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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第五章 日常と非日常と

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第七十三話

 あまりにも心配なのですが、今セイムは街の外に行っていることになっている上、セイムの姿で街に戻ると、早急に王宮に顔を出さないといけなくなる。

 かといって、シーレも街の外に向かうと宣言してから日が浅い。

 ならどうするか? 料理人でも戦えるのだしこの姿でこっそり追いかけるか?

 いいえ、答えはNOです。


「便利だな、やはりこの地下通路は」


 岩に擬態した扉を開き、東の街道近くの森の中に出る。

 どうも、シレントです。現在最も物騒なシレントさんです。蒼玉ランクのシレントさんです。

 泣く子がもっと泣き叫ぶシレントさんです。


「メルトが総合ギルドに一度顔を出すって言っていたからな……先回りして野営地に行けるか」


 その野営地には一度、セイムからシーレに姿を変える時に利用したことがある。

 なので場所は把握している。なんとか俺もそこで討伐隊に加われば……。


「過保護だなぁ……我ながら」






 街道を全速力で駆ける筋肉ムキムキのマッチョマン。

 どでかい大剣を引っ提げて、道行く他の人間を驚愕させる。

 何度か『お助けを!』とか『ひぃ! 殺さないで!』とか聞こえてきたのは、きっと気のせいだ。

 ……まぁうん……装備がね、傭兵っぽい上にかなり人相悪いしね。

 威圧感凄いもんね。なんか走ってる最中にいろんな感情が湧いて来たよ。

『やはり顔が恐いのか』『慣れっこだ』『覆面はどうだ』『山賊と間違われるか?』とか。

 これたぶん、シレントの思いなんだろうなぁ……。


「ふぅ……到着した」


 野営地、以前来た時は日が暮れ始めた頃だったので、細部を見て回ることは出来なかったが、どうやらこの場所は野営地というよりも『前線基地』と呼んだ方が良さそうな雰囲気をしていた。

 柵が頑丈に作られているし、警備の騎士も他の野営地に比べて多い。なによりも、利用している人間の殆どが傭兵や冒険者、武器を背負った人間なのだ。

 何故だろうか、心が躍る、血が騒ぐ。

 これは傭兵としての本能、なのだろうか。


「ここにも掲示板があるな」


 総合ギルドで目にするような、依頼を張り出す掲示板があった。

 が、どうやら総合ギルドとは違い、討伐依頼しか掲載されていない。

 なるほど……もしかしたらある程度ランクが上がった冒険者は、街ではなくこちらで依頼を受けるのが一般的になのかもしれない。


「討伐隊の結成に関係していそうなのは……これか」


 張り出されていた依頼の中で、翠玉ランク推奨とされている、そこそこ高ランクの討伐依頼。

 その内容はこうだ。


『リンドブルム近くの山から逃げ出した動物や魔物が潜む森にて、逃げて来た魔物を食らいつくし成長した強力な個体が多数目撃されている。似たような事例が各地で報告されている為、そういった魔物が合流、群れとなる前に叩いて欲しい』


 どうやら、中々の数の魔物が目撃されているらしく、少人数のパーティでは対処しきれないと判断されたらしい。

 それで、固定パーティや普段は一人で活動している冒険者を集め、討伐隊を結成する、と。

 ……何かの前触れ? それとも山での改造された魔物の騒動による副作用か?

 依頼の張り紙に記された番号を暗記し、この野営地にもある冒険者ギルドの受付へ向かう。


「依頼を受けたい。番号は一三七五四だ」

「ん、見ない顔だなアンタ。ランクは?」

「こいつでどうだ」


 蒼玉ランクを示すタグを提示する。


「んな!? 本物……だな。アンタ……まさか例の事件を解決した冒険者か」

「あれは解決扱いで良いのか? まだ全貌は掴めていないんだろう?」

「まぁな。だが山が正常に戻ったのはアンタのお陰だ。こっちも助かってる。光栄だよ会えて」

「あまり持ち上げるな。この合同討伐隊、俺も参加して良いか?」

「ああ、もちろん歓迎する。まだ人は集まってないが、この野営地で待機していてくれ」


 野営地を見て回る。

 そういえば、西の街道は先に進むと港町に辿り着くというが、東の先はどうなっているのだろう?

 ここの利用者の殆どは戦闘職ばかりだが、中には商人と思われる馬車の利用客もいる。

 ちょっと聞いてみるか。


「少し良いか」

「はいはいなんで――しょうか……?」


 振り返った瞬間声が震えるのやめろ。傷つく。


「実はこの街道の先については詳しくなくてな。このまま街道沿いに進むとどこに着く?」

「あ、それでしたら『イズベル』がありますね、我々はそこにインゴットを売りに行くのです」

「ふむ。つまり鍛冶が盛んな街なのか?」

「そうですね、ただどちらかというと『細工』のような芸術に近い分野が盛んですね。近々、加工された宝石が運び込まれると噂されていますね。なんでも王室に献上されるとか……」

「ほう……」


 もしや深海の瞳か……? 既に加工が始まっていたのか。

 しかしそんな街もあるのか……貴金属や宝石も運び込まれるなら、護衛任務が頻繁に募集されているのも納得だ。

 そのうち、メルトもこういった依頼を受けて紅玉ランクにランクアップするのだろう。


「情報、感謝する。礼に何か商品を買ってやる、何かあるか?」

「本当ですか? そうですね、でしたら……向こうで卸す予定に疲労回復薬、あまり戦闘職の方々が求めるような即効性のあるものではありませんが、いかがでしょう?」

「ほう、じゃあ五本程貰えるか?」

「ありがとうございます」


 そうして小瓶を五つ受け取り、だんだんと集まってくるリンドブルムの冒険者を待つのだった。






 それからしばらくして、野営地に入って来た乗合馬車から、多数の冒険者が下車するのが見えた。

 まさかメルトもこれを利用したのかと思い見ていると――


「む……レミヤか。久しぶりだな」


 降りてきた冒険者の中に、メルトの姿はなかった。

 その代わりに、久しぶりに見たレミヤの姿と――マジか。

 シュリスさんも続いて下車してきたのだった。


「シレント様!? お久しぶりです、まさか本当に来て下さるとは」

「……? なんの話だ?」

「ふむ? シレント様はどうしてこちらに?」


 なんだ? 少し会話が噛み合っていないような気がする。


「噂で聞いた。大規模な討伐隊の結成があると」

「なるほど、そうでしたか。実はその件で少し前から、リンドブルム以外の街の掲示板に、シレント様に参加を要請するメッセージを張り出していました。それを確認したのかと思ったのですが」

「そうだったか。あまりギルドには顔を出していなかったな。なにやら、冒険者を捜索している謎の傭兵がいると聞いて警戒していた」


 咄嗟に、ヴィアスさんの発言を理由に適当な言い訳をでっちあげる。


「はぁ……そうでしたか。やはり止めるべきでしたか……」

「んー? レミヤさん、そろそろ私にも彼を紹介してくれるかい?」


 すると、少しだけこちらを警戒するような視線を向けていたシュリスさんが、俺を紹介しろと会話に混ざってくる。


「十三騎士に紹介を求められるとは光栄だな。紹介は不要だレミヤ、自分でする」

「ではお願いします」

「『新人冒険者』のシレントだ。冒険者の頂点に君臨するシュリス殿とお会い出来て光栄だ」

「ふむ……『新人冒険者』にしては纏う空気が『野蛮過ぎる』ね」

「どうやらそうらしい。道中、道行く人間に何度も恐れられたな」


 すると、レミヤから微かに笑いが漏れた気配がした。


「失礼。新人冒険者なのは事実です。私が言った『蒼玉ランクを最短で授与された冒険者』です」

「なるほど、納得したよ。正直、彼とは私も敵対したくない。シレントと言ったね? どうかこれからも、我々リンドブルム陣営……いや、神公国に仇為す者とならないことを願っているよ」

「安心しろ、うちの人間がこの国に根を下ろすと決めた。ならそのよしみで手助けするさ」


 軽く匂わせるだけに留める。


「そうかい? それなら嬉しいよ。私は今回の討伐隊の監督を任されているんだ。彼女はさらにそのお目付け役、といったところかな」

「ええ、そうなのです。シレント様もいらしたとなると、現場の指揮をお任せ出来そうですね」

「俺は一戦闘員がいいんだが」


 未だシュリスさんの警戒が解けていない。

 当然、だよな。あまりにもシレントは謎が多すぎる。

 その時、乗合馬車が野営地から出て行くのと入れ違いになるように、全速力でこの場所に駆け込んで来る人物がいた。


「あー! 馬車に負けた! もう少しだったのに!」


 メルトだ。どうやら、乗合馬車と追いかけっこをしていたらしい。

 ……これ絶対、馬車の中でシュリスさん笑ってただろ。


「やぁやぁメルトくん! お疲れ様」

「あ、アワアワさんだ! もしかして馬車に乗っていたのかしら?」

「ふふ、馬車の中からメルトくんが走っている姿を見守っていたよ」

「むむむ……え? あれ? なんで? あれ?」


 その時、メルトが俺に気が付いた。

 そうだよな、なんで俺がいるのか謎だよな。いるはずないもんな。


「どうやら縁があるようだな、メルト」


 何か言われる前に、先にこちらから話しかける。


「おや? シレントはメルトくんと顔見知りなのかい?」

「そうだな、同じ道を何度か通ったこともある。こいつの相棒、セイムとは……そこそこ話す程度の間柄、か」

「ふむ……新進気鋭の冒険者コンビとお知り合いでしたか」

「新進気鋭? こいつとセイムがか?」


 え、メルトはともかくセイムもなの?


「詳細はお話し出来ませんが、二人はある事件を解決、ギルドからの評価も高いですね。メルトさんについても、登録の段階から翠玉ランクと、非凡な才能を見せております」

「ほう……そいつは凄いな」

「登録二日で蒼玉ランクを授与されたシレント様の前ではそれも霞ますが、ね」


 あれは運が良かっただけです。

 都合よく事件が重なったので……。


「え!? シレントってソーギョクなの!? どうやったの!?」

「秘密だ。シー……だ、シー……」

「真似っこ! いいよー、こんどシグルトさんに聞くよー」

「クク。ではそろそろリンドブルムから集まった冒険者も増えてきた、討伐隊の結成、任務の概要を説明するんだろ?」

「ええ、そうですね。一度受付の前に集まりましょう」


 そうして移動する最中、密かにレミヤに言葉をかける。


「レミヤ、あの娘を気にかけてやれ。少々危ういが、戦力になるのは保証する」

「……なるほど、本当に顔見知りなのですね。了解しました」


 すると、レミヤがメルトの元に行き、何やら話をし始めていた。

 ……これで一安心だな。少なくともレミヤは『信用は出来る』からな。

 総合ギルドのトップの直属の部下なのだから。


「少し、意外だったよ。もう少し物騒な人間だと思ったけど、メルトくんがよく懐いている」

「そうか? まぁ動物は人を人相で判断しないからだろう」

「動物? 彼女を馬鹿にしないでもらえるかな?」

「気に障ったか。が、実際アレはまだ本能で行動することも多いと感じた。十三騎士であるアンタが顔見知りなら、多少は手本として参考になってくれ」

「……少し、安心したよ。少なくとも君は悪人ではないと分かった」

「そうかい」


 メルト効果、凄い! シュリスさんの警戒心がグっと下がった!

 シレントとして、国の裏側に近づくのも手ではある。

 が、実力者に過度に警戒されては動き難いから、ね。


 受付の前には、メルトやシュリスさん、レミヤと俺を抜かしても、総勢四〇人を超える冒険者が集まっていた。

 何人かは既にパーティを結成しているようだが、それでも一度、各々の得意分野を聞き、振り分けを考えるとレミヤが宣言する。


「今回の依頼は、高ランクの魔物を多数相手取ることになります。推奨ランクを最低でも『翠玉』としましたが、それは単純に魔物と一対と遭遇した場合の話です。基本、四人一組で行動し、翠玉相当の魔物がどこに潜んでいるか分からないゴルダとの国境である山脈の麓を警戒して探索することになります。依頼の難易度は紅玉にも匹敵すると考えてください」


 レミヤはの発表に、集まった冒険者が姿勢を正す。

 これは、一筋縄ではいかない依頼だと再認識したのだろう。


「今回、現場での指揮にシュリス様を抜擢しましたが、人数が多い為、隊を分割、もう一つの隊の指揮官として――同じく蒼玉ランクの冒険者である、シレント様に担当してもらいます」


 ゲ、マジでやらせるのか。


「ではパーティと隊の仕分けを行います。一人ずつ自分のランクと使用武器を申告してください」


 そうして、集まった四〇名以上の人間が、それぞれシュリスさんと俺の元に配属されていく。




「俺の受け持ちはお前達か。全部で……二三人か」


 俺の元に、冒険者が二三人振り分けられる。無論、その中にはメルトの姿もあった。


「ちょっと待ってくれ、その前に俺達はアンタを知らない。蒼玉ランクだってのは暗部の姐さんが言っていたが、本当なのか?」

「本当だな。タグぐらいしか証明する術はないが『体感したい』ならすぐにしてやる。安心しろ、殺した魔物の数も『人間の数』も、向こうの十三騎士様にゃ負けてない」

「そ……そうか」


 さて、ここからは四人一組のパーティを作るんだったか。

 これ、俺の仕事だったのか……。


「まず俺と一緒に行動する三人を決める。この中で弓矢を使う者は?」

「はい! 弓兵として従軍していた経験があります!」


 すると、このベテランの冒険者の中では珍しい、女性の冒険者がハキハキと挙手をした。

 歳の頃、シュリスさんより若干若いくらい……二〇代前半だな。


「ランクは?」

「翠玉に上がり立てです」

「分かった。では次に……森での行動に自信がある者は?」

「はい! 得意よ! 私森育ち!」


 案の定、メルトが手を挙げる。


「そうだな、ではお前も俺の班だ。最後は……」


 正直、三人でも十分ではあるが、補助に回れる人間も欲しい。


「近接戦闘だけでなく、ある程度の罠の扱い、狩りを得意とする人間はいるか? 出来るだけ器用な人間をそれぞれの班に一人ずつ配置したい」

「あのー、一応俺、元鍵職人の剣士です。少し前まで探索ギルドの遠征にも同行していました」

「ほう……他にも何か自分が器用かもしれないと思う者がいれば申告してくれ。戦うだけが冒険者じゃない。他を生かせる器用な人間こそ、パーティを支える要だと思え」


 ゲームで言うローグや盗賊、そういう人間は絶対に必要なのだ。

 そうして、俺はどうにか隊を六つのパーティに分けるのだった。

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