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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第四十六話

 それから時刻は深夜を回り、メルトは美術館の計らいで旧館に宿泊することとなった。

 冒険者に対してここまで手厚い対応をしてくれたのは、俺が深海の瞳の出品者であることも無関係ではないのだろうな。


「じゃあメルト、おやすみ。俺は応接室に行ってくるよ」

「うん、無理言ってごめんね。三人が目を覚ましたらすぐに分かるようにここにいたいんだ」

「大丈夫、絶対目覚めるよ」


 そうして俺は美術館に数ある応接室の一つに向かう。

 商談やVIPと対応する関係上、そういう部屋は多いそうだが、今回はそこでシュリスさんが待っている。

 しっかりとシュリスさんも今回の事件に対応し、俺の話を聞いてくれることになったのだ。


「……ここで一気に踏み込めるか勝負だな」


 当初の予定よりも宝石の話題が大きくなり、上流階級の間でも噂されることだろう。

 なら今の俺は『とてつもない財宝を見つけたダンジョン探索者』という認識になっていてもおかしくない。

 つまり『ある程度の話は信じてもらえる』のだ。例えばそう――『ダンジョンマスターを撃破した』という話も。

 だがそれで終わるつもりはない。


「失礼します」


 応接室に入ると、深夜だというのに鎧を纏い、しっかりと臨戦態勢のシュリスさんが待ち受けていた。


「こんばんはセイムさん。いやはや……私が戻った後すぐに事件が起きたなんてね。もう少しここに残っておくべきだったよ」

「気にしないでください。じゃあ、もう事件の詳細は報告されているんですよね?」

「ああ、無論だ。君とメルト君の証言も含めてね。今、魔物は『魔導研究院』に運び込まれて調査されているよ。二人の証言が真実かどうかはすぐに確認が取れる」

「なるほど、では今から俺は今回の事件の黒幕、襲撃者の正体、それらに繋がるかもしれない重要な情報と憶測を話ますね?」


 先制パンチ。


「なんだって? 正直今回の事件、君達が思っているよりも根が深いものなんだ。安易に首を突っ込むのは流石におすすめしないよ」

「そうでしょうね。ではまず一つ。襲撃者と魔物と化したであろう人間と俺は顔見知りです」


 情報を開示する。もったいぶらない。必要な手札が全てこちらに揃っている以上、初っ端から圧倒して流れをこちらに引き込む。


「な……! 事と次第によっては君を拘束する必要が出てきたんだけど、良いのかな?」

「ええ。あの襲撃者達は、俺と一緒に焦土の渓谷の最奥まで進んだ人間です」

「……焦土の渓谷に君とメルト君が向かったのは聞いているよ。恐らく事実なんだろう。すぐに調べればわかることだからね」

「ではその時の焦土の渓谷がどういう状況だったのかご説明します」


 俺は、あの時焦土の渓谷の内部でゴルダ国の兵士達が人の出入りを監視、制限していた事実と、その目的を話した。

『特殊な立場の要人のような人間達が独断で深部に向かったので救助を募っていた』と。


「特殊な立場……その人間達が今回の襲撃者だって言うんだね?」

「ええ。そして彼らの容姿や言動、噂話やあの国での伝承、それらを総合的に見て……彼らは『異世界から召喚されてきた存在』だと判断しました」


 ここが、一つの賭け。果たして異世界の人間、召喚という事例がどこまで一般的なのか。

 だが、一度シレントで行動していた時、ギルドに襲撃を仕掛けてきた人間が『異世界の道具』という発言をしていた。

 故に、多少は知られている事象なのではないかと考えたのだ。

 なので多少の作り話を交えつつも、彼らが召喚された存在だとここで証言しておく。


「異世界……ありえない話と言い切れないね。ゴルダは『なにかと契約して超常の力を得た国』だからね。そうか召喚……そういう可能性も考えられるのか……」

「なにか、思い当たることでもあるんですね?」

「まぁ、ね。そうか、君は今回の事件の裏にゴルダ国が関わっていると考えているんだね」

「恐らくは。逃亡した他の襲撃者が見つかれば信憑性も出てくるのですが、レティさんはどうなりましたか? 追跡していたという話でしたが」

「残念ながら途中で見失ってしまっていたよ。恐らく、襲撃者には手厚いバックアップがついているんだろうね。逃亡を手助けした人間が必ずどこかにいると思う。美術館は貴族街の深部にあるんだ。そこで姿をくらませるとなると、背後に貴族がいるのは間違いない。そして君はゴルダの関与を疑っている。そうなると――国の貴族にゴルダとの内通者がいる、ということになるね」

「恐らくは。ただ、この話とは直接関係ないのですが、もう一つ同じくらい重要な話があるんです。出来れば、この国の立場ある人間に直接報告したいと考えているのですが、取り次いでもらうことは出来ないでしょうか?」

「ふむ、気になるね。それは私が聞いてはいけないことなのかな?」

「いけないことはないですが、それを生かすことが出来る立場なのか分かりません。ですから国の人間、出来れば女王陛下の耳まで届くかもしれない人に報告したいのです」


 ここだ。ここで一足飛びに決める。俺の立場、信用、地位、地盤を固めるためにも。

『ダンジョンコア』を所持し、国にとって無視できない、丁重に扱うべき人間なのだと理解してもらうために。

 十三騎士、国の重鎮並の権力くらい有していそうだが、正式に国に仕えている人間ではないと予想している。

 だからこそ、国に直接話を伝える手段を今ここで手に入れておきたいのだ。

 もう、あやふやな立場で、地に足を付けずに暮らすのはメルトの為にならないから。

 そうだ、俺はいつの間にか『メルトの歪な部分が本来の姿になればいいな』それを優先して動いていたんだ。

 きっと、俺が歪んでしまったから。様々な人格と経験を取り込み、少しだけ『本来の自分』を見失い始めているからこそ。

 だから誰かのせいで人生を歪められたメルトには、享受すべき幸福を経験してもらいたいんだ。


「国の人間……そうだね、私はもう、正式に国に仕えている立場ではなかったね。貴族の次期当主だとしても、私はそれを別な人間に譲るつもりでいる。そうだね、国に関わるような重要な情報なら、相応しい相談相手を紹介出来るよ」

「シュリスさん……きっと、俺では想像も出来ない経験をしてきのだと思います。ぶしつけな、もしかすれば失礼にあたるかもしれない提案、申し訳ありません」

「ふふ、本当に君は察しの良い男だね。分かった、明日私と共に登城しようか」

「本当ですか! ありがとうございます、シュリスさん」

「どのみち、今回の事件については君の口から直接国の騎士に報告してもらうつもりだったからね。明日、またクランホームに来て欲しい。今回は礼服、鎧は必要ないよ。あくまで一冒険者としての報告だからね」

「それは助かります。正直、自分でも落ち着かなくて」


 主に周囲の視線の所為で。

 その後、俺もメルトに倣い、旧館で一晩明かすことにしたのだった。




「セイム起きて、起きてってば」

「ん……おはよう、メルト」


 翌朝、旧館の一室で目覚めた俺は、メルトに導かれ、リッカさん達が休まされている部屋へ向かう。


「見て、三人共目を覚ましたのよ!」

「お、おはよう三人共。身体の調子はどうだい?」


 そこでは、どこか呆然とした様子の三人が、まるで確かめるように自分の身体を動かしていた。


「俺……生きてる……」

「私も……どこも怪我、してない……」

「信じられない……俺はあの時……死んだと思ったんだ」


 魔物の襲撃で致命傷を受けたであろう二人と、食べられる寸前だったであろうリッカさん。

 間違いなく死を覚悟していたはずだ。


「三人共、この後出来れば俺と同行して欲しい。魔物の襲撃の詳細、あの時なにがあったのか、俺の知り合いに説明してもらいたいんだ。たぶん、暫く説明の為に行動を制限されると思うけれど」

「え、ええと……分かりました。あの、私達ってどうして助かったんですか?」

「セイムが魔物を倒してくれたんだよ」


 嬉しそうに、リッカの手を取りながらメルトがそう答える。

 いや、助けたのはメルトだと思うな、俺は。


「俺が駆けつけた時にはメルトが三人を避難させていたよ。魔物を倒したのは俺だけど」

「マジか……すげぇなセイムさん……あんな化け物……」

「信じられない怪力だった。俺は……一薙ぎで身体がねじ切られたと思った……正直、今生きているのが信じられない。一体どうして俺達は無傷なんですか?」


 一瞬、メルトがこちらを振り向くも、しっかりと内緒だということを思い出し口をつぐむ。


「今回の魔物の襲撃は異例中の異例。その被害者の治療にはオークション関係者から手厚い補填がされたんだよ。無論、怪我人にもね。大きなお金が動く催しだ、正直あまり治療については考えない方が良いんじゃないかい? 恐らくとんでもない薬が使われている」

「ぐ……確かにそうだ。これは……深く考えない方が良いかもしれないな……」

「そ、そうよね……精神衛生的にも……」

「ん? 誰かが凄い薬を使ってくれたんだろ? ならお礼だけ言えばいいんじゃないか?」

「いや、今回の事件は広めたくないのだと思うよ。あまりこのことは口外しない方が良い。今日俺が報告に向かう相手も、少々特殊な立場の人なんだ。くれぐれも、余計なことは言わないようにすること」


 適当な作り話で煙に巻く。新人の冒険者なら、そういう『仕事上のタブーもあるのだろう』と強引に納得させられるだろう。


「メルトも一応、一緒に来てくれるかな? 状況を説明するのなら関わったメルトも一緒の方が良い。レティさんもいるだろうし」

「うん? どこに行くのかしら」

「ふふ、アワアワさんのところだよ」


 そう言うと、何故か少しだけ表情を歪めるメルト。

 ……まだ尻尾を泡立てられたことを気にしているのか。

 そこまでよく泡立つのだろうか?

 ちょっと試したくなってくるのだが……。


「ええと、証言が必要なんですよね? 分かりました、セイムさんの指示に従います」

「無論だ。今から向かうのだろうか?」

「今から、かぁ……なぁセイムさん、何か食ってからじゃダメか……?」

「あー……身体が栄養を求めていそうだなぁ三人共。よし、みんなでご飯食べてから行こうか。ちょっと実入りがあったからね、快気祝いも兼ねて今日は奢りだ」


 明るく振舞っても、きっとこの三人は『死の恐怖』を忘れていないだろうから。

 なら、治療をした責任を最後まで果たそう。少しでもその心の闇が晴れるように。






「朝っぱらからよくそんなに食えるな……」

「いやぁ、なんかさぁ? すげぇ身体が肉を求めてるんだよ。薬の治療って体力を消費するのかね?」

「そうかもしれないね。身体が極限まで弱っていたのは事実だし、今日くらいはたくさん食べて、ゆっくり休むといい」

「ありがとうございます、奢って貰っちゃって……」


 五人でやって来たのは、早朝から営業をしている定食屋。

 どこの店が良いとかそういう情報を知らない俺は、とりあえずすぐに入れそうな空いてる店を選んだのだが、中々に良いチョイスだったようだ。

 朝にありがちな軽食に限らず、ガッツリ目なメニューも朝から提供しており、早朝から遠出をするようなベテラン風の冒険者や傭兵も利用している店だった。


「確かにいつもより空腹なのは否めない……申し訳ない、奢りだというのにこんなに仲間が頼んでしまって」

「グラント君も食べな。君が一番の重傷だったんだ。血肉になるようにカッシュ君を見習ってどんどん食べるんだ」

「申し訳ない……では遠慮なく」


 この世界の食肉事情ってどうなってるんだろうなぁ。

 畜産が盛んな地方でもあるのか、はたまた食用可能な魔物が毎日狩られて流通しているのか。


「おいし……おいし……セイムこのお肉美味しい……なんだろう? 初めて食べた味だ」

「ん? どれどれ…………美味しいな」


 なんか、ジンギスカンみたいな風味のお肉でした。羊? そのうち本当に料理レベルの高いキャラクターで過ごして、知識と経験を学習させてもらおう。




「よし、じゃあお腹も膨らんだし行こうか。目的地はギルド通りにあるんだ」

「じゃあギルド本部に行くんですか?」

「いや、クランホームが並ぶ通りまで行くよ」

「お、クランホームか! 俺達もいつか欲しいよな!」

「クランの立ち上げには最低、三人は紅玉ランクの人間が必要だ。俺達三人がそこまで成長するのは何年先になることやら、だ」

「くっそー……やっぱどこか大手に所属して修行するのが手っ取り早いのかねー」


 新人三人の話を聞いていると、一般的な冒険者の感覚を学べるので、良い刺激になる。

 そうかクランの立ち上げ……最低三人の紅玉となると、俺では無理だな。メルトと俺の二人だし。

 クランなんて立ち上げるつもりはないけれど。


「それじゃ行こうか。目的地は『グローリーナイツ』のクランホームだ」

「え!? あのグローリーナイツですか!? 私達捕まるんですか!?」

「え?」


 目的地を告げると、リッカさんがとてつもなく驚いた声を上げた。

 そんな絶望に染まった表情をしなくても……。


「あそこって……騎士と同じ捕縛権限ってヤツ持ってるんだろ? 前に街の外で暴れてる連中をボコボコにして捕まえてったの見たぜ」

「ああ。調査に駆り出されることもある、国の信頼厚いクランだ。そこに呼び出されるとなると、シャキっとしないとな。昨日の状況、しっかりと証言できるように覚悟しておくんだぞ、カッシュもリッカも」

「ひぇー……」


 ……そういうポジションだったのか。


「ちなみに私は知ってたよ? セイム知らなかったの?」

「なんでドヤ顔なの。というかなんで知ってたの?」

「教えてもらった! レティちゃんから!」

「なるほど」


 仲良くなったみたいでなによりです。

 そうして、戦々恐々とした新人トリオを引き連れ、最近何かと足を運ぶクランホームへと向かうのだった。

(´・ω・`)このお話が公開されている頃には発表出来てたらいいなぁ

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