第三話
(´・ω・`)第三話ですん
馬車に揺られながら外の景色を見ていると、普段あまり見ることのない自然豊かな風景に思わず声をあげそうになる。
途中、数度モンスター、さっきのダンジョンと呼ばれていた森で見かけた狼っぽいのとも遭遇したが、全て兵士達があっという間に倒してしまった。
ふぅむ……イサカよりも遥かに強いよな、ここの兵士達。やっぱり『最強にして』っていうのは、一般的な高校生であるあのグループ中では最強って意味なのか。
「なぁアンタ……いい加減返事しろよ。同じ境遇だろ」
「すみません、僕達は戦う力もない人間なんです。どうか協力願えませんか?」
すると、ムラキとカズヌマが痺れを切らし再び話しかけてきたが……。
「黙れ。子守りをする趣味はない」
「んな!?」
「く……」
先程熊のモンスターを一撃でぶっ飛ばす姿を見ていたからか、これ以上食い下がって来ることはなかった。
けど実際、異世界から勇者を召喚ってことは、なにかしらの特典というか、強くなれる要素が俺達にはあるのだろうか? あの性悪悪魔の叶えてくれた願い事が特典なのか? それとも……。
いつの間にか、馬車は自然溢れる風景を通り過ぎ、人の手の入った牧草地帯に入っていた。
やがて、ちらほらと人を見かけるようになり――
『開門!』
大層な賑わいの街……奥の方に見える大きな城から察するに、恐らく城下町に辿り着いたのであった。
すげぇ、ちょっとテンション上がって来た。街並みがマジでファンタジーゲームの世界なんですけど。知らない物が店先に並んでいたり、剣や槍を帯びた大人が歩いていたり、非現実的な光景が広がる様子に、ゲーム好きなマイハートがばくばくいってるんだが!?
おー! 肉がぶら下がってる! すげえ恰好のお姉さん歩いてる! 杖とか売ってる!
そうして街中を進んでいくと、予想通り城へと続く坂道を進み、またしても『開門』という号令と共に、城門が開かれた。
「到着しました。お降り下さい」
馬車の扉が開かれる。そして降り立ったその場所は、まさに城。ゲームに登場するような、レンガや石で建造された、歴史を感じさせる本物の城だった。
某ランドのような綺麗な城なんかじゃない、本当に戦いに備えているかのような有り様に、少し身が引き締まる思いだ。
「すげぇ……洋画みてぇ……洋ゲーにもこういうのあるよな」
「ああ、映画とかで見た事あるわ……」
「なるほどね。見た感じ、平時って訳でもなさそうだよ」
「えっと……戦いに備えてる感じなの……?」
「ちょっとあまり関わりたくないのだけど……安全は保障してくれるのよね」
「よくわかんないけどさー、とりあえずついてかない? 先進んでるよ」
あ、やべ。急ぎ追いかけそのまま城内を上へ上へと進み、謁見の間に通された。
既に多くの人間、主に貴族チックな服を着た人間や、いかにも魔法使いですよと言わんばかりのローブ姿の人間が集まっている。
「さて、では改めて歓迎させて頂くぞ、異世界の勇者達よ。私はこの国、そしてこの大陸全土に平和をもたらしたいと考えている。無論、元の世界に戻る為の方法はこちらでも探すつもりである。万が一中々見つからないことがあっても、其方達の身の安全、待遇は保障すると約束する。どうか力を貸してもらえないだろうか」
断る! と断言したいところなんですが、とりあえず……知識とか色々教わるだけ教わってからでもいいよな。正直言うと、とても面白そうなんで俺は『戻らなくてもいいかな』とか考えていたり。進学やら就職やら考えなくてもよくなるのは魅力的なんですよ。
だが、やはり俺とは違い日本で人生をエンジョイしていた元クラスメイト達は――
「それは当然でしょう。僕達が戻る方法は、僕達が探すだけでなく、貴方達も出来る手段全てを使って調べてください。それを約束して貰えるなら……お手伝いしますよ、少なくとも僕は。現状、それが一番効率も良さそうですし」
と、イサカが言う。合理的というかなんていうか。少し詰めが甘い気もするけれど。
「そうだな、そっちがしっかり探してくれるなら……俺も出来ることはやる」
「平和をもたらすとかはよく分からないんですけど、一つ約束してください。俺達に戦いをさせるつもりなんですよね? けど、戦いを好まない世界から来たんです、俺達。だから……戦いを嫌だという仲間が出てきたら、それを強制させることだけはしないと」
……さすが委員長、人格者だな。俺のこと疑いもせずに置いてけぼりにしたけど。
女子生徒達は、男子達が言ったことに異論はないのか、これ以上発言するつもりはないようだった。
「うむ……貴殿たちの要求は理解した。それで……シレント殿。貴殿は我々に協力して頂けるのだろうか。どうやら、貴殿だけは戦いというものに慣れている様子。力を借りることが出来れば、我らも、そしてこの彼等も助かるのだが」
「……見極める。生憎、この連中もお前達も、そしてこの世界のことも何も知らない。ここで学び、知った上で判断を下すつもりだ」
そう答えてやると、露骨に王の顔が歪み、そして側近と思われる男や、魔法使い風の男性が不満そうにうめいた。
「そう、であるか。分かった、ではまず諸君らの情報、素養やこれから得られるであろう力の方向性を調べたいと思う。召喚された者は、すべからく高い成長の器を持ち、希少な力を発現させると伝わっておるのだ。それを今、確認しておきたいのだ」
ほほう! やっぱり何か召喚された特典があるのか、あの悪魔とは別口で!
すると魔法使い風の男が、何やら巻物を大量に積んだお盆のようなものを持ってきた。
「皆さま、これは手にした者の将来性や現在の力の大まかな目安を表すことが出来るスクロールで御座います。どうか一人ずつ手に取り、現れた文字を私達に見せて貰いたいのです」
おお……つまりステータスを表示させるのですか! 基準が分からないのでちょっと参考になりそうなデータを見せて貰えないか頼んでみる。
「基準が分からない。参考にこの世界の兵士の能力を先に見せて貰いたい」
「なるほど、参考ですか。では……君、ちょっと来なさい。これを持ってみるのだ」
控えていた兵士がスクロールを一本受け取り、それを開いてみている。
そして魔法使い風の男がそれを受け取り確認し、その文字を空中に表示してこちらに見せてくれた。すげえ、もうその魔法だけで驚きなんですが。
体力 657
筋力 223
魔力 9
精神力 101
俊敏力 52
【成長率 低 これ以上は肉体が追い付かない】
うーむ? ゲーム的に言ったら体力がHPと防御力かね? 筋力が攻撃力で魔力が……MPと魔法の適正なのだろうか。精神力はなんだ? こっちも防御力だったりして。
俊敏力はそのまま素早さってことでよさそうだけど。そして最後の一文が成長率についての診断か。なるほどなるほど……。
「精鋭の兵士がこれくらいですな。召喚された者は皆、初めは高くない数値を持つと言われておりますが、その伸びしろが凄まじいと聞いております。ささ、是非皆様もご確認下さい」
クラスメイト達が早速受け取り中身を確認している。そういえば、イサカは『最強にして』って言っていたからな、恐らくこの中では高いとは思うが……たぶん、兵士にも勝てないんじゃなかろうか。事実、自分の能力確認をしていたイサカが驚いた表情をして『そんな』と小さく呟いていた。
「さて、では其方から見せて貰えないだろうか。名前をもう一度教えて貰えますかな?」
「はい。カズヌマ コウヘイです。この世界風に言うなら……コウヘイ カズヌマですね」
そしてカズヌマのスクロールの内容を空中に表示させてくれた。
体力 420
筋力 35
魔力 30
精神力 75
俊敏力 45
【成長率 最高 体力が著しく伸び、他能力はゆっくりと伸びる】
おー……『身体を丈夫にして』だったか、しっかりとその効果は表れているようだ。
「おお! 最初からそれなりの数値かと思えば、体力は新兵程度では追いつけない高い値を出しているとは! それに魔法の素養も少なからずあるようではないか!」
「これは……他の者にも期待が持てますな、王!」
「うむ! ささ、他の皆も見せてくれ」
続いて、腑に落ちないといった様子のイサカが歩み出る。
「イオリ イサカです。王様、これは……間違いではないのでしょうか」
「ふむ、間違いとは……」
表示された彼の能力はこうだ。
体力 421
筋力 311
魔力 201
精神力 91
俊敏力 91
【成長率 中 程々に全てがバランス良く伸びる】
お、強い。あの兵士さんより総合的には上に見えるんだが。だがあの端数、一のケタが中途半端な数字なのは……やはり『召喚されたクラスメイトの中では最強』ってことなんだろうな。
「これは! 凄まじい能力ではないか! イオリ殿はこの能力に不満なのですかな!?」
「ふむ……まさしく万能。魔法も自由に使えるようになるやもしれん……」
「……分かりました」
贅沢過ぎでは? たぶんあれだ、某ゲームの育成モードで初期能力が軒並み高い『天才型』ってヤツだ。普通に喜ぶべきだろうに。
「では、次は……お主から頼めるかな」
「シゲル ムラキです」
体力 250
筋力 310
魔力 0
精神力 75
俊敏力 90
【成長率 最高 筋力が著しく伸びる 他は平凡】
お、これはあれか、イサカの能力の元になっていると見てよさそうだな、1だけ低い能力が二つある。となると……魔力の元になったのは……。
「おお、こちらも凄い! 今後の伸びに期待が持てるではないか!」
「そうですね、これならばうちの若い連中に混じって鍛えれば、国一番の戦士にもなれましょう!」
お、なんだか王様が偉く上機嫌だ。なるほど、こういう伸びしろのはっきりした人間を求めていたのか。
それに続き、兵士の中から上等な装飾の鎧をまとった男が同意の声をあげていた。
教育係か何かの兵士長みたいなポジションだろうか?
「喜んでいいのかわからねぇが……悪い気はしねぇな」
「ふふ、期待しておるぞ。では次は……女性じゃな。そこのお主から頼もう」
すると、続いて呼ばれたのは、現在俺の中の『この腐れビッチが』ランキング堂々の一位に輝いている――
「は、はい。カホ イナミです」
体力 30
筋力 15
魔力 200
精神力 55
俊敏力 70
【成長率 高 魔力と精神力が伸びやすい】
【既に初級魔法を扱う為の心得を得ている】
まぁ妥当。ここにきて、表示される能力に追加の一文が表示されるようになった。
これは……貰った能力に付随するものなんだろうな。
「ほう、これは優秀な……最高の教育を施さねばならないであろうな」
「まさしく! ふふ、教え甲斐があるという物ですな」
「あ、ありがとうございます」
何も言うまい。そして、次に名前を呼ばれたのは、少しギャルっぽい、そして人のことを『おもり』だなんだの言ってくれたアイツだった。
「ユウコ サミエっていいますー。あんま期待しないてくださいねー」
もしかして本当に『日本に帰して』とかお願いしたのだろうか……?
体力 70
筋力 30
魔力 10
精神力 80
俊敏力 60
【成長率 最高 俊敏力が著しく伸びる】
【幸運 小さな幸福が頻繁に舞い込む】
「へー、本当に運良いんだー。アタシさぁ、運悪いから『運良くして』って頼んだんだよね、思い直して」
「ふむ? なにやらこの能力の由来を分かっているようだな」
「あ、こっちの話でーす」
なるほど。なんというかフワフワしたお願いというかなんというか。
結構頼み方次第ではチート能力になれた可能性が……。
「幸運、か。ふふ、それはむしろ我が国の事なのかもしれないな。では次は……」
「『シュウ ヒシダ』です」
最後の女子。あまりしゃべらないが、一番冷静に見えた生徒でもある。若干、俺と似た空気を感じるが、この子もあのグループといつも一緒にいた子だったはずだ。
体力 5
筋力 5
魔力 120
精神力 90
俊敏力 80
【成長率 最高 魔力と精神力と俊敏力が著しく上がる】
【決して行先を間違わない、旅人の星の加護を得ている】
「ほう! これもかなり珍しい能力ではないか。熟練の行商人の中には、旅の道しるべとなる星の加護を得ている者もいると聞くが……興味深い」
「なるほど……一緒にいることで他の面々の役にも立てる、という訳ですな」
「……そっか。『迷わずの力』ってお願いしたけど効果あったんだ。文字数削ったから心配だったけど」
ふむ、これは随分としっかり考えられた力に見えるな……中々侮れない。
彼女がいれば、連中がどこかで迷う可能性がないって訳か。
「さて……では、真っ先に森を抜けてきたシレント殿。其方の力を見せて貰えないだろうか」
「分かった」
さて、じゃあ俺はどうなるのだろうか? メニュー画面ではゲーム時代の数字が出ているが、さすがに同じ数字では――
体力 75320
筋力 41200
魔力 930
精神力 5210
俊敏力 1650
【成長率 低 ほぼ成長しきっているが、まだ多少の伸びしろがある】
【無数の異界の力をその身に宿している】
……あ、同じ数字だわ。微妙に字面は違うけどこれHPとかATKの値だわ。
それに……すげえ、ゲームだとカンストしてたのに、この世界なら一応まだ成長してくれるんか! というかインフレしすぎでは? 何、俺この世界支配出来ちゃうんじゃないの?
「ふむ、そうか。思ったよりもそのままの力なのだな」
「な……な……なんだこの力は……」
「スクロールの誤作動では? 異界の力……それが誤作動を引き起こして……」
「さて、どうだろうな。まぁ少なくとも――」
実験として、今の俺が全力で動くとどうなるか試してみる。
足に力を入れ、ゲーム時代のステップ回避をイメージして駆け出すと、一瞬で俺の身体が兵士達の真後ろに移動した。
すっげ。しっかり自分では認識出来ているけど、周りが辺りを見回している。
つまり、目にも止まらぬ速さなのか、これ。
「まぁ、一応俊敏さとやらはこれで証明出来たのではないか?」
「う、後ろにおりました!」
「おお! まさか、ここまで……魔人や悪魔、いや……あの国の連中にも匹敵するのではないか!?」
ふむふむ、こんな力に匹敵する恐ろしい相手もいるのか。あれ、悪魔ってもしかして森の洋館で殺したアレか? ということは聖水じゃなきゃ苦戦するかもしれないのか。
「なんだよあれ……俺達と違い過ぎるだろ……俺達もあそこまで成長出来るのか……?」
「なんだよ……そりゃあの熊のバケモンも瞬殺なのは当たり前だろ……」
「僕は最強のはずなのに……なんでだ、おかしい……」
「きょ、協力してもらえたら……」
「めっちゃ強いってことなの? よくわかんないだけど」
「多分私達千人分くらい強い」
いやだから知らんがな。申し訳ないが俺は君達と一緒に行動するつもりはないんです。
知識を得たらここを出ていくのは決定事項なので。
「ふ、ふははは……これで、我が国は安泰じゃ……くふ、くふふ……」
「で、では早速明日からこの世界について皆様に教育をしたいと思います! ささ、皆様も今日は長旅でお疲れでしょう、すぐに部屋へ案内させます」
「う、うむ! それに空腹であろう! ささやかだが宴の席も用意させて貰おう! それまでどうか部屋で休まれると良い」
もはや、完全に勝利を確信しているかの様子で、どこか浮かれた空気が漂う謁見の間。
何に勝利するつもりなのかは分からないが、ううむ、得られる知識は偏ったものだって考えておいた方が良さそうだな。もしも戦争やら争いが起きているとしても、内情は話半分に聞いておかないと。
その後、俺達は一人一部屋ずつ、大層豪華な個室に案内され、そこで俺はようやく装備一式を解除し、私服というか、戦闘モード外の装備に切り替え、ベッドに横になるのであった。
だが程なくして、部屋にノックの音が響いたと思うと――嫌な予感がするぞ、このパターン。
(´・ω・`)カクヨム使い始めたけどマジで使いやすくなってる……最初期に少し触って辞めたんだけどかなり快適になっててびびった