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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第五章 日常と非日常と

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第七十五話

「加勢に来た! 今のうちに腹に突き刺せ!」

「隊長自らが!?」

「良いから刺せ!」


 森を駆り、戦闘音のする方向に走り出すと、恐らく二パーティが合流して戦っているところに遭遇した。

 俺が遭遇した魔物と同じく、身長四メートル近い、緑褐色に深紅の翼をもつ、変種のオウルベア。

 確か『クリムゾンベア』とかいう名前だとバスカーが言っていた。

 そいつを背後から襲い、両腕を背後で捻り上げるようにし動きを止めたところに、他の冒険者の剣や槍が突き刺さる。


「もっとだ! 体重乗せて思い切り深く突き刺せ!」

「おお!!!」

「おらあああああ!!」


 ズブズブと音を立て、噴き出る血しぶきの音と共に、ゆっくりと魔物の身体が地面に崩れ落ちる。


「やった! 倒したぞ! こんな強い魔物、初めて倒したぞ!?」

「すげえ……俺達でもやれた……」

「隊長のお陰だ!」


 周囲の人間が喜んでいる中、討伐隊全体の殿を務める魔術師主体のパーティが追いついてきた。


「皆の衆、少し死体から離れてくれ。討伐部位が必要なら早々に回収せよ」

「ん? なんだい魔術師のじいちゃん。殿はどうしたんだ?」

「うむ……何やらこの森、魔力の流れが妙で嫌な予感がした。隊長殿、何か変わったことは?」

「恐らく天然で変種の上位種が生まれている。魔物は俺のところと今こいつらが倒したの、そして左翼の連中が交戦している三体だけだと思われる」


 魔術師の老人が考え込む。ふむ、魔力の流れが妙……?


「一応、オウルベアと同じ場所から討伐証明用の触覚羽を切り取ったぞ」

「よろしい。では……死体を今から焼却する」


 その瞬間、クリムゾンベアの死体が燃え盛り、みるみるうちに骨だけになってしまった。


「変質した魔物というのは、死後もその力を身体に宿しているものなんじゃよ。それだけ、多くの糧を食らったのじゃろう。故にその死体を食すことで、また変質する個体も現れる。予防じゃよ」

「なるほどなぁ……俺達ダンジョンにはあまり挑まないから、個体の自然強化にはあまり詳しくないんだよ」

「儂もじゃよ。だが最近、人工ダンジョンでも似たような報告が上がっての。個人的に調べていたのじゃよ」

「……爺さん、ここの連中を任せていいか。アンタなら取りまとめるくらいは出来そうだ」


 焦燥感に駆られる。

 俺は死体をどうした? 倒してそのまま放置してきたじゃないか。


「構わんよ。隊長さんよ、急ぐのじゃろ?」

「ああ。出来れば残りを集めて一カ所に固まっていてくれ」

「了解じゃ」




 急ぎ、先程倒した魔物の死体がある場所へと向かう。

 もし、左翼で起きている戦闘が新たに生まれた雛ではなく、他のと同じ天然の個体なら?

 生まれた雛は戦いを避け、どこかに隠れていただけだとしたら?

 隠れた雛が人が離れるのを見計らい、死体を食べていたら?

 バスカーが言っていたではないか『知能も高くなっている可能性がある』と。


「っ! 食い荒らされている……!」


 予感が当たる。俺が仕留めたクリムゾンベアの死体が、上半身だけ食い散らかされていた。

 知識不足が足を引っ張る。魔物の変化、亜種や上位種に関する知識が俺にはなかった。

 クソ!

 もう一度駆け出し、メルト達が加勢に向かった左翼のパーティを探し奔走する。

 途中、極々最近なぎ倒された木々を幾つも見つけた。

 これはただごとじゃない。


『隊長ーーーー!!!! 聞こえますか隊長ーーーー!』


 その時、遠くからバスカーの呼び声が響いてきた。

 粉塵弾はどうしたんだ!? 何かトラブルか!?

 さらに捜索すると、戦闘音が聞こえて来た。

 駆けつけると、そこではメルトとネムリ、そしてバスカーを含む残りの左翼パーティ全員が、俺が倒したのよりさらに巨体のクリムゾンベアと交戦中だった。

 が、妙だ。戦っている面々の様子が、少し心ここにあらずと言うか、他に意識が向いている。


「状況を説明しろ」

「隊長……! 変異体は……いえ、上位の変異体は一体じゃありませんでした!」

「シレント! こいつ! こいつここのボスだと思うわ! 赤いだけじゃない、嘴が漆黒! リーダーの証! たぶん、さっき倒したのは番のオスじゃなくて、ただの手下よ!」

「……マジか。じゃあもうもう一体の上位変異体はどこに……?」


 なら、恐らく雛……いや、もう雛ではないのだろう。新たに生まれ、そして人や先程の死体を食べた個体が、上位の変異種と成長しているのだろう。

 すると、何故皆がどこか目の前の魔物に集中しきれていないのか、その理由を理解させられた。

 突然、この鬱蒼と木が生い茂る森全体が、揺れた。

 上空からの突風、そして叫び声によって。


「……先程、突然現れました。完全上位種……『オウルドラゴン』です」

「私、あんなの見たことないよー……図鑑でも見たことないもん」

「あれはダンジョン産の魔物ですよ、本来。魔物の淘汰による自己進化、そして魔力の供給を一身に受けての変質……カテゴリを無視して上位存在に進化する事例。僕も初めて本物を見ました」

「……上空への警戒は弓兵だけで良い。残りはこのデカブツに注意を向けろ」

「了解」


 やばいな。バスカーが粉塵弾を使わなかったのも納得だ。

 あいつ、まだ俺達を見つけられていない。粉塵弾なんて使ったら居場所を知らせるようなものだ。

 バスカーが大声を出しても気が付いていないことから察するに、恐らく聴力もあまり発達していないだろう。

 というか、飛行能力を得たばかりでまだ目も耳も最適化されていない可能性がある。


「いいかお前ら。今から全員、四方に同時に散れ。こいつ、まだ誰を狙ったらいいか迷ってる。一瞬で良いから気を反らして硬直させてくれ」


 先程から、メルトが木々の上を高速で渡り歩き、魔物を翻弄して時間を稼いでいてくれていた。

 他の面々もじりじりとデカブツを取り囲み、攻撃の隙を伺っているようだが、どうにも攻めあぐねている様子。

 無理もない。恐らくこいつが暴れたのだろう、地面には無数のクレーターが出来ている。

 迂闊に攻撃を受けたら、絶命必至。そりゃ安易に近づけない。

 だから散れ、安全圏に逃げるだけでも、十分に戦闘に貢献出来ることがあるんだ。


「行くぞ……今だ散れ!!」


 瞬間、周囲を取り巻く存在が一斉にバラバラに走り出し、デカブツは一瞬どれを目で追うべきか迷いが生じたのか、動きが完全に止まった。

 それを見計らい俺が駆け出すのと同時に、メルトもまた木々を飛び移り、動きの止まったデカブツの目の前ギリギリを掠めるように移動していった。

 動物の本能。目の前を通り過ぎるメルトに一瞬驚き、身体が硬直する。

 巨体、俺が剣を掲げてもまだ届かないデカブツの頭。

 届かせる為、全力で右足を踏み込み、大地を蹴り跳躍する。

 メルトのお陰で一瞬のけぞった顔の前を通り越し、さらに上へ。

 眼下にデカブツの頭が見える。


「一発で堕とす」


 筋肉の軋む音がする。

 大剣を上段に構え、背中を反らす程に剣を振りかぶる。

 腕に篭る力が、剣の握りから音として漏れてくる。

 全身のバネを全て、この一撃に、剣に集約させる。

 落下の勢いと全身の筋肉による振り下ろし、身体のバネの力を、この一撃に乗せて解放する。


「『地裂断“降牙”』」


 落下と共に、振り抜く一撃。

 抵抗なく、地面すら大きく切り裂く一撃。

 一瞬遅れて、吹き出す血しぶきを全身で浴びる。

 生温かく、血生臭く、そして……生と勝利の余韻を味わわせてくれる祝福の雨を。


「……残りはアイツだけだ。バスカー、粉塵弾を渡せ」


 興奮が冷めやらない頭。だがもう、倒し方が分かった気がする。

 あいつ、まだ未熟だ。ガキだろあいつ。

 戦い方もなにも分かっちゃいない。


「メルト、俺の合図で飛べるか?」

「え?」

「“ここ”に乗って、飛べるか?」

「あ! そういうことね! うん、たぶん行ける! でも後のことは分からないわ」

「そっちは任せろ」

「了解! ……じゃあ、本気で行くね」


 今まで本気じゃなかったんかいと言いそうになる。


「バスカー、早くよこせ」

「な、なにをするつもりなんですか……?」

「見てろ。全員、木の陰に隠れていろ!」


 メルト以外の全員を退避させ、俺は受け取った粉塵弾を上空に向けて投げ飛ばす。

 すると『パーン!』という快音と共に、狼煙のような白い煙が空中で生まれる。

 当然、まだ空が不慣れなオウルドラゴンは、その煙目掛けて飛んでくる。


「メルト、乗れ」

「よいしょ! いつでもいいわよ!」

 煙に向かい魔物が飛んでくるタイミングで、俺は――


「はあああああああ! 吹っ飛べ! メルト!!!!」


 メルトを寝かせた刀身に乗せたまま、大剣を上空に向かって思い切り振り抜いた。

 超高速で空へと飛んでいくメルトと、煙に向かい突っ込むオウルドラゴン。

 激突するかのように見えたその交差の刹那、確かにメルトがオウルドラゴンの首を突進の勢いのまま切り落とすのがはっきりと見えた。

 そのまま、彼女が落ちてくる場所を見極め、全力で森を走り出す。

 するとメルトは、空中で器用に体勢を整え、木の先端を蹴るようにして落下の勢いを殺し、木々をしならせながらゆっくりと勢いを殺し、見事に地面に軟着陸して見せたのだった。


「わー! 私、空飛んだわ!!! 凄い、凄いわ! 生身で空を飛んだ初めての獣人よ、きっと!」

「ははは……感想がそれか……本当大物だなこいつ……」


 思わず頭をなでそうになったが、自分が血みどろなのを思い出して手を止める。

 その時、とてつもない轟音が辺りに鳴り響いた。


「落ちて来たな、オウルドラゴン」

「下にいたみんな、大丈夫かしら?」

「退避させていたからな、たぶん平気だろ」


 少しだけ重たい身体に鞭うって、落ちてきたドラゴンの死体を確認しに向かうのだった。






「凄かったです隊長! あの巨大クリムゾンベアを一刀両断! それに続いてあんな奇策、いや普通出来そうにない方法で空の魔物を倒すなんて! メルトさんも凄い! あんな勢いで、しかも不安定な空中で見事に首を落として着地するなんて! どんな運動神経してるんですか一体! 私、今日のことは一生忘れませんよ! まるで伝説の一ページ紛れ込んだかのような気持ちでした!」


 死体を確認しに行くと、退避していた面々が集まってきていた。

 確認するまでもないが、下敷きになった者は一人もいないようだ。


「こいつはどうする。討伐証明部位なんて本来ダンジョン産の魔物にあるのか?」

「いえ、ダンジョンではモンスターは死んだらダンジョンの恵みとしてアイテムを残すことはありますが、基本は消滅します。全て分解され、ダンジョンに還る形ですね。無論、一部は小型のダンジョンコアになったりしますが」

「なるほどな。つまりダンジョン外でこんな変種が生まれるのは異例中の異例って訳か」

「そうなりますね……ただ、通常の龍種ですと、鱗や被膜、翼の骨などは良い素材になります。このオウルドラゴンもその例に漏れないかと」

「そうか。さっき、ダンジョンの魔物の変質に詳しい魔術師の爺さんに聞いたんだが、亜種同士の『死体食い』で魔物が急激に進化することもあるらしい。こいつはその結果生まれた個体だ。どの道死体をこのままにしておくことは出来ない。これ、全部持って帰るぞ。貴重な素材ってことで高く売れるかもしれん」

「なるほど死体食いの変質……申し訳ありません、俺、そのことに考えが至りませんでした。たぶん、最初に倒したクリムゾンベアの死体を食べた個体……ですよね? こいつ」

「そういうことだ。気にするな、その生態を知らなかったのは俺もだ」


 今回の件は、偶然なのか人為的なことなのか、判断が難しい。

 が、少なくともメルトが切り落とした首には、魔導具も何も埋め込まれた形跡がない。

 無論、先に倒したクリムゾンベア達も同様に。


「右翼側のパーティと合流の後、死体の運搬と共に帰還する! 誰か、伝令を頼む。右翼パーティは全員一カ所に固まっているはずだ」

「あ、じゃあ俺が行ってきます」


 バスカーを見送り、ようやく一息ついた俺は、そのまま地面に座り、さらに大の字に寝転がる。


「あー疲れた! 俺に隊長なんて向かん! 戻ったらレミヤに文句言うぞ、文句!」

「シレントお疲れ様! 私もすっごく疲れたわ!」


 隣にメルトも大の字に転がる。


「あまり近づくと血で汚れるぞ」

「あ!」


 寝転がったままゴロゴロと転がって逃げるメルト。

 その様子に、周囲にいた他の人間が笑みを漏らす。

 とりあえずこれで……俺達の隊の討伐は完了、だな。






 右翼のパーティと合流し、森の中でオウルドラゴンを解体する。

 途中、例の魔術師が大きなクリムゾンベアを焼却処分してくれたが、その際に黒光りする嘴だけが燃え残った為、こちらに持ってきてくれた。


「討伐証明に使う部位ではないが、何やら力を秘めている様子。隊長殿、これはお主の物じゃ」

「構わないか? 皆」


 異論はないようなので、これでよしと。

 問題はドラゴンの死体だ。


「皆、解体と運搬に協力したら、売り捌いた額を全員で等分してやる。手伝ってくれるか?」

「うおおおお!? マジっすか! 俺ら右翼のパーティも!?」

「僕達、ほとんど見てるだけだったんですよ!?」

「た、倒したのは隊長とメルトさんなのに……」

「いいよな、メルト。みんな今回の依頼で、強い魔物とそれぞれ戦った。全員に報酬が出るんだ、追加の賞金も全員で分けてもいいだろ?」

「私はいいよ、それで。私は空が飛べて十分楽しかったもの! 今度またやって欲しいわ!」

「危ないから絶対にやらん」

「えー!」


 パラシュートでも開発してください。

 という訳で、皆でこの巨体を解体し始めるのだった。




「血抜きも内臓も処分して……まだこの重さか」

「流石にドラゴンなだけはありますね……」

「しかし、こういった亜竜種は全身の重さが他の魔物よりは軽いと言います。これでも軽い方だと思いますよ」

「ネムリ……見かけによらす力があるな」

「元兵士ですから」


 切り分けた部位をそれぞれロープで括り、持てる者は抱え、背負える者は背負い、引きずる者はは引きずって運搬する。

 俺は切断するのがもったいないと言われた、一番かさばる翼を一対、地面を引きずって野営地を目指す。

 なんか最近、シーレでも似たようなことがあったよな……。


「……明らかに俺だけ酷い有様だな。これ、どこかで身体を洗った方が良いだろ。自分でも臭うって分かるぞ」

「はは……そうですね」

「野営地の近くには川が流れていますよ。山からずっと続いている川が」

「ああ、そういえばそうだったな」

「私がお風呂作ってあげよっか! 魔法でちょちょっとやれば、一日くらいは持つの作れるよ?」

「ん、そうか。では頼む」


 メルトが万能すぎる……個人的に今回のMVPを贈りたいと思います……。

 次点でバスカー、そしてあの魔術師の老人だ。

 そうして皆で魔物の死体を分割し、無事に野営地に帰還を果たしたのだった。

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