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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第五章 日常と非日常と

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第六十六話

ー(´・ω・`)ー

「へぇ! 肉関係ってギルド直売なんですか」

「ええ、そうなんです。魔物のお肉は一般的な家畜の肉と比べても味に遜色がありませんから、こうして一般家庭の方達も購入出来るように、ギルドが直接商店を開いているんですよ。家畜肉はだいたいが高級な飲食店や貴族に回されますしね」

「なるほど。じゃあ別に味に癖とかってないんですか?」


 市場の中で一際大きく立派な屋台を構えている肉屋。

 だがそこの店員が見覚えのある制服に身を包んでいた為話を聞いた結果が今の話だった。

 そうか……ギルドって手広くやってるんだなぁ。


「癖や肉質が固いものも中にはありますが、調理次第で簡単に克服出来ますね。今日のおすすめは……少し前にギルドに持ち込まれた鳥の肉、手羽元にあたる部分のお肉なんてどうです? 変種の魔物ですが、元は『カラヴァリクック』という、食用にもされる魔物のお肉です。既に錬金術ギルドと冒険者ギルドで調査、味見もされていますので、品質は保証しますよ」

「へぇーじゃあ貰おうかな? って――」


 手羽元って……小さいよね普通。これ、なんか牛の塊肉並に大きいんだけど。

 ピンク色のでっかいブロックなんだけど。これ、本当に手羽元なのか……?

 あ!


「もしかして、少し前に噂になっていた、巨大な魔物の翼だったりします?」

「あー噂になってたんですか。そりゃ大通りを引きずっていたら目立ちますよねぇ」


 はい、シーレが仕留めた肉ですねこれ。

 そうか、一部はこうして市場に出回るのか。


「そのお肉、凄く美味しかったんですよ。さっぱりしているのに味が濃くて、お塩だけかけた試食なのに、ギルドの人間が凄い勢いで食べてましたし」

「ははは……楽しみにしておくよ」


 そうして、無事にリヤカー一杯に食材を積み上げて、帰宅の為再び南門へ向かうのだった。

 さーて……これで『作った料理の種類』はかなり稼げそうだ。

 マリネにムニエルに煮物……煮込みにグラタンにサラダに……やばいな、頭にどんどんレシピが浮かんでくる……!

 ……あ! 調味料買うの忘れてた!








「おはよー! 三人共待った?」


 朝、全速力で総合ギルドに向かったメルトは、無事に三人と合流する。

 乗合馬車の乗り方をマスターしたメルトは、密かに『自分もすっかり街の人間だ』などと考え、達成感と充実感に包まれていた。


「おはよ、メルトちゃん。大丈夫、全然待ってないよ」

「そういやメルトって今どこに住んでんだ? 前まで冒険者の巣窟の宿にいたんだよな?」

「そういえば、宿を出たと言っていたな」


 その三人の疑問に、メルトは『待ってました』と言わんばかりに、嬉しそうに語りだす。


「へへへ……! 私、セイムの買った家で一緒に暮らしているんだ。私とセイムの家だって言ってくれたんだよ!」


 そう、嬉しそうに報告する。が、どうやら三人は別な意味に聞こえたようで――


「え!? それってつまり……二人はそういう関係だったってことなの!?」

「そうなのか! 相棒じゃなくて夫婦になったってことか!?」

「めでたいなそれは……おめでとう、メルト」

「??? なになに?」


 通じない。メルトにはその話題が通じない。


「夫婦……番ね? 違うよ、セイムは私のことを家族だから、家に住むのに遠慮なんていらないって言ったのよ? 私とセイムは家族よ」

「ん、んん? まぁとりあえず……すっげえ仲が良いってことなのか?」

「あー……そういう感じなのね。でも、おめでとうメルトちゃん、自分の家を持てるっておめでたいことだもん」

「確かにそうだな。俺も、出来れば早いうちに宿を出て小さな家を買いたいと思っているんだ。二人と違い俺の実家は少し離れた農村にあるからな」


 メルトの様子から、どうにも色恋とは無縁の話だと察する三人。

 が、それでも冒険者が自分の拠点を持つということは、ある種一人前の証とも言えるのだ。


「今、セイムはお仕事で街から離れているんだけど、セイムの代わりに家の留守を任されてる人が来ていてね? その人が『沢山ご飯作るから、お友達を呼んで来て良い』って言ってくれたの。今日の依頼が終わったらお家に来ない?」

「あ、行きたい! どんなところに住んでるのか気になってたんだよね」

「飯食えんのか!? 絶対行くぜ! 店以外の料理なんて親以外食ったことないな俺」

「なんだか申し訳ないが、新居祝いということでお邪魔させてもらうか」


 嬉しそうに、本当に嬉しそうに三人を招待する。

 まるで小さな子供のように、三人の返事を聞きはしゃぐメルト。


「やった、嬉しいわ。じゃあ今日の依頼、頑張って終わらせましょ?」

「ええ、そうね! 今日は確か――」


 すると、グラントが一枚の依頼書を取り出して見せた。


「一応、これは懲罰任務だから一般の掲示板には張り出されていないんだ。今回俺達に出された依頼は、昨日西の沼地で大規模な討伐任務が達成されたらしく、その調査と、沼地での採取任務だ。沼地で取れる『爆発もここ』という植物を大量に採ってきて欲しいそうだ」

「え……何その名前。そんな植物あるの?」

「子供が考えた名前みたいだな! 爆発すんなら危なくないか?」


 真面目な顔で、コミカルな植物の名前を口にするグラントに、思わず笑みを浮かべる二人。

 が、メルトはとても不思議そうな顔で、懲罰任務のチラシに描かれている植物の絵を見ていた。


「あれ……これお祖母ちゃんの絵だ……この名前も昔……どういうことなのかしら……」


 小さく呟き、頭を捻る。

 見覚えのある挿絵と、不思議な名前。

 どうやらメルトには、何か思い当たる節がある様子だった。


「これは爆発と言っても危険じゃないんだ。緩衝材として利用される植物なんだよ。そろそろ新年祭に向けて大陸中から荷物が届くだろ? だから需要が高まってるんだ」

「なるほどね。へぇ、緩衝材なんだ」

「これがか? まぁいいか。早速行こうぜ」

「あ、うん。そうね、今晩はたーっくさんご馳走を用意してくれるって言っていたから、しっかりお腹を減らさないと!」


 そうして、気を取り直してメルト一行は西の街道に向けて出発したのだった。








 いや凄いな俺……いやセイラの経験の為せる技だとは思うが。

 無事に家に食材を運び終えた俺は、家の冷蔵魔導具に入れられそうな食材はしまい込み、残りはアイテムボックスに収納したのだが……食材の下ごしらえだけしようと思ったら、物凄い速度で巨大魚が捌かれ、見事に柵取りされ部位ごとに分けられていた。


「カルパッチョはここ……ハラミの部位で……マリネは背中の身……頭は兜焼きにして尻尾はステーキ、あばら周辺のアラはアクアパッツァにして……乾燥トマト買って正解だったな」


 どうやらハウス栽培は盛んではないらしく、夏野菜は手に入らなかった。

 が、もしかしたら少数なら出回っているかもしれない。少なくとも花に関しては品種改良がされるくらい研究されているのだから、温室もあるのだろう。


「貝はこれ、アサリっぽいし白ワイン蒸しにして……エビは塩焼き一択だな。殻ごと食えそう」


 完成図が、レシピが、盛り付けの絵面が、味の想像が、全て頭に流れ込んで来る。

 幸せな映像が脳に溢れ、作り始める前だと言うのに笑みがこぼれてくる。


「肉は今日なくても良いか。明日だな、明日」


 これでとりあえず六品は確定。付け合わせでバゲット関係で数品作れば八品は固い。

 が、ここまでやってもまだスキル『食いしん坊』すら習得出来ない。

 まず『食いしん坊』の条件が『十種類の自作料理を食べる』だ。

 これ、完食しなくてもいいよね……? 一口ずつでも良いよね……?

 あ、昨日のステーキと今朝のフレンチトースト含めたら十種類に到達するな!

 これでようやく最初のスキルがゲット出来る、と。

 だが、このスキルのままだと『デメリットしかない』。

 料理によるスタミナの回復量にマイナス補正がかかるだけなのだ。

 つまり沢山食わないと腹が満たされない状態になる。

 まぁ、本来の習得条件をなぞることで、シズマの身体でも習得出来るのかはまだ謎なのだけど。


「少なくともこれで一回検証は出来るな。シズマで食いしん坊になれば……条件は正しいってことになる」


 しかし大きなデメリットが。

 俺……元々かなり大食いと言うか、燃費が悪いんすよ……!

 まるで睡眠欲を全て食欲に置き換えているような、そんな生活をしてたので……。


「いやぁ懐かしい……携帯食食いながらダンジョン篭ったりフィールドの場所取りしてたなー」


 ネトゲ廃人あるある。削り易い三大欲求削りがち。

 廃人仲間からは『若さのごり押し』なんて言われてたっけ。

 うっさいボトラー共め! 人間の尊厳捨てるよりはマシじゃい!


「後はこの世界の料理にもバフ効果があるか、だな」


 恐らく、ただの料理ではバフは発動しないはず。実際昨日今日と俺が作った料理を食べたが、何か変化した気配がない。

 恐らく、ゲーム時代に存在していた料理ならば発動するのだろう。


「んー……アクアパッツァはゲーム時代にもあったしな。これで発動するか今日で分かるか」


 材料の差異はある。が、これで成功したら、広義的に見て同じ料理ならOKだということになる。

 それが何に使えるかはまだ分からないけれど、検証するに越したことはないな。


「そのうち補助効果ありの料理で屋台でも出すかなぁ……」


 恐らくゲーム時代の露店の知識が、キャラクターに屋台商売の経験として刻まれている。

 屋台を出店することに対して、微塵も恐怖や緊張をしていないのだ。

 そういえばこの都市って飲食店の多い通りはあっても屋台の多い通りってまだ見ていないな。


「…………柄にもない。余計なこと思い出すなよ、俺……」


 一瞬『屋台の多い通り』を想像して……ムラキを思い出した。

 アイツ、修学旅行で福岡の『屋台街』のこと、楽しみにしていたよなって。

 内心、俺も結構楽しみにしていたんだなって。

 アイツ、人間に戻れんのかな、なんて。


「……アイツらなんてどうなっても関係ないって思ってたんだけどな」


 ま、いいさ。時間が経てば考え方に変化くらい起きる。人間なんだし。

 まぁ助ける気が微塵も起きないヤツもいるけどな!


「よっし! 兜焼きは庭で作るか!」


 気分を切り替え、引き続き料理の下ごしらえをしていくのだった。








「お時間を割いて頂きありがとうございました」

「いいっていいって! 頑張れよー新人」


 その頃西の沼地にて、メルト一行は現場の調査と聞き込み、そして採取を手分けして行っていた。


「グラントってしっかり者ねー?」

「そうか? ふむ……実家が農家でな、商人の相手も子供の頃からしていた影響かもしれない」

「なるほど!」


 グラントとメルトの二人は、沼地で同じく採取依頼と討伐依頼を受けていた先輩冒険者に、先日ここで行われたであろう討伐依頼の詳細、そして魔物について聞き込み調査をしていた。


「しかし討伐した本人が既に街を出ていたとはな……断片的な情報だが、どうやら魔物はかなり凶暴、人を執拗に狙っていたらしい」

「恐いわねー……誰が倒してくれたのかしらね?」

「弓使いの女性だとさっきの冒険者の先輩は言っていたな。そんな弓の名手、是非一度この目で腕前を見せてもらいたいくらいだ」

「ふむふむ……」


 弓が上手い人と聞き、メルトの脳裏にシーレの姿が思い浮かぶ。

 昨日、シーレが討伐依頼に出ていたことを思い出すが、詳細を聞いていなかったメルト。

 が、きっとシーレは無関係だと思い過ごすのだった。


「遭遇の状況だけ見れば、複数存在する訳じゃないと思うんだが、メルトはどう思う?」

「ええと、お香に反応するって言うのよね? うーん……鳥ってあまり鼻が良くないと思ったのだけど……もしかしてお香ってたくさん煙が出るのかしら?」

「いや、そんなことはないと思うが……そうだな、確かに香に反応というのもおかしな話だ。ギルドにお香の分析もするべきだと進言してみる」

「そうねー? あと、条件に反応して襲ってくるなら、近くにはもういないと思うな」

「やはりそうか……どんな魔物なのか、詳細は俺達には知らされていないが、そこまで巨体なら縄張り争いを避けるだろうな」

「そうね? さっきの墜落現場? あれ、物凄い被害だったもの。あ……そういえば、アクスブレの木! あの辺りも凄い荒れ方だったよね? もしかしてあの辺りにいたのかもねー」

「なるほど……考えられるな。合わせて報告する」


 そうして一通り調査と聞き込みを終えた二人は、採取に向かったリッカとカッシュと合流する。

 二人の背には大きな籠が背負われており、今は山もりの『植物』が詰め込まれていた。


「なぁ、これ本当に爆発すんのか? なんかフランクフルトみたいじゃないかこれ」

「ね。なんだか長い茎の先についてて、ブウラッシュの穂に似てるよね」


 俗にいう、ガマの穂によくにた水辺の植物。

 しかし、明らかにその大きさはそれを超えており、その表面もツルリとしていた。

 明らかに、フランクフルトに見た目を寄せてきているかのような様子だった。


「ブウラッシュに似てるわよね? でもそれ、膨らみ方が違うんだー。一個貰ってもいい?」

「ああ、いいぜ」

「じゃあ見ててねー」


 そう言うと、メルトは『爆発もここ』を離れた地面に置き、そこ目掛けて石ころを鋭く投擲した。

 その瞬間、まるで風船でも破裂したかのような音が鳴り響き、地面から『もここ!』とでも擬音がしそうな勢いで、大量の綿と、頑丈な泡を放出し始めた。


「うわ! なんだこりゃ! 一瞬で大人の人間が埋まっちまいそうなくらい膨らんだぞ!?」

「えー……この泡結構頑丈だよ? 確かに緩衝材になるかも」

「むむ……初めて見るな。こんな特殊な植物、なんで知らなかったんだ……」

「うーん……たぶん錬金植物だよ。だからたぶん、育つ場所が決まっていて、他の土地に広がらないんだと思う」


 少しだけ不思議そうな顔のまま、メルトがそう解説する。

 その聞きなれない『錬金植物』という言葉に、三人は疑問符を浮かべているのだが。


「魔法と土地の力を吸って、変質した植物のことねー。たぶん、誰かが植えたのだと思う。そっかぁ……緩衝材になるのねー……」

「へー、品種改良みたいなものね? 私の好きな野菜で、品種改良で生まれた野菜があるの」

「なるほど自然界のものではなかったのか……」


 納得した一同は、膨らんだ『爆発もここ』を火で燃やし、後片付けをしてからリンドブルムへの帰路に着く。


「さ! 帰ったら私のお家にご招待よ! ふふ……すっごく美味しいんだから、セイラの料理は!」

「へぇ、セイラって人が留守を任されてるのか。どんな人だろうな」

「カッシュ、変な想像してない?」

「しかし実際腹が減ったな。フランクフルトとか言い出したせいで、正直もうペコペコだ」


 嬉しそうに、楽しそうに、そして少しだけ疑問を抱きながら、メルトの一日が過ぎていく。

ー(´・ω・`)ー豚の穂 おほー

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