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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第四章 帰るべき場所

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第六十話

「よん……じゅういち!」


 魔物の死体から、かれこれ四一本目の矢を引き抜く。

 これだ、これが狩人の一番の難点だ。

 矢は消費アイテムであり、回収しなければ当然その数は減る。

 メニュー画面経由でアイテムボックスを確認すれば、膨大な量が貯蔵されているが、節約はしたい。それに周囲の目もある。ここは矢を回収するしかない。


「なんだあの人……突然空から魔物が大量に降って来たと思ったら……」

「射抜いたのか……あんな上空にいるコイツらを」

「つーかあの人どっから出てきたんだよ!」


 この沼地は元々討伐依頼が多く出されている場所らしく、他の冒険者の姿が目立っていた。

 これは申し訳ないことをしたかもしれない。頭上からの魔物の落下、危険すぎる。


「皆さん、申し訳ありませんでした。下に人がいる可能性を考慮していませんでした。お怪我はありませんか?」


 集まっていた他の冒険者にそう告げる。


「え、あ……大丈夫です」

「だいじゅぶ……だいじょうぶっす!」

「むしろ助かりました。あいつら、こっちが少しでも弱ると急降下して襲ってくる連中なんで。俺達も空は常に警戒しているんですよ」


 ふむ、もともとそういう生態の魔物だと。

 なら、ここは沼地に潜む魔物を狩る為の、飛行型モンスターの餌場か。

 件の巨大な飛行型の魔物も、それ目当てでこの辺りに現れた?


「そうでしたか。私はこの辺りで巨大な飛行型の魔物を討伐するべく訪れたのですが、目撃情報というのはあるのでしょうか?」

「あ、あります! 三日前にギルドに報告したのは俺なんですよ!」


 ふむ、ならばこれは詳しい話を聞く必要がありますね。

 やはり他の冒険者との情報の共有は必須、こういう捜索を含む討伐では特に。


「詳しいお話をお聞かせ願えませんか?」

「了解っす! ここ沼地なんで、あっちの足場が綺麗な場所に移動します」

「そうだな、まだ何羽かダイブコンドルが旋回している。出来れば林の中に移動したい」


 ダイブコンドル……それが私が倒した魔物の名前ですか。

 一応、討伐の証明として一番長い尾羽をそれぞれから回収しているが、これで良いのだろうか?

 それについて訊ねてみると――


「あんた初見だったのか……ああ、討伐証明部位はそれで良い。よく倒せたな……射撃に絶対の自信があると見た」

「ええ、その通りです。なので今回の討伐依頼を受けたのですよ」


 林に移動しながら、詳しい事情を聞く。


「正直助かる。こいつ、俺達のパーティが目撃したのは、丁度この辺りだったんだ」

「あ、ズリィ! 報告は俺がする!」

「分かった分かった」


 この辺り……か。


「この沼地って夕暮れになるとアンデッドも出るンスよ。俺達、その時はアンデッド狙いで夕暮れの沼地にいたんですけど、夕日が突然消えて『なんだ?』って思って空を見上げたんです」

「補足すると、ダイブコンドルはかなり夜目が効かなく、夕暮れ前にはもういなくなるんだ」

「そうそう、だから俺達もその時は空を警戒していなかったんスわ。でも突然暗くなって思わず空を見上げたら、夕日を覆い隠すようなでっかい魔物が、まっすぐこの沼地目掛けて飛んできたんス」

「大急ぎで林に逃げ込んだんだが、どうやら狙いは俺達だったらしく、ほら、あの辺りの木を見てくれ。何本もへし折られているだろ? 超低空で俺達を追いかけた結果だ」


 それは、まるで小型の飛行機でも墜落したかのような有様だった。

 実際に落ちたわけでもない、ただ低空で追いかけただけでこの有様……危険すぎる。

 これはギルド側でもっと大きく取り上げるべき依頼ではないのか。


「ただ、後で判明したんスけど、俺達アンデッド討伐の為に、アンデッドを呼び寄せるお香を焚いてたんスよね。どうにも、このお香が原因なんじゃないかってことで、条件さえ満たさなければ襲われる可能性が低いってことで、まだギルドでは緊急性が低いって認識なんですわ」

「だから今、この沼地でアンデッドの討伐は禁止、お香を焚くのも禁止されている。だが……」

「アンデッドの増加が考えられるから、苦肉の策として沼地に結界の魔導具を設置、予防策として今、沼地全体に魔導具を設置する依頼が出されていたんです。俺達はその依頼で来ていたんですよ」

「なるほど……そういう事情でしたか」


 ならば、討伐は容易ですね。


「お香を分けてください。今日で終わらせます」

「は!? アンタ何するつもりだ!?」

「焚いて、おびき寄せます。私なら確実に討伐可能です」

「了解っス!」

「お前も渡すな! いや待て待て! まだ沼地には他のパーティもいるんだぞ!?」

「なるほど。では撤退するであろう夜を待って焚きますね」

「だから夜はアンデッドも出るんだって……」

「そちらも対処可能です」


 問題ない。狩人のスキルには『陣地作成』というものもある。

 さらに『中級付与魔法』というものも。

 このどちらも、光属性といった対アンデッドに役立つ効果を付与出来る。

 自身の周囲の土地に属性を付与、様々な恩恵を得られる陣地作成に、純粋にアンデッド特効の属性を付与する中級付与魔法。

 これらを駆使すれば討伐は可能だろう。


「アンタ……ランクは?」

「翠玉ですね」

「……最低でも、あの魔物を倒せるのは紅玉ランクを複数入れた上級のパーティだと思う。アンタじゃ無理だ」

「そうですか?」


 いや、実際ランクだけで判断するならば、この人の助言は正しいのだろう。

 実際に遭遇した彼らだけが、正確に魔物の脅威度を推し量れるのだから。

 私は、次の瞬間矢筒から再び四本の矢を抜き放ち、空へと射出。

 その流れで二度、三度、四度と、四連射を繰り返す。

 人外めいた動き、速さで空に消えていく矢。

 そして――空にいる全て。この広大な沼地上空の全てのダイブコンドルを撃ち落として見せた。


「……ランクなんて私には関係ありません。出来るから出来る、と言っています」

「な――――」

「沼地の魔物が……空の魔物が……消えた……」


 言葉では足りない説得力をどう補うのか。

 戦いに身を置く人間同士、これで全て理解してくれると信じる。


「もう一度言います。私なら、倒せます」

「……分かった、アンタを信じる。他の連中も夕暮れ前には撤退する予定だ。そうしたら、周囲を確認して『コレ』を焚いてくれ」


 そういって、恐らくこのパーティのリーダーである男性から、金属製の香炉を手渡された。

 簡単な作りだが、恐らく対アンデッドとしてなんらかの宗教に関係しているのだろう、シンボリックな意匠が彫りこまれている。


「すげえや姐さん! じゃあ、俺達の持ち場の作業はもうすぐ終わるんで、もう一時間くらい待っててください!」

「そうだな、手早く終わらせよう」


 そうして私は、香炉を受け取り、目的の時間まで林の中で『観察眼』の使用回数を稼いでいくのだった。








 その頃、リンドブルムの街では、メルトが新人冒険者三人組と合流すべく、少し前に赴いた下層にある居住区を訪れていた。

 三人は今日、この居住区の警備を任されているらしく、これも一種の奉仕活動として、低賃金で依頼を受けていた。


「どこだろうなー三人共。……凄いなぁ、これぜーんぶ人が住んでるのねー……」


 アパートメントの立ち並ぶ通りで、メルトは改めてこの人口密集地、人の営みが集中している場所に驚いていた。

 大勢の人間が暮らす場所。生活を送る空間。そこに今、自分が立ち入ることが許されていることへの喜びと、自分も同じ街に住んでいるという事実。

 実際には街の敷地外ではあるのだが、メルトにとってはもう、あの程度の距離の違いなんて誤差の範囲なのだ。


「共有の井戸に……広場に公園。なんだか里を思い出すなー」


 かつて、まだ里に同胞が多く暮らしていた時代。

 まだ幼く、詳細を覚えているわけではないが、それでも里の広場で子供達が駆け回り、大人達が井戸端会議に興じ、平和な時間が流れていた。

 その時の空気が、確かにこの場所に流れていた。


「あ、いた! お~い三人共~!」

「む、メルトか!」

「うお、なんでこんなところに!」

「わ、ここでメルトちゃん見るのって新鮮!」


 その時、公園の一角で三人組を見つけたメルトは、急ぎ足で彼女達の元へ向かう。


「お仕事お疲れ様ねー? 警備のお仕事だっけ?」

「ああ、そうだ。もしかして様子を見に来てくれたのか?」

「お、ありがとな。一応、罰則の一環でな。この辺りの見回りと監視ってとこだ」

「私達、この辺り出身なんだ。だから詳しいってことでここに派遣されたの」

「へーリンドブルム出身だったのね」

「だな。まぁグラントは途中で農村の方に引っ越したんだんだけどよ」

「ああ。冒険者になる為に戻って来たんだ。それで二人と再会したんだ」


 三人の出自を聞き、メルトは少しだけ『同じ出身地の友達』という存在に憧れる。


「私とカッシュはずっとリンドブルム暮らしね。私は実家が商会の契約農家なの」

「うちは親父が元傭兵だな。今は傭兵ギルドの受付してんだ」

「へー! じゃあ三人はリンドブルムには詳しいのね?」

「そうなるな。だからこそ、俺達が今回の任務に選ばれたんだ」

「ま、正直子供の頃は『あっち側』には近づかせてもらえなかったけどな」

「私は今でもちょっと苦手かも。普通のお店もあるし冒険者の先輩も利用してるって聞くけどさ」


 三人の口ぶりからして、何やら他の区画が存在していることを察する。

 メルトにとってリンドブルムは第二の故郷になりつつある今、街のことを知りたいと話を聞く。


「あっち側ってなにかしら? もしかしてお店がいっぱいある通り? 私、まだ冒険者の巣窟くらいしかしっかり見たことないのよね」

「あ、そういえばメルトはまだ来て間もないんだったか。聞いたことないか? リンドブルムの『最下層区』のこと」

「昔からある場所だな。俺達は『アンダーサイド』と呼んでいる。一歩間違えばブラックマーケットのような場所だが、幸い街の理事も黙認、ある程度の秩序が保たれているな」

「でも、私は恐いかなー。それこそ傭兵ギルドの人達とかベテラン冒険者が、凄い高そうな装備とか取引してたり、噂だと盗品とか出回るって言うし」

「だから怪しい出入りがないかこうして各地の出入り口でギルドの人間が監視してるんだろう?」


 アンダーサイドという存在。

 それがどういうものなのか、メルトには理解出来ないでいた。

 だが、自分の知らない区画、そしてそこが少し後ろ暗い物まで取り扱う場所なのだと知り、好奇心を刺激される。


「それってどうやって行くの? 私、見てみたいわ!」

「ええ!? いやまぁ危険地帯って訳じゃないけどよ……」

「女の子が一人で行くような場所じゃないよ? せめてセイムさんとか一緒じゃないと……」

「正直、俺達三人でも行くのは少し勇気がいるな。まだ晶石ランクだ、確実に舐められる」

「ふむふむ……セイムは今用事で街を離れているのよね……じゃあお預けかー……」


 そうして、メルトは大人しく三人と共に公園付近の哨戒任務にあたる。

 元々、ここ最近リンドブルムで起きた事件を捜査する為に、各地にあるアンダーサイド入り口を警戒しているという今回の任務。

 無論、新人に解決出来るようなものではないが、それでも監視の目を増やし、すぐにリンドブルム巡回の騎士に報告するのが彼らに与えられた仕事だった。


 そんな仕事を手伝いながら、公園を見て回っていたメルト。

 するとそんな彼女に、一人の子供が近づいていった。


「お姉ちゃんお姉ちゃん」

「うん? わ、なになに? どうしたのかしら」


 一瞬、メルトは自分が『お姉ちゃん』と呼ばれたことに気が付けないでいた。

 彼女の自意識としては、まだこの子供とそれ程歳が離れているとは感じていなかったのだ。

 無論、徐々にその認識は正されてきてはいるのだが。


「お姉ちゃん、この尻尾ほんもの?」

「ふふふ! 立派な尻尾でしょ~? 本物だよ~」

「わあ動いた! こんなにおっきい尻尾初めて見た!」

「ふふふ、えい」

「わわ! ふわふわーくすぐったい」


 子供をあやすように、一緒に遊ぶように、メルトは尻尾で女の子を包んで見せる。


「自慢の尻尾よ。ふふ、面白い?」

「うん! お姉ちゃん冒険者さん?」

「そうだよ~。怪しい人がいないか見回り中なの!」

「怪しい人? どういう人?」

「う~ん、そうねぇ……顔を隠していたりとか、マントで身体を隠していたりとか、ローブのフードをすっぽりかぶってる人とか、こそこそ隠れてる人かしら?」

「ふーん! ああいう人みたいな?」

「え? うん、そうよ、ああいう人」


 女の子は、無邪気に公園の外れを指さす。

 そこには昼だというのに、ローブのフードで顔を隠し、こそこそと公園の外れに向かい移動している人物の姿があった。


「おお……貴女のお名前なんて言うの?」

「ミルコだよ」

「じゃあミルコちゃん、今日はもうお家に帰った方いいかも!」

「えー! 尻尾のお姉ちゃんともっとお話したいー」

「そろそろお仕事しなきゃなんだー。また今度来るからお願い。もしかしたらあの怪しい人、悪い人かもしれないから! だから今のうちに家に帰るのよ?」

「悪い人なの? ……分かった、帰る!」

「うん、またねミルコちゃん」


 そうして女の子が公園から去るのを見送り、メルトは怪しい人影消えた方向へ向かう。

 無論、他の三人に声をかけてから。


「マジか……どうする、グラント」

「……リッカ、巡回の騎士に報告を頼む。俺とカッシュで追跡する。すまん、メルトも同行頼めるか?」

「もちろんよ!」

「三人共気を付けて、急いで騎士さんに報告してくるから!」


 そうして、三人は公園の外れ『アンダーサイド』の入り口へと向かうのだった――

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