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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第四十七話

「よく来てくれたね、セイムさん。予定よりも人が多いようだけど?」

「おはようございますシュリスさん。実は、この三人が当日の襲撃に遭った倉庫の警備担当、あの魔物の被害者なんです。襲撃犯の様子や魔物が現れた経緯等、詳しい状況を報告するべきだと判断したんです」

「なんだって……無事だったんだね。大変だったろう三人共。今、応接室に案内するよ」


 クランホームに着くと、すぐにシュリスさんが出迎えてくれた。

 恐らくすぐにでも登城するつもりだったのだろうが、今はこの三人の報告を聞いてもらいたい。


「やべぇ……本物のシュリス・ヴェール様だ……すっげぇ」

「う……美しいな……噂以上だ」

「わー……冒険者の頂点に立つ人に労ってもらっちゃった……」


 シュリスさんが先に上階へ消えると、三人が小声でそんなことを話しだした。

 ええ……そこまでの人なの……? 冒険者の頂点なの……?

 一般知識がなさすぎるぞ、俺。


「何してるの? 早く行かないと」

「そうだね。ほら、三人共行くよ」

「あ、はい!」




「それで、君達は魔物がどのようにして現れたのか、それを目撃したのかな?」

「それは……あの、信じてもらえないかもしれませんが……」

「アイツ! 男が急に魔物になったんだ!」

「何か、商会の倉庫にある品を強奪し、その一つが突然光り出して……」


 早速本題に入るシュリスさんは、一番重要であろう、魔物の出現の状況を聞き出し始めた。

 三人の話を総合すると、俺が競り落とした古い魔導具、その一つを手にした襲撃犯、ムラキが、突然苦しみだし、魔物に変貌したと言うのだ。

 じゃあ……あの魔導具が原因なのか……?


「やはり……か。セイムさん、君の言う通り背後に『何かの勢力』が関わっていると見て間違いなさそうだよ。それと……エルクード教商会、彼らは今回の競売に参加していないんだ。けれど、君達三人は依頼を受けた。どこで依頼を受けたのか、正直に言ってもらえるかな?」


 それは一体どういう意味なのか。どこで依頼を受けたのか……?

 ギルドの本部ではないのだろうか?

 すると三人が俯き、口を噤むのが見てわかった。


「……君達は晶石ランクに昇格して間もないはずだね? 依頼人からギルドを介さずに直接依頼を受けられるようになるのは翠玉ランクからだ。君達はいわば非合法の依頼を受けたんだ、実力に見合わない護衛任務をね」

「……はい」

「そう、です……」

「そ、そうだったのか」


 なるほど、話が見えてきた。

 護衛任務と同じなのだ、警備の任務というのは。

 本来なら『対人の可能性も視野に入る討伐依頼』を受注可能なのは翠玉ランクからなのだ。


「ねぇねぇ、私聞いたんだけど、今年はなんだか依頼料金をケチって新人の冒険者を雇うところが多かったらしいよ? 旧館で休憩中にそういうお話を聞いたのだけど」

「ふむ……メルト君の言う通り、そういう報告が上がっているね。けれどこれはそれとはちょっと違う。恐らく新人、護衛対象の知識が乏しそうな新人冒険者を利用しようとしたんだろうね。おおかた、君達も薄々おかしいと思いながらも、何か言葉巧みに騙されて依頼を受けたのだろう?」

「ええと……『護衛と言っても商会が既に正式な警備を雇っているから、実質警備依頼ではなく警備の手伝い、雑務のようなものだ』と……」

「いや、だとしても直接依頼を受けるのは規約違反だったのは間違いない……罰は受けます」

「お、俺そんなことも知らなかったのか……ダメだな俺……」


 なるほど。どうやらこのエルクード教商会を騙っていた人間も、今回の襲撃に一枚噛んでいそうだな。


「君達への罰則は近々沙汰が下ると思うよ。ただ、それほど重くならないと思う。メルト君の言う通り、今年は少々不正な警備依頼も多く、騙されやすい、騙しやすい空気が漂っていた。秘密裏に依頼を出していた商会も多かったと聞くよ。それに君達は今回の主犯と思しき人間に騙されたんだ。精々一月の奉仕活動か、依頼達成時の査定に数回マイナスがつくくらいで済むだろう」

「それはよかった。シュリスさん、彼らのことを宜しくお願いします」

「ふむ、ある程度口添えして欲しいんだね? 分かった、配慮するよ。セイムさんの知り合いのようだからね」

「ええ、この三人には将来、美味しいご飯を奢ってもらう約束をしているので」


 なんて笑いながら言ってみる。あまりにも三人がガチガチに緊張していて可哀そうなので……。


「さて……もっと詳しい証言を聞きたいのだけど、今日は時間がないんだ。副団長に引き継ぐから、三人とメルト君はここにもう少し残って取り調べを受けてほしい。安心してくれ、そんなに堅苦しいものではないよ。昼食もご馳走するからゆっくりしていってくれ」

「そうそう、ゆっくりしていってね」

「なんでメルトももてなす側なの」


 少しするとアリスさんがやってきて、引き続き四人から話を聞くことになった。

 というかアリスさんって副団長なのか。てっきりシュリスさんの秘書的な人だと思っていた。


「では行ってくるよ。アリス、くれぐれも四人のことを頼むよ。重要な証人だ」

「了解しました。いってらっしゃいませ、団長、セイムさん」





 クランホームを出発し、俺は普段向かうことのない、都市の南門への道をシュリスさん先導の元歩いていた。

 本来ならば馬車で向かうべきところではあるのだが、今は事情があって、物々しい出入りを南門で演じたくはないのだとか。


「俺、城に続く門は通ったことないんですよ」

「そうだろうね。こっちは貴族街を通り抜けないと行けないし、冒険者はあまり用事がない門だ。一応、人工ダンジョンに続く道もあるけれど、探索する人間も限られているからね」

「そうなんですか? そのうち行ってみたいと思っていたのですが」

「ふむ、興味があるんだね? 一応、翠玉ランク以上の冒険者は無条件で挑戦出来るよ、有料だけどね。それと傭兵ギルドの人間も無条件で参加可能だ。それ以外の人間となると、一定の強さがある人の紹介や推薦、もしくは攻略を生業としている人間の開く講習会に参加して認められたら……という具合かな」

「へぇ……人工ダンジョンって何か攻略するメリットがあるんですか?」


 実は、存在だけは商会長に聞いていたから知っていたが、それ以上の知識はまだ仕入れていないのだ。

 しかしそうか……誰でも簡単に挑めるものではないのか……。


「メリット……そうだね、対魔物の訓練として使われることも多いね。比較的安全に実戦経験を詰めるのはメリットだと言えるね。それに深層まで進めば、地脈に流れる魔力が具現化した財宝、それこそセイムさんが手に入れた宝石のような物が見つかることもある。無論、あんなに立派な物は絶対に見つからないけどね、所詮人工だよ。それで最後に『人工のダンジョンコア』が見つかるよ。欠片のような物だけど、土地を豊かにする力がある。地底深くにある力を抽出して、土地の表層に力を循環させるんだ。現状、人の手で土地を豊かにする方法がこれしかないんだよ。まぁ天然のダンジョンコアが手に入ればそれも一気に解決するんだけどね」

「なるほど……」


 一種の採掘施設……のような扱いっぽいな、人工ダンジョンって。

 恐らく、土地を豊かにする力が地中奥深くに存在していても、深すぎて効力を発揮しないのだろう。

 人工ダンジョンはそれを抽出する為の仕組み……といったところだろうか?


「俺より、俺の知人をダンジョンに挑ませたいですね。まだ戦闘は初心者ですが、中々の才能を秘めていると俺は感じているので」

「ほう、冒険者かい?」

「いえ、ただの一般人ですよ。必要なら冒険者登録を勧めますけど」


 これは、もしもの為の予防線だ。

 どうやらダンジョンは戦闘訓練に向いているようだし、俺本来の姿、シズマとして強くなるのに都合が良いかもしれない。

 ……最近、セイムとしての意識とシズマとしての意識が同一化してきているけれど、本当のところはどうなのか、それを知りたい。

 俺は、果たして俺のままなのだろうか。




「さて、この林道を抜ければ王宮だよ。この辺りは常に騎士が巡回しているから魔物の出没は稀でね、警戒はしなくて良い。ただ、野生動物くらいはいそうだけどね」


 南門を抜けると、他の街道より自然の多い、小道ほどではないが、やや狭い道が続いていた。

「へぇ……安全に採取依頼とか出来そうですね」

「まぁそうなんだけどね。でも神公国直轄の土地でもあるから、恐れ多くてそういう人間は少ないよ。禁じられている訳ではないけれど」

「なるほど……」


 鬱蒼とした森というよりは、人の手が入り、往来も多い道という印象だ。

 むしろ自然公園やハイキングコースと言った方がしっくりきそうだ。

 そうして、最近はあまり感じていなかった大自然の空気を胸いっぱいの吸い込みながら、王宮へ向けて二人で徒歩で進んで行く。


「……セイムさんは、恐らくこの大陸の人間ではないのだろうね。どうしてこの大陸に来たんだい?」


 ふと、唐突に前を進むシュリスさんが問いかけてきた。

 まぁ、これくらいの情報は開示しても良い、か。


「俺の意思で来たんじゃないんですよ。無理やり……って表現がしっくり来ますね」

「ふむ……深く追求するつもりはないから安心して欲しい。ただ、セイムさんほどの人間が目的もなくふらりと現れたのが不思議だったんだ。そうか……自分の意思ではないのだね」

「ですね。俺の意思なんて微塵も介在する余地なし、です」

「なら、元居た場所に戻るでもなく、ここに拠点が欲しいというのはどうしてだい?」

「単純に『もう戻れない』からですよ。それに、メルトにも平和に暮らせる場所を提供したいから、ですね。結構、彼女も大変な身の上なので。これ以上の詮索は無しでお願いします」

「了解。そうか、平穏を望むんだね、君たち二人は。信じるよ」


 もしかしたら、国の中枢に向かう前に、今一度俺という人間の人となりを知りたかったのかもしれないな――






「都市の裏手にここまで大きい城があるんですね……リンドブルム周辺からは城が見えない所為でなんだか突然現れたみたいで驚きますよ」

「ふふ、そうだろう? 一応、これは軍事的策略でもあるそうだよ。私達神公国は、いつだって戦争に備えていると言っても過言じゃないんだ」

「敵はゴルダだけじゃない、ということですか」

「そうだね。港に近い場所に国の中枢があるというのは、実は結構リスクが高いんだ。常に外大陸からの侵攻に目を光らせる必要があるからね。とはいえ、正直不穏な気配があるのはこの大陸だけ。情けない話、他大陸は極めて安定しているんだよ。『少なくとも国同士の関係』は」


 なんだか含みのある物言いではあるが、今は突っ込まないでおこう。

 あまり多くを知ろうとして、こちらも必要以上に情報を与えないようにしなければ。


「私は今日、国の騎士、その中でも女王に繋がる立場の人間にセイムさんを紹介する。ただそれは今回の件の報告の為なんだ。そこから先は、セイムさん自身がうまくやるしかない。少々気難しい……とまではいかないけれど、頑固な人だからね。健闘を祈るよ」

「ひー、プレッシャーですねぇ」


 実際、軽口を叩いているようでガチでビビっとります。

 国のお偉いさん相手に、どこまでこちらの思惑を通すことが出来るのだろうか……。


「歴代最年少で騎士団長に上り詰めた女傑だよ。かつて、王宮内で起きたとある事件を単独で解決し、女王陛下の覚えも良い。さらには私と同じく十三騎士に選ばれている人物さ」

「なんかわざとこっちのことビビらせてませんか!?」

「ははは、バレてしまったか。けど、実際警戒心の強い人間だよ。事件の説明だけなら問題ないけれど、君が言う『直接は関係ないが女王陛下の耳に届けたい話』というのは警戒される。上手くやるんだよ」

「……了解です」


 緊張しながらも、やがて林道を抜け、先に見えていた立派な王宮に到着する。

 当然ながら門番がしっかりと城門を封鎖、警備していたのだが、シュリスさんの姿を見るや否や、綺麗な敬礼をして素早く門を開けてくれた。

 本当に国にも認められた人間なんだよな……なんか最近よく一緒に行動する所為で感覚が麻痺していたけれど。


 そのまま城内に案内され、どこか待合室のような場所に通される。


「では私は騎士団長を呼んでくるよ。このままここで待っていておくれ」

「はい、何から何までありがとうございます」

「どういたしまして」


 最初の出会いでは、少々邪険に扱ってしまった上に、拒絶するような態度まで見せてしまったというのに、気が付けばお世話になりっぱなしだ。

 そのうち、こちらからも借りを返すために何かしてあげられると良いのだけど。


 そうして、案内されてくる騎士団長の人となりがどんなものなのか、緊張しながら一人その時を待つのであった。

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