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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ【書籍化決定】  作者: 藍敦
第一章 始まりの悪意と無知との遭遇
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第五話

(´・ω・`)ゼノブレイドクロスリマスターがもうすぐ発売ですよ!

 たぶん大丈夫。シレントよりは全然弱くても、少なくとも城の兵士よりは確実に強いから。

 試験を受けるべくギルドの裏にある訓練場に向かうと、まばらに人が稽古をしていた。


「では、これから試験を行います。そこにある木剣をお使いください」

「分かりました。で、試験を担当するのは……」

「私です。では攻撃しますので、五分間耐えるか、私にクリーンヒットを与えたら合格です。ここから逃げたら即失格ですので」


 え? この優しそうなお姉さん試験官なの? なんかいつの間にかギャラリー増えてるし……。


「運が悪いなあの若ぇの……ドSのあの姉ちゃんが相手か」

「俺、少し見ていたが、何も知らない外部の人間を上手いこと誘導してたぞ。あれだろ、前も若い男を散々なぶって嬉しそうにしていたし、アイツの性癖なんだろ」

「ひぃ、ゾっとするねぇ……大人しく地道に簡単な依頼を斡旋すりゃいいだろうに」

「そもそもなんで窓口担当してんだ……あいつ元総合ギルド本部勤務の――」


 ……なんか聞こえて来たぞ。ちょっと俺もう人間不信になりそうなんですが。

 いや、でも……悪堕ちするような内容ではないような? 歪んだ性癖お姉さんってだけだから……?

 その瞬間、思考が他を向いていた隙にお姉さんがこちらに駆け寄り、そのまま腰だめに構えていた木剣を猛烈に振り抜いて来た。

 それを避けようとすると、思いのほか余裕をもって回避することが出来、さらにそのままこちらも踏み込み、背後に回り込むように動く。


「じゃあ俺も軽く……」


 てい。軽く叩く感じで、腰のあたりにペシンと当てると、お姉さんがそのまま腰を抑えてうずくまってしまった。


「イッター……うそー一発貰っちゃったんだけど……なによー……可愛い顔してたから泣かせようとしてたのに……」

「……なんかめっちゃ酷いこと言ってません? これで俺、合格なんですよね?」

「何言ってるの? 五分間耐えたらよ! まぐれで軽く当てたからって合格じゃないわ!」


 あらそうですか。んじゃあ……全力でシュバってみますね。そして木剣でつついてやる。

 回り込む、突く、回り込む、突く。回り込む、ツンツン。回り込む、膝カックン。


「ちょ……やめて、やめて!」

「あと三分くらい続きまーす!」


 三分後。そこには着衣を乱し、地面に倒れ込んで荒い息をしているお姉さんが。

 青少年には見せられない姿じゃないですか。だがガン見。ぱっと見完全に事後なんだが。

 それにしても……そうか、ただネトゲのキャラの力やアイテムをそのまま貰っただけじゃないんだな。恐らく、このキャラがゲームで体験してきたことも知識と経験として俺に与えられるらしい。

 こう、戦い方とか、相手の呼吸の見かたとか、そういうのも自然と分かってしまう。

 じゃあ……アイテム作成の為に作った生産職のサブキャラになれば、その知識も俺のものになるのだろうか? 先日ちょこっと容姿だけ確認してすぐ変えちゃったけど。


「わ……分かったわ……合格、合格よセイムさん。護衛任務にねじ込んであげる……」

「あ、ありがとうございまーす」


 意気揚々と訓練場を後にすると、増えていたギャラリーから拍手の渦が。


「あのドS女をよく倒したな兄ちゃん! 良いもん見られたぜ!」

「いやー珍しい物見られたわー」

「へへ……良い声で鳴くじゃねぇか……」

「いや……勝てるものなのか……だって……辞退したとはいえ十三――」


 あ、結構恨み買ってたんですね貴女……。

 その後、護衛依頼を受けることが出来ると連絡を受けた俺は、依頼開始の三日後まで、どこか宿を取ることにした。ただ問題はお金がないという。きっとここは簡単な依頼でお金を稼ぐのが定石なのだとは思うが……まだちょっと恐いのでやめときますね。


「すみません受付のお姉さん。この近くに質屋……物品の買い取りをしてくれるお店ってありますか?」

「……あるわよ。というか依頼主の商人の店でしてるわよ。建物出て左いってすぐだから行けば分かるわ」

「あの、負けたからって露骨に態度悪くなってるのは酷くないですか」

「……折角可愛く鳴いてくれると思ったのに、恥をかかされたのよ、仕方ないでしょ」


 いや仕方なくないが。この人絶対あれだ、俺みたいなヤツを叩きのめした悦に入るヤベェヤツだ。この世界の女性はみんなこうだったら嫌だなぁ……。

 正式にギルドに加入した証を受け取り、早速商店へと向かうことに。

 何か売れそうなアイテムはあるだろうか……アイテムを収納するボックスってキャラ固有のボックスの他に、全キャラ共有の倉庫もあるんですよね。で、俺サブキャラ二〇体近くいるから、その分共有の収納スペースが増えてヤバイことになってるんですよ。

 まぁ生産職の為の素材が大半なんだけど。


「そうか……もうゲームじゃないんだし、素材そのままでも食べられるのか」


 取り出した干し肉を齧りながら人混みを行くと、目当ての店が見えてきた。

 とりあえず売れそうな物で、沢山持っている物は……やっぱり素材系か?

 グレードの低い宝石とかどうだろうか?


【小ぶりなルビーの原石】

【小ぶりなため価値は低いがルビーの原石】


【小ぶりなサファイアの原石】

【小ぶりなため価値は低いがサファイアの原石】


【小ぶりなダイヤの原石】

【小ぶりだが価値の高い金剛石の原石】


 小ぶり? これが? 出てきたのはどれもこれも五〇〇円玉より倍近く大きいくらいの直径なんだが?

 ……こりゃ大きい原石とか間違っても取り出せないな、ヘタすりゃ奪い合いで殺し合いでも起きそう。

 とりあえず一つずつポケットにしまい、商店に買い取ってもらえないか聞いてみることに。

 店は繁盛している様子で、店内にも客がそれなりにおり、更には今度の依頼の為だろうか、店内の品を箱詰めして運び出したりもしていた。


「すみませーん、ここって買い取りとかしてますかー?」

「はいはい、なんでございましょう? 買い取りでしたら物品によりますが?」

「一応、宝石なんですけど」

「ほう、宝石ですとな! それでは……ふむ、随分お若いようですが、どうやって手に入れた物でしょうか? 疑う訳ではありませんが、盗品などを扱うと評判に関わりますので、どういった所縁の品なのかお聞きしても?」


 あ、そうか。いやそりゃそうだよな。


「実は少し前に『夢丘の大森林』というダンジョンに行って来たのですが、恐らくそこで過去に亡くなった方の荷物でしょうか、川底に沈んでいるのを見つけまして。それより前はどこにあったのかは分からないんですけど、見た感じ原石なので、どこかのお店からの盗品とは思えないんですよね」

「ほう、あのダンジョンへ行ったのですか。ふむ……では、品が品ですからな、店頭で、という訳にもいきますまい」


 そう言うと、店員さんが俺を中へと案内してくれた。重要な商談でも行う為のような応接室に通されてしまい、ちょっと緊張してしまう。


「して、貴方の名前と身分を証明する物はありますか?」

「セイムと言います。冒険者ギルドの登録タグならあります」

「それで結構です。では、早速品を拝見させて頂きます」


 ポケットの中から三つの原石を取り出す。


「これです。どうです、かなり大きいと思って、一番大きなこのお店に来たんですけど」


 ハッタリは交渉の基本だって聞いた気がする。もしかしてこの世界だとこれ、本当にこれでも小さかったりして。

 が、どうやらそんなことはなかったようだ。


「な!? すみません、手に取ってみても!?」

「どうぞ、真偽の方も調べてみてください」

「むむむ……手に取って見た感じは本物に見えますな……鑑定師をお呼びしても?」

「はい、どうぞ」


 品が品なので、商店専属の宝石鑑定師がやって来て調べてくれた。

 その結果、紛れもなく本物だという診断が下され――


「この度は本当にありがとうございました、セイムさん。もし、また何かありましたら是非当店にお越しください」

「ははは……まさかこんな値段になるなんて思いませんでした」

「ふふ、実は近々長旅に出る予定でして、その際に資金を運ぶのですが、かさばるので何か良い商材に変えられないかと考えていた矢先でして。ですが、それを差し引いても素晴らしい品でした。本来なら、一流の加工職人に手渡し仕上げ、オークションにかけてその売り上げの一部を差し上げてしかるべき品だったのですが、何分時間がなくて……」

「あ、それならそちらの商店の護衛依頼、護衛担当の中には俺もいますよ」

「おお!? それは奇遇な! この度、我らの商会の拠点を……あまり大きな声では言えないのですが『レンディア』に移そうかと考えておりまして……もし、そちらも向こうで活動なさるのでしたら、是非一度お立ち寄りください」

「分かりました。では三日後、依頼の際は宜しくお願いしますね」


 いやぁ……この世界って紙幣がないんですね。ちょっと頑丈な樽型のトランクに、大量の金貨が詰まった状態で二つ渡されました。曰く『大金貨三〇〇枚』だそうです。正確にはもう少し入っているらしいけれども。

 ……これどれくらいの価値なんだ? 後で宿の支払いにでも一枚使ってみようかな。


「おっもいな……これ俺じゃなかったら持ち上げられないんじゃないかね? さっきも荷車に乗せて持ってこられたし」


 とりあえずメニュー画面に収納しておく。お、しっかりお金として収納されたぞ、これも。

 取り出す時は一枚づつ出せるのか、便利便利。


「さーてと……宿に行ったらさらに細かい検証しないとだな」






「ふぅむ……結構手間だけど、便利な力だな……」


 宿の一室を三日分借りて検証中。サブキャラ達の覚えている技能を実際に思い出したり実行すると、俺という共通の意識にしっかりと刷り込まれるようだ。

 つまり、裁縫が得意なキャラで一度適当に装備品や服を作成しようとすると、別なキャラに変えても問題なく実行可能だ、という訳だ。

 最低一回はやらないとダメだっていうのが不便だが……セイムでなんでも出来るようになるのは非常に便利だ。

 そして俺は、とりあえず今実行可能な『裁縫Lv1』『料理Lv1』『細工Lv1』の基礎スキルだけをしっかりとセイムに引き継がせるのだった。

 細かいレシピやらなにやらは……そのうちな、そのうち。料理は台所がないと実行出来ないし。

 それにどうやら、引き継いだ技能は最小限の物でしかないようだった。

 例えば『裁縫レベル30』を実行した後に他のキャラで実行すると『レベル1』になっていたり。まぁ劣化というか、基本を習得出来るだけ、というか。


「とりあえず知識と技術は身に着いたから、後は実行するだけだな」


 いやぁ、あっという間に俺、万能青年になっちゃいましたよ。

 お裁縫から料理からちょっとした道具の修理やアクセサリー作りまで出来ちゃうぞ。

 サバイバル知識とかゲームのスキルであればよかったのになぁ……。

 後、やっぱり専用のキャラに比べると完成する物のクオリティも段違いだ。


「楽しくなってきたなこりゃ……アイツらは今頃どうしてんのかな? もしかしてシレント追いかけて一緒に国境に行ってたりして」


 ま、どうでもいいか。けど俺はどうするかねー、レンディアに保護してもらうっていうのもまだ決めるには早いし、旅でもして評判を聞いてからにするかなー。


 そうして俺は、依頼が始まる三日後までこの城下町で昨今の情勢や、王家についての評判、その他気になることを聞いて回るのだった。

 え? よくみんな素直に話してくれたって? ……へへ、金の力は偉大なんですよ。

 大金貨って大体日本円にして五万円くらいの価値らしいですよ、俺の見たところ。

 じゃあ今の俺って超大金持ちなんじゃね?






 三日後。宿を引き払い、ギルドへと向かいキャラバン隊の護衛として就く。

 どうやら護衛は俺を含めて六人、いかにもベテラン風な戦士という風貌の三人と、少し若い青年二人という構成と、俺だ。

 三日間色々聞いてみたけど、やっぱりギルドに加入していると、ある程度自由にどこへでも行ける反面、どこかの街に移動した際は必ず移動したことを知らせる手続きはしなければならないのだとか。転出、転入届け? いや違うか。

 まぁあちこち旅してきた人間も多いので、ギルド加入者は当然各国の情勢にも詳しいようだった。


 まず、俺が今いるこの国について。

『ゴルダ王国』は、ここ『ダスターフィル大陸』の北端にある国で、主な資源は鉱山からとれる鉱石や宝石、そして岩塩だそうだ。大陸の端から海へも渡れるが、どこか大陸に辿り着けるわけではないらしい。まぁこの世界が丸い星なら、いつかはどこかに辿り着くと思うのだが、そんな超長距離の航海可能な船はまだないのだろう。

 で、ぶっちゃけるとこの国って『貧しくて、一発逆転を狙う為にダンジョン攻略に力を入れている』らしい。

 元々はあの大森林の恵みを享受していたそうだが、ダンジョンが段々と高難易度化して、あまり稼げなくなっていたのだとか。

 さらに言うと『純人間至上主義』というヤツらしく、他種族に対して排他的な面もあり、人口も減少の一途を辿り、なおかつ他国からの評判もあまりよろしくないのだとか。

 曰く、昔の国王が、この国の山の奥深くに住む『獣人』というヤツに騙されて酷い目に遭ってから、決して相容れないようになったという伝説があるんだとか。

 それで、現在も人間以外の種族、取り分け獣人への当たりが強いんだとさ。

 じゃあ……俺が山の中で遭遇した女の子は……やっぱり獣人か。


「しっかり見ていなかったけど……耳と尻尾があるだけでただの可愛い子にしか見えなかったのになぁ」


 で、俺が今から護衛で向かうことになる『レンディア』について。

 こちらは宗教国家らしいが、戒律が厳しいという訳でもなく、国民に信仰を強制しているわけでもない、かなりおおらかで、そして他の種族とも平和に暮らしているそうな。

 あれ? あっちの方良くね? 俺そっち永住しそう。

 が、土地はそこまで豊かではなく、さらに他大陸からの干渉も多く、さらにさらに宗教の違いによるいざこざもあるらしく、段々と不穏な空気になってきているのだとか。

 あと、移住者が多くて土地が少なくなってきているらしい。なので、ダンジョンを攻略して土地を増やそうとしているんだとか。

 ダンジョンって攻略してダンジョンコアを手に入れた者に権利が与えられるらしい。じゃああれか、俺はあの夢丘の大森林の奥にある館跡地の権利を持っているのか。

 何に使えと申す。


「さーてと、んじゃ今日から暫く宜しくお願いしますね」

「ああ、宜しくなセイム。お前のギルドの試験、見させてもらったぜ? 戦闘にはしっかり出て貰うからな」

「へへ、先輩達はともかく俺らこういう護衛任務は初めてでよ、魔物の警戒はするが、守るのに手いっぱいなんだ」

「あっしらは護衛に回るんで、遊撃は任せますぜ」

「……すまんな。こいつらはまだ遊撃に出せる程慣れていない。悪いがお前一人が遊撃、残りでキャラバンの守りに徹するが、問題ないか?」

「俺もその方が助かりますよ。一人で戦う方が気楽ですし」


 作戦としては、俺が発見された敵を即時倒しに向かう、と。ギルドの一件以来、俺は身軽で素早い剣士だと思われているようだった。

 ちなみに武器はあんまり立派な剣だと悪目立ちしそうなので、倉庫キャラの装備から適当なの奪ってきました。

 なにはともあれ、ここから俺の旅が始まるのだ、いやぁ、新しい人生の門出だ、ちょっとテンション上がって来ちゃうなこれ。

(´・ω・`)こいついつもゼノブレイドシリーズの宣伝してんな?

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