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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第五章 日常と非日常と

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第七十七話

 一人自宅に戻り、シレントから一時的にシズマに戻る。

 案の定、少しだけ思考を襲う情報の渦にふらついてしまうが、今回は気を失うことはなかった。


「シレントで結構強敵と戦ったからな……変化は――」




体力   120

筋力   120

魔力   70

精神力  90

俊敏力  70

【成長率 最高 完全反映】

【銀狐の加護】

【観察眼】

【初級付与魔法】

【生存本能】   ←ランクUP

【高速移動】

【投擲】

【腹持ちばっちり】←NEW

【料理Lv1】

【細工Lv1】

【裁縫Lv1】

【剣術Lv3】   ←ランクUP

【弓術Lv1】

【狩人の心得Lv1】

【学者の心得Lv1】

【盗賊の心得Lv1】

【剣士の心得Lv1】

【戦士の心得Lv1】

【傭兵の心得Lv2】←ランクUP




 どうやら、今回の戦闘でシレントに纏わる能力が成長したようだ。

 傭兵の心得Lv2か……使える攻撃技が少し増えたな、前に使った山で木をなぎ払った飛び道具である『ゲイルブレイク』が使える。

 これは嬉しい。剣でリーチの長い技が使えるのは助かる。

 本格的に俺を俺として育成する時に役立つはずだ。

 あと……【腹持ちばっちり】が無事に継承されている。

 これ、お腹が空きにくくなるんです。スタミナの消費が微妙に軽減されます。

 やっぱりセイラとして過去に習得した条件をなぞれば、シズマに継承されるようだ。


「んじゃセイラに戻って……と」


 光に包まれ、身長が伸びる。

 手足が伸び、重心が少しだけ変わる。


「……いやまぁ、視線……気になるよなぁ確かに」


 今日はメルトがいないんですよね……理性、フルに働かせないと。








 シズマが一人家で眠りにつき、メルトも野営地で夜を過ごす。

 そんな最中……リンドブルムにて蠢く者達は、静かに次の行動に向け動き出そうとしていた。


「どうすりゃ良いんだよ……ムラキを救い出すことも出来ないのか、俺達は」

「けれど、警備の冒険者を倒せる程度には僕達も成長している。あの厳重な警備の中、一番の宝であるアクセサリーを任されていた連中だ。恐らく、冒険者の中でも上澄みだったんじゃないかな」

「ああ……でも、メルトさんからは逃げることしか出来なかった。それに追いかけて来たあの女の子にも」

「それは……あの二人が別格、ってことなんだろうね」


 イサカとカズヌマは、自分達の隠れ家である『協力者の屋敷』の中、密談を交わしていた。


「……やっぱり、情報を探る人間を分けるべきよ。ここの協力者はあくまで隠れ家の提供だけ、その他はあまり協力的じゃないみたいだし」

「だよねー? うちらずっとこの屋敷に閉じ込められてるし、ほんと暇なんだよね~」

「それは確かにそうかも……だけど、固まって動いたらまずいよね。私達、目立つし」

「えー? アタシは別に平気っしょ、髪染めてるし。黒髪だと逆に目立つってなんか皮肉~」


 今回の美術館襲撃に関与していない、女子達もまた、リンドブルムに潜入中だった。

 ほぼ幽閉生活のような現状に不満を漏らすユウコ。

 だが実際、偵察担当を用意するべきだというヒシダの意見も尤もだった。


「能力的に、偵察に向いているのは私。屋敷の主に提案してくるわ」

「あ、シュウずる~い」

「仕方ないよ、ヒシダさんの能力は知らない土地でも目的の場所に導いてくれるんだもん。うまくすればムラキ君の居場所だって分かるかもだし」

「な~る、なら仕方ないか~。あ、でもなんかお土産買ってきてよ。ここの料理って豪華だけどなんか『堅苦しい』んだよね~」

「……それは、僕も思っていたよ」

「なんかフレンチって感じだよな。高級レストランみたいな」

「……そうね、お土産もだけど、もっと手軽に食べられるものとか、せめて潜伏中の気分転換になりそうなものもお願いしてみる」


 そうしてヒシダは一人、屋敷の外での行動を許してもらえるよう、交渉に向かうのだった。








 おはようございます、俺は自分の欲望に打ち勝ちました。

 じゃあ朝風呂入ってきますね。

 いや、やましい気持ちなんてないから。

 シレントで軽く入浴したが、いまいち落ち着かないだけだから!

 まぁシュリスさんの所為で落ち着けなかったのもあるけれど。


「……マジで美の女神って感じだったな……」


 いかん、思い出したらドキドキしてきた。




 朝食を出来合いのもので済ませ、冷蔵庫で寝かせていた瓶を取り出す。

 クラフトコーラのシロップ、どんな感じだろうか?


「うっま! コンビニに売ってるクラフトコーラとは次元が違う……どちらかと言うと――」


 飲んだことのない飲み物の記憶と知識が呼び起こされる。


「キュリオスティコーラ……に似てるな」


 通称『世界一美味しいコーラ』らしい。

 くそう……味の記憶だけはあるというのに……! 地球にいる内に飲んでみたかった!


「じゃあ先に錬金術ギルドに行くかー」


 その前にサンルームチェック。よし、今日もレーダーに反応なし!

 ではコーラシロップの瓶を持参して参りましょう!

 いや……味見は出来るだけ沢山の人にしてもらいたいんで……。





 錬金術ギルドの前でメルトを待っていると、中にいた受付の女性に『中で待っていても大丈夫ですよ』と声をかけて貰えた。

 どうやら、ニールソンさんが予め取り計らってくれたらしい。

 つくづく出来た人だ……もしかしなくても、この都市を運営している理事の一人なのではないだろうか? バークさんと同じようなポジションみたいな。


 先に第四研究室で待つように言われ、記憶を頼りに一昨日の研究室に向かうと、中から人の話し声が聞こえて来た。

 一人二人じゃない……もはやざわめきと呼んでも良い規模だ。


「失礼しまーす」


 研究室の扉を開くと、話し声が止み、一斉にこちらを振り返る錬金術師とおぼしき集団。

 ……恐い! それと案の定、視線が彷徨う人間がいるな!?


「ま、まさか貴女が件の!?」

「あ、自分もここで待つように言われただけなので、すみません」

「なんだそうか……」

「件の才女かと思ったのだが、人違いか……」

「むむ……しかし新顔、中々興味が惹かれますな」


 どうやら、集まっていた人間は皆、メルトの実験の結果をその目で見たい人間のようだ。

『才女』と呼ばれているのか……うん……賢いのは認めます。ただその……うーん。


「すみません、ニールソンさんはまだいらっしゃらないんですか?」

「ん、長なら先程この件を言い出したエルダ女史と話しておられたよ」

「なるほど、そうでしたか」


 恐らくまだ時間が早いのだろう。メルトの到着までもう少しかかるはずだ。

 その旨を伝えなければ。

 ほどなくして、エルダさんとニールソンさんが入室した。


「おはようございますニールソンさん」

「おはようございます、セイラさん。メルトさんと一緒ではなかったのですね」

「ええ、メルトは恐らく、今乗合馬車でリンドブルムに向かっている最中です。東の街道にある野営地で、討伐の任務に就いていたはずですから」

「なるほど、冒険者としての業務でしたか。それではもう少し待ちましょう。あそこの朝一の馬車ですと……もう一時間もかからずに到着しますし」


 ということで、もう少しだけ、皆さんに才女の到着を待ってもらいましょう。

 じゃあその間……この錬金術ギルドでも取り扱っていると聞いた炭酸水……お借りしますね。






「これは……美味いぞ! ジンジャーエールやスパイスエールともまた違う、甘い中にも複雑な『英知を感じる味』がする!」

「本当だ! どこか複雑で、学者の苦悩、葛藤、そしてひらめきを体現したかのような……!」

「なるほど……確かに複雑でいて、よく調和した美味しい飲み物です。どことなく薬液にも通じる、しかし飲みやすさも考えられた良いお味です、セイラさん」


 コーラ、錬金術師の皆さんに大好評でした。

 いや英知の味って……どんな味だ?


「これで酔えたら最高……っと、失礼、長の前でこんな」

「ふふ、酒は人生を豊かにしてくれます。用法容量を間違わなければ良き友でいてくれるでしょう」

「はは……恐縮です」


 なるほど? この世界って度数の高いスピリッツ系のお酒って無いのだろうか?

 あれば少し混ぜてコーラサワーみたいなことも出来るのに。

 と、そんなことを考えている内に、目的の人、『才女』が到着した。




「わ……こんなに人がいるとは思わなかったわ、私!」

「ようこそおいでくださいました、メルトさん」

「おはようございまーす……どうしよう、こんなに沢山の人に見られると思っていなかったわ。上手くいってればいいんだけど……」


 皆の前に出たメルトは、研究机の上に運ばれてきた大きなビーカーを観察しだす。

 真っ赤だった液体が、今は光を通さないような漆黒に変わっている。

 まるで、墨汁を水に溶かしたような有様だ。


「二日でこれくらい黒くなっていたら、たぶん上手くいってると思うわ。じゃあ、液体を捨てまーす……危険はないからどこに捨てても大丈夫よー」


 黒が流れ落ちる。やがて、メルトはそのビーカーの様子を覗き込み、笑みを浮かべる。


「普段、セッカ草の実でエリキシル剤を調合する時って、実を一緒に反応水とかベースになる薬剤の中で魔力を込めて変化を促進するけれど、この実は弱い力しかないから、たくさん集めて純度を高めないといけないんだー。面倒だけど、こうすると『一回の調合で無くならない素材』になるのよ。私、家にいたころは半年くらい使いまわしていたわ」


 メルトのその発言に、周囲の人間が一斉に騒めいた。

 まるでメルトが『常識外れ』なことを言い出したかのような、批難混じりの困惑の声。

 が、それもビーカーに残された物体を目にした瞬間、一斉に静まり返る。


「完成! 見て見て、きっと温度管理をしてくれたエルダさんが気を使ってくれたお陰ね! こんなに大きく綺麗に成長したよ!」


 コロンと、ビーカーから転がり落ちたもの。

 それは、赤く赤く透き通った、全方向に放射状に結晶を伸ばす、宝石のような物体だった。

 嘘……木の実からこんなものが生まれるのが……錬金術なのか……?


「これ、後は普通にセッカ草の実と同じように、材料の中で魔力を込めるだけでエリキシル剤が出来るよ。ランクの低いエリキシル剤ならこれ一つで七〇回くらい繰り返し使えるはずよ」


 嬉しそうに解説を終え、ニコニコ笑っていたメルトだったが、周囲の反応が想像とは違っていたのか、不安そうな表情でオロオロし始めていた。


「ど、どうかしたのかしら……期待外れだったのかなぁ……ニールおじいちゃん、なんだか期待に応えられなくてごめんなさい……」

「……いえ……そんなことは……ありません……私を含め……皆言葉を失っているのです、あまりにもこれは……想定外です」

「実在したのか……本当に『あの本』の挿絵と同じだ……『神の血涙』だ……」

「繰り返し使えると言っていた、本に書かれていたことと一致する、だがそんな!」

「木の実だぞ、何の変哲もない木の実から生まれただと……! 錬金術三大秘宝の一つが、森の木の実から生まれるだと……! 見つからない訳だ! 我々はまったく無駄なことを長年繰り返していた! この一つ、この秘法一つで一体どれほどの人間を救えるか!」


 静まり返っていた面々が、徐々に熱狂していく。

 その熱量にメルトが怯えだし、こちらの背中に隠れに来てしまう程に。


「メルト、これってエリキシルの材料っていう話だったよね」

「う、うん……私はそうやって使ってたよ? 繰り返し使えて便利な材料って」


 ……繰り返し使える、それが今の騒ぎの原因なのではないだろうか。

 つまり、一度作ってしまえば、貴重な材料である『セッカ草の実』とやらの代用として、何度も使えてしまうということになる。

 量が必要だと言うが……普通の山で取れるものでそんな材料が出来てしまえば、確かにこの騒ぎも納得出来る。


「メルトさん。まさか私も、出来上がるものが『繰り返し使える失われないマテリアル』だとは思いもよりませんでした。これは、古の書物『錬金夢想願望書』に書かれている、半ばおとぎ話のようなものでした。しかしそれでも、記されている数々の『夢のような素材』に憧れ、それを再現することを『生涯の目標』にする錬金術師も少なくありません。メルトさん、貴女はその夢の一つを今、我々の目の前で叶えて見せたのです……」

「そ、そうなの……? でも、喜んでくれたよね……? がっかりさせてないのならよかったのだけど……」

「もちろんです。皆、今日からメルトさんのことを慕い、感謝し、大切に思うことでしょう。貴女は今この瞬間、錬金術師の夢に最初に手をかけた人物になったのですから」

「お、大げさだと思うんだけど……じゃ、じゃあ作り方も教えたし、私はこれで帰っても良い……?」

「そうですね、この盛り上がり方は少々鎮静化まで時間が掛かるでしょう。今日のところは問題ないと思います。冷静になった時、彼らがメルトさんを質問攻めにしないとも限りませんからね」


 その光景を想像したのか、メルトは身震いをし、尻尾の毛を少しだけ膨らませながら、そろりそろりと研究室を後にしたのであった。




「びっくりしたー……あんなにみんなが驚くなんて思ってなかったわ、私」

「そうだねぇ。ただ話を聞いた限り、あの反応も仕方なかったんじゃないかな?」

「そっかー……ねぇセイラ? さっきニールおじいちゃんが言っていた『錬金夢想願望書』っていう本なんだけど……それ、たぶん私のおばあちゃんが書いた本だと思うの」


 む? だが皆の口ぶりからすると、その本はだいぶ昔から存在しているように感じたが。


「メルトのお祖母ちゃんって、一体何歳だったんだい?」

「んーとね……わかんない! でも、まだ里があった時代は、二代前の里長をしていたよ。銀狐族は、寿命がまちまちなの。ほとんどは他の狐族より少し長いくらいだけど、中にはエルフと同じくらい長く生きる人もいるんだって」

「なるほど……そうだったんだ。じゃあ……俺も出来るだけ長生きしないとな。メルトの為にも」


 そう何気なく口にしたのだが、それがいけなかった。

 どうやら、寿命の話はメルトにはタブーだったのか――


「嫌よ……置いて行かれるのは嫌よ……セイラが、セイムが、シズマが、シーレが、みんなが先に死ぬのなんて嫌よ……絶対に嫌! だったらお祖母ちゃんの本にあるお薬、全部作ってでも長生きさせてあげるんだから……!」

「あーうん、ごめん。変なこと言った。……ちなみに、お祖母ちゃんの本に書いてある凄そうな薬って……どんなのがあるんだい?」


 なんとなく、先程の錬金術ギルドの盛り上がりを思い出し、恐る恐るメルトに聞いてみる。

 すると――


「一年若返るお薬と、一年成長を止める薬! どっちもさっき作った赤いキラキラじゃ作れないけど、青のピカピカと黄色のギラギラがあれば作れるよ」

「……そのピカピカとギラギラって作れたりするんですか?」

「材料があれば出来ると思うわ」

「絶対作らないように。作り方も人に教えないように」

「……流石に私も騒がれるって思うわ。シーよ……シー」


 先生! ここに生きた賢者の石みたいな子がいます!

(´・メ・`)君のような勘のいい豚は嫌いよ


(´・ω・`)そんなー

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