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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第五章 日常と非日常と

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第七十一話

「すみません、ちょっと終わる前によろしいでしょうか?」


 俺はその辺に放置されていた紙片とペンを借り、紙に『図』を描いて見せた。


「この植物、恐らく薬の材料や香草の一種だと思うのですが、見覚えありますか?」

「ふむ、薬師ギルドから仕入れている材料の中で見た物がありますね」

「ああ『星の欠片』ね。確か私も持っていますね、お分けしましょうか?」

「助かります」


 やはりここにもあった。

 今回、俺が必要としているのは『フェンネルシード』『シナモン』『スターアニス』『クローブ』『山椒』の五つ。

 もしかしたらこの世界では名称が異なるかもしれないからと絵で描いたのだけど、正解だったようだ。

 早速スターアニスこと『星の欠片』を分けてもらった。

 随分とお洒落なネーミングだ……!

 しかし本当に星みたいな形してるな……中国語で『八角』だったかな。


「他の物については私も存じませんね。ですが薬師ギルドとの素材取引に関わる部署がありますので、そちらをご紹介しましょう」


 するとニールソンさんが次の材料が見つかりそうな部署を紹介してくれると言う。

 が、正直他のハーブは西洋料理でもよく使われるものなのだし、問題ないとは思う。

 そうして薬師ギルドとの取引を担当する部署で、俺の絵を見せたところ――


「これは……ええ、在庫がありますよ。本来は外部の人間に販売などはしていないのですが、長の紹介ですしね、お譲りします」

「ありがとうございます」


 特徴的な形をしているシナモンだけは譲ってもらうことが出来た。

 が、どうやら他は見当がつかないそうな。

 いや、もしかしたら残りは料理人ギルドに普通に置いていそうだな。

 正直、鬼門だったのがスターアニス、八角なのだから。


「一先ずはこれで関門はクリア……ってことでいいかな」

「セイラ、何か作るのかしら?」

「んー、スパイスを調合したかったんだ」

「お料理に入れる粉のことね! 知ってるわ、ちょっと高いけど、スープに入れると美味しくなるもの」


 そう、とても素敵な粉なのですよ。


「ニールソンさん、お手間を取らせて申し訳ありません。それでは私はこれで失礼しますね」

「ええ、どうやら料理人だったご様子。錬金術と料理は通ずるところがありますからね。そちらの試みが無事に成功することをお祈り致します」




 錬金術ギルドを後にし、話に聞いていた『屋台街』へ向かう。

 とは言っても、錬金術ギルドがあるのは、その屋台街と呼ばれる坂道の脇道なのだけど。

 つまり、道を抜けて坂道をもう少し登れば、そこはもう屋台街なのだ。


「ここ!? セイラ、目的地ってここなのかしら!?」

「そ、ここが目的地の『屋台街』だね。見ての通り沢山屋台が並んでいるね」


 通りを行きかう職人や学生、ちらほらと冒険者や傭兵と思しき武器を背負った人間。

 冒険者の巣窟とはまた違った客層と賑わいを見せるその様子に、メルトは目を輝かせていた。


「いろんな匂いがするわ……! 香ばしい匂いに……あまーい匂い……素敵な通りね」

「そうだね。今回はここでどんなものが売っているのか、どんなものが人気なのか調査しようと思っていたんだ。メルトも誘ってご飯も兼ねようかと」

「わー屋台、良いわね! 初めて使うわ!」

「お、見たことはあったんだ?」

「うん、ゴルダにいたころ、城下町の外まで屋台が溢れる時期があったのよ。行商人さんに色々買い取ってもらう時、遠目に見ていたんだー」


 そっか。

 じゃあ、実際に近くで見て、食べて、堪能しないとだな。

 そうして、突撃でもするかのように向かって行くメルトを追いかけ、屋台を見て回るのだった。





 メルトを追いかけながら様々な屋台を見ていて気が付いたことがある。

 それは『思ったよりも屋台の設備が整っている』ことだ。

 バーベキューコンロのように焼き物を出す店程度は想像していたのだが、大きな鉄板で料理を提供している店や、おでん屋台のように大鍋で煮込み料理を出している店や、パスタを提供する店。

 それどころか、少数ではあるが揚げ物を提供する屋台まで揃っていた。

 簡易的な食器は見たところ使っている店は少なく、皿で提供された料理を設置された席で食べたら、屋台に返却するというスタイルが一般的だった。

 無論、木製の串で提供している串焼き屋も多く、そういったメニューは冒険者や職人が多く利用している印象だ。


「ふぅむ……学園祭に来る客層的には……前者の方が良い、か?」


 が、学園の生徒と思しき人間は、皿で提供する店にも、串で提供する店にも姿を確認出来た。

 手軽に手で食べることにも抵抗がない、か。


「迷うな……」

「何が迷うのかしら? 全部買ってしまえばいいのよ? 見て見て、羊の串焼きと鳥の串焼きと豚の串焼きと牛の串焼きよ! たぶん魔物だけど!」


 こちらのボヤキを拾い上げるように、指の隙間に串を挟んだメルトが戻って来た。

 ……つい最近、シーレがそんな風に矢を構えていたな。


「メルト、お行儀が悪いぞ? 持っててあげるから一本ずつ食べなさい」

「はーい。じゃあ……羊から!」


 ラム肉、美味しそうだ。

 俺も買おうかな?


「あむあむ……羊は少し独特の風味があるわね! この黒いつぶつぶと合う!」

「黒コショウだね。ふむ……」


 ある程度風味が強い食材も受け入れられている、と考えてもよさそうだな。

 俺もメルトを見ていたらお腹が空いてきた。


「メルト、やっぱり持ってて。私も何か買ってくる」

「わはっは! ……んぐ。次は牛!」


 美味しそうに食べるなぁ。

 牛の串焼きを食べ始めるメルトを残し、俺は数少ない揚げ物を提供している屋台へ向かう。


「すみません、二つください」

「へい! まい――デッ!」


 もう慣れたぞ、流石に!

 確かにデカいな、そう作ったしな! 馬鹿みたいにデカくしたキャラ、一人くらい作るだろ!


「へへ……まいど!」

「この料理名は?」

「鳥の香草揚げだよ。気取った呼び方だとフリットだな」

「なるほど」


 見た目はフライドチキンだ。肉は鶏とは限らないんだろうな、この世界だと。

 では一つかぶりつく。


「ん……うまい」


 衣の出来が良い。揚げ物が浸透、様々な衣が既に存在していると見て良いかもしれない。

 胡椒以外のハーブ、ニンニクの風味も感じる衣に、しっかりと塩味の効いた鶏肉がよくマッチしている。

 カリカリの衣と皮を歯で砕く感触と、肉に歯が食い込み肉汁が溢れてくる感覚。

 フライドチキンとして既に完成されている。

 肉汁とハーブと胡椒の味が口内に溢れ、肉を噛み千切った満足感と一緒に胃に向かう。

 素晴らしい、こんなに美味しいのに……この屋台、人が少ないな!


「もう一つはメルトにあげよう。きっと喜ぶぞ……!」


 揚げ物、結構気に入ってたしな!




 店主と少しだけ会話をして切り上げ、メルトの姿を探す。

 すると先程までいた場所ではなく、少し離れた屋台、その列の最後尾に彼女の姿を見つけた。

 

「おーいメルとっとと……」


 フライドチキン(勝手に呼び方変更)をメルトに渡しに行こうとすると、彼女の背後に人が並ぶ。

 余程人気の店なのだろうと思ったが――


「なぁに?」

「俺達もうここの料理結構確保してあるんだよ。向こうの休憩スペースで一緒に食わないか?」

「いっぱいあるから分けてあげるよ。一緒に行こうよ」

「いいの? ここすっごく並んでるのよ? 貴重じゃないの?」

「へへ、ああ。たっぷり食わせてやるからよ」

「そうだね、たっぷり食べさせてあげるよ」


 ナンパですねこれは。

 メルトがチョロすぎて心配になってくる。

 そうか屋台に並んでる所為か……!


「メルト、向こうで美味しそうな料理を買って来たよ。ここはなんの料理の行列?」

「あ、セイラ。ここはね、腸詰のお店なんだってさ。なんだか蛇みたいな長いお肉だったわ」

「あー、なるほど」


 フランクフルトか。地球だと腸の種類や太さ等で呼び名が変わっていたけれど、ここでは腸詰で共通しているのだろう。


「うお! お姉さんこの子のツレ? アンタも一緒に食おうぜ?」

「使い古されたナンパしてんじゃねぇよ。並んでんじゃないなら邪魔だからどけ。メルト、こいつら嘘つきだから。メルトを騙して連れて行こうとしてるだけだから」

「え! 嘘なの!? 待たなくても食べられると思ったのに!」

「あと逆上するなら相手選べ坊主ども。この子翠玉ランクの冒険者だぞ? ちなみに私はこの子よりも強いぞ」


 これは事実である。生産職とは言え育ち切ったキャラクターだ。

 ステータス的にはまだ育ち切っていないセイムとどっこいどっこいなんだ。


「うん、そうよ。嘘吐いたのね貴方達! 食べ物で人を騙すのは良くないのよ!」


 メルトが冒険者タグを見えるように翳す。

 しっかり、翠玉ランクの証である、緑色の宝石の欠片が埋め込まれているのだ。


「今なら何もしない。とっとと消えろ。自慢じゃないが私には紅玉の冒険者の知り合いもいる」

「……すんませんっした」

「行くぞ! 誰だよおのぼりさんならちょろいって言ったのは……」


 きっと、冒険者ですらないチンピラなのだろう。

 実はもう既に、メルトは冒険者の中ではそこそこ注目され始めているのだ。

 きっかけはもちろん、オークションでの警備任務……にて、レティと一緒に行動していたから。

 あの警備任務の際、休憩室として提供された旧館には大勢の冒険者が詰めていたらしい。

 どうやらそこでひと悶着あったらしく、その際にメルトが、グローリーナイツの人間に丁重に扱われていた姿が注目を集めたそうな。


「メルト、知らない男の人に話しかけられたら警戒するんだ。基本、可愛いメルトのことを狙っていると思ったら良い」

「本当に私ってそんなに可愛いのかしら?」

「凄く可愛い。頭撫でたい」

「手を洗ったらね! セイラの手、油だらけよ?」

「あ、そうだった。あー……フライドチキンがあまり売れてない理由ってこれか」

「その手に持ってるヤツね! 行列に並んでる間に食べてもいい?」

「いいよ、お土産だもん」

「やった。これも気になっていたのよー」


 まだまだ衣はカリカリしてそうです。

 どうぞご賞味くださいお狐様……。


「ん! 骨が邪魔ね! でもおいっしい! 今のところ一位よ! この揚げ鳥が一位!」

「おお、そうなのか!」


 骨が邪魔……か。確かにそれも不人気の理由の一つになりそうだな。

 ……俺の作るメニューならその問題も解決出来そうだ。

 そもそも部位が違うし。

 そう、俺が作ろうとしている料理も、鶏肉の揚げ物なのだ。

 市場調査をした限り、揚げ物の浸透率も高いし、様々な癖、風味のある料理も、それに挑戦して気に入っている人間の姿も確認出来た。

 そして……競合するような料理、俺の作ろうとしているスパイスを使う店も見当たらなかった。

 なら、いけるはずだ。物珍しさから注目もされ、同時に『手軽に食べる』ことも『皿で食べる』ことも出来る。


「ここの腸詰を食べたら私は料理人ギルドに戻るよ。メルトはどうする?」

「私はそうだなぁ……あ! 腸詰お土産にしてリッカ達を迎えに行くわ! そしたら家にまた招待して良いかしら?」

「お、それはいい考えだ。家に呼ぶのも問題ないよ。昨日程沢山は作れないけどね」

「分かった!」


 そうして、無事に腸詰を購入したメルトは、またしても指の間に一本ずつ挟もうとしていたが、さすがに屋台の店主が『お土産なら包んであげるから待ちな』と、ロウ紙のようなもので包んでくれたのだった。

 ふむ……ロウ紙、いやパラフィン紙……? クッキングシートの前身とも呼べるものだ。

 精製した重油がこの紙を作る時に必要だが……もしかして錬金術のお陰で精製技術は高いのか?


「メルト、ナイス」

「え? なになに?」

「んー、ちょっと知りたい情報をゲット出来たから」


 その後、腸詰を四本包んでもらったメルトは、嬉しそうに総合ギルドへと戻って行ったのだった。

 ……妙だな、口に咥えているのに四本包んでもらうなんて……。

 いや、そもそもあれ……『マルメターノ』じゃないですか……量がえげつない!

 あまり食べ過ぎないようにね。






 料理人ギルドに戻り、引き続き作戦会議中と思われる厨房に向かう。

 既に外まで良い香りが漂っているが、何かメニューを試作中なのだろう。


「ただいま戻りました。すみません、少々錬金術ギルドに寄り遅れました」

「ほう? 珍しいところに足を運んだね? 何か特別なものでも必要なのかい?」

「はい、少々珍しい、皆さんには馴染みのないスパイスを調合しようかと。本部長、この紙に書いてある絵と同じスパイスはありますか?」


 俺は残りのスパイス、花椒とフェンネルシード、そしてクローブのイラストを見せる。

 ……ねぇ、なんか妙にイラスト上手いんだけど、これも料理の知識のお陰なのでしょうか?


「ああ、これね。スパイス棚にあるはずだから確認してみな。たぶんあったはずだよ」

「これが必要か。こいつは西海の果てから輸入した生薬問屋から買ったヤツだな。独特の爽やかさと痺れるような辛さがあるが、こいつと……クローブにフェンネル……か」


 あ、クローブとフェンネルは普通にそのままなのか。


「少々独特な香りのするスパイスです。癖はありますが、屋台を利用している生徒なら受け入れてくれるでしょう。あそこ、結構癖の強い臓物煮込みや羊肉も普通に買われていましたし」

「ま、そうだろうね。貴族連中は『他とは違うが優れたもの』に敏感な連中でもある。その子弟が目新しい料理にしり込みはしないだろうさ。なにせリンドブルムで屋台を出すには、アタシ達と国の許可、その両方がいる。まともな食い物であることは保証されてるのさ。まぁ屋台のほとんどは後からメニューを追加したりしているから、実地調査は必要なんだがね」

「なるほど……」


 スパイスを探しながら、本部長の話を聞く。

 そうか、ある程度の出店の審査は国も関わっているのか。なら安心ではあるな。

 ……よし、スパイスはこれで揃った。

 この棚には八角は置いていなかったし、恐らくこれから作るスパイスは料理人ギルドでもあまり知られていないだろう。


「揃いました。じゃあ調合を開始しますね」


 これは、新しい風味を皆に伝える為だけのものじゃない。

『知っている人間を誘き出す為』でもあるんだ。

 流行ってたよな、俺達の世界でつい最近。


「楽しみね、私が知らないスパイスを調合するなんて」

「そうですね、俺も流石に気になりますわ。見せてもらおうか」


 俺が作るスパイス、それは――『五香粉』だ。

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