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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第四十八話

 ほどなくして、待機していた部屋にノックの音が響いた。


『失礼する』


 扉の外からかけられた声は、意外にも若い女性のものだった。

 すぐさまソファから立ち上がり、出迎えの準備をする。

 扉が開かれると、シュリスさんとはまた違った意匠の全身鎧を身に纏った女性が、背後にシュリスさんを伴いながらやって来た。


「お前が件の魔物を討伐した冒険者だな?」

「はい。冒険者ギルドに所属しています、セイムと申します」

「セイムか。こちらも名乗らせてもらう。私は神公国騎士団所属、団長の『クレス・ヴェール』と言う」


 あれ? ヴェールって……。

 見れば、騎士団長もシュリスさんと同様、美しい金髪、瞳の色も同じく綺麗な青色だ。

 顔立ちもよく似ているし、もしかして……。


「もしや、シュリスさんのご家族の方なのでしょうか?」

「そうだが? なんだ、姉上は説明していなかったのか」

「いやぁ、どんな反応するかと思ってね。そう、クレスは私の自慢の妹だよ。私と違い国に忠誠を誓い、立派に騎士団を率いている団長さんさ」

「おお……凄いですね、姉妹揃って」


 武門の名家……という感じなのだろうか、ヴェール家というのは。


「姉上、本題に入らせて欲しい」

「そうだね、私は黙っておくよ」


 対面するソファにかける二人を確認し、こちらも座りなおす。


「では、事件の詳細、そして君が知る情報を全て一から説明して欲しい」

「はい。自分の憶測も混じるのですが、説明させて頂きます」


 俺は、シュリスさんに話したことと同じ内容を彼女にも語って聞かせた。

 襲撃者の出身国。

 かつて共にダンジョン深部に挑んだこと。

 言動や容姿からしてこの国とは関係ない場所の人間である可能性。

 異世界から召喚された存在である可能性。

 ゴルダ国における重要なポジションにいる可能性。

 そして、今回魔物に変化した事実を含めて全て語り終える。


「……異世界からの召喚は正解だろうな。今より前の時代、ゴルダと我が国の戦争が激化していた時代、そういった戦士を召喚したという記述が『我が国にも』ある。召喚の術式そのものは遥か太古の時代から伝わっている。無論、権力者の間にだけ、だがな」

「あの、そういう情報を一冒険者でしかない自分に語って良いのでしょうか?」

「姉上がお前を信用しているのは見ていたら分かる。お前も無暗に情報を口外しようとしないだろう? 無論、その時はこちらで処断するつもりだが」

「肝に銘じておきます。では、信じて頂けるのですね?」

「無論だ。現在、魔物は城から離れた森の中にある研究院で解析中だ。既に魔物の身体に埋め込まれていた魔導具が、他国から渡って来た品だということは判明している。以前、別件でも似たような物が運び込まれてきている。うまくすれば魔物化した人間を話が聞ける状態まで戻せるかもしれない」


 ムラキが元に戻る? それは……いい知らせだ。

 あの国で何が行われているのか、それを聞き出せるかもしれない。


「その際、情報を聞き出すのにお前が同席した方が都合が良いかもしれないな。協力を頼めるか?」

「……そうですね、あまり良好な関係ではありませんが、俺のことを覚えている可能性は高いでしょうね」

「そうか、では協力して貰えるものとして考え――」


 新たなる手札を切る。


「いえ、もっと適任がいます。これはまだシュリスさんにも話していない情報です。ですが今日、俺は事件の説明以外にもう一つ、重要なお話をするためにここに来たのです。しかし内容が内容だけに、正式に王家に関わりのある人間以外には話せないと考え、騎士団長であるクレス様を紹介して頂きました」

「ふむ……そうなのか、姉上」

「そうなるね。彼は慎重だよ。私を手放しに信用せず、確実に女王の耳に届くであろう相手を私に紹介して欲しいと頼み込んできたんだ」

「……女王陛下のお耳に入れる話となると、こちらも厳しく精査する必要がある」

「では、シュリスさんは一度退席して頂けませんか? 正直、一人でも情報を知る人間を少なくしたい内容なのですが」


 すると、クレスさんの瞳がスッと細くなる。


「先に言っておくが、私は姉上より強いぞ。もし、何か良からぬ企みを企てているのなら覚悟すると良い」

「いえ、断じて何か事を起こし易くする為にシュリスさんに退席願うという訳ではありません。もし……俺の出す情報が真実と認められ、女王陛下の耳に届いたのなら……少なくともシュリスさんにもお話するつもりです。いえ、恐らく一定の地位にいる人間全ての耳に入るかと」

「クレス、そう身構えるな。それと私がお前より弱いというのは聞き捨てならんぞ? 最後に手合わせした時は私が勝ったはずだ」

「累計で見れば私の勝ちです」

「子供の頃の駆けっこから早食いまで含めるというのかね?」

「な……!」


 ナカガイインダナー。

 結構お転婆な姉妹だったんですな?


「退席するのは構わないよ。クレス、私個人の意見だが、彼、セイムさんの話は聞いた方が良いと思う。この人は……確かに得体が知れない。だが誠実な人間だ。少なくとも、私がこれまで出会って来た男の中では、一番の人間だよ」

「……そこまで言いますか。分かった。セイムとやら、お前の話を聞こう。姉上は団長室でお待ちください」


 そうして、俺の話が……最強の手札である『焦土の渓谷のダンジョンコアを所持している』という情報を開示する準備が完了したのだった。




「それで、お前が言っていた『もっと適任がいる』について聞かせてもらえると考えて良いのだろう?」

「ええ。ですが、それは今から話す内容の後にして戴けませんか? 今からお話しするのは、そのような内容よりも遥かに重大なものですので」

「国家を揺るがしかねない事件に関する話よりも、か。良いだろう、言ってみろ」

「では、単刀直入に言います」


 俺は、ズボンのポケットから取り出す風を装いながら、アイテムボックスから焦土の渓谷のダンジョンコアである『ディードリヒの心臓コア』を取り出して見せた。

 深紅に黒を溶かし込んだ、まるで赤い水面を黒い靄が渦巻くような、そんな禍々しい宝玉。


「私、冒険者セイムは、焦土の渓谷を攻略し、ダンジョンマスターを撃破しました。こちらがそのダンジョンコアとなります」


 そう言い切った。

 しばしの沈黙。そして、クレスさんの表情がゆっくりと驚愕に染まる。


「それを真実と断じるのは難しい話だ。だが……それは……確かにダンジョンコアによく似ている。今なら冗談だと、悪ふざけとして聞かなかったことも出来る。我々には、それが本物であるか否かを判別する確かな方法がある。それでも、それを本物のダンジョンコアだと言い張るのか、セイム」

「判別可能なら調べてください。そして本物だと判明した際に持ち逃げされないよう、全ての作業に同席させて頂きます」

「……良いだろう。安心しろ、判別はすぐに済む。それを持ったままここで待て」


 緊張した面持ちで、声を固くしながら語ったクレスさんが、早歩きで退室した。

 ……そうだ、国に強引に持ち逃げされる危険性もあるんだよな。

 もしもの時は……国と敵対することも考えないといけないのか。

 俺は、アイテムボックスの中から指輪を三つ取り出し、指にはめる。


【アンジエラスの指環】

 装備者の最大HPを倍加し自動回復を付与する(2%/1s)

 被ダメージを五秒間保留し自動回復で回復しきった場合ダメージ無効化


【パラスの娘達】

 自身のHPが最大時全ステータス50%上昇

 攻撃対象の全能力を20%低下

 自身の攻撃に攻撃力分の値を上乗せする

 パーティ内に自分以外の『パラスの娘達』の装備者がいる場合効果半減


【毒娼婦の指輪】

 攻撃対象のあらゆるバフを奪取し自分に付与する

 ただし攻撃ごとに自身の最大HPの0.5%を消費する

 バフを奪った場合は最大HPの5%回復



 セイムがガチで戦う時に装備していたアクセサリーを三つ、装備しておく。

 かなりの性能だが、逆に状態異常には弱い。本気で攻撃だけを考える時用の装備だ。

 これを念のため装備しておく。もしも戦いになった時に……確実に勝つために。

 この三つ込みならシレントにだって迫る強さになれるのだから。

 盗賊をサブやメインジョブにする最大のメリットが『アクセサリースロット+2』なのだ。


「……相場が上位一〇位に入るくらい高ったっけなぁ……」


 アクセサリー枠が三つもあるから、何を付けるか迷ったんだよなぁ当時。

 盗賊のステータスは低いが、装備さえそろえばサブ盗賊はあらゆる場面に対応できるのだ。

 でも結局、アタッカーに求められるのは『瞬間火力と断続火力』だからね。

 結局便利でどこでも戦えるけれど最上位の職構成には遠く及ばないのだ。

 でもこの指輪を三つ同時に装備してると、物凄い数のプレイヤーに装備覗かれたっけ。


「この国が横暴な真似をしないことを願うよ」




 それから十分もしないうちに、やや大きな足音をさせながらクレスさんが戻って来た。

 その背後に、新たな客人を伴いながら。


「ここだ。彼がダンジョンコア、それも天然のコアを持ち込んだと言い張っている冒険者だ」

「ほほう、中々大胆な嘘をついたものですね? しかもこんな王宮の奥深くまで来て。いったい誰の紹介です?」


 それは、何やら白衣を着た若い女性のようだった。

 不思議な髪色をしているが、それに加え彼女の頭頂部にはメルトに似た耳が生えていた。

 狐か……? いや、それとも犬や狼だろうか? すこし毛並みが違うようだ。

 それにあの髪の色……動く度に光の当たり方が変わって色が変化している。

 亜麻色に見えたと思ったら、黄緑色にも見えるし、金色にも見える……不思議だ。


「連れてきたのは私の姉だ。彼曰く、天然のダンジョンコア、焦土の渓谷の物だと」

「へぇ、あそこが今閉鎖、それもダンジョン休眠に入っていることを聞いたのかな?」

「ダンジョン休眠……ですか?」


 はて、初めて聞く言葉だ。


「で、君がわざわざ私を呼びつけてまで鑑定してもらいたい偽物のコアはどこだい?」

「ああ。セイム、最後のチャンスだ。正直に本当のことを言ってもらいたい。お前は有益な情報をもたらし、姉上の覚えも良い。出来れば罪人として捕えたくはない」

「まぁ、正直すんなりと信じてもらえるとは思っていなかったんですけどね、俺も。どうぞ、こちらが焦土の渓谷のダンジョンコアになります。確認してください」


 俺は、この不思議な白衣の女性にダンジョンコアを手渡す。


「ほう……よく出来ている。流動する魔力光に……ダンジョンマスターの魂の残滓が蠢く様も再現されている。文献にあるダンジョンコアの特徴と一致するね。どうやって作ったのか非常に興味深い。が、外見は似せられても解析すれば――」


 すると、白衣の女性はポケットからなにやらルーペに似た道具を取り出し、それをダンジョンコアに密着させ調べ始めた。


「……セイムさんと言ったね。君、ランクは?」

「冒険者ランクですか?」

「そう、冒険者ランクはいくつなのかな?」

「紅玉です」

「そうか……ダンジョンマスターはどんなヤツだった?」

「そうですね、名前は『ディードリヒ』罠を仕掛けるのが得意なヤツでしたね。ただ、根本的にダンジョンマスターって種族は悪魔、邪な存在なのは共通しているっぽいです。悪魔特効の術や技を扱える人間がいれば攻略は楽になるかと。俺の場合もそうでした」


 質問に答え、同時に知っている情報を話す。


「先程から何を言っている。結果はどうなんだ?」

「うん、そうだね。この人は女王にこのダンジョンコアの話を伝えたかったんだよね」

「そうだ。この緊急時に偽の情報で女王陛下を混乱させたくはない」

「ん、そっか。よし分かったクレス」


 すると、女性がルーペ状の道具をしまい、コアをこちらに返却してくれた。


「クレス、今すぐ女王陛下に報告を。『国境のダンジョンを踏破した人間がダンジョンコアを持って話をしに来た』と。それ、本物だ」

「んな!? そんな馬鹿な!!! あそこはもう何十年も最深部にすら到達できなかった場所だ! 構造そのものが人を最深部に寄り付かせない、生きた迷路になっているのだぞ!?」

「本物だよ、間違いなく。鑑定機が一瞬で魔力障害で狂ってしまった。間違いなく膨大な力が眠っている。それに、確かにダンジョンマスターの魂を鑑定出来た。そのコアにはダンジョンマスターの残滓も封じ込まれている。人工でどうにか出来る物じゃない。紛れもない、それは天然のダンジョンコアだよ」


 冷静に、ただ淡々と鑑定結果を告げる女性。

 対するクレスさんは、信じられないと、何かの間違いだと言う風にこちらの顔と女性の顔を見比べていた。

 やがて――


「大至急動け、クレス・ヴェール団長! 研究院院長の『コクリ・マーヤ』が命じる! これは国の今後を左右する案件だぞ!」

「っ! 了解した!」


 一喝、クレスさんに鋭く指示を出し、ようやく事態が動き出したのだった。


「ふぅ。やっぱり彼女は頭が固い、軍人はみんなそういうものなのかな。セイムさんだったよね? これ、天然のコアなのは私が保証するよ。で、本当に焦土の渓谷の、物なのかい?」

「はい。あのダンジョンを踏破し、自分がダンジョンマスターを撃破しました」

「……紅玉ランク、一応上位の冒険者ではあるようだけど、私は君を知らないよ」

「有名じゃないですからね、まだ新人ですし」

「ふむ。それで、今回の事件に関わったり、シュリスのお眼鏡に適ったり……凄いじゃないか。本当に国境のダンジョンコアなら、君は女王相手にどんな要求をするのか、気になるところだね」

「そうですね。金銭には微塵も興味がないので、それ以外ですかね」

「この後、きっと君は女王と会うことになる。今から心の準備をするといいよ」


 そうして、未だ名前の分からない白衣の女性もまた、部屋を後にした。

 いや、コクリさんだったかな? ……コックリさんとは関係ないよね?

 なにはともあれ……さぁ、一国の主相手に俺はどこまで交渉できるのかね――




 暫く応接室で待っていると、再びノックの音が静かに部屋に響く。

 ついに来たかと、緊張に身体が固くなるのを感じつつも、なんとか上ずらないように――


「はい」

『よし、ちゃんと部屋にいるようだね』


 返って来た声は、コクリと名乗る女性のものだった。

 扉が開かれると、そこにはクレスさんの姿はなく、コクリさんただ一人。

 何か伝え忘れだろうかと訊ねると――


「いやね、クレスと私が揃って謁見するとなると勘繰られると思ってね。途中で私だけ戻らせてもらったんだ。……ちょっと気になることもあるしさ」

「気になること……ですか?」

「そ。まぁ私もここで一緒に待つよ。君を監視する意味も込めてね」

「はは……了解です」


 ただ待つよりも緊張がほぐれるかと思ったけれど……どうやらそうもいかない、か――

(´・ω・`)これにて第三章は終了です




(´・ω・`)ストックが予約投稿時点ではここで切れているので、もしかしたら更新が遅れるかもしれません。


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