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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第四十三話

 一段とホールの照明が暗くなり、それに反比例するように強く照らす檀上の照明。

 オークショニアが美しい装飾のされた小箱に手を伸ばすと、会場にいた人間は一様に喉を鳴らす。

 そして静かに開かれる小箱。そこに照らし出される、蒼の塊。

 まだカットもされていない、原石のままであるはずのそのサファイアは、絞られた照明を一身に受け、青く青く、どこまでも深い青を周囲に溶かし出すように広げていた。

 オークショニアの手が青く染まるほどの青。

 その輝きに会場の人間がため息をついたところで、照明が元の明るさを取り戻したのだった。








「ただいまご覧になられました通り、このどこまでも青いサファイアの原石。当オークションでこの至宝に名を冠することにしました。『深海の瞳』と。かつてこのオークションで取り扱い、今は我が神公国の王女の持つ王杖に使われている『天空の瞳』。それと対をなすと言っても過言ではないと私は判断しました。かつてない程に青く、そして状態の良いサファイヤの原石です。自信を持って言えます。この原石は『過去最高の質』であると。これは、かつて天然のダンジョンを攻略した名もなき冒険者が手に入れた逸品。焦土の渓谷の内部に隠されていた品だそうです。間違いなく国宝級の一品と言えるでしょう。開始値は大金貨五〇〇〇枚からとなっております」


 オークショニアの紹介が終わり、開始値が発表されると同時に、ホールに響くけたたましいコールの数々。

 いや、ここまで活気が出るものなのか……? 先程までのどこか優雅な時間が一瞬で消し飛び、皆血眼で落札しようと躍起になっている。

 それはつまり……価格が爆速で釣り上がっているということでもあるんですよ……!


「……なんか頭痛くなってきた……」

「大丈夫ですかセイムさん。いやはや……やはりこうなってしまいましたか」

「これ……手数料をオークション側とそちらに支払ってもとんでもないことになりますよね……」

「ですなぁ……いや、頭が痛いのはこちらも同じです。今後の展開を考えなおさなければ」


 もうね、開始五〇〇〇枚だったじゃないですか。

 なんでもうケタが上がってるんですか……!


「一二〇〇〇!」

「一七〇〇〇!」


 やめて! マジで使いきれない金額になっちゃう!

 俺絶対堕落する! そんな金額懐に入ったら絶対堕落する!


「ちなみにですがセイムさん。かつて取り扱われた『天空の瞳』の落札価格は大金貨六〇〇〇〇枚だったそうです。ただ、その時はお忍びで来ていた王族の方が落札したのですけどね」

「聞きたくなかったですね、そんな恐ろしい話」

「ですが、そういう可能性も考えませんとね?」

「あの……俺に紹介してくれる物件、間違ってもお屋敷とか大豪邸なんてやめてくださいね」

「ははは……確かにそれらも紹介出来そうな頭金が用意出来てしまいますな」


 一軒家、一軒家でいいんです! 出来れば人通りが少ない郊外とか目立たない場所で……立地とか悪くて良いので、こう自分の秘密をしっかり守れる家でお願いします。


「ふむ、セイムさんは家をご所望かな? ならクランホームとして売り出されている拠点ならすぐにでも買えそうだ」

「いや、そうなるとかなり人通りのある場所に住むことになりそうなので。俺、結構秘密主義なんですよ」

「ははは、確かにその通りだね。しかし……父も大分白熱しているな。もう三〇〇〇〇を提示した」

「ええ……」


 もう最低でも日本円で一五億って……手数料もろもろ引いても俺の懐に入るのは一〇億以上は確定じゃないですか……!

 三〇〇〇〇に突入してもまだ競りは続いている。これマジでどうなっちゃうの?

 なんだかんだ言ってただの石だぞ、宝石なんて……それがどうしてこんな値段になるんだ?

 金額が大きくなるにつれて、冷静になっていく自分がいる。


「オークションの魔物、ですな。熱気に飲まれ冷静な判断が出来なくなっている様子。これではオークション後にゴネられ、競売不成立になってしまうやもしれません」

「そんな……そんなことしたらその商会は信用を失ってしまうのでは?」

「よく見て下さい。この品の競りに参加しているのはもはや貴族のみ。貴族を咎めることなど、オークショニアや商会では不可能です。まぁ暮らし難くすることは出来ましょうが、それも一時のこと。この流れは少々不味いですね」

「ちなみに私の父は必ず支払ってくれると思うよ。こうなったら父に落札してもらえることを祈るしかないかな?」


 それしかないのだろうか。

 既に金額は五〇〇〇〇枚まで突入している。もう手が付けられない、もうすぐ天空の瞳の落札価格に届いてしまうではないか。

 それなのに、まだ競りを続ける人間が複数人いる。


「中々白熱していますが、もうそろそろお時間とさせて頂きます。残り三分、三分で締め切らせて頂きます」


 オークショニアがそう宣言をすると、より一層コールの声が上がり始める。

 だんだんと吊り上がる金額の幅が小さくなり、このあたりが最終的な価格、六〇〇〇〇枚に届くところまで来ている。

 だが次の瞬間――


「大金貨八〇〇〇〇枚」


 上階から、先程まで聞こえてきていた白熱した声とは打って変わり、凛とした涼やかな声が会場に響き渡った。

 一挙に二〇〇〇〇以上の金額の上乗せに、会場が静まり返る。

 同時に、他の人間の競り合う意思を完全に挫いてしまった様子だった。


「八〇〇〇〇枚! そちらの淑女が八〇〇〇〇枚を提示しました! 他はいらっしゃいませんか?」


 誰も、コールをする様子がない。

 そうしてようやく、この熱狂に染まった競りの終わりを知らせるガベルの音が響き渡る。


「そちらの淑女が大金貨八〇〇〇〇枚で見事落札! これは当オークション始まって歴代二位の落札価格です!」


 は……八〇〇〇〇枚……マジかよ……日本円で……考えたくない額だけど四〇億……。

 ダメだ、心臓が止まりそうだ。こんなに強く脈打つなんて……!


「セ、セイムさん! やりましたな! オークションと当商会の手数料を差し引いても六〇〇〇〇枚越え……! とんでもない大金ですぞ」

「え、ええ……正直途方に暮れてます。もう働く必要がないじゃないですか、俺」

「ははは、そうですな。どうです、隠居生活の傍ら、当商会で暇つぶしを兼ねて働いてみませんか?」

「いや、まぁ普通に冒険者は続けますよ。お金は……どこかに保管するか『知人に預ける』か、ですかね」


 この世界の通貨をメニュー画面に保管出来ることは確認済みだ。

 しっかり必要な分だけ取り出せるのだし、もう預けたまま封印、散財はなしの方向で……このお金のことを忘れてしまいたいというのが本音だ。

 家、機密性のある拠点さえ手に入れば俺は満足なのだから……。


「そんな大金を預けられるアテがあるのですな? ふふ、やはり貴方は面白い」

「ふふ、そうだね。そんな大金は私でも自由に出来たことはないよ」


 先のことを考え、一人鼓動を速めていると、またしても檀上からオークショニアが語りだす。

 そうだ、オークションはなにもこれで終わりではないのだ。

 まだピジョン商会が出品した物があるのだから。


「では続きまして、同じくピジョン商会からの出品です。先程よりもこぶりではありますが――」




 その後、結局小さな方のサファイアは大金貨九〇〇〇枚で落札され、さらにその後の剣の鞘は、驚いたことに大金貨一三〇〇〇枚もの高額で落札されたのだった。

 こりゃピジョン商会さん、今日だけでとんでもない利益を出したな……!


「いやはや……利益よりも名が売れたことの方が大きいでしょう。まだまだ新参の我が商会も、今日からはこのリンドブルムで正式な、貴族に名を知られた商会になりましたから」

「そうですね。お役に立てて幸いです」

「正直、元々は鞘しか出品する品がありませんでした。これでもかなりの品だと自負はしているのですが、やはりまだ弱かった。この度のご協力、そして当商会を頼って下さったこと、心より感謝しております」

「はは、どういたしまして。まだオークションは終わっていませんよ、最後まで見届けましょう」

「そうですな。実はオークションの順は、そのまま商会の力となっているのです。カースフェイスは力こそありますが、正直貴族からは表だって重用されていない、というのが実情なのです。つまり次の品を提供する商会は最後。トリを務めると言えば聞こえは良いですが、最も力のない商会、となりますな」

「なるほど……商会だけの力じゃ上にいけないということですか」


 まぁ黒い噂がある、半暴力団的な商会っぽいしなぁカースフェイス商工会って。

 確かに貴族が表立って利用したりはしない、しにくい、か。


「それでは最後の品物に移りたいと思います。今回のトリを務めますのは『エルクード教商会』の品となっております。曰く、古い礼拝堂を取り壊す際、地下に眠っていた古代の魔導具とのこと。古代エルクード文字によく似た文様が彫りこまれており、歴史的価値は確かなものと判断しました。開始値は大金貨四〇〇枚からです」


 最後に現れたのは、一見すると宝飾品にも似た、くすんだ金色の首輪やブローチ、ティアラのような品々だった。

 アクセサリーにしては飾り気がない、けれども確かに磨けば美しい金色になりそうな魔導具達。

 ふむ……宗教に関連する品なのか? しかし魔導具って言っていたし、特殊な効果があるのだろうか?


「……セイムさん、もう一度頼む。今君は莫大な財産が転がり込もうとしている。その力でなんとしても落札してもらえないだろうか」

「シュリスさん?」

「金額次第では私も手持ちが足りなくなるかもしれない。だが、それでも頼みたい。絶対に落札して欲しい」


 シュリスさんから、先程までとは少し違う様子の声がかけられる。

 なんだ? さっきの魔剣みたいに、他人に渡ると危険なシロモノなのか……?


「大金貨五〇〇枚」

「そちらの騎士様が五〇〇枚! 他はいらっしゃいませんか?」

「大金貨七〇〇枚!」

「カースフェイス商工会から七〇〇!」

「大金貨九〇〇枚」

「同じく騎士様がさらに九〇〇枚!」


 どうやらこの魔導具は、周囲の人間の興味をかなり引き付けている様子だった。

 カースフェイスだけでなく、他の貴族や商会までもが競りに参加し、瞬く間に金額が吊り上がっていく。

 何故……? 確実に価値が上がるような来歴なのだろうか?


「セイムさん、これは競り落とす価値のある一品ですぞ。古の大陸、今は沈んだとされる『エルクメシア大陸』縁の品かもしれません。保存状態も良好です。研究する価値も、骨董品としての価値もあります」

「そうなんですか……大金貨一五〇〇枚」


 でも、それにしてはシュリスさんの様子がおかしい。何か鬼気迫るような、そんな必死さがにじみ出ている。


「大金貨二五〇〇だ」

「カースフェイス商工会から二五〇〇! 他はいませんか?」


 他を振るい落とすつもりなのか、一気に吊り上げるカースフェイス商工会。

 ……それでもシュリスさんはこちらに懇願するような目を向けている。

 なら……。


「大金貨五〇〇〇枚で」


 倍額を叩きつけるように宣言する。


「な……そちらの騎士様が大金貨五〇〇〇! 他はいらっしゃいませんか?」


 しばしの沈黙。

 ……やがて、ガベルの音が響き渡った。






「すまない、セイムさん。助かったよ。ギリギリ支払える金額だからね、魔剣の金額と共に引き渡しの時に支払わせてもらうよ」

「一体なんだったんですか? あの魔導具は」

「んー……ちょっとそれは言えないかな。国が関わっている、とだけ」

「なるほど。俺はこのあと商会長さんと、出品したサファイアを倉庫に戻すのに立ち合いますので、シュリスさんはどうします?」

「そうだね、倉庫はレティ達に任せているし、私は一足先にクランホーム……いや、実家に戻ってお金の工面をしてこようかな。いやはや……借りを返すつもりで引き受けた護衛だったけれど、またしても大きな借りが出来てしまったね」


 オークションを終え、会場から人が徐々に去っていく中、シュリスさんと先程のことについて話す。

 国が関わる事情ならばこれ以上は追及出来ない、か。


「いやぁ、白熱した一日でしたな。シュリス殿、それでは当商会の馬車をお使いになられますかな?」

「いや、幸い父がここにいるからね。合席させてもらうとするよ。今回はそちらにもお世話になったね。ピジョン商会さん、今度は是非、クランで使う備品を注文させてもらうよ」

「お、おお! 是非、是非! たっぷりと勉強させてもらいます」


 ピジョン商会にはなんだかんだでずっとお世話になっていたのだし、こうして次に繋がる良縁を紹介出来て本当によかった。

 そうしてシュリスさんが去っていくのを見送り、商会長と共にオークション会場の裏手へ、品物を引き取りに向かうのだった。

 結局、特に騒ぎや襲撃はなかったな。

 地下倉庫の方も今は品物がない状態だし、きっとメルトも無事だろう。

 まぁこの品を倉庫に戻すタイミングで何か事件が起きる可能性もあるのだけど。

 ……大丈夫だよな?

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