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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ【書籍化決定】  作者: 藍敦
第一章 始まりの悪意と無知との遭遇
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第八話

(´・ω・`)先日より0時更新に変更しておりやす。

 もしかしたら、ダンジョンマスターっていうのは固有の種族名なのかもしれない。

 あの森の中で俺達の願いを叶えた存在と似た姿の、どこか悪魔や魔人といった様相の少年が現れた。


「お? なんだお前達別世界から来た連中じゃん。なに、どっかのバカが召喚したの? 少しは歯ごたえあるのかな?」


 そう言った瞬間、ソイツは真っ先にこの中で一番強そうな人間……与えられた強力な武器を持つムラキへと向かって行った。

 ムラキが武器を振り回しそれを迎撃しようとするが――


「く! オラァ!」

「おっと。へぇ、結構良い武器持ってるじゃん。君殺したら僕が貰おっと」


 そう言いながらダンジョンマスターは攻撃を避け、そのままムラキの武器めがけて腕を振るうと、簡単にムラキが吹き飛んでしまった。

 そうだろうよ、お前らシレント追いかけて碌に訓練も積まないでここに来たんだろ。


「よっわ……なにお前ら召喚されたてほやほやな訳?」

「だったらどうした!」


 続いてカズヌマが剣で切りかかり、それに合わせる様にイサカが回り込む。

 女子は……恐らくあの清楚ビッチ以外戦えないのか、端の方に下がっている。


「あの! 一緒に戦ってください!」

「なんで? やられそうになったら手伝うけど」


 ビッチに助力を頼まれるが、それを断る。


「っ! もういいです!」


 ビッチが魔法を放ち援護を始めるが、そんな中、どうするべきかと迷っている様子のメルトがこちらに寄って来た。


「セイム、セイム。どうしよっか? 手伝わないの?」

「んー……なんかあのダンジョンマスター、完全にこっちをおちょくってる感じに見えるんだよね。なんとか連中を撤退させようか。先導、任せていいかい?」

「うん、分かった。じゃあ……囮になるの? ダメだよセイムが死んだら。私セイムに聞きたいことが沢山あるから追いかけてきたんだよ」

「大丈夫大丈夫。じゃあ、ちょっと俺に注意を惹き付けるから、他の人間に撤退するように指示してくれる?」

「りょーかい!」


 そう頼むと、メルトは楽しそうに返事をしながら、ちょこちょこと戦場を駆けまわり、撤退するように話しかけて回る。

 よし、じゃあ俺も……。


「おーい! ダンジョンマスターさんやーい! そいつら馬鹿みたいに弱い上にうぬぼれてるから、程々に痛めつけたら今度は俺とやろうぜー! ソイツらよりはよっぽどマシだからさー!」

「おー? なんだ人間……え? 人間……? なに、お前本当に人間?」

「お、俺が異常だって分かる? そんな雑魚連中放っておいて俺と遊ぼうぜ!」


 注意を惹く為にあえて失礼なことを言っていると思っていますね? 残念、全て本心で御座います! おう、勢いに任せて動く陽キャ集団はそろそろお家に帰んな。

 そのノリが通じるのは学校の中だけだから。


「というわけで……君達は邪魔だからとっとと撤退しな。お前らが逆立ちしたって勝てない相手なことくらい分かるだろ」

「だが……アンタはどうするんだ!」

「そうです、貴方が残るなんて!」

「……礼は言いませんからね」

「いや普通に切り抜けられるから。変なこと考えてないでとっとと後ろのお荷物と一緒にベースキャンプに戻ってなさい。遊び感覚で来られると迷惑なんで」


 反論したそうにしているが、そろそろ自分達が弄ばれ、その気になればすぐにでも殺されるような状況にいるのだと気が付き始めたのだろう、大人しく引き下がる。


「メルトさんやーい! 先にベースキャンプ戻って俺のこと待っててなー」

「分かったー!」


 全員が撤退を始めたのを確認し、律儀にこちらのやり取りを見守ってくれていたダンジョンマスターに向き直る。


「へぇ、君も後から合流するつもりなんだ?」

「んー、アイツらと合流したくはないんだけどね、本当は。今回だけ頼まれちゃったからさ。普段だった無視して一人で帰ってたと思う」

「ふーん、中々闇が深いね君。ただ……こっちを甘く見たその態度が気に入らないな。追いかけて殺す趣味はないけど、お前だけは逃がさずここで終わらせるよ」


 瞬間、空中に浮遊していた少年が急降下と共に腕を振るい、その余波だけで地面が大きくえぐれ、石つぶてが飛んでくる。

 うわいてぇ、明らかに本気じゃんお前。さっきまで本当に遊んでたんだな。


「目に入ったら危ないだろうが――よ!」

「ぐっ! なんだよやるじゃん」


 腕を振り抜いた隙を狙ってキックを入れると、軽く吹き飛びながらも空中で体勢を立て直すダンジョンマスター。

 が、その隙すら見逃さず、駆け寄りながら――


「“デモンスレイヤー”」


 剣を振り抜きながら、ゲーム時代の剣技を放つ。

 名前の通り、悪魔特効の攻撃。残念ながら前使った強力な聖水はもうストックがないのだ。

 だが、この技でもどうやらこの相手に致命傷を与えることは出来たようだった。


「ギャアアアアアアアアア!!! 腕が、腕が! お前! お前ェェェ!!!」

「セイムでも十分戦えるな……ならもう終わりだよ、お前」


 足に力を入れ、全力で駆け出しながら脳内でゲーム時代の技名を唱える。


『ラピットステップ』。

 移動速度と攻撃速度を上昇させ、次に使う技の攻撃回数をランダムで上昇させる補助技。そしてそのまま、高速で『デモンスレイヤー』を放つ。

 腕、足、羽根、そして背中を大きく切り裂き、紫色の濃い血が辺りに散る。

 面白いように剣が身体を切り裂く。まるで抵抗を感じない程にすんなりと。

 種族特効ってこういう感じなのか……。


「ガ……ヒ……ウソだ……」

「どのみちダンジョンコアは集めようと思ってたんだ。諦めな」


 地面でのた打ち回るダンジョンマスターに剣を突き立てると、今度は血の代わりに煙が吹き上がり、そして……消えた。

 残ったのは、地面に転がる拳ほどの大きさの赤い塊のみだった。

 柱の装飾の方は偽物だったのか……マジで罠で殺すのが好きなんだな。




【ディードリヒの心臓コア】

 狡猾なダンジョンマスター『ディードリヒ』の心臓の魔石

 大きな力を秘めている




「ああ、なるほど。これがダンジョンマスターの名前なのか……一体なんなんだろうな、ダンジョンマスターって」


 コアをメニュー画面に収納し、俺も連中が退避したであろうベースキャンプに戻るのだった。






 ベースキャンプまで戻ると、既にテントの撤去が始まり、兵士達もダンジョンを後にしようとしていた。

 そりゃそうか。あの連中が戻ったら、俺がどうなろうが知ったことではないのだろう。

 が、意外なことに元クラスメイト連中はまだベースに残り、こちらを待っている風に見えた。

 だが――


「――きらめよう。メルトさん、君も僕達と一緒に来るんだ。彼は犠牲になったんだよ、僕たちを逃がす為に」

「悔しいが、たぶん助からないと思う。俺達ですら手も足も出なかったんだからな……」

「ううん、待ってるからみんなは帰っていいよ。私はセイムと向こうの国に行くんだ」

「僕達が口添えすれば、たとえ獣人でも待遇は保障してくれるんじゃないかな。君の戦力は今後も役立つと思うんだ」


 あ、やっぱ俺はもう死んだことになってるのね。基本、アイツらって自分が仲間だと認めた相手以外の切り捨て判断が早すぎる様に感じる。

 んじゃとりあえず登場といきましょうか。


「勝手に殺されるのは心外だな。メルト、キャンプも撤去されたし国境を越えようか」

「あ! ほら、戻って来た! じゃあね、私は行くよ」

「な!? お前、生きてたのか!?」

「へぇ、しぶといね。なんとか見逃してもらったのかな?」


 こちらの帰還に驚きの表情を見せる元クラスメイト達。なんだか腹が立つな、誰も感謝の言葉一つ言いやしない。

 俺は今手に入れたダンジョンコアを取り出し、連中に言い放つ。


「君達みたいな雑魚と一緒にされちゃ困るんだけどね。ダンジョンマスターなら倒したよ、そしてこのコアは俺の物だ。もう少し身の丈を考えて行動しなよ子供なんだから。傍から見てると……滑稽だよ、君達」


 俺だって、この力があるからこんなことが出来る。けど、少なくとも連中と同じ程度の力しかなくとも、俺はあんな……恥ずかしい言動は絶対にしない。なんだよ、お前らどこででも自分達を中心に世界が回っているとでも思っているのかよ。


「そんな!? なぁ!? それを持って俺達と国に戻らないか!?」

「……なんで、ただの冒険者が……」

「あいつを倒したのか……」

「へー! すっごい! ねえアンタ仲間になってよ、良い思い出来るかもよー」

「そ、そうです! 是非、一緒に国に戻りましょう!」

「……調子良すぎない、みんな」


 露骨に態度を変える元クラスメイト。やっぱりダメだ、こいつらと俺は根本的に思考回路が違うらしい。一緒に行動するのはこれっきりにしよう。


「お断りだ。メルト、行こうか。色々話したいこともあるんだろ?」

「う、うん。そっかー……セイム強かったんだねー……あの子達、セイムのことは諦めろってずっと言ってたんだけど……」

「目に見える餌にしか食いつかない動物ってどうなるか知っているかい?」

「うん? そんなの野生じゃ生きていけないよ? すぐ死んじゃうよ絶対」

「そういうこと。彼等はそういう動物と同じって訳さ。考える力が無いんだ」

「あー! なるほど!」


 これ見よがしにメルトと話しながら踵を返す。

 悔しそうな声が背後から聞こえてくるが、俺にはそれがとても心地よかった。

 歪んでしまったなぁ俺……ここはちょっとこの獣っ子さんに癒されなければ……。


「向こうに出たら俺が適当にキャラバンの人に説明するから、話を合わせててくれよ?」

「うん、わかった! ……もうみんな聞こえてないからそろそろ私も質問したいんだけどいい?」

「うん? そういえば聞きたいことがあるって言ってたね」

「うん。セイムってもしかして……私と同じ種族の獣人?」

「いや、なんでまた」

「だって変身したもん。私の一族の伝説で『長い年月を生きた銀狐族は、変化の術を覚えることがある』って聞いたことがあったから……もしかして仲間だったのかなーって」


 あ、そういうことか。


「ごめんな、俺はちょっと特殊な生い立ちだけど、人間なんだよ」

「なーんだ……もしかしたら同胞がまだ生きていたのかなって思っちゃった」

「……期待させてごめん」

「いいよいいよ。そっか……でも、良いこと教えて貰ったから大丈夫! 向こうの国に行けば私も新しいお家貰えるかな? 街で暮せるようになるのかな?」

「んーたぶん。まぁどこかで働いたりしないといけないと思うけど」

「働く……よく分かんないや」


 うーむ……この子をこのまま放っておいても良いものか。いや、断じて否。なんというか俺の心の平穏の為にも、この子の面倒をもう少し見た方がいいような気がする。

 なんというか……気が気でないのだ。


「メルトさんや。もしよければ……向こうの国まで一緒に行かないか? 俺、たぶんそれなりの立場には付けると思うから、そこで生活に慣れるまで一緒に暮らさない?」


 ダンジョンコアを献上すれば、それなりの謝礼は出ると思うんですよ。

 それに金だって結構ある。家を手に入れることだって出来ると思うのだ。

 なによりも……ちょっと人恋しい。この子なら信用出来そうな気がする。

 悪い言い方だが、世間知らずが過ぎるからこそ、安心して一緒にいられるのだ。


「え? いいの? 私色々教えて貰おうと思っていたんだけど、それどころか一緒に暮してくれるの?」

「勿論。それに……一応、俺の変身については秘密だからさ、それを知ってる君は近くにいてもらいたいなって」

「あ、秘密なんだね? ふふ、じゃあ口止め料で一緒に住まわせてもらうね?」


 そう言いながら、メルトがニマニマと笑みを浮かべ、尻尾を楽しそうに振った。

 なるほど……狐だったのか。銀狐族って言っていたが、なるほどこの耳は狐耳なのか。

 てっきり猫耳かと思ったのだが、そうかそうか……触ってみたい。


「じゃ、これからよろしくメルト」

「よろしくね、セイム。美味しいご飯、期待してるね?」

「はいはい。それじゃ何か食べたい物があったらリクエストしてな?」

「美味しい物!」


 すまん、それはさすがに困る。

 嬉しそうに笑い、耳をピンと立ててそう言い放ったメルトに、ささくれ立っていた俺の心が少し癒されたような、そんななんともいえない気持ちにさせられたのだった。

 そうか……これが庇護欲か!

(´・ω・`)ついに仲間が出来ました


(´・ω・`)真の仲間だな!

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