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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第四十五話

 案外、ショックを受けるもんなんだなって。

 切り捨てたと思っていた連中だけど、こんな姿になっているのを見せられると、流石に衝撃だなって。

 浮かんでくるのは嫌悪感と、怒り。

 でも、それは決して『クラスメイトが化け物にされた怒り』じゃないと思う。

 クラスメイトなんて身近な存在だから怒っているのではない。

 カテゴリ的にはムラキも『自分と同じ地球人』だからだ。

 だから、俺の感情、好きだ嫌いだなんて思いは関係なしに、数少ない同種だという事実がある。

 そしてムラキ個人への嫌悪感は正直そこまでじゃない。

 だから、少ない同種を害された怒りが、ムラキへの嫌悪感を上回ったんだ。


「ふざけんな。なんでこうなった!」


 メルトの言う通りだ、これは殺せない。少なくとも情報を引き出すまでは。

 戻せるのか? 殺すしかないのか? 原因はなんだ?

 まぁとにかく――


「『手足全部ぶった切ってのたうち回らせてやるよクソガァ!!!!』」


 自己バフ効果のある叫び『クリムゾンハウル』。

 自然と声が上がり、全身が気持ち高揚する。

 剣を構え、頭に浮かぶ動きをなぞるように踏み出し『ラピットステップ』を併用。

 これで威力と攻撃回数がランダムに上がる。その振れ幅は一~九倍。

 今の自分が全力で剣を振るえば、最低でも肉は切り裂ける。それが最高で九倍だ。

 床を蹴り、壁を蹴り、軌道を不規則に変えながら、魔物の手足を目指し剣を振るう。

 舌がとてつもない速さで振るわれ行く手を遮るも、それも回避し、目標の右前足を切り裂く。

 ……倍率の方が上振れたな。一撃で肉どころか完全に足を切り落とした。けど残念ながら攻撃回数は増えなかったようだ。

 それでも、攻撃の余波で魔物の巨体が吹っ飛んで壁に激突する程の威力が出ている。


「『このまま斬り潰す! じたばたすんなよゴミクズガァ!!!!』」


 クリムゾンハウルは発動後最初の攻撃一回にしか適用されない。つまり引き続きこの威圧的な暴言を叫びながら戦わないといけない。

 非常に外聞が悪い! けど、油断なく倒すならこれくらい必要だ。

 ダンジョンマスターのように弱点が外見から丸わかりで、特効を狙い易い相手なら他の倒し方もあるだろうが、正直こいつは正体不明だ。ならとりあえず威力を上げて攻撃するしかない。

 壁に激突してじたばた蠢く相手に、再び駆け寄り、残った手足を全力で切り落とすつもりで剣を振るう。


「大当たり」


 身体が勝手に、必要以上に剣を魔物に振るいだす。

 左前足、両後ろ足が無数に切り裂かれ、ズタボロになりながら自重をささえきれなくなり床に巨体が沈む。

 一撃の威力は落ちたが、恐らく合計で九回の斬撃を繰り出したようだ。


「……メルト、けが人は?」

「凄い……凄いよこれ……傷が一瞬で浅くなった……」

「浅くなった、か。完治はしなかったんだね」

「リッカちゃんは……まだ手足の痣が酷い、でもさっきまで折れていたんだよ。カッシュは……たぶん体の中がまだダメージ残ってると思う……顔の色が悪すぎる。でも……安定はしてる」

「そっか。こいつの動きが止まったのを確認したら、運び出そう」

「うん。あと……一番重傷だったグラント……どうしよう……息はしてるけど……お腹から下がすっごく冷たい……もしかしたらもう……」


 下半身がダメになるレベルの攻撃……なんだこの魔物、強すぎるだろ。

 ムラキの能力が引き継がれていたりするのか……?


「メルト。荷造り用の鎖とかロープ、この倉庫にない? 俺が見張っているから探してほしい」

「分かった。……完全に身動き取れない状態まで追い込めたんだね。強いね」

「……正直結構危ない橋は渡ったと思うよ」


 武器の性能もある。が、クリムゾンハウルで上振れた倍率を引いても、手足を切り飛ばした余波で吹き飛ばす程度だ。もしかすればそのまま即死も考えられたのに、想像以上に耐久力が高かった。

 シレントとセイムで能力差はあれど、こいつは確実にあの山の山頂付近で飼育されていた魔物達よりも強かった。


「鎖あった! あと鉄のヒモもあったよ」

「ワイヤーだね。貸してごらん」


 すぐに魔物の口をワイヤーでぐるぐる巻きにして固定。残りの身体も全部簀巻きにしてやる。

 だが不思議なことに、魔物の四肢から血は流れていない様子だった。

 ……生き物じゃないのか?


「よし……メルトは倉庫の外に出て人を呼んできて。今上階から人が応援に来るはずだから」

「分かった。セイム、気を付けてね。魔物の正体がわからないんだもん、もしかしたら死に際に爆発したり、毒をまき散らす魔物かもしれないから」

「了解」


 それからほどなくして、美術館に雇われている警備の人間、国の騎士がやって来た。

 具体的な状況は俺ではなくメルトとレティが知っているのはずだからと、説明の大半はメルトに任せる。


「怪しい一団がいて、私ともう一人の護衛の子が向かいました。たぶん……元々は三人組だったんだと思います」

「元々は? どういうことだ?」

「捕えている魔物……たぶん元人間だと思う。怪しい人間は三人だったのに、逃げたのは二人。それで魔物の身体の中に……人の顔が埋まっていたの」


 メルトのその証言に、俺も補足する。


「自分も発言良いでしょうか。彼女の言うことは真実です。私は後から合流し、魔物と交戦したのですが、あの魔物の口の中に人間の顔が存在しました」

「ただ食われただけじゃないのか?」

「いえ、まったく異なる様相でした。今は安全の為口を閉じさせていますが、確認は容易でしょう。本来であれば討伐するつもりでしたが、このような異形、それも人の意思が関わっている可能性を考慮して捕縛しました」

「……そうか、分かった。すぐに上に報告させてもらう。君達は一度倉庫から出てくれ。見張りは我々で行うこととする」

「……申し訳ありません、この倉庫には自分が落札した品もあります。まずはこの倉庫を使用している商会に連絡を取って頂けないでしょうか?」


 あまり信じない。もし、この騎士もグルなら、魔物を完全に消滅させて証拠隠滅をされかねない。


「それが……どうやら品物の保管の為にここに降りてきていた人間は魔物の餌食になったのか、既に痕跡が存在していない。また商会本部にも連絡を試みたが、どうにも要領を得ないのだ。『オークションには参加していない』の一点張りでな……」

「な……! ……ただの襲撃じゃないみたいですね」

「ああ。だからこれ以上は下級騎士の我々にはどうにも出来ないのだ。見張りを受け持ち、国からの応援を待つしかないという状況だ」

「なるほど……そういうことでしたら、この街にいる十三騎士、シュリスさんに連絡してみてください。今回、この商会の品物を落札したのはシュリスさんの指示だからです」

「なんと! 十三騎士の部下の方でしたか!」

「まぁそんな感じですね。恐らく、彼女は何か警戒をしていたのでしょう。後はそちらにお任せしても大丈夫ですか?」

「は、問題ありません」


 露骨に態度が変わるが、悪感情は湧かない。本当に任務に忠実な人間だったようだ。

 彼らに任せ、俺とメルトは倉庫を後にする。


「セイム、旧館に行こう。リッカちゃん達が心配なんだ」

「分かった、行こう。それと……魔物の中身との関係は秘密で頼むよ」

「……分かった、シー……ね……」


 ……ところどころ幼いのはこの状況でも変わらず。それがなんだか少しだけ、緊張していたこちらの心を解してくれる。


「……急ごう、セイム」

「了解、案内お願い」


 メルトの先導で旧館に辿り着くと、大広間に残されていたピジョン商会の他の護衛の二人が駆けつけてきた。


「何か騒ぎがったみたいだが、どうしたんだ」

「実は――」


 先程の事件のあらましだけを伝える。

 魔物が現れたこと、対処にメルトとレティがあたったこと。

 そして逃げた盗賊二人をレティが追跡していったことを。


「……こりゃクランホームに報告が必要だな。おい、そっちは頼む」

「分かった。団長はどうする、この時間はもういないだろ」

「あ、それでしたら国の騎士にシュリスさんのご実家に向かうようにお願いしておきましたよ」

「お、さすがだなセイムさん。助かる。じゃあクランホームへの報告は頼んだぞ」

「あいよ。じゃあメルトの嬢ちゃんも、折を見て帰って構わないからな。ここからはクランの仕事になる」

「うん。でも友達が重体だから、もう少しここに残るね」

「そうか……怪我人ならさっき二階に運ばれたのを見たぞ」

「分かった」


 急ぎ駆けだすメルトを見送り、俺は残されたクランメンバーに話をする。


「シュリスさんが来たら、すぐに俺と面談が出来ないか聞いてみてください。俺はメルトに付き添っていますので」

「ああ、了解だ。……なんか大きな事件になっちまいそうだな……ただの襲撃じゃなく魔物の出現だなんて」


 人から変化した、とはまだ教えていない。

 あまりにも、人々に与える影響が大きそうな事件だ。人が魔物になるなんて……。

 尤も、必要ならシュリスさんの部下である彼らには情報が与えられるだろうが。






 旧館の二階は、どうやら展示されていない品々を保管する倉庫のよな役割があるようだった。

 その一室で、品が隅に寄せられ、けが人を休ませる為のスペースが確保されていた。

 医師などはおらずただ寝かせられているだけ。正直、あまり良い環境とは呼べない。


「リッカちゃんは……呼吸も安定してるし、腕の怪我もかなり治ってる。それに毒がある魔物っていう訳でもなかったみたい」


 女の子の冒険者も、今はただ眠っているだけの様子だった。

 だが他の二人は――


「カッシュ……早く治療出来る場所に移動しないと……顔色が悪いよ、ただの貧血とかと違うよ……」

「確かに……明らかに土気色というか……確かリンパの流れが悪くなっている状態だっけ……」

「リンパ……? セイム、医療の知識があるの? それにさっきの薬……カッシュのこと、助けられない?」

「……助けられる、と思う。ただ、絶対に後でカッシュは引け目を感じることになると思う。メルト、こういう症状を救える霊薬ってどれくらいの価値があるんだい?」

「……わかんない。でも物凄く貴重で、私でも作れない霊薬だと思う」

「それを、若手の冒険者に使ったらどうなるかな」


 酷いことを言ってる自覚はある。けど、メルトには考えてもらいたい。

 あまりにも素直で、そして俺があまりにもなんでも出来てしまうからこそ。

 この選択でどんな結果が生まれるのか、この後どう動いけばいいのか、メルトにも考えてもらう。


「……きっと凄い感謝してくれると思うわ。それで……一生、セイムの言うことを聞かないといけないって思っちゃうかもしれないわ」

「そう、そういうこと。だから――」


 アイテムボックスから、最上級の回復アイテムを取り出す。


【神託の大聖堂に祝福されたエリキシル+15】


 体力を完全に回復

 戦闘不能を含むすべての状態異常を回復

 状態異常耐性を付与する

 ログアウトまで効果は持続する

 デスペナルティを解除する


 ゲーム時代の最高級品。

 具体的に言うとこれ一つで最前線の装備を一式買い揃えられるレベルの値段。

 状態異常耐性とデスペナの解除なんてね、もう最前線のプレイヤーなら絶対に持っておきたい性能なんですわ。

 入手方法が自分で調合+特殊素材をふんだんに投入+特定の時期に特定の場所で調合を行うって条件だからね、もう相場がすんごいの。


 まぁ俺は七スタック確保してるけど。だってこれ自作だし。

 生産職は育成が大変だけど、一生金策に困らないんですよ極めたら。


「だからメルト、今から俺がすることは絶対に内緒だぞ」

「……それだけでいいの? 内緒にするだけで助けてくれるの?」

「うん。この子達が成長したら、美味しいご飯を奢ってくれるって約束だしね」

「! うん! そう、そうよ! きっと三人は色々美味しい物を知っているはずよ! 私にパイを教えてくれたんだもの!」


 考えてくれたのならそれでいい。メルトが少しずつ成長してくれるのならそれでいい。

 だから俺は、このやたらと見事な細工のされた美しい小瓶を二つ、カッシュとグラントに向かい使用する。

 キラキラと、まるで虹の光を液体にしたようなエキスが二人の口に吸い込まれ、同時に全身を包み込む。

 ついでだ、リッカさんにも使ってしまえ。

 メルトがリッカさんは一番軽傷だと言っているが、明らかに腕の様子が酷い。

 痣というよりはもはや穴と言えるくらい、魔物の歯の痕が残っているのだから。


「凄い……グラントの足、さっきまで真っ白だったのに血の気が戻った……! 本当に凄い……」

「よかった。俺が持っている中で、一番凄い薬を使ったからね。絶対、人に言わないで。今回は偶然居合わせて、それがメルトの知り合いで、俺とも面識がある相手だから使ったんだ」

「うん、本当にありがとう。ごめんね、無茶なお願いしちゃって。私、絶対誰にも言わないし、もう気軽に使ってなんて言わないって約束するわ」


 でも、俺だって自分の感情で使いたいって思う時は来るだろう。

 少なくとも今回の事件は、同じ地球人が間接的に関わっており、誰かの悪意が根底にあったからこそ、放っておけなかった。

 そう、悪意だ。これは明らかに事件、それも何か大きな陰謀にクラスメイトが巻き込まれ、利用され、メルトの友人が被害に遭った。使わない理由なんてない。


「メルト。逃げた二人もメルトのことを知っている様子だったんだよね?」

「うん、そうだと思う」

「たぶん、そいつらは……あの時の渓谷のダンジョンで一緒だったやつらだと思う」

「あー……その可能性が高いわね? 私のことを知っている人なんて少ないし」


 十中八九、ムラキと行動を共にしていたのはクラスメイトの誰かだろう。

 メルトが言うには男だって話だし、そうなると考えられるのは『イサカ イオリ』と『カズヌマ コウヘイ』の二人だ。

 女子組はまた別行動だとしても、明らかにゴルダ国が今回の事件の裏にいるのではないだろうか?

 ……というか、だ。あの連中がこの国に来ていること自体、結構不愉快だ。

 そうだ、ムラキが相手だから生かす選択肢があったが、これがもしあの女、クサレビッチかつ今のところ俺の『二度と朝日は拝めねぇと思えやクソがランキング』堂々一位のイナミが相手だった場合、容赦なく跡形もなく殺していただろう。


「セイム、恐い顔してる。どうしたの……?」

「ちょっとこの事件の裏を考えていたんだ。……もしかしたら、また面倒なことになるかも」

「そうなの? セイム、大丈夫? セイムがどこかにいっちゃったりしない?」

「そうならないように動くつもりだよ。大丈夫、せっかく大金が手に入ったんだ、絶対に家を買って平和に暮らせるようにしてみせるよ」

「そうなのね! 家が買えるお金なんて凄いわね! そっか……私に手伝えることがあったら遠慮なく言ってね?」


 たぶん、俺とメルトがなんらかの情報を持っているとは思われるだろうな。

 結構断片的にだけど情報を漏らしているのだし、それらを繋ぎ合わせれば……俺とメルトが焦土の渓谷を抜け、そしてダンジョンが国に閉鎖されているなんらかの原因に関わっていると判断されるだろう。

 以前、ギルドにメルトを登録させる時に、それらしい話をしてしまっているのだから。


「メルト。もしかしたら俺もメルトも、国の偉い人に連れていかれるかもしれない。その時メルトは『ごめんなさい、私はよく分からない』とだけ言うんだよ。俺が、なんとかするから」

「え……どういうこと?」

「もしかしたらの話だよ」


 まだ、この子は子供なのだ。

 見た目は大人だけど、本当にまだほんの子供なんだ。

 だから、傲慢でも、俺の身勝手でも良い。俺が、盾にならなければ。


「大丈夫、全部うまく行ったら約束通りお肉を食べに行こう? 凄く高く売れたからね、お家を買ってもしっかりお肉も食べられるから」

「そうなのね! だったら私、牛のお肉が食べてみたいわ。干し肉じゃない牛のお肉! 牛や牛の魔物は森にいなかったから、食べたことがないの」

「よし、約束だ。たっぷり牛肉を食べられるお店、見つけておくからね」


 そうして、俺はやがて訪れるだろう追及に備え、出すべき情報、そして出せる手札を考え、たとえ相手が国でも立ち回れる方法を、交渉を考えるのだった。

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