第四話
(´・ω・`)今年の降雪量すんごい
ノックの音が部屋に響き、嫌な予感がするも――
「誰だ」
そう問いかけると、返って来たのは……予想通りのものだった。
『すみません、さっき一緒に謁見の間にいた者です。カホって言います』
さっそくこちらに取り入ろうとしてきたのだろうか? 腹立たしいが、面白そうなので扉を開けて招き入れることに。
「何の用だ」
開口一番、こちらが不信感を抱いていると思わせるようにそう問いかけると、やはりしどろもどろになりながら――
「え、あの……少しお話がしたくて……同じ境遇ですし……あ、ええと、元いた世界のお話、聞けたらなーと思いまして……」
「話すことはない、帰れ」
「え、あの……」
「俺の力でな、その人間の本質が見える。お前からは詐欺師やそれに連なる者と同じものが見える。くく……失せろ」
ハッタリかましてやりました。すると、何か思い当たるのか、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。さしずめ……『次に取り入る相手』として俺を標的にしたのか?
そういやさっき、森の中でイサカに色目を使っていたような気もするんだが?
「うーむ……精神衛生上これ以上あの連中と関わるとよくない気がする……」
こりゃ早急にここから抜け出すことを考えるか。
歓迎の宴は、やはりというか、ささやかとは言い難い豪華な催しとなっていた。
大勢の貴族やら豪華な衣装を着た娘さん達の姿につい目を奪われそうになるが、そもそも不信感しかないので、そうそうに『食べ物だけ貰って部屋に戻る』とだけ告げて大広間を去った。
すると、やはりこちらの能力を取り込むことだけを考えていたのか、必死に引き留められてしまったのだが、小さく『随分と居心地の悪い国だな』とつぶやくと、慌てて解放してくれた。
「うーん……最低限この辺りの地理だけ覚えたら抜け出すかねぇ……」
メニュー画面を表示させ、所持しているアイテムから便利そうなものを探す。
ここを抜け出す時に使えそうなのはええと……。
【呼び寄せの鈴】
【鳴らした地点にマーカーを設置し、対になる鈴を鳴らすことで一瞬でその場所に移動出来る】
あった。使い捨てだけど帰還用に使えるアイテムだ。じゃあこの鈴の片割れを――
俺は窓から城の外に向けて鈴を放り投げる。
すると、少し離れた森の中に見事に飛んで行った。凄い肩してるなやっぱ。
「よし、これで抜け出す準備は万全か」
部屋に戻り、しっかりと鍵をかけた俺は、そのまま前回途中で終わってしまった『サブキャラ』の容姿を確認していくのだった。
「ううむ……改めて見返すと、無駄にキャラ多いな……装備出来ないアイテムがもったいないからって、専用に色々キャラ作ったからなぁ……」
ほら、女専用装備とか、種族専用装備とか。そういうのもったいなくて売ったりしなかったんだよね、俺。そんでキャラを作っても、育成途中で飽きて放置したり、ただの倉庫キャラ、いわゆる荷物持ちにしたり。
他にも好奇心で作ってお蔵入りしたキャラとか、ナーフされた職のキャラとか。
強すぎて作業ゲーになるから封印したキャラだっている。
「これとかどうだ、一応しっかり最近まで育成してたコイツとか」
数あるキャラの中から、カンストしてしまったキャラではつまらないからと、本格的に育成して遊ぶ次のキャラとして生み出した『セイム』に変更してみる。
え? 名前の由来? だって本名『静馬』だから、音読みしてちょっと英語っぽく訛らせた感じです。
いやぁ……さすがに流行りのアニメやゲームのキャラ名にするのはプライドが許さなくて……。
いやたまに見かけたよ? 『†Kiri〇〇†』とか『クラ〇ド』とか。
「うーん、やっぱり元々の身長に近いからか落ち着くな、これ」
セイムは、シレントとは違い見た目にとくにこだわりもなく、適当に何を装備しても違和感がないように身長も少し高い程度、顔も普通、髪色もただの金髪と、目立つような姿はしていない。まぁ逆にクッソイケメンにしたキャラも倉庫として作ってあるけど。
まぁ普通を目指して作っても現実で見ると結構なイケメンですな、これ。なお育成途中なので、シレントの三分の一程度の強さしかない。まぁプレイ時間が全然違うし。
「決めた、こっから出たらこいつで生活するかな。これでも十分、少なくともあの連中よりははるかに強いし」
行動方針を決めたところで、お待ちかねの……他のキャラ、女キャラも観察していきます……いやぁ……俺も健康な男子なので……。
追伸『やべぇ、これ夜眠れないわ』とだけ言っておきます。
翌朝、早速俺達への教育が始まった。
主に『戦闘訓練』『魔法の勉強』『近隣のダンジョンの場所』について学ぶことになり、男子連中は戦闘訓練、そして女子は魔法の勉強ということになり、俺は近隣のダンジョンなどの地理を学ぶことになった。
なるほど、即戦力の俺にはどんどんダンジョンを攻略して欲しいということか。
早速俺は、俺達が召喚された森と屋敷について尋ねてみる。
「シレント様達が召喚されたのは『夢丘の大森林』と呼ばれる、この大陸最大のダンジョン、そして……恐らく、そのどこかに現れるという『強欲の館』というダンジョンでしょう。ここは、ダンジョンの中にも関わらず、さらにダンジョンを生み出せる強力なダンジョンマスターが住まう場所とされています。気まぐれに、かつて生きて逃れた者もいたそうですが……人では勝てない、悪魔が住まう館とされているのです」
「そうか。それで、ダンジョンというのはダンジョンマスターを倒せば消えるのか?」
「そのダンジョンがダンジョンマスターの力で無から生み出されたものの場合は消えます。が、天然の地形を変質させたものの場合はその限りではありませんね。また、ダンジョンマスターの体内にはダンジョンコアと呼ばれる、強大な魔力と大地を潤す力を秘めた物体が存在しています。中には身体ではなく、ダンジョンのどこかに封印している場合もあるそうです。我が王は、ダンジョンコアの力で国を潤し、危険な他国から攻め込まれないように、そしてそのような国が暴挙に出ないように監視、抑止力として使おうと考えているのです」
「なるほどな。……じゃあ、その他の国について教えて貰えないか?」
さて、じゃあ俺が気になる他国との争いや情勢について尋ねてみましょう。
だが、こちらがそれを質問すると、教師役の男が焦り出し『その、他国のことは私は……』と話を濁してしまう。ふむ……情報統制か、それとも本当にこの国の住人は他国のことをあまり知らないのか……。
「そうか。この辺りの地理については一通り把握した。目下の目標は、この大森林でなく、国境沿いにある『焦土の渓谷』という場所の攻略なのだな?」
「は、はい! そうなります。現在、憎き侵略国『神公国レンディア』の連中が無断で攻略を試みているという報告があるのです。ですので……シレント殿には早急にこの場所を攻略して頂きたく……」
「なるほどな。話は分かった。俺は少し王と謁見をしてくる」
「畏まりました、すぐに手配致します!」
名前の響き的に、相手方は宗教国家なのだろうか? なんにしても向こうの情報もないし……城の外で話を聞かないとな。
「おお、早速攻略に向かわれるのですかな!?」
「その前に城下町でも情報を仕入れたい」
「ははは、城下の民など詳しいことなど何も知らないでしょう。入用な物ならこちらで手配致しますので、どうかこのままお待ちください。すぐに渓谷に向けた馬車を手配させますので」
「いや、自分の足で行く。俺は自分の目と耳でこの国、この世界のことを学びたい」
「……いえいえ、民達は何も知らず、ただその日その日を生きているにすぎませんよ。シレント殿のお耳を煩わせる戯言を申す者も多いでしょう、どうぞごゆるりと――」
王との謁見。こちらの能力を知ってから、妙に下手に出るようになった王が、必死にこちらが城の外で情報を仕入れることに待ったをかけてきた。こりゃ余程都合が悪いと見た。
と、その時。謁見の間に元クラスメイトの連中も現れた。
「王様! シレントさんがダンジョンの攻略に向かうというのは本当ですか!?」
「協力してくれるのか、アンタ」
「それは凄く助かるけれど」
……丁度いい。
「そいつは間違いだ。どうやら俺はこの国のことが嫌いになったようだ。得られる情報を制限し、こちらが城の外で情報を探ろうとするのを必死に止める。まるで俺に外のことを知られるのが嫌なようだ。ククク……どうやらとんだ国に召喚されたようだな? 悪いが俺はこの国を出させてもらうよ。じゃあな、二度と会うことはないだろうよ」
「んな!? そのようなこと、許すとお思いかシレント殿!」
瞬間、顔を真っ赤にして立ち上がる王。だがその王に向け、俺はメニューに収納していたあるアイテムを取り出して見せた。
「これ、なんだか分かるか?」
「んな!? その輝きはまさしくダンジョンコア……!?」
「俺を呼び出した、森の館の主を殺して奪い取ったものだ。俺はこれを……そうだな、隣の『レンディア』あたりにでも持ち込んで、取り入るとしようかな?」
「ふ、ふざけるな! 其方は我が国が召喚したのだぞ!? なぜあんな女狐なんぞにくれてやる必要が!」
「知るか。じゃあな、王様。その使えるかもわからない雑魚連中を精々育成して、俺に対抗出来るように頑張るんだな。……それまで国が持てばいいな?」
そう言いながら、ダンジョンコアを収納し、代わりに転移の鈴を取り出した。
ちりんとそれを慣らした瞬間、こちらの足元が眩い光を放つ。そして――
「じゃあな、偽善者共。館にいたもう一人のお仲間が言っていたぞ。『俺はアイツらに騙されて置いて行かれた』とな。精々、仲間のことを疑ってかかるんだな!」
最後にそう言い残し、俺は光に包まれてその場から消えたのだった。
よし、よし!
「言ってやった……言ってやったぞ。明らかにおかしいだろ……情報統制とかどこぞの北の国かよ……文明やら文化レベルが低い世界なのかね、やっぱり」
俺はすぐに追手がかかることを予想し、すぐさまキャラを『セイム』に変更する。
そして、改めて辺りを見回し、ここが人の手が入っていない山の中だと実感する。
こりゃ暗くなる前に城下町に戻らないとな。
「ひ……ひぇ……人が出てきた……それに変身した!」
が、俺がこれからの行動を決めようとした矢先、近くの木の裏から女の子の声が聞こえてきた。
見れば、その近くには壊れた鈴か転がっており……やべ……あの鈴拾った人いたのか。
……どうしよう。え、これ取り返しつかなくない?
「ひぃ! 人間だー! 逃げろー! ギャー!」
が、その瞬間、女の子は悲鳴を上げながら山の奥へ逃げ去ってしまった。
……え? え、なに『人間だー逃げろー』って……もしかして犯罪者か何かなのか?
逃げ去った彼女の後姿には、尻尾のようなものも見えたが……あれか、獣娘的な種族でもいるんですかね……?
「なんにしても……もうちょっと人が来なさそうな場所に投げりゃよかったのに俺のバカ」
森を抜け街に戻ろうとすると、巨大な街門が閉じられており、行く手を遮る。
そうか、入る時は馬車だったもんな……通行は規制されているのだろうか。
なにやら手続きも必要らしく、多くの人と馬車が列を作っていた。
なので、こっそり門の裏手に回り込み、街壁の内側に鈴を放り投げ……転移。
まずいな、これ消耗品だからそこまで無駄遣い出来ないのに。
「おー……実際に歩くと空気感が凄いな……まるで映画のセットの中歩いてるみてぇ」
店先に商品を並べて商売している姿なんて、昨今あまり見ないよな。それに実際見たことの無い巨大な肉塊や、干し肉の束が吊るされていたり。
多くの人間が行き交い、活気にあふれた街並だ。
だがそんな中、慌ただしく皆が道の端へと避難し、そこを沢山の馬車や兵士が通り過ぎて行った。あれはもしかしなくても……。
「シレントを追って、国境に向かったってことなのか」
よかった、消える前に適当なこと言って。もうしばらくはこの街で情報収集したいと思うんです、俺。ダンジョン攻略はまぁ、気が向いたらで……。
「さてさて……情報収集なら酒場って相場は決まってるからな、今の俺は……ギリギリ大人に見えるよな。んじゃとりあえずそれっぽいところを……」
多くの人間、とりわけ武器を帯びた人間が入っていく建物へ向かうが、残念なことに酒場ではなく、なにやら銀行のような場所だった。
はて、戦う皆さんはみんな金欠なのかね?
「あら、見かけない顔ですね。ギルドは初めてですか?」
こちらがキョロキョロと辺りを見回していると、どことなく暖かそうな色の服を着た女性が話しかけてきた。
見れば、似たような服を着た人が何人もいる。制服だろうか?
「ギルドってなんですか?」
「え? ギルドはギルドですよ? 古い言い方だと……仕事の斡旋場ですね」
「あ、なるほど」
あれか、ゲームにある冒険者ギルドみたいなヤツか。
ここに登録した方が動きやすかったりするのだろうか?
「すみません、ちょっとボケてたみたいです、こんなに人が多いのは初めてで」
「ふふ、そうだったんですね。新規の登録でしたら、私の方で受け付けていますがどうします?」
「あ、じゃあお願いします」
なんかとんとん拍子に事が運ぶが、大丈夫だよな? 登録するデメリットってないよな?
俺は必要事項を書類に書こうとした。だが……悲しいかな文字が読めないし書けない。
恥ずかしながらそのことを伝えると『よくあることですから』と気にしないでくれた。
なるほど、識字率が元々あまり高くない世界……いや、世界規模かはまだ分からないけど、この国ではそうなのか。
とりあえず元々旅人で、各地を連れ回されていただけで、自分の出身が分からないとだけ伝えると、偉く同情的になってくれたのだが……そういう孤児とか奴隷のような境遇の人が多いのかね?
「登録、完了しました。しかし読み書きが出来ないとなると……紹介出来るお仕事は肉体労働ばかりになりますね。……ここだけの話ですが、最近この国の雲行きが怪しいからと、国外への護衛任務がかなり増えています。セイムさんも、出来ればそういう任務について行って国外で活動をした方が良いかもしれませんね」
「そ、そうなんですか……」
「近々、ある商人が大掛かりな移送を行うことになっています。護衛としてかなり大勢の人間を雇っていますが、セイムさんは戦えますか?」
「あ、それなら大丈夫です。元々そういう生業というか、経験者なので」
「あ、そうだったんですね。私はてっきり下働きを任されていたのかと……大丈夫ですか? その、ギルドの保証はあくまで依頼を受ける前と、受けた後だけ。依頼中の怪我については一切保証、補填は出来かねます」
うむ、このキャラぱっとみただの優男だ。もっとムキムキな感じにキャラメイクをすればよかったな。それこそシレントみたいに歴戦の戦士感をですね……。
「大丈夫です、こう見えて結構僕、やるんですよ?」
「そうですか……? では、ちょっと実戦の依頼を受ける人間への試験がありますので、それ次第で護衛任務にねじ込めないか問い合わせてみますね」
「あ、ありがとうございます。親切にして頂いて……」
「ふふ、私もギルドに就職するまで、それなりに苦労した身ですので他人事に思えなくて」
ああ……癒される。ここに来てから踏んだり蹴ったりだったからなぁ、人間不信になりかけていたよマジで。
……これで、この依頼に裏があったり、なんか変な企みに巻き込まれたら、今度こそ俺悪堕ちしそうなんだけど。
そうして、俺はなんだか生暖かい視線に見送られながら、試験を受ける為に受付のお姉さんとギルドの裏手へと向かうのだった。
それにしても……どうしてギルド内にいた他の人間が皆一斉にこっちを振り向いたのだろう?
……なぜ、なぜみんな俺を憐れむような目で見ているんですか!?
(´・ω・`)騙されねぇからなぁ!?