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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第四章 帰るべき場所

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第六十三話

 念には念を入れ、私は東門から街の外に出てから途中で森へと向かい、巨岩の隠し扉を経由して家に帰る。

 やはり、一直線に帰宅出来るのは便利だ。街中よりこっちを通った方が早いくらいだ。

 整備された道を誰にも邪魔されることなく、ただ走り抜ける……爽快かつ効率的です。


「……やはりこの場所だけ壁の向こうから音がしますね……」


 恐らく南門の真下付近と思われる地点の壁に耳を当て確認する。

 そのうちここも詳しく調査したいところだ。


「さて……念のため暖炉に出る出口ではなく……こちらの階段を上ってみますか。


 万が一、メルトが誰かお客を連れてきている可能性を考え、恐らく家の二階に繋がっているであろう分岐路を通る。

 すると、ここでも鍵が反応し、行き止まりだと思われた壁が開いた。


「ここは……昨日メルトと一緒に寝た寝室ですか」


 大きなベッドの真横、サイドテーブルのすぐ隣にあった壁が開き、家の中に入ることが出来た。

 一階へと向かうと、どうやらメルトは隣の部屋、談話室であろう部屋にあるピアノを触っているのか、ポンポンポロンと、不規則な音色が聞こえてきた。


「メルト、ただいま戻りましたよ」

『あ、シーレ!』


 部屋の扉を開けると、やはりメルトがピアノの前に座り、指を一本ずつ出し、ぎこちなくピアノを弾いているところだった。


「ねぇねぇ、シーレはピアノって弾ける?」

「うーん……知識はありますが、セイムと大差ないですね」

「そっかぁ。何か弾いてみせてくれないかしら」

「では簡単なものを……」


 すみません、知識の上では『音楽によるヒーリング効果』や『近代の音楽に移行する際に衰退した技法』やら、それっぽい論文の知識なら少しだけ何故か頭にあるのですが、私にそんな音楽を奏でる才能はないのです。

 精々、小学校でシズマが習ったであろう曲を指一本で弾くだけです。

 ということで……『パフ』を弾きますね……しかもリコーダー用の簡単なヤツを。


「なんだか楽しい音楽ねー?」

「すみません、これくらいしか弾けなくて。ふむ……メルト、私は今日で目的を大体達成出来たので、一度確認を兼ねて、本来の人格、姿であるシズマになろうと思うのですが」

「えー、シーレもういっちゃうの?」

「申し訳ありません」


 けれどもう、本質的には同一人物とは、言い難くなってきている。

 だんだんと私の人格が、はっきりと別人として確立しつつあるのだ。

 これは、もしかすれば由々しき事態かもしれない。

 私も本当なら……皆と一緒に、シズマの中に入りたい、一つになりたいのに。

 最近、思うことがある。私よりも強いはずのシレントの人格が、多少シズマに影響を与えているとはいえ、しっかりと同化していることについてだ。

 もしかしたら『キャラクターの強さ以外の理由で私が同化出来ない』のかもしれない、と。


「大丈夫ですよ、変わってもシズマや他の皆の中に私はいます。いつだってメルトのことを見守っているんですから」

「んー、そっか。あ、でもちょっと待って! 確かシーレって、一番賢いのよね?」

「一応、そういうことにはなっていますが、どうしたんです?」

「実はね、今日の出来事なんだけど――」


 メルトは、今日一日の出来事を詳細に至るまで正確に語った。

 どんなことが起きて、どんな話が聞けたのか、その全てを。


「――っていうことがあったんだ。もう、謝られたけれどちょっと全部は許せないわ、私」

「ふむ……アンダーサイドですか……」


 間違いなく、地下で聞こえた物音の正体だろう。

 そしてその立地からして、逃亡者が身を潜めるには持ってこいだ。

 恐らくギルドもそう考え、警戒しているのだろう。

 だが、怪しい人物が忽然と姿を消した……? これも調べる必要がありますね。


「それにしても……十三騎士候補者、ですか。偶然ですが、実は私も今日、十三騎士の一人と遭遇したんですよ」

「へー! どんな人? アワアワさんみたい?」

「いえ、ヴィアスという男の人ですよ。少し恐い印象を受けましたが、面倒見の良い人だと私は判断しました。冒険者ではなく、傭兵だそうです」

「へー!」


 それにしても……実力だけなら十三騎士に匹敵する人員が所属する、さらに現役の十三騎士が率いる探索者ギルドのクランが街に戻って来た……か。

 もしや、女王は既に戦力をリンドブルムに集結させている……?

 これはもしかしたら……存外、ゴルダとの開戦も近いのかもしれませんね。

 程良いタイミングで、セイムとして私達の総意を女王に伝えに行った方が良いかもしれません。


「メルト、貴重なお話ありがとうございました。では、私は一度シズマに戻ります。もしかしたら、シズマとしてしばし行動することになるかもしれません。以前本人の口から出たかもしれませんが、シズマは一番弱い状態です。出来れば、彼のことを守ってください」

「うん、分かった!」


 では、メニュー画面を操作し……ログアウトを選択する。

 そこで、私の意識は途切れ――――








 意識が浮上する。同時に、膨大な情報と知識、思考の波が押し寄せる。

 目が明かない、頭が重い、今俺はどんな体勢だ?

 座っているのか? 立っているのか? 分からない……何も……分からない。

 意識が薄れる……思考の渦に……飲み込まれる――






「どうしよう……どうしよう……誰も呼べない……呼んじゃいけないのに……起きてよ……シズマ起きてよ……」


 耳元で、メルトの声が聞こえる。

 意識が再び浮かび上がる。頭の中が、すっきりする。

 目を開くと、目の前に何かの布地が見える。

 首を動かすと、こちらをのぞき込むメルトと目が合った。


「あー……ソファに運んでくれてありがとう?」

「シズマ起きた!!!! 目覚ました!!!! よがっだ……よがっだぁぁぁ~!!!」

「俺、どれくらい倒れてた?」

「わがんないよお! ずっと起きてくれなくて~!」

「マジかー……ごめん、心配かけた」


 予想その一。

 俺本体に戻ると『全てのキャラクターの知識と経験が一度に還元される』。

 セイムで過ごしている時の意識は、俺とはまた別に存在する、例えるならクラウド上のストレージのような共通意識に蓄積され、それがキャラクターチェンジや元の姿に戻った時、一度に還元されるって予想だ。

 そして俺が倒れたのは『俺が弱いから』。

 そういえば、シーレも一瞬、眩暈のような頭痛のような感覚を味わっていたはずだ。

 これからはせめて一日一回、寝る前くらいに一瞬だけシズマの姿になった方が良いかもな。


「あー……たぶん、どこか体の具合が悪いって訳じゃないから、心配いらないよ」

「本当に? 無理してない? シズマ、身体が弱いのよね?」

「いや、そういう意味の弱いじゃない……と思う」


 もしかして、メルトは俺が病弱だと勘違いしてしまっているのだろうか?


「きっと、シーレとかセイムとしての経験と知識、思い出が一挙に俺に流れ込んできて、頭がパンクしちゃったんだよ」

「ええ!? 頭が破裂しちゃうの!? 頭がパーンってなっちゃうの!?」


 すると、メルトが恐れおののくように身を引いた。

 大丈夫です、そんなことにはならないと思います。


「大丈夫、大丈夫だから。うん……大丈夫」


 考え、思考がクリアになる。シーレの思惑も全て理解出来る。

 シーレは、今日一日の成果を確認したいのだ。その上で、今後の方針を他ならぬ『俺自身』に決めて貰おうとしているんだ。

 俺はメニュー画面を操作し、自分のステータスを表示する。




体力   120

筋力   120

魔力   70

精神力  90

俊敏力  70

【成長率 最高 完全反映】

【銀狐の加護】  ←NEW

【観察眼】    ←NEW

【初級付与魔法】 ←NEW

【生存本能】   ←NEW

【高速移動】

【投擲】

【料理Lv1】

【細工Lv1】

【裁縫Lv1】

【剣術Lv1】

【弓術Lv1】   ←NEW

【狩人の心得Lv1】←NEW

【学者の心得Lv1】←NEW

【盗賊の心得Lv1】

【剣士の心得Lv1】

【戦士の心得Lv1】

【傭兵の心得Lv1】




「これは……シーレの実験は成功したってことか……」


 恐らく、シーレは俺に『観察眼』と『初級付与魔法』を受け継がせる為、意図的にこの二つのスキルを頻繁に使用していたのだろう。

 結果、見事にこの二つのスキルを俺に継承させることに成功していた。

 だが、シーレが最後に考えていたことは……人格、キャラクターの自我についてだった。

 シーレは、俺と同化したいと願っていた。そしてシレントが、自分よりも強いのに俺の意識とほぼ同化していることに、なんらかの理由があると考えていた、と。


「もしかしたら……俺の、所為なのかもしれないな」

「なになに? どうかしたのシズマ。なんでも私に言うんだよ? たぶん私の方がお姉さんだから! なんでも言ってね!」

「え、どうしたんだメルト。そんな急にお姉さんぶっちゃって」

「ふふん……! シーレが私にシズマをお願いしたの、だからなんでも言ってちょうだい! あ、そうだ! 私の誕生日、五月五日なのよ! シズマはいつかしら?」

「え? 俺は二月三日だけど」


 何故か唐突にメルトが誕生日を訊ねてきたので答えると、メルトが膝から崩れ落ちた。


「そんな……! 私の方がお姉さんじゃなかったの……!」

「ああ、なるほど。メルト、大丈夫だよ。俺はメルトを頼りにしているし、メルトも俺を頼りにしてくれて良いんだ。家族……なんだからさ」


 少々気恥しいが、素直な気持ちを伝える。

 そうか……以前なら、こんなことは言えなかった。

 セイムやシレント、シーレとしての経験が、俺を少しだけ成長させてくれたのだろう。


「やっぱりシズマはセイムと一緒なのね……凄くしっかりしてるわねー」

「そうでもないよ。それに……実際、シーレが俺のことを頼んだのも、俺が弱いのも事実だ。たぶん今戦ったら、メルトに手も足も出ないで負けちゃうよ」

「そうなの? じゃあ……はい、腕相撲しよ!」

「ふむ……確かに検証になるかも」


 サイドテーブルを移動させ、腕相撲を試してみることに。

 メルト、手がちっちゃいな……けど、明らかに戦う人間のソレだ。

 よく、鍛えられている。


「掛け声いくよー! せーの……始め!」

「グ……!」


 腕に力を込める。

 一応、俺のステータスはこの世界の人間よりも優れているのは、ゴルダの謁見の間で見せてもらった一般の兵士のステータスからしても確実だ。

 だが、それでもメルトの手を、ピクリとも動かすことが出来ない。


「むむ……確かに今の私より力はないかも……」

「く……くああ……」


 ペタンと、優しく手の甲がテーブルに押し当てられてしまう。

 メルト……めっちゃ強くない……?


「手、大丈夫? 痛くしてない?」


 心配そうに手の甲をなでてくれるが、なんだかくすぐったくて、同時に気恥ずかしい。

 が、幸い痛みなどはない。


「大丈夫だよ。でもメルト……かなり強いよね? この世界の人間は、成長するとしっかり自分の身体に強さが反映されるのは分かっていたけど……その細い腕で凄い力だね」

「そうねー。たぶん、私は銀狐族だから普通よりも強いのかもしれないわね?」

「なるほど……」

「でも、シズマも強かったよ? 少なくとも今の力なら、大人の人も敵わないんじゃないかしら?」

「そうなの?」

「うん。強さっていうの? ああいうのって、身体を鍛えるだけじゃ成長しないんだよ? ある程度他の相手、魔物とかを倒して、その力を吸収して、自分の器を強くして、ようやく今までの自分を超えて成長出来るの。シズマは強くなれると思うわ」

「マジでか。やっぱりある程度恩恵があるのか……」


 恐らく、これが召喚された存在の特典だ。

 ならやっぱり、俺自身を鍛えて強くなるのも必要だよ、な。


「これからの行動方針、考えないとな……」

「ダンジョンコアのことかしら?」

「それもあるね。出来るだけ早く、女王に俺達の方針、この国の為にコアを使いたいって話を伝えるべきだとは思うんだ。けど、逆にそれを引き金に戦争へと進むんじゃないかって心配もある」

「戦争……あまり、良いことじゃないのはなんとなく分かるわ。詳しいお話が書かれている本は読んだことがないけど……大きな争いだって、人が沢山……犠牲になるって、私も知ってるもの」

「うん、そうなんだ。だから、慎重に動きたいし、俺も……備えておきたい」


 予感だ。ムラキの件もあるし、恐らく戦争になれば、ゴルダの勇者である元クラスメイトとは必ず、どこかでぶつかることになるはずだ。

 その時……俺は、俺として……シズマとして、アイツらの前に立ちはだかりたい。

 セイムでも、シレントでもない。俺が俺として、過去に決着をつけたいのだ。

 だから……俺は強くなる必要がある。

 断じて復讐ではないつもりだ。ただ、事実を突きつけるのみ。

 そしてアイツらがただ利用されているだけ、付くべき国を間違えたのだと指摘する。

 ……あいつらも勇者候補として呼ばれているんだ。一歩間違えれば、強大な敵に成長してしまうかもしれないのだから。

 シーレの思考では、恐らく重大な結論を出すのは本体である俺であるべき、という考えもあって、セイムではなく俺に交代したのだと思う。

 無論、検証結果を確認したいとも思っていたのだろうが。

 が、もう一つ……俺が、俺として物事を考えるメリットがある。

 セイムでも、シレントでも、シーレでも出来ることだとは思うけれど。

『二〇体以上に及ぶキャラクターを育成し、ゲームをやり込んで来たのは俺だ』という自負。

 だからこそ、考えられる。どうすれば一番俺が効率よく強くなれるのか。

 全キャラクターの性能、スキル、習得条件を考慮して、俺が強く成長する為の方針を効率良く決められるはずだ。

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