喋っただけなのに!

 た だ 喋 っ た だ け な の に !


「??? 何々? 私子狐じゃないよ? もう大人の仲間入りよ? でも可愛いって言われるのは気分がいいね!」

(いや可愛いのは分かるんだけど……少し言葉が変になってしまうんだ、ハッシュの姿だと)

「貴女が可愛いのは誰もが認めるところでしょう。それはそれとして……どうやら私が私である限り、この口から紡がれる言葉の数々は若干、変化してしまうようなのです」

「へー! だからなんだか変な喋り方なのね! 古いおとぎ話みたいな!」


 グ! その口撃は俺に効く、やめてくれ!


(じゃあ前にシーレが弾いたパフって曲、あれをしっかり弾いてみるよ)

「それでは、以前シーレさんが奏でた音色に、少々色を加えて演奏してみましょう」


 ああもう! けど人格が変化しないだけマシなのか!?

 ハッシュの変なところの自我が強すぎるのか!?

 とにかく、まずは検証だ。シーレの弾いたパフ、これはゲーム時代に存在した曲じゃない。

 それを、しっかり全ての指で伴奏込みで弾くことが出来れば……ハッシュは思うがままに演奏出来るということになる。

 鍵盤に指を置く。

 肘の高さが、力の入り方が、指の動きが、手首の角度が、自然と『相応しい位置』に導かれる。

 楽譜が脳内に浮かび上がり、吸い寄せられるように全ての指が、まるで意思を持っているかのように鍵盤を叩き始める。


「うわ! 音がいっぱい! 凄く重なってる……! なにこれなにこれ!」

(これがしっかり楽器を扱える人間の演奏、ってことかな)

「これが、音を愛する人間が研鑽を重ねて辿り着ける場所、ですね」


 ていうか俺も初めて聞いた。しっかりとピアノで演奏されるパフなんて。

 これ……凄く楽しい……!


「んー……素敵ねー……楽しくて、なんだか音を食べてるみたいな気持ちねー」

(音を食べる……なるほど、なんとなく言わんとしてる意味が分かるよ)

「音を咀嚼し、刻み込む。良い表現ですメルトさん。中々詩的ですね」


 ねぇ……今は相手がメルトだから、ある程度こっちの事情も分かってくれてるし、親しい間柄だから平気だけど……。

 これ、他の人間に対してもこの言葉遣いになるの……?

 もうマジで恥ずかしいんだけど……。


「終わっちゃった。ハッシュ! もっともっと! 沢山、沢山聞かせて!」

(そうだね、どれくらい弾けるのか試してみるよ)

「分かりました。貴女の為に少々、己の限界に挑んでみるとしましょう」


 またこの口が! またこの口が! いちいち良い声で詩的な表現しやがって!

 容姿の所為で胡散臭いことこの上ないわ! なんか結婚詐欺師みたいだよもう!

 荒ぶる心を落ち着かせながら、続いて演奏するのは……ゲーム時代の音楽。

 とはいえ、ゲーム時代の音楽=ゲーム音楽という訳ではない。

 もちろんオリジナル楽曲の方が多いが、一部著作権の切れたクラシックなどもしっかりと演奏、補助効果を受けることが出来る。

 いや、厳密にはちゃんと『某法人』に使用料を支払っているらしいけれど。

 この世界では関係ないんじゃい!

 という訳で、メルトが好きそうな楽しそうな音楽を一曲チョイスしてみる。


(ではラプソディー・イン・ブルーを)

「ではラプソディー・イン・ブルーを」


 あ、ついに思考と一致した。

 知識によると、この曲は演奏者によってその表情をかなり変化させるらしい。

 情熱的に、躍動感たっぷりに弾く人も多いそうな。

 が、今回は軽やかに、ポップに楽しく、スキップするように演奏する。


「ん~……凄く楽しい曲。沢山音が飛んでくるからびっくりしちゃったわ。うきうきする曲ねー?」

(だろう? こういう楽しそうな曲とか、少し悲しい曲とか、色んな曲があるんだ)

「そうでしょ? 音楽は、その表情を幾つも音色の下に隠し持つのです。時に心弾ませるように、そして時には悲しみの雨に打たれる女性のように。様々な表情を持っているのです」


 オートポエマー! 俺はこれをオートポエマーと呼ぶぞ!

 いい加減にしろ!


 だが、少なくともこれで目的は達成出来るはずだ。

 まず、メルトにしっかりと『補助効果』が出ている。

 これはこちらからでないと確認出来ないが、うっすらと身体にオーラが纏われている。

 セイラで料理人のスキルがシズマに継承された条件は『元々の習得条件を達成すること』だった。

 なら、恐らく音楽家も同じように元々の条件達成でいけるはずだ。

 ずばりその方法は『作曲数』『演奏回数』『演奏した楽器の種類』『聞かせた人数』だ。

 これは近々、携帯可能な楽器を持って、ストリートパフォーマンス宜しく演奏するしかないな。

 無論……その中には地球の音楽も交えて。


「はー! 楽しかった! なんだか、凄く心が軽くなって、身体を動かしたくなっちゃった」

(確かに、そんな雰囲気の曲だよなぁ。喜んでくれてなによりだよ)

「ええ、仰る通りです。まるで季節外れの陽気に、思わず野原に駆けだしたくなるような。メルトさんに似合うと思い演奏しました。喜んでもらえて光栄ですよ」

「わ、なんだかそう言われると照れちゃう!」


 ああもう! オートポエマーっていうか、半分口説いてない!?

 なんか人によっては嫌われるぞ、こいつ!

 だが……それでも『音楽家の固有スキルは取りたい』んだよ!

 スキル名【リズムステップ】は、戦闘中無防備になりやすい音楽家故の性能を持っている。

 その効果は――仮に前衛職が覚えられたら、ゲームバランスを完全に破壊してしまう効果を持つ。

『攻撃後の硬直を半減』『回避行動の硬直を半減』『物理ダメージを50%で回避する』『戦闘中の行動速度を全て50%上昇』だ。

 ふざけんなと。たった一つのスキルでアタッカーとしてもタンクとしても大幅に強化されちまうじゃないかと。

 ただ、それが許されるほど貧弱なのが音楽家なのだ。

 たぶん、唯一シズマとタイマンしても負けそうなのが音楽家なのだ。

 広範囲に消費なしでバフをばら撒ける以上、これくらいデメリットを抱えているんです……。

 つまり『ぶっ壊れスキルあげるからそれで自力で攻撃を回避しまくってね』ってことです。

 これをもし、シズマが覚えたらもう……『美食家で体力を消費せずに好きなだけ回避行動も取れてすさまじい速度で攻撃を繰り出す剣士』になれるんですよ……!


(ふぅ、こりゃ明日から忙しくなるぞ)

「さてさて、明日からは少々忙しくなりそうですね、これは」








 メルトとハッシュが自宅で個人的なピアノリサイタルを開いていたその頃、無事に学園祭を過ごし終えたシュウは、匿ってくれている貴族『オールヘウス卿』に渡された料理を、留守番をしていた他のクラスメイトと口にしていた。


「これ……揚げたてじゃないけど、地球で食べたこと、あるわ」

「うん、確か……台湾のからあげだっけ?」

「いや! っていうかさ! これ、コーラだよな! ちょっと高いコーラとかキッチンカーでよく売ってたじゃん!」

「あー、クラフトコーラっしょ? アタシ普通のコーラの方好きだけど、確かに懐かしいかも」

「……ダージーパイにクラフトコーラ……ほぼ同時期に屋台メニューで少し流行ったメニュー……これは偶然……なのか?」


 記憶に残っていた料理の登場に、揺さぶられる生徒達。

 そして……『屋台メニュー』という言葉に、いなくなったクラスメイトのことを、そして修学旅行のことを思い出し、黙り込んでしまうのだった。


「……ヒシダさん、それで何か首尾はあったのかな?」

「そうね、とりあえず学園って言うからには、私達と同じ年頃の子が沢山いたわ。ただ、その中に地球人と思しき人は見かけなかった。黒髪の子はいたんだけど、顔はよく見えなかった。あと……学園の図書室には凄い量の本があった。ゴルダ国では意図的に隠されていた周辺諸国の情報も沢山見つかった。でも、異世界から召喚された人間についての情報はどこにもなかったわ。たぶん、ゴルダみたいに国の上層部の人間や関係者しか知らないんじゃないかしら」


 ヒシダは、本当はもっと大きな情報を手にしていた。

『ゴルダ国が実はあまり良い噂を聞かない国』だということを。

 微かに感じていた不信感。それをヒシダは確かなものとし、一人考えていた。

『クラスメイトに伝えていいものか』と。

 それは単に『自分の得を考えた故の選択』だった。

『かつてシズマを置いて行ったように、自分もクラスメイト達と別れた方が良いのではないか?』という思いから。

 どことなく流されるまま行動している仲間達を見て、危機感を覚え始めていたのだ。

 一緒に行動していては、自分は彼らに逆らうことも出来ず、一緒に流されてしまうのでは、と。


「……あと、私達と似た顔つきの子っていうのも見覚えはないみたい。少なくとも学園にシズマ君は通っていない。もう、夢丘の大森林に人が残ることは不可能という話だし、ゴルダをとっくに脱出していると思ったんだけど、この国まで辿り着けているかは不明なのよね」


 シュウが自分の考えを話すと、露骨に安堵の息を吐く人物が一人。

 イナミカホは、シズマに生きていられると困る人間だった。

 だから願う。『どうかもう死んでいてくれ』と。


「……学園なら、どうにかして王宮の情報とか調べられないか?」

「それなんだけど、王宮の敷地内には『研究院』っていう場所があるみたい。いろんなものを研究、解析をしてるっていうことしか分からなかったんだけど。でも、もしムラキ君っていう異世界の人間を捕えたのなら……そこに回される可能性は高いと思うの」

「王宮……か。どうやって入ればいいんだよ」

「そこは、匿ってくれているオールヘウス卿に相談するしかないね。聞けば、彼はこの国でも古参に類する貴族らしいから。なにか良い案を考えてくれるかもしれない」


 そう自信あり気にイサカは語り、ダージーパイの最期の一口を食べ終わる。


「……あと、この料理についても調べた方がいいかも。僕達と同じ時代の人間が広めた可能性がある。なら、それはシズマ君である可能性も高いからね」

「え……」


 イサカは『シズマが生きている可能性』にかけている様子だった。

 その事実が、カホの心を大きく揺さぶる。


「分かった、そっちも調べてみるわ」

「頼んだよ。僕とカズヌマ君は見つかったら不味いからね。ヒシダさんだけが頼りなんだ」

「ええ、分かってる」


 ヒシダは一人考える。どのタイミングで彼らと距離を取るべきか、ゴルダと手を切るべきかと。

 それは、果たして彼女にとってプラスとなるのか、その答えはまだ闇の中――――

(´・ω・`)これにて第五章は終了となります。


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