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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第四章 帰るべき場所

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第五十二話

「何故……女王陛下が直々に」

「いやなに。自分を飾る品のありのままの姿を一目近くで見たいと思ってな。……それに、出品者が其方だと昨日自ら言ったであろう? 驚かせてやろうと思った。許せ」


 応接室にいたのは、女王陛下御本人でした。

 確かに昨日、深海の瞳の出品者は俺だと言ったけれど……!


「半分は冗談だ。コクリ、例のものを」

「はい、女王陛下。セイムさん、こちらをどうぞ」


 すると、同席していたコクリさんが、美しい装飾のされた筒形の箱を手渡してきた。

 見た目よりもずっしりと重く、中身が詰まっていることを想起させる。


「例の資料だ。直接、其方に渡したいと思ってな。今日ここに来た理由のもう半分だ」

「そんな女王陛下が直々に……感謝致します」

「構わん。さて、では支払いだったな。既にオークション側と商会にはそれぞれ手数料分は支払っている。後はセイム、其方に支払うだけだ」


 そう言うと女王は手を鳴らし、応接室の奥の部屋から荷台に乗せられた大きな箱、まさに『宝箱』といった様相の箱が運ばれてきた。

 この中に、大金貨六〇〇〇〇枚が……。


「手数料を引いた大金貨六〇〇〇〇枚だ。金額の確認は美術館側にしてもらっている」

「はい、確かにこちらには大金貨六〇〇〇〇枚が収められていることを、当美術館が保証いたします。支払い証明書および履歴書はこちらです」

「はい、ありがとうございます」


 大きな箱。今すぐ蓋を開けてみたい衝動に駆られるが、それを抑える。

 だが――


「ろくまん!? え!? なになに、ろくまんって六〇〇〇〇のことかしら!? 一〇〇の六〇〇倍の六〇〇〇〇のことなの!?」

「メ、メルト……静かにね、静かに」

「う、うん……なになに……どういうことなの……」


 ……そういえば結局、メルトには幾らで宝石が売れたのか教えていなかった。

 いやこういう反応の方が自然なんだよなぁ。


「ふふふ、随分と可愛らしい仲間だなセイム」

「紹介します、彼女はメルトです。『俺と一緒にダンジョンを抜けてきた』大切な友人ですよ」

「……ほう」


 この言葉の意味、しっかりと伝わったようだ。

『ダンジョンを共に制覇した人間』『俺の仲間だから粗末な扱いはしないで欲しい』と。


「こんにちは、メルトって言います。貴女はセイムのお友達なのかしら? ジョウオウヘイカさん」

「メルト、女王陛下だよ。この国の王様の」

「え! 女王様なの!? こんにちは、女王様」


 許してあげてください。たぶんこの子、女王様なんて本の中の知識でしか知らないので。


「申し訳ありません、女王陛下。彼女は少々特殊な身の上なので、世情には疎いのです」

「えと……ごめんなさい」

「ふむ、そうか。気にするなメルト、少しずつ、この国でゆっくり学ぶと良い」

「ありがとうございます、女王様」


 言外に『この国にずっと居て良いぞ』って言いたそうだな……。

 だが、確かにこの国なら、ある程度メルトのことを守ってもらえるかもしれない。

 少しずつ、それこそ階級社会や社会通念を学んでいけたら……。


「さて、用事は済んだ。私達はこれで失礼しよう。コクリ、馬車の手配を」

「了解致しました。シュリスさん、どうしますか? もう少しここに残りますか?」

「んー、そうだね。今日は登城の予定もないからね。女王陛下、本日はここで失礼致します。同道をすることが出来ず、申し訳ございません」

「良い。シュリスよ、良い出会いをしたな。よくぞセイムと引き合わせてくれた」

「ええ、良き友人と出会えました」


 そうして、女王陛下とコクリさんが退室し、オークショニアと美術館の館長が女王陛下の見送りの為に一緒に出て行った。

 部屋に残されるのは、シュリスさんとメルト。

 そして……先程から一切口を開かないまま、完全に放心状態の商会長さんだけだった。


「どうやら女王陛下とお会い出来ていたようだね。何やら昨日、城が騒がしかったけれども、君が関係しているのかな?」

「まぁそうですね。もしかして詳細は知らされていないんですか?」

「ああ、妹も教えてくれなかったよ。けれども、どうやら女王陛下との関係も良好な様子。無事に妹の説得にも成功したようだね。君の目的も果たされたのかな?」

「まだ半分……といったところですかね。この話は今はナシでお願いします」

「っと、失礼したね。さて、じゃあ私も部下の様子を見に地下に戻るとしようかな。国の騎士を一時的に預かっている身でね」

「捜査の関係ですね。お疲れ様です」

「ありがとう、セイムさん。ではまた今度会おう、お先に失礼するよ」


 そうしてシュリスさんも去り、残る商会長さんに声をかける。


「商会長さん? 俺達もそろそろ引き上げましょう? 商会長?」

「――――は! わ、私としたことが!!!! 完全に意識を失っておりました! 皆さんはもう!?」

「ええ、帰りましたよ」

「な、なんたる不覚! 女王陛下とこんなに近くでお会い出来る機会などこの先二度とないかもしれないのに……! 一体、どうしてセイムさんと顔見知りなのですかな!?」

「んー……」


 今回ばかりは、ここに深く関わらせるつもりはないし、今後に支障が出てくるかもしれない。

 ごめん、商会長。今だけは……少しだけ拒絶します。


「商会長。今後も良い関係を築いていく為にもこれ以上の追及はナシです。最悪、この国での活動に支障が出てしまうかもしれません」


 少しだけ、声のトーンを下げる。表情を、親しい人間に向けるものではなくす。


「っ! そうですな……ええ、普通の事情ではないのでしょうな……欲と好奇心は紙一重……ですからな。お約束しましょう、この件はもう追及しないと」

「すみません、商会長。ただ……間接的にきっと、いつか商会長さんの益になりますよ」


 その時は、きっとこの国の人間、全員の益になることを願うよ。

 大地を豊かにする力……その詳細を知ることが出来れば。

 俺は、コクリさんに手渡された筒を少しだけ強く握りしめる。

 安全な拠点を手に入れたら確認しないとな。


「しかし、これでようやく物件の紹介が出来ますな。実はもう、既に何件かは目星をつけ、管理している貴族の方々からの了承は得られているのです。今日商会に戻った後、もう一度物件を纏めておきますので、明日、また商会にいらしてください。物件のご紹介をしたいと思いますので」

「本当ですか!? メルト、やったぞ。俺達の家の候補を見に行けるんだって」

「え!? ついにお家を買えるの!? セイム、とんでもない大金を手に入れたのよね? そのお陰なのかしら?」

「そうだね、そうなるね」


 メルトも嬉しそうに、けれども同時に驚愕の表情を浮かべる。

 台車に乗せられた宝箱を指さしながら、さらに続ける。


「お家って高いのねー……大金貨六〇〇〇〇枚なんて……絶対に稼げないわ」

「いやいや、そんな高いわけないじゃないか。これはたまたまこの金額になっただけだよ」

「そうなの? じゃあ、いっぱいお金が余るのね? セイム、無駄遣いしちゃダメなんだからね? お風呂上がりのジュースは三杯まで!」

「……俺は毎回一杯で済ませているんですがそれは」

「そうだっけ?」


 ジュース大好き狐さん。

 夏になったらシャーベットでも作ってあげよう。

 冷凍庫とか一般に流通してると良いんだけど。


「はは、確かに一軒家の相場となると、庭付きですとだいたい大金貨一二〇枚からですな。しかしそれも土地によります。セイムさんはやはり、リンドブルム内や近郊が希望なのでしょう?」

「ええ、そうですね。あまり人通りが多い場所は避けたいところです」

「ふむ……分かりました。商会に戻りましたらその条件で物件を絞っておきましょう」


 そうして、俺達も美術館を後にするのだった。

 なお、この宝箱は擬装用の木箱の中に詰めてから、荷車に乗せて宿まで運びました。

 さすがに人前でメニュー画面に収納なんて出来ないからな。






「ねぇねぇ、前から気になっていたんだけど……セイムって『空間石』が仕込まれた魔導具を持っているのかしら?」

「うん?」


 宿に戻り、宝箱を収納していると、メルトが興味深そうに訊ねてきた。


「『空間石』ってなんだい?」


 もしかして、メニュー画面のアイテムボックスのような収納道具のことだろうか。

 まだ見たことはないが、この世界にも似たようなものが存在しているのは、例のギルド襲撃者が使っていた武器から判明していたけれど。

 が、まさかメルトが知っているとは……盲点だった。


「うん。私も持ってるんだけど……物凄く貴重だから、出来るだけ人前じゃ使っちゃいけないんだー。セイムはその辺り、分かっていたんだよね? だから宝箱、運んできたのよね?」

「そうだね、たぶん貴重な力だと思ったから黙っていたんだ。メルトも持っているんだね?」

「そうよー? だって、そうじゃなきゃあの大森林から抜け出せる訳がないじゃない? これ、本当は死んだおばあちゃんが、実験の道具とかしまってた魔導具なんだ。だけど中身を私の物と入れ替えて持ち出したの」


 そう言うと、メルトは腰のベルトに取り付けていた、何やら複雑な模様が彫刻されたキーホルダーのような飾りを取り外して見せてくれた。

 ……小さいな。ジッポライター程度の大きさしかないけれど。


「メルト、これってどれくらい物が入るんだい?」

「んーとー……」


 考え込んでいたメルトは、そのまま部屋の扉の前に移動する。


「この扉からー……大体この辺り! 部屋のこの辺りまでの収納スペースねー」

「うっそ……そんなに入るんだ……そりゃ凄い」


 そう言って示したのは、二つ並んだベッドを通り過ぎ、窓の前に置かれたチェストまでの距離。

 部屋の八割程のスペースが、この収納魔導具内に広がっていると言うのだ。


「この空間石、高純度みたいだからね。お祖母ちゃん、昔はすごい研究者だったんだって。だから、こういう道具とか持っていたんじゃないかなぁ」

「へぇ、研究者だったんだ。だからたくさん本とかあったのかな」

「うん、そうよ。あー……でも本は持ってきていないの。全部覚えてるから、必要ないかなって。服とか食料とか、生活用品とか売れそうな魔物の部位ばっかり詰め込んでいたの。それももう殆ど売っちゃったんだけど」

「なるほど……ありがとう、貴重な話を教えてくれて。お互い、これは秘密にしよう。たぶん……利用方法はいくらでも出てくる力だ」

「そうねー? でも取り出せない場所もあると思うよ? 空間石を阻害するのは簡単だからね。さっきの美術館でも使えなかったと思うよ、たぶん。厳密にはしまうことだけなら出来るけど、取り出せないって感じかしら?」


 ほう……結構ルールがあるのか。

 確かに、もし自由に取り出せたなら、武器を持ち込んで暗殺……なんてことも出来るだろうし。


「空間石は『世界三大希少石』の一つだけど、その中だと一番出土数が多いからね。対策もされているんだー。例えば、しまえるとしても、それを簡単に探知されちゃうし。盗難防止かしら」

「ふむふむ……しまえる物に決まりはあるのかい?」

「生き物はしまえない……というか、死んじゃうかも。命というよりも『生きた存在』っていうのがダメなんだと思う。でも魔力が宿った魔物の部位は収納出来るから……うーん……どうしてかしら……たぶん魔力だけじゃなくて命の存在……命の概念みたいなものを拒絶……? 私の知っている本でも解明されてなかったよ」

「ああ、なるほど……なんとなく分かった」


 ふむ……命あるものを拒絶するのなら、微生物も拒絶してしまうから、何も収納出来ないはず。

 だったら、生きている存在にだけ宿る魔力、その要素のナニかを拒絶していると。

 もしかしたら、魔力はある程度知能や知性、身体の大きさが無いと宿らないのかもしれないな。

 もし病原菌まで魔力を持っていたら、なんかとんでもないウィルスとかに突然変異しそうだし。


「でも物凄いお金ね……もう働かなくても生きていける?」

「それだとダメ人間になるよね。ちゃんと働くよ。いろんな場所、行ってみたいだろ?」

「もちろん! そうねー、海にも行ってみたいし……砂漠も見てみたいし……浮遊大陸も行ってみたいし……天空樹にも行ってみたいし……ハムステルダムにも行きたいし……どうしよう、やりたいことも行きたい場所もたくさんありすぎるわ!」


 なんか凄い心惹かれるワードがチラホラあった気がするんですが!?

 浮遊大陸? 天空樹? それにハムステルダム……実在するのか。


「そういう場所を旅する時、もしも自分達の力では解決できない、大きな問題にぶつかった時。このお金はそういう時の為に取っておこうと思うんだ」

「なるほど、奥の手ね! 私知ってるわ、物語で読んだことがあるもの『おら! この金で大人しくしろってんだ! 文句言うんじゃねぇ!』って言って、無理難題を強引に押し通すのよ!」

「……そんなことしません」


 なんだその物語は……メルトはどうかそんな子に育たないでください、お願いします。

 まさかその本の内容も暗記してるんじゃないですよね?

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