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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第四十一話

 息を飲む音が、どこからか聞こえる。

 それはオークショニアから出たものか、はたまたレティから出たものか。

 だが一瞬の静寂が倉庫内を満たしたのは間違いなかった。


「まさか……先程の品よりも遥かに大きい……本物ですかな?」

「先程と同じ鑑定師の署名付きの証明書がこちらに」

「これは流石に……本腰を入れて査定させて頂きます」


 オークショニアの男性は、倉庫内にある机を近くに運び、そこに様々な道具を並べだした。

 恐らく照明器具や計りの一種なのだろう。魔術的な仕組みで動くのではないかと推察する。


「……信じられない。殆どカットする必要がないくらいだ。宝石にならない、分割しなければならない部位がほぼ存在しない原石でこれほどの大きさ……そしてこの透明度と深い青……間違いなくサファイヤです。セイムさん、来歴をお願いします」

「はい。実は最初に鑑定して頂いたサファイヤを持ち込んだのも私です。元々、夢丘の大森林内を探索していたところ、川の中で過去に息絶えたであろう冒険者、既に白骨化していた遺体を発見しました。少々意地汚くはありますが、川底に沈んでいた冒険者の持ち物であろう革袋を探ってみたところ、宝石の原石を発見しました。が、それと一緒にその冒険者の手記も見つけたのです。どうやら、元の持ち主は用心深い人間だったらしく、自分の財産をいくつかのダンジョンに小分けにして隠していたようでした。そちらのサファイヤの原石は『焦土の渓谷』内部に隠されていたのを私が見つけた物です」

「古の冒険者の隠し財産ですか……確かに先程同様、ここまで大きく育ち、無駄のない状態の原石となると……ダンジョン産としか考えられません。これは詳しい来歴は隠した方がよろしいでしょう。死を臭わせる物語は必要ない。いや、しかしこの輝きの前ならそれすら霞む……商会長殿。確かに目玉商品として先程の品を宣伝するのは早計だったようです。こちらの品、正式に今回のオークションの目玉として、相応しい名を冠し宣伝、出品致しましょう」

「おお! 名を冠して頂けるとは! 是非、お願いいたします」


 どうやら、商会長の予想通りの展開になりそうな流れだ。

 が――


「ちょっと待ってください」


 その時、黙っていたレティが声を上げる。


「なんですかな? レティ殿」

「ふむ、どうかしたのですか?」

「……セイムさん、焦土の渓谷に行ったのはいつ頃ですか?」

「ええと……一か月以上前、ですかね。商会長、正式な日にちは分かりますか?」

「ええ、ゴルダから一緒に移動してきた時ですからな。国境の関所に記録が残っているはずですが、セイムさんの言うように一月と半分程前ですね」

「……では、もしかすればセイムさんは『焦土の渓谷に入った最後の冒険者』かもしれませんね。そのタイミングでそんな財宝を手に入れたなんて」

「最後、とは?」


 レティはどうやら、ただ俺が気に入らないから異を唱えた訳ではなさそうだった。

 最後の冒険者とはどういうことだ?


「現状、焦土の渓谷周辺は誰も近寄れないように厳重に国よって警備されています。理由は今は国の命により伏せますが。セイムさん、このオークションが終わったら、もう一度私達のクランハウスにご足労願えますか?」

「んー……なんだか複雑な事情がありそうだね。了解」

「宝石に関しては私からはこれ以上ありません。お話を中断して申し訳ありませんでした」


 ……なんだ? 焦土の渓谷で何か事件でも起きたのだろうか?


「ふむ……国の事情となると迂闊に話を聞くわけにもいきませんね。いいでしょう、査定の話に戻らせて頂きます。冠する名については……そうですね、過去に取り扱ったサファイヤに『天空の瞳』と銘打った品があります。大きさこそこのサファイヤに勝りますが、発色につきましてはこちらの品に軍配が上がる。さしずめ――『深海の瞳』といったところでしょうか。深い、深いどこまでも濃い青。それでいてラピスラズリとも違うこの透明度。まさしく深海の名に相応しい」

「おお……『深海の瞳』! なんと光栄な、かつて王杖に使われた天空の瞳と同じ『瞳』の名を冠して頂けるとは!」

「すぐに担当に宣伝の手配をさせます。開始値は……この大きさですと『天然の産出物の壁』を優に超えています。ダンジョンで生まれた奇跡、正直我々も値段をつけるのが難しい。ここは天空の瞳の開始価格と同じ大金貨五〇〇〇枚からでどうでしょうか?」


 な……! おいマジか!? アイテムカテゴリ的には最初の原石と同じ物だぞ!?

 確かに大きいし余計な石も付いていないけど、大きさ違いでここまで値段に差が出るのか!?

 大金貨一枚で大体五万円の価値だと俺は考えているから……二億……五千万……なんだそれ……そんな途方もない大金……!


「……覚悟はしていました。当商会始まって以来の大金が動くことになると。この値段で良いかはセイムさん、貴方の判断にお任せします」

「……正直俺も震えが出そうです。開始値がその値段となると、落札価格はとんでもないことになってしまうでしょうね。一個人が持つにはあまりにも大きな金額です。ですが、出品を取りやめるという選択も、逆に値段を下げるというのもありえない話。その値段で合意します」

「了解致しました。では開始値、大金貨五〇〇〇枚からスタートで決定です」


 もう、過去に天空の瞳が最終的に幾らで落札されたのか、教えてもらう勇気が俺にはなかった。

 そうして一同、互いに心臓の鼓動を速めながらも、無事に査定を終え倉庫を後にしたのであった。




「では、私はこれで失礼します。今から至急、オークション出席者の方達にお伝えしてきます。当美術館の支配人にも同様に。これは、もしかすれば本当に『国宝に化ける』可能性がありますよ」

「はは……流石に私も恐ろしくなってきましたな。何卒よろしくお願いいたします」


 オークショニアの男性が足早に立ち去り、残される商会長とレティ、そして外で警備をしていたメルト。


「なになに? なにかあったの?」

「……メルトさん。今から本気で、油断なく警備しましょう。もうこれはただの警備依頼じゃなくなりました」

「???」

「あー、結構凄い物だから、しっかり守ってねって話だよ」

「そうなのね! きっと凄い値段がついたのねー! お家が買えるくらいかしらねー!」


 余裕で買えると思います。ただ、他の商会の警備もいるからこれ以上は内緒だ。

 唇の指をあて、静かにするように示す。


「シー……ね? 分かったわ」

「ええ、そうね。……お家どころかお屋敷だって買えちゃうわよきっと……」


 まぁそうだろうなぁ……最低でも二億越え……だもんなぁ。


「では、私達もお暇しましょう。明日の会場入りの打合せやシュリス殿との打ち合わせもありますからな」

「そうですね。じゃあメルト、レティさん。俺はもうお暇するよ。警備、よろしくお願いします」

「うん、しっかり守るからね! オークションが終わったら何か食べに行こう? きっと少しくらい贅沢出来ちゃうわよね!? 私、大きなお肉を久々に食べたいわ」

「ははは、了解。じゃあ俺のおごりで何か美味しいお肉を食べさせてくれるお店に行こうか」

「……なんというか、調子が狂うわ、メルトさんといると。警備はしっかりと務めさせてもらいます。全身全霊を以って守ると、クランの名に誓うわ」

「ん。了解レティさん」


 流石に、もうただの警備依頼とは言えないだろう。

 そうして二人を残し、俺と商会長は美術館を後にしたのだった。






 翌日、オークション当日。

 オークションの開始時刻は夜の七時からという話だったが、もう夕方になるというのに俺は宿の自室にて一人思い悩んでいた。


「マジかー……ドレスコードとかあるのかー……いや当然だけど」


 今日着ていく服について、だ。

 この世界は想像以上に発展している。無論、服飾技術も。

 だがまだ『決まった規格を大量生産』する程ではない。ましてや、オークションのような上流階級の催しに着ていくような礼服なんてもの、たった一日で用意出来るはずがないのだ。

 つまり俺は今日、オークションに向かっても許されるような服、ないしは装備を見繕わなければいけないのだ。


「服っぽい装備で礼服みたいなの……タキシードは一応あるけど……たぶん違うよな。もっと豪華じゃないと……」


 少なくとも昨日、他の商会の人間や、貴族街で見かけた人間達はもっと優美な服装だった。

 むしろ俺が酷く浮いていたくらいだ。

 なら……。


「立派に見える装備で行くか?」


 たとえば『聖騎士装備一式』とか、もっと強い『光翼竜シリーズ』とか。

 一応、ゲームでは最強装備の一角であり、ビジュアル的にかなり人気だった装備だ。

 というか、普通にダンジョン攻略の時セイムで使ってた装備だ。が、現実世界で着るには勇気がいる品だ。


「んー……背に腹は代えられない!」


 いざ光翼竜シリーズ! 凄いぞ、めっちゃ豪華な騎士鎧だぞ! オートリジェネまで付与されてるぞ! まるでどこぞの勇者様みたいですっげぇ恥ずかしい!


「……いやまぁ分かってたけど……セイムって普通にカッコいいよなマジで」


 装備して姿見で自分の姿を確認する。

 うん、めっちゃ豪華。派手過ぎることはないが、明らかに細やかな意匠と美しい金属の光沢。

 うっすらと青みがかり、ところどころ濃淡がついていて、美しい模様を浮かび上がらせる。

 兜はオフに設定、そして腰にはいつもの初期装備の剣ではなく、鎧に負けない、美しい剣を装備する。

 こっちはメイン装備でもガチ装備でもない、本当にただの『ファッション装備』だ。

 あるあるだよね。性能は一線級じゃないのに見た目だけ凄いカッコいい武器って。


「じゃあ先にクランホームに向かうかな……シュリスさんと合流して時間を潰して……ピジョン商会に行って、か。嫌だなぁ……リンドブルムの中をこれ着て練り歩くなんて」


 なお、宿から出る際におかみさんに『どうしちまったんだい! そんな大層な装備して! どこかの騎士様かと思ったよ!』と驚かれてしまった。とりあえずおかしくはない……んだよな?




「すみません、セイムです。シュリスさんと合流しに来ました」

「な……! セイムさんか!? なんだその装備……まるでどこかの近衛……いや、将軍クラスの装備じゃないかそれ!」

「あー……一応今日は貴族様達が沢山参加する催しなので……ちょっと特別に用意しました」

「用意って……どう見てもオーダーメイドだろ……そんな装備まで持ってるなんて……何者だよアンタ……」

「まぁそこらへんは色々秘密が多い男ってことで」


 クランホームの門番は、以前俺がレティの怪我を治療する為にポーションを渡した男性だった。

 すみません突っ込まないでください。

 ともあれ、驚かれながらもクランホームに案内される。


「! 驚きました……いらっしゃいませ、セイムさん。団長も今着替えていますので、このままお待ちください」

「了解ですアリスさん」


 談話室で待っている間も、ザワザワと周囲の声が漏れ聞こえてくる。

 居心地が……凄く悪い!


「この間の……強さからしてどこかしらで名を馳せた人間だとは思っていたが……」

「ありゃどこの意匠だ? 竜麟に似た模様……この大陸由来か……?」

「どこの作だろうな。ありゃ冒険者や傭兵向けの工房の品じゃねぇだろ……」


 一応自作です! うちの生産職、一通りカンストしてるんで!

 なお素材入手の為にリアルで一年かかりました。ネトゲあるある、最終装備に必要な素材集めるのに超時間かかるやつ。

 もうね、金貯めてマーケットで買った方が絶対早いと思うんですよ。まぁべらぼうに高いけど。でも金策する時間の方が絶対素材探すよりも短かったと思う。

 いいんです! 浪漫なんですよ自作は!


「待たせたねセイムさん。いやはや……そちらも鎧で来たのかい? また随分と立派な鎧じゃないか」

「シュリスさん、お邪魔しています。そちらも凄く素敵ですね、カッコいいのに美しい。儀礼用、式典用……ですか?」

「ふふ、そう見えるくらい美しいという意味ならありがとう。一応、これは私の戦装束だよ。ドレス部分は全て『宝樹アリアス』の樹皮から生み出された繊維で織られているんだ。甲冑部分は精霊国ハムステルダムに住まう『金糸の乙女』の作さ。自慢ではないけれど、現状最も高価で性能の高い鎧だと自負しているよ」

「はえー……凄いですね来歴が……正直知らない単語もありましたけど……」


 ハムステルダム……! 実在しているのか! 金糸の乙女とはなんだろう?

 まさか『雌のゴールデンハムスター』だったりして。

 きっと大きなハムちゃんがトンテンカンと金槌を振るって……。


「しかしそういうセイムさんの鎧も相当な物だとお見受けするよ。見たところ……ミスライト銀に何か霊的な素材……上位の魔物の素材が練りこまれていると見た。蒼の模様は意匠じゃないね、その魔物の『意思』が浮かび上がらせている。いや、この場合は『加護』と言い換えても良い。私の鎧にも匹敵する品だと言えるね。やはり君は普通の冒険者ではないようだ」

「んー……まぁ普通ではないですねぇ。でもこれ、普段は使いませんよ? 着ていく礼服も貴族向けの服もないから装備しただけです」

「ありゃ、そうなのかい? 私はてっきりどこぞの貴族の出なのかと思っていたよ」

「え、俺ってそんな風に見られていたんですか?」

「まぁ話し方や知識量からして良家の出だろうなとは思っていたさ。まぁ詮索はこの辺りにしておこうかな。商会に向かおうか」


 ふむ……教育レベルがわずかに低い世界……というよりも、教育を受けられる人間がまだ制限されている世界なんだろうな。

 いや、もしかしたら国によって違うかもだけど。


「おおっと? 腰の剣もいつもと違うね? ちょっと失礼」

「わ、ちょっとシュリスさん!?」


 その時、シュリスさんが腰に抱き着くようにして剣に手を伸ばしてきた。

 この人武具マニアか!?


「ふーむ……これは儀礼剣のようだね?」

「ですね、性能面では並程度ですよ」

「確かに特別な素材ではないようだ。が、美しく仕上げられ、並の剣よりは性能も良いように見える。研ぎ方も美しい、鋳造ではなくしっかり打ち込まれた鉄……いや合金製かな」


 詳しくは分からんとです。


「よし、じゃあ今度こそ出発だ」


 美しい甲冑装備の男女が二人で街中を移動する。

 そりゃあもう人目を惹きました……。




 ピジョン商会に到着する頃には、日も暮れ始めすっかり夕方になっていた。


「セイムさん、シュリス殿、ようこそお出で下さいました。本日は徒歩ではなく馬車で向かうことになっています。今、表に手配していますのでしばしこちらでお待ちください」


 応接室にて、いつもよりも派手な衣装に身を包む商会長に出迎えられ、出発の用意が整うのを待たせてもらう。

 馬車で向かう程の距離ではないと思うのだが、こういう形式を守るのも必要なことなのだろう。


「しかしセイムさんも鎧となると、まるで二人の護衛に守られているようですな。シュリス殿はもちろんですが、セイムさんも周囲の注目を集めそうです」

「ちょっと今、もう少し地味な鎧にしたらよかったなって後悔してます。今度、こちらの商会でこういう催しで着られるような儀礼服を仕入れてもらうことって出来ますかね?」

「ええ、可能ですよ。いやしかし……そのような鎧があるならばそれで良いのではないですか? 上等な装備を身に着けるのは、実力ある冒険者の証のようなものですから」

「いやぁ、注目されすぎると動き辛いので……」


 ああ……どうか会場では人目を惹きませんように。

 なぁに、きっと貴族の皆さんは豪華な鎧なんて見慣れてるだろうさ。

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