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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第三章 蠢く者

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第三十七話

 これは特定の時代や世代を貶める為の話ではない。

 だが、確実に『現代社会』の『地球』は、文化的に様々な配慮の元に成り立っている。

 それは例えば『ある程度の年功序列』と『若者の自由意思の尊重』を目指す方針であったり『子供への優遇』や『大人による指導は優しさを以って』等、見え隠れする配慮が社会を構成していると言っても良いだろう。

 簡単に言うと『子供はある程度甘やかされている』と言ったところだろうか。


 だが――異世界はそうではない。

 王制による支配はそうではない。

 勇者への優遇は絶対的ではない。




「お前達は! 事の重大さが分かっていないのか!!!!! 国境のダンジョンコアを奪われる……それがどれほど大きな意味を持つのか理解出来ない程の知能しかないのか!」


 ゴルダ王国、謁見の間。

 そこに呼び出され、多くの兵士や魔導師に見守られながら、召喚された勇者――即ちシズマのクラスメイト達が、国王から怒声を浴びせられていた。

 大人の、権力者の本気の怒りを、怒声を浴びせられ慣れていない地球の学生には、耐えがたい苦痛となる説教。

 例え大きな力を、大きな成長力を持つ勇者だとしても、その剣幕に震えていた。


「隠していたのだな? 本当はその謎の冒険者にダンジョンコアを奪われたと、分かっていたのだな? すぐに対処していればまだやりようはあった! だがもう既にあの渓谷は人を拒む、『休眠状態』に入ってしまった! コアを操作され、あそこが完全にレンディア国の領土に変化したらどうしてくれる! 既に我が国最大のダンジョン『夢丘の大森林』の内部にあったダンジョン『強欲の館』をシレントに攻略され大森林も休眠状態、その上ヤツも隣国に渡った可能性がある……本当にあの二つのダンジョンコアがレンディアに渡り操作されるようになってしまったら……」


 ダンジョンおよびそのコアについて、詳しい性能や活用方法を知らない生徒達は、その説明を求める。


「そんなこともまだ学んでいないのか! 教育はどうなっている!」

「は! 現在は戦力強化を最優先しておりまして……」

「そうか、それでシレントにはいつ勝てる?」

「……あの数値に勝つとなると、高難易度のダンジョンに挑ませる方法でも数年はかかるかと」

「……そうであろうな。よいか、勇者達。ダンジョンコアは無論、土地を豊かにする。だがそれだけではない『ダンジョンの支配権を得る』ことが出来るのだ!」


 王は、残りの説明を宮廷魔導師に任せ、未だ苛立たし気な表情を浮かべながらも、落ち着きを取り戻そうと清水を持ってこさせていた。


 ダンジョンコアによるダンジョン支配とはどういうものなのか。


 その一 ダンジョン内への転移

 その二 立ち入りの制限および許可

 その三 内部構造の変更

 その四 環境そのものを変化させる


 これは、文面以上の力を持っている。

 例えば『大量の人間をダンジョンマスターの権限で内部に送り込む』ことも可能。

 例えば『特定の派閥の人間だけを立ち入り禁止にして富の独占をする』ことも可能。

 例えば『悪質な罠をしかけ何も知らない人間を大量に虐殺する』ことも可能。

 例えば『豊富な資源をすべて有害物質や毒性の水源に変更する』ことも可能。


 そこまで説明され、ようやく生徒達はなぜ国王がここまで怒っているのか理解した。


「で、でも別にあの大森林を攻略された訳じゃ……」

「いえ、強欲の館の主は……大森林を管理していたダンジョンマスターを殺し、その支配権を得ていました。それほどまでに強力な相手だったのです……それを、シレントが倒してしまった。幸い、まだシレントはダンジョンコアの有用性をそこまで理解していない様子。そしてこのコアによるダンジョン支配は秘術中の秘術。よほどの術師でなければ知りえない、操作も出来ないでしょう……」

「だが、向こうの国の女王に渡されたら終わりだ。たちまちこの国は窮地に立たされる! 緊張状態が続いている我が国とレンディアの状況が……一瞬で崩壊するやもしれんのだぞ……幸い大森林は高原地帯にある。仮に大隊を送り込まれたとしても、そこを封殺することも出来るだろう。だが……焦土の渓谷が向こうの国のものになってしまえば、もはや我が国が国の外に出ることもままならなくなる! 完全に分断され、ただ疲弊していくことになりかねないのだ」


 水を飲み、幾分冷静さを取り戻した国王が語る。


「我が国は豊富な資源を後ろ盾にここまで発展してきた。それが何故、今こうして勇者を召喚し、ダンジョンコアの収拾に躍起になっているか分かるか?」


 国王の、怒りと言葉の重みに、ようやく自分達の浅はかな考えを自覚する一同が、必死に考えて返答する。


「……何か、対抗しなければいけない相手が現れた……ですか?」

「……そうだ。お前達も、しっかりと考えれば正解に近づけるではないか」


 幾分、気持ちを落ち着けながら、国王は自分たちの国が置かれている状況を語りだす。


「豊富な資源は、主に国の北部に広がる肥沃な大地がもたらす実りから来るものだ。そしてそれは、かつてその広大な土地を丸ごと肥沃な環境を持つダンジョンに変貌させたからなのだ。お前達を召喚した大森林……あの場所こそがこの国を支える土地だったのだ」

「それでも、僕達を召喚した。何が……あったんですか」


 クラスメイト達のまとめ役でもある、カズヌマが訊ねる。


「……ダンジョンマスターからの命令だった。かつて、我らが召喚したダンジョンマスターにより、広大な土地をダンジョンと化した。そのダンジョンを司っているダンジョンマスターが、ある時突然この城にやって来たのだ」


 クラスメイト達は、自分達に力を与えた存在、そして目の前で教師を無残にも殺した存在を、その光景を思い出し身震いする。


「『契約期限はもう終わる。そろそろ他のダンジョンのマスターも動き始める頃だ。僕達の代理戦争の駒としての働きをしてもらう時が来た』と告げに来たのだ。互いのダンジョンコアを奪い合い、力を増すことがダンジョンマスターの目的だったのだ。契約を遂行するとはつまり、他のダンジョンコアを手に入れてくるということ。それを達成出来なければ……この国を終わらせると脅迫してきたのだ」

「な、ならもう……シレントがそのダンジョンマスターを倒したんですし、解決じゃ……?」

「天然のダンジョンは、我が国にのみ存在するものではない。お前達も見ただろうが、国境の谷のように、どの国のものでもないダンジョンが世界中に存在しているのだ。そこのダンジョンマスター達もまた、独自に動き出していたらどうする? 人知を超えた存在が闊歩し、人々を支配していくことになるとは考えられないか? ヤツらは、決して友好的な存在ではないと、お前達も理解しているはずだ」

「それは……」


 地球出身の皆は、ダンジョンマスターに対して『邪悪な悪魔』という印象を抱いていた。

 もし、そんな存在が世界各地で動き出したら、人類がどうなってしまうのか、乏しい想像力でも容易に結末を予測出来てしまう。


「だから、言い方は悪いが手駒を欲した。他のどの国よりも先にダンジョンコアを集め、世界が混沌に飲み込まれるのを防ごうと考えたのだ。神公国レンディアは、独自にダンジョンを制作、ダンジョンマスターを持たないダンジョンを生み出すほどの国だ。そこが今、天然ダンジョンをも手にしたら、どんな暴挙に出るか……我らが何故ここまで怒りを露わにしているのか、理解してくれぬか、勇者達よ」


 それは、本当に世界を守りたいと、混乱を防ぎたいと願う、一つの国を背負う国王の言葉だった。

 その責任と尊い理想と意思をまざまざと見せつけられた生徒達は、ついに自分達の浅はかさを認めるのだった。


「ごめんなさい……申し訳ありませんでした、国王陛下」


 代表し、謝罪を口にするカズヌマと、それに倣う他の生徒達が頭を垂れる。


「今、打てる手を考えている。少々、過酷な試練を与えることになってしまうやもしれんが、お前達なら乗り越えられると信じている」

「はい! もう、失望はさせません! なぁ、みんな!」


 生徒達の士気が上がる。

 より一層、修行に身が入るだろうと、誰しもが確信していた。

 そうして、生徒達が謁見の間を後にし、国王もようやく肩の荷が下りたように、息を吐くのだった。




「所詮は子供よ。適当な作り話を全て信じ込みおった。余計な知識を与えなくて正解だったわ」

「左様ですな。これで、より一層従順に働いてくれましょう」

「うむ。手始めに連中には……そうさな、何人か力の育ったものをレンディアに送り込むのだ。向こうの新年祭までまだ時間はある。早々にあの国を、リンドブルムの戦力を削らねば、我らの勝利は危ういだろう」

「……つくづく、シレントを失ったのは大きかったですな。彼奴ならばかの国の十三騎士にも匹敵していたでしょうに……」

「まったくだ。だが、今は使えずともあの手駒たちを育てる他ないだろうな。術の提供もある、少々実験不足だが、奴らを強化するのに手段は選べない、か」

「その『例の教団連中』も独自にリンドブルムへの破壊工作は行っているそうですからな。ようやく……悲願が達成できますな、王よ」

「うむ。大陸統一……唯一この大陸だけなのだ、複数の国が大陸を治めているというのは。だから他大陸に軽んじられるのだ」


 そう語る国王と宰相。

 全て、デタラメだったのだ。

 今語って聞かせて話、ダンジョンコアの特性以外の全ての話は、完全なる作り話だった。

『馬鹿な子供をその気にさせる為の嘘』だったのだ。

 国王はただ、さらなる力を、土地を、領土を、自らのものにしたいと考えていただけなのだ。

 そこに大義もなにもない、ただの独裁者として欲望しか存在していないのだ。

 そうして生徒達は……子供達は、汚い大人の思惑に飲み込まれ、利用され、落ちていく。

 堕ちていく。








「やっぱり大きいわねー……ここってレティちゃんと……貴女のお家なの?」

「メルトくん、私のことはシュリスと呼ぶんでくれたまえ」

「……友達になったら呼んであげるね」

「そんな……!」


 シュリスさん達のクランホームに到着すると、メルトが改めて感心したように屋敷の周囲を見て回っていた。

 まぁデカい。まじでデカい。クランがどれくらいの規模なのかはわからないが、それにしたってこの広さは……。


「これ、実際何人くらいが住んでいるんです? 確かにこの広さはメルトじゃなくても驚きますよ」

「そうだね、少し前に問題のある三人を除名したから、今は四七人だね。まぁ持ち家があるメンバーもいるし、私も実家に戻る日もあるよ」

「結構大所帯ですが……それでも広すぎません?」

「そうかい? まぁ貴族出身の人間も多いからね、自然と広くなるのさ。清掃員や屋敷の維持をしてくれる人も住み込みだからね」

「なるほど……」


 それなら打倒なのか……?

 しかしそれでも、恐らく紅玉ランク、手練れの冒険者の中から選抜したであろう人間が五〇人近く在籍しているとなると、確かにとんでもないクランなのかもしれない。


「ちなみに私もレティも貴族出身だ」

「なんとなくそんな気はしてました」

「おや? そうかい?」


 なんか風格あるし。レティの方は甘やかされて育てられたような傲慢さだし。


「さて、では早速訓練場に行こうか。メルトくんの強さと戦い方を確認した上で、警備の人間を決めたいからね」

「了解。メルト、いけるかい?」

「模擬戦っていうのね? 木剣で戦うのよね?」

「そのはずだよ。大丈夫そう?」

「大丈夫よ、昨日も今日も依頼に出てないから元気いっぱい」


 そう言いながら、ニコニコと力こぶを作って見せるメルト。

 うん、凄く無邪気というか、緊張感ゼロというか。


「では相手は誰にしようか……確定で今回の依頼に参加するレティが適任かな?」

「私ですか? ……手加減とか苦手なんですけど」

「レティ、彼女は君が手も足も出なかったセイムさんの相棒なんだよ? そんな言葉が言える相手なのかい?」

「う……それは、その通りです」

「決まりだね。セイムさんにメルトくん! 手合わせの相手はこのレティだ! 訓練場に先に行っておいてくれないかな」


 決まりだ。相手はあのレティ、正直どれくらい強いのか、前回の手合わせでは何も分からなかった。

 速攻で油断していたところを完膚なきまで潰したから。

 だからこそ、しっかりと剣で勝負をしたらどういう結果になるのか予測不可能だ。

 だが……なんとなく、予感がする。

 この、無邪気に木剣をいじくりまわす娘さんが、とんでもないスペックを秘めている予感が。

 ……もし、俺が今……試すか。


「メルト」

「うん?」

「全力を尽くして勝ってみてくれないかな」

「うん、分かった」


 無邪気に、愚直に言葉を聞く彼女にこんな風にお願いしたら、どうなってしまうのか。

 それを試すことにした。

(´・ω・`)見とけよ見とけよ

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