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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第五章 日常と非日常と

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第七十二話

 まず、本来の目的である『スキル継承』の為、多くの人間に料理を食べてもらう必要がある。

 更にその料理はゲームにも存在し、食べたら『補助効果』が発動するものである必要がある。

 そしてゲーム時代の料理とほぼ同じ料理なら、多少アレンジしても効果が出ることは確認済み。

 今回、まずベースとなる料理は『唐揚げ』だ。正直、これだけでも十分に学生に喜んでもらえるメニューではあると思っている。

 屋台街であまり人気がないように思えた『鳥の香草揚げ』。

 が、それは『手掴みで食べにくい』『外で食べるには骨が邪魔』『口の周りが油で汚れる』という理由だと思った。

 店主曰く、冒険者や傭兵には人気らしく、夕暮れ時になるとかなり売れるらしい。

 つまり『骨を外し食べ易くし、口の周りが汚れないように噛み切り易く』すれば十分に対応可能。

 唐揚げと言うよりフライドチキンだが、これでも補助効果が発動するかはテストすれば分かる。


「ではスパイスの調合を始めますね」


 最後に『五香粉』この都市に存在する料理は殆どが西洋料理に類似している。

 エスニックなものや中華風のものは存在していないことは確認済み。

 が、生薬や錬金術の素材として、材料そのものは存在しているのだ。

 ではなぜ『五香粉』を使うのか。


「……地球で一瞬ブームになってたしな」


 地球での記憶。高校から少し電車で移動したところにある繁華街。

 あそこにはブームになった食べ物が幾らでも売っていたし、そういうのを食べに行くクラスメイトが多かったのは俺も知っている。

 というか実際食べに行ったりした。

 なら……『大鶏排ダージーパイ』も知ってるよな、あの繁華街に行ってたなら。

 駅前に行列が出来る屋台、あったよな。動画サイトでもテレビでも取り上げられてたもんな。

 確か台湾で流行していた屋台グルメだったはずだ。

 見た目は大きな唐揚げ、しかし五香粉の鮮烈な香り、癖になる風味に食欲を刺激され、とても大きなサイズなのに、ペロリと女子まで食べきってしまうメニュー。

 当然、その料理の作り方も、ゲームを制作した人間も見知っていたのだろう、しっかりセイラの頭の中にも作り方がインプットされている。


「やっぱり独特な匂いだなぁ八角」


 ゴリゴリと、小さな石臼のような道具で固形の材料を砕き、その砕けた破片をすり鉢でさらに細かく粉末にし、調合していく。

『シナモン』『クローブ』『八角』『フェンネル』『花椒』を全て粉末にし組み合わせていくと、焦げたオレンジ色の粉末が出来上がる。

 シナモンの甘い香りと、八角の少し薬品のような香り、花椒の鮮烈な香りに、フェンネルとクローブの、食欲を湧かす香り。

 それらを調合して、俺は五香粉をこの世界に再現したのだった。


「出来ました。これを使い調理します」

「ふむ……これはかなり強烈ね……殆どの料理を殺しかねないほどの」

「確かに、少量をブラウンシチュー等に加えたらアクセントになるだろうが、扱いが難しそうだ」


 それはそうだ。

 中華料理のような、醤油や砂糖をふんだんに使う、甘辛い料理にこそ合う香辛料なのだから。

 つまり、下味に使う調味料、醤油がないと始まらない。

 が、残念ながら醤油を見つけることが出来なかったのだ、このギルドでも。


「これ、魚醤ですよね? 魚の発酵調味料の」

「ああ、そうだね。ガームと言う、港町で古くから作られている調味料だ。塩味とコクがあるが、少々匂いが強い」

「ですね。今回はこれを少量だけ使います」


 魚醤、水、砂糖、生姜、ニンニクを鍋に入れ、軽く沸かす。

 匂いを軽減させるのが目的だ。

 本来なら酒か紹興酒の代わりになるアルコール類も欲しいが、今回はなし。

 まだこの世界のお酒事情に詳しくないのですよ。出来ればホワイトリカーのような癖のないものだけでも知っておきたいのだが。

 味見をしてみると、多少物足りなさを感じるも、漬け込みダレとして十分使えそうな液体が完成した。が、今回はここに五香粉を投入する。


「これは鳥肉のフリットなんです、簡単に言えば。調味料と肉の下処理が特徴的なだけで」


 肉の部位は胸肉、さっぱりとした部位が理想的。

 どうやら、このギルドにはしっかり試作用に様々な食材が常備されており、今回は鶏というよりは七面鳥と呼べるような、かなり大きな丸鳥を使わせてもらう。


「あっさりとした胸肉を使います。っていうかこれ……かなり大きいですね? なんの鳥です?」

「確か冒険者ギルドから今朝仕入れた肉ね。『ジャイアントカタニクス』だったかしら」

「ああ、前々から貴族が仕入れてた肉な。最近、近くの山から姿を消して値段が高騰してたんだが、ようやく新しい生息域が見つかっそうだ。もうちっと手に入り易くなるって話だぜ」

「なるほど……」


 肉質、よし。これなら地球の食材と同じように作れそうだ。

 胸肉を外し。それを目的の大きさ、厚さに切り分け、そしてこの料理の重要な工程を始める。


「厚さが均一になるように切り開いたら――瓶や棒で叩きます」


 これでもかと、肉をまな板の上で叩く。めん棒で叩く。薄く広げるように叩く。

 薄っすらとまな板が透けるくらい叩き、肉が自分の顔くらい広がったら、調味液に漬けこむ。


「実は、屋台街でも揚げた鳥は提供されていました。ですが――」


 俺は店主から聞いた話、食べにくさや油による汚れを説明する。


「なるほど、確かに学生、貴族の子弟には向かなさそうね。それでその難点を解決したと」

「そのスパイスがオリジナリティって訳か。どこの国の料理なんだ?」

「恐らく、西の果てでしょうね。このスパイス達がそうですし」


 漬け込んでいる間に、粉類を探す。

 コーンスターチと小麦粉は見つかったが、かたくり粉は見当たらなかった。

 が、その特徴を説明すると――


「ああ、イモ粉ね? あるわよ、確か製菓の材料棚にあったはず」

「お、じゃあお借りしますね」


 どうやら、地球では代用品として使われていた『片栗粉と言う名のじゃがいもでんぷん』ならこの世界にもあるようだった。

 これで衣を作る。ザクザクとしたあの触感は、他の粉ではなかなか出せない。

 薄く延ばしていたおかげで短時間で味のしみ込んだ胸肉を、今度は水分をふき取り、片栗粉もどきを纏わせる。

 無論、この衣の中にも少量の五香粉を混ぜ込んである。

 あとはこれを二度揚げしたら完成だ。


「ふぅ……これで肉をもう一度揚げなおしたら完成です」

「二度揚げね。最近はあまり使わないわね、そもそも揚げ物なんてほとんどがイモだったから」

「ですね。あまりメインを張る料理には使われないからな。付け合わせ用って感じで」

「実際、格式ばった料理だとあまり出てきませんよね。メインとして揚げ物が出ることって」


 香ばしい匂いが充満する。

 魚醤が少しだけ焦げるような香りに、生姜とニンニクの香り、そして五香粉の独特の甘いような漢方のような香りが、それらを包み込む。

 そうだ、これくらい鮮烈な下味じゃないと、五香粉の真価は発揮されないのだ。

 やがて、大きな唐揚げこと『ダージーパイ』が完成した。


「当日は食堂を使えるという話ですし、皿に乗せて提供、ナイフとフォーク食べることも出来ますし、パラフィン紙で半分包んで、手掴みで食べるストリートスタイルでの提供も出来ます。実際に手でも問題なく食べられるか、今回は手で頂きましょう」


 パラフィン紙は、どうやら厨房では既に一般的に使われている物だったようで、既に手元にある。

 なんでも、アルミホイルのように食材を包んでオーブンに入れる、包み焼きで使うのだとか。


「ほう……たしかに提供方法を選べるのは良いな。調理工程もそれほど複雑じゃない」

「うお! 軟らかいな肉! 簡単に噛み切れる。衣の食感の邪魔をしないな、これなら」

「確かに、この歯触りを邪魔することなく噛み切れるのは良い。口の周りが過度に汚れることもないな。……何よりも、この香りは癖になる」

「そうね、下味も良い。魚醤の臭みをまったく感じない。もう少し味を濃くした方が良いと思うわ」


 どうやら、提供するメニューとしては好評のようだ。

 味は確かに、これならもう少し魚醤の比率を上げても問題ないだろう。

 この辺りの味のバランスは要研究だ。


「どうでしょう、屋台メニューの一つにこれを加えるというのは」

「私はアリだと思うわ。よく考えられている。珍しさもあれば、見た目のインパクトもある」

「確かにこれなら……だが、少々もったいない気持ちもある。これは皿に盛り付けレストランで提供しても許されるだろう。学生の屋台メニューにしては洗練され過ぎていないか?」

「だが、こういう形式で広まるのも良いだろう。確かセイラと言ったかね? これは元々、屋台メニューだったのだろう?」

「ええ、そうです。確かに盛り付けや飾り付け、ソースや付け合わせ次第では、上質な鳥のフリットとして提供出来るとは思いますが、高級な食材……という程ではありませんし。肉も、もっと安価な物でもここまで叩いて下味をつけるなら関係ないですしね」

「そうか……なんだか折角のレシピをばらまくようで少しだけ癪だったんだ……でもあんた本人が良いと言うなら従う。これは、学生に提供するメニューとして申し分ないと思う」


 こうして、俺の計画の第一歩が進む。

 ……逃げたクラスメイトを探す方法は、何も直接的な捜索だけではないんだ。

 同じ地球出身だからこそ出来る、こういう手法もある。

 きっと、セイラの人格がしっかり存在していたら……反対しただろうな。

『食に対する冒涜だ』なんて言って。


「すみません、追加でちょっと……『こういうスパイス』ってあります?」


 俺は、更にもう一つ罠を用意する。

『ダージーパイ』よりも遥かに『地球の若者』に効く、特効の罠を。


「ふむ……ああこれね、確かあるよ。それより、セイラにはもっと先にしなければいけないことがあるでだろう? 大切なことを忘れてるよ」

「え? 何か忘れてます?」

「料理の名前を教えなさい。提供するのは決まったんだ、名無しのまま提供する気かい?」

「あ、忘れてた。それは『ダージーパイ』って言います」

「パイ?」

「ああ、違う意味の言葉らしいですよ。自分も人に聞いたので詳しいことは分からないのですが」

「そう、ダージーパイね。良いわ、それで行きましょう。味のバランスはこっちで研究するわ。貴女はさらに何か作るつもりなんだろう?」

「ですね、飲み物を作ろうかと」

「ふむ……良いわね、提供しやすいし喜ばれる。こういう料理には特に」

「そういうことです。ではスパイス……それと柑橘系の果物があれば」

「確か学園の『温室畑』から仕入れたレモンとライムがあるね。そのうち、温室畑が下層区の農業地帯にも作られるそうだよ。料理人ギルドには嬉しい時代になるわ」

「おお……」


 つまりあれか、ハウス栽培が普及しつつあるのか!

 俺はレモンとライム、そして追加のスパイスとして『カルダモン』を分けてもらい、先程の五香粉の材料の一部や生姜と組み合わせて、ある飲み物の原料、シロップを作り始めるのだった――






「では、この瓶はこのまま持って行きますね。二、三日漬け込んで完成ですので、その間の調整をする必要があるので」

「あいよ。じゃあこっちで会場の様子を確認、味付けの研究はしておく。『炭酸水』はこっちもで大量に発注しておくよ。もしも『ソレ』が失敗したとしても、ジンジャーエールとして売れば問題ないからね」

「ありがとうございます。では、今日のところは失礼します」

「あいよ。いろいろありがとうよ、セイラ」


 俺は『最大の罠』を自宅に持ち帰る。

 これがなんなのか? そんなの『揚げ物』には『コーラ』が一番だろうが……!

 クラフトコーラ、ブームだったもんな!








 セイラが帰った後の厨房では、引き続き大鶏排の下味について試行錯誤が行われていた。


「この五香粉っての、食えば食う程癖になるな。他になにか使えないもんかね」

「獣肉、癖の強いやつなんかは、これで煮込めば良い具合になるんじゃないか? ただそうなると臓物には向かない、か?」

「いいや、普通の臓物煮込みに少し加えるだけでもイケると踏んだね俺は。作り方と材料は分かったんだ、このスパイスは量産してそれぞれ研究する必要がある」


 残された料理人たちは、大鶏排を作っている最中、持ち時間中にずっとスパイスの話をしていた。


「セイラって旅をしていたんすよね?」

「そうらしい。が、傭兵団にも所属していたらしいからな。傭兵団にはそれこそ、全世界から流浪の人間が集まってくる。アイツの料理の知識はそのお陰だろうさ」

「なるほどなぁ……だったら『ハムステルダム』の料理とか知らねぇかなぁ」

「確かに……今世界に広がっている料理の三割は、あの国から広がったと言われているからな」


 謎の国家『ハムステルダム』は、今日もどこかしこで語られている。

 果たして、シズマとメルトがその国に向かう日が来るのだろうか――








「ただいまー」

「あ、お邪魔していますセイラさん」

「お邪魔してます」

「先に寛がせて頂いてます。おかえりなさいセイラさん」

「セイラおかえりー!」


 家に帰ると、メルトと新人三人組が既に寛いでいるところだった。

 時刻は夕方前、そろそろ取り掛からないとな。


「いや悪いね、ちょっと料理人ギルドでお仕事してたよ。今何か作るから」

「あ、急がなくて大丈夫です。実はさっきメルトちゃんから屋台の料理を分けてもらって」

「うまかったな、あれ。腸詰と『ペタンコ焼きサンド』」

「ああ、ああいうサンドイッチは初めて――」

「あー! あー! それ秘密よ! シーよ、シー……」


 ……メルト、あの後も追加で何か買ったのか。

 さすがに食べ過ぎです。


「メルト、食べ過ぎるとお腹がまんまるになるぞ。まんまるフォックスになるぞ」


 なんだこのフォックス! って見た目になっちゃうぞ。


「だ、大丈夫……明日はちょっと手ごたえのある依頼受けてくるから……」

「頑張れよ、メルト! 初めての討伐依頼なんだろ?」

「私達はランクが低いから手伝えないけど、怪我はしないでね」

「翠玉ランク以上推奨の依頼だ、油断は出来ない。本当に気を付けてくれよ、セイムさんの為にも」


 え? なにメルトそんな難しい依頼受けたのか……。

 俺は街を離れられないし……大丈夫だろうか? 過保護はいけないのは分かっているんだが……。


「メルト、どこまで行くんだい?」

「んーと、いつもの東の街道をもう少し進んで、山に入らないで野営地まで行くんだ。そこで、冒険者ギルドで討伐隊が組まれるから、そこに参加して魔物を倒しに行くのよ。これを達成したら、後は護衛任務一回で私、ランクアップして『紅玉ランク』になれるんだー」

「なるほど……」


 少し、心配だ。討伐隊、他の冒険者達との団体行動だなんて……。

 が、その反面、冒険者ギルドの面々が一緒なら、余計ないざこざも生まれないとは思う。

 メルトは『新進気鋭の冒険者でグローリーナイツと懇意にしている』と広まりつつあるのだ。

 たぶん、セイムよりは冒険者としては有名なはずだ。


「メルト、くれぐれも気を付けるように。知らない男の人についていかないように。常に武器を持ち歩くように」

「うん、分かったわ!」


 ……心配です、まるで母親にでもなったような気持ちだ……!

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