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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第二章 いくつかの顔と地位

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第二十九話

 床に倒れ伏す。

 無論、死んだふりというか、倒れたふりだ。

 恐らく先程の轟音は、こちらを無力化する為のもの。つまり、捕らえている男をギルドの人間ごと葬るつもりはないと考えられる。

 ならば当然、男を救い出すのが相手方の目的のはずだ。なら、必ずここに来る。


「……」


 真横で倒れる職員の様子を盗み見ると、耳から血は流しているが、呼吸が止まっている様子はない。つまり、生きている状態だ。

 もしかして、必要最小限の被害に留めようとしている? それとも……ギルド側に被害が出るのを恐れている?

 後者だった場合は……内部の人間による犯行の可能性もある。

 が、俺をここに配置させた以上、少なくとも俺を知る人間、レミヤや責任者のバークが関わっているとは思えない。

 ……やはり外部の人間、そしてギルドと本格的に事を構えたくない人間が裏にいるって訳か。


『あちゃー、扉が鉄製じゃん。これじゃアイツ絶対生きてるじゃん』


 その時だった。階段を下る何者かの足音と声が聞こえてきた。

 現れたのは、どこかリクルートスーツを思わせる、フォーマルな出で立ちの年若い娘。

 そしてその口ぶりから察するに……どうやら俺の予想はまるまるハズレだったことがわかった。

 こいつ、人質を殺すつもりだったのか。ならなんであんな中途半端な音響爆弾のような攻撃をしたんだ?。


「音の割に破壊力は少ないなー……ダメじゃんこれ。やっぱ外の世界の道具って微妙な物ばっかりなのかねー」


 そのままぼやきながら近づいてくる女。

 これ以上観察するのは危険だ、視線を気取られる。

 だがこいつは今、少し気になる発言をしていた。

『外の世界の道具』とはどういうことだ?


「んじゃ手っ取り早く……ばいばい」


 が、唐突に女の手に現れた槍が、横たわるギルド職員に突き出されるのを目にし、様子見を止めその凶行を食い止める。


「油断大敵だ」


 振り下ろされる槍を横から掴み取り、そのまま奪うように槍を引き、反対の柄で腹を殴りつけようとするも、寸でのところで女が身を躱す。

 早い。こっちの動きに対応していたぞ、今。


「うへ、倒れたふりかよ。アンタ、見かけによらずセコイ真似するね?」

「手段を選ばないだけだ」


 瞬間、氷瀑陣を発動、この地下牢唯一の出口を氷で塞ぐ。

 これで、逃げ場のないデスマッチだ。


「は!?」

「もう逃がさん。俺かお前が倒れるまで、どこにも行かせん」

「ちょいマジかよ! なんでこんな手練れが――」


 接近、同時に大剣を振り下ろし、余波で地下空間の床が完全に砕け散る。

 亀裂が広がり、先程の爆発よりも甚大な被害が地下空間に出る。

 だからどうした。ここでコイツを倒し、そして情報を得る。

 明らかにこいつは強者だ。シレント相手に立ち回れてる以上、その辺の人間とは格が違う。


「うわ!? ちょマジ!? なに、アンタのこと知らないんだけどウチ! どうなってんの!?」

「秘密兵器だ。悪いが――」


 アクティブスキル、自己補助系のスキルを全開にする。

 パッシブスキルだけじゃない、しっかり自己強化をする手段だってある。


「もう寝とけ」


 またしても逃れようとする女の足を、ギリギリで掴み取る。

 ゲームじゃねぇんだ。ゲームのふざけたステータスを持つ人間が実際の世界で戦うんだ。

 だから当然なんでも出来るんだよ。でかい鉄の塊をぶんぶん振り回すゲームの世界の人間だぞ。だから当然……掴み取った足を手放すなんてことはしない。

 ――そのまま振り回す。叩きつける。床に、壁に、天井に赤黒い染みが広がる。

 容赦なんてしねぇ、女だろうがなんだろうが、敵だ。


「ガ……ギャ……タス……」


 声が聞こえなくなるまで。そして息絶える直前まで、暴虐の限りを尽くし、女が動かなくなるまで暴力を止めることをしない。

 敵なのは確定してるからな、心なんて微塵も痛まない。


「……各保完了。おら、口開けろ」


 が、既に完全に意識を失っている女は、言うまでもなく口を半開きにしていた。

 そこに麻痺薬とポーションを突っ込み、一命を取り留めるようにしつつ、完全に身体の自由を奪う。

 その後、階段を塞ぐ氷を自ら砕き、地上へと脱出したのだった。


「任務完了だ。これが刺客だ。正直結構手こずった。こいつは油断できんぞ」


 地上に出ると、既にそこには多くの職員が集まっていた。

 そして……想像以上の惨状に、一瞬言葉を失ってしまった。

 集まっていたギルドの職員……だが、集まっている職員よりも『地面で動かなくなっている職員』の方が遥かに多いのだ。

 まさか……最初の爆音、地上ではここまでの被害を出していたのか……?

 逆に地下がどれだけ頑丈なのかと驚くが、間違いない……この女はとびっきりの危険人物だ。


「シレント様! そちらの人物が刺客なのですか!?」

「間違いない。捕虜の安否を確認に来ていた。どうやら地下にいた人間も一緒に最初の爆弾で消すつもりだったようだぞ。が、想像以上に地下が頑丈で計算が狂ったようだ。それに、地下の詳しい様子を知らない様子だった。ギルド内部の人間の犯行じゃあない」

「ええ……それは間違いないかと。それに……この女は見覚えがあります、手配済みの人間です」


 駆けつけたレミヤが、女の姿を確認してそう答えた。


「その女の名は『フーレリカ』。かつて王国騎士団に所属していましたが、事件を起こし逃亡、数々の破壊工作を起こしてきた危険人物です。よく……確保できましたね」

「正直、ここまで強いとは思わなかった。俺相手に何度か攻撃を避けやがった。それに、武器をどこからか召喚したように見えたな」

「な……収納魔法の込められた魔武具ですか……これはいよいよ……背後関係が怪しくなってきましたね」


 新たな情報入手。アイテムボックスのような存在はこの世界にもあるらしい。

 そして、それが恐らく『とんでもなく貴重』だということもレミヤの話から推理出来る。


「こいつにも麻痺薬を飲ませた。身体を検めた後は……魔法でも薬漬けでも良い、取れる全ての手段で情報を入手すると良い。国からの騎士もさすがにすぐに飛んでくるだろうが、引き渡すのは男だけだ。女はギルドで隠匿しろ」

「……そうですね、すぐにかん口令を敷きます」

「間違いなく国内部に黒幕がいるな。だがこれ以上は俺は関わらん。さすがにもう良いだろう?」

「はい……これ以上は流石に。シレント様、今晩の宿は私共の方で手配いたします」

「助かる。もう丸一日以上起きっぱなしだ」

「本当に感謝致します……では、すぐに案内致しますので」


 こうして、俺の長すぎる一日は終わった。

 それにこの刺客……気になる発言をしていたな。正直俺も情報を得たいところではあるが、これ以上深く関わるのは今は無し、だな。

 想像以上にシレントの存在が早くギルドに浸透したのだし、ここらで一度セイムに戻り、この濃密な時間を過ごした影響が人格にどう出るのか確認もしたい。

 それと……メルトがなんだか心配なんです。

 そうして、俺は案内された高そうな宿の一室で、長すぎる一日を締めくくる為に、快適そうなベッドに身を預けたのだった。






「……どれだけ眠ってたんだ、俺は」


 なんだろう、夢を一切見なかった。そして窓から差す光が、どう見ても朝焼けではなく夕焼けだ。

 もしかして俺、深夜から夕方まで眠り続けていたのか……?


「身体が固い……マジで寝すぎた」


 伸びをすると、背骨がボキボキと音を鳴らす。

 筋肉が伸びる心地よい感覚を味わいながら、首をコキコキと慣らし、周囲を改めて見回す。


「睡眠中に人が入った形跡は無し、と。にしても良い宿だなここ、シャワールームもあるし」


 さっそくシャワーを浴びる。

 昨日は気にも留めなかったが、汚れている身体を洗い流す。

 血と土、煤や脂にまみれた身体が、さっぱりと洗い流される。

 そうだよな……さんざん山を歩き回り、魔物を大量に狩り、火事現場に踏み入ったのだ。

 むしろこの状態でよく眠れたな、俺。


「……本来の目的は冒険者になること……名前も広められたし、一度役割は終わり、かね」


 そろそろ、ピジョン商会からも連絡が入るかもしれないし、オークションにだって見学を兼ねて参加したいと考えている。

 まぁ一番の理由はメルトだけど。たぶん、心細い思いをしているのではなかろうか。

 一応、昨日は他の冒険者だろうか、若い子達と一緒ではあったようだけど。


『シレント様、起きておいでですか?』


 タオルで身体を拭いていると、部屋の外から呼びかけられた。

 レミヤの声だな、これは。


「ああ、今起きた」

『失礼してもよろしいでしょうか』


 やべ、下だけでも穿かないと。


「問題ない」

「失礼します」


 下半身、フル装備。上半身、シャツのみ! よし、セーフだな!


「着替えの最中でしたか」

「シャワーを浴びていた。で、なんの用だ?」

「はい。昨夜の襲撃犯の捕縛の功績は、冒険者ギルドだけでなく、窓口を構えているほかの全ギルドも認めるとのことでした。正式に、蒼玉ランクが授与されましたのでご報告に参りました」

「……早いな、随分と」

「ええ、異例の速さです。正直、この件は冒険者ギルドだけでなく、複数のギルドで追っていました。そこに現れたシレント様が、ここまで事態を進展させたのは、正直疑わしい……という声も少なくありません。ですが、私の目からは貴方が疑わしい人間には見えませんでした。それは、バーク様も同意見です」

「随分と評価してくれたようだな。だが実際、俺も『早過ぎる』と思っている。元々、身分欲しさに冒険者になろうと考えていただけだった。だが、たった二日そこらでほぼ最高ランクに至ってしまった。少々……予定が狂ってしまった」


 本当は、時間をかけてでも名前を売り、セイム以上に目立つことで向こうでの活動の目くらましになるつもりだったんだ。

 元々ゴルダ国から逃亡中の身なのは、このシレントでの姿の俺だ。

 それがここで目立つことにより……俺は――リンドブルムとゴルダ間の争いの引き金になれるのではと考えていたのだから。

 戦争になれば、俺は大義名分を得られるじゃないか。

 あの女……腐れビッチを俺の手で殺すっていう大義名分が。


「予定、とは……?」

「ん……すまん、脅かすつもりはなかった」


 気が付くと、目の前にいたレミヤが青い顔をしていた。

 たぶん、感情が漏れ出ていたのだろう。


「少々、憎い相手のことを考えていた。が、それは二の次だ。一応、じっくり名前を売っていくつもりだったんだ。だが想像以上に早くそれが達成されてしまったからな。近々『俺のボス』に報告に戻るつもりだ」

「な……貴方程の人間が誰かに仕えていると……?」


 適当にでっち上げておく。街から離れる為に。


「俺の善性が高いと評価してくれているようだが、それはボスの影響だ。安心しろ、ボスはお人好しだ。少なくとも人々に仇為すような人間じゃない。もしそうなら俺がぶっ殺してる」

「……その言葉、信じますよ」

「ああ、そう報告してくれて良い。だが……もし、俺に用事があるのなら、この都市や他の街のギルドにでも、張り紙を出しておくと良い。俺か、俺の代理人が話を聞きに行くだろうさ」

「……なんらかの組織に属している、のですか」

「まぁ、そうだな。組織というより、まぁ家族みたいなもんだが」


 伏線。俺がある程度自由に動くための。

 これで、ひとまずシレントの下準備は出来たと思ってよさそうだな。


「もう、街を出るのですか?」

「そう遠くまで行くわけじゃないがな。世話になったな、レミヤ。一応、ギルドの窓口にも顔を出してくるさ。一応冒険者になれたんだ、しっかり遠くに出ることは受付にも報告する義務があるんだろ?」

「ええ、転属ではないにしろ、拠点となる街を離れるのなら、事前に報告が必要なので」


 セイムの時は、恐らくゴルダ国のギルドのお姉さんが手を回してくれたのだろう。

 俺が出国する為に護衛依頼にねじ込んでくれたくらいなのだし。

 ……もしかしてあのお姉さん、このレミヤみたいに結構特殊な立場だったんだろうか?


「では、これから報告に向かう。総合ギルドの責任者には『少し街を出る』とでも伝えておいてくれ」

「急、ですね。ですが私達に貴方を止める権利はありません。それに、無理やり留める力もありませんから」

「正解だ。学習したな、レミヤ」

「……逆らえば殺されるのでしょう? 私も自分の身は惜しいので」

「くく、そうかい」


 これも半分冗談だってお互い分かってる上の軽口だ。

 心地いいな、やっぱりこういう気安い関係っていうのは。

 これはシレントの気持ちなのか、それとも俺の気持ちなのか、どっちなんだろうな。


 俺は身支度を済ませ、宣言通りギルドへと向かう。

 昨日の今日だ、まだ多少ギルド内の空気が浮ついている様子だが、混乱にまでは至っていないようだった。

 が、俺が一歩足を踏み入れた途端、空気が静まり返る。

 居心地が悪い。が、ひとまず目的を達成するべく、冒険者ギルドの窓口に向かう。


「少し良いか?」

「は、はい……」


 お、何度か対応してもらってるお姉さんだ。

 ……やっぱりこの世の終わりみたいな顔してる……俺、もう冒険者になったのに……。


「そんな顔をしてくれるな、一応俺ももう冒険者だ」

「も、申し訳ありません!」

「いや謝らなくていい。少々、遠出をすることになってな。街を暫く空ける、その報告に来た」

「か、かしこまりました……」

「話は以上だ。邪魔したな」


 ざわめきを背負い、ギルドを後にする。




 どっちに向かうべきかな。この街、四方に出口があるけれど、北側がゴルダ国に向かう街道が続く、俺達が最初に通った門だ。

 で、東側の門がたびたび利用している、山や川が広がる、便利に使っている門。

 で、南門は基本的に王城に向かう為の出入り口で、普段一般人が向かうことがない。

 まぁ稀に、王城とリンドブルムの間にある森林で魔物が出た場合、討伐任務があったりするらしい。

 最後に西門。ここも通ったことのない門で、沿岸部に向かう街道に続くだそうだ。

 向かうと言ってもかなり距離があるらしく、港町までは馬車でも一〇日以上掛かるとか。


「……まぁ行くなら西だな」


 今回も、例の洞窟には既にあらかじめ転移用の鈴をセットしてある。

 西の街道を進み、程よい場所で川の洞窟に転移し、セイムの姿になる予定だ。

 が、今回はあの洞窟の近くで事件があったのだし、調査に来ている人間もいるかもしれない。

 念のため、深夜を待ってから行動した方がいいか。


「……で、明らかに素人丸出しの尾行をしてるお前らはなんだ?」


 街から出たところで、背後から気配を隠しもしない一行がついて来ていたので声をかける。

 てっきり、総合ギルドの人間、レミヤのような人間が監視でもしているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。

 振り返ると、そこには今のシレントに似た格好、冒険者というよりは傭兵という風合いの、ならず者一歩手前と言った様子の男達がついて来ていた。


「小耳に挟んでな? なんでも新参の冒険者が、異例の速さで蒼玉に昇格するって聞いたんだよ」

「で、そのからくりを僕達にもご教授願えないかと思ってね? どうだい、一枚僕達にも噛ませてくれないかな?」

「そのランクってだけで受けられる高額の依頼もある。構わないだろう? ここで死ぬよりは多少分け前が減っても協力すべきだろう?」


 マジかよ本当にこんなテンプレみたいなイベント起きるのかよ!

 こいつら冒険者か? それとも他のギルドの人間か?


「断る。もし敵対するなら殺しはしないが廃業する羽目になるがどうする」


 だが少なくとも、こいつらが素人じゃないのは分かる。

 俺も、シレントとしての経験のお陰で見て分かるくらいにはなった。

 足運びも、重心の動かし方も、いずれもすぐに武器を構え襲ってくることが出来るような体勢だ。


「そうかい。じゃあこっちも『協力したくなるまで』たっぷり説得させてもらおうか」

「早めの降参をおすすめするよ。悪いけど僕らは冒険者程優しくはないからね」

「出る杭は打たれると知れ。どんな理由、からくりがあろうが、早急に事を動かし過ぎたな」


 戦闘開始だ。






 戦闘終了だ。

 って早! マジでなんだったんだ今の時間!?


「命だけは! 命だけは!」

「足がぁ!? 足がああああ!!!

「頼む! 見逃してくれ! ギャアアアア!!」


 いやお前ら全然普通じゃん! 普通に強者でもなんでもないただの人間じゃん! 昨日の襲撃者みたいにかなりのやり手なのかと思ったけど、瞬殺じゃん!?


「顔の半分、片足、片腕。それぞれダメになったな? どうする、もう半分いっとくか?」

「調子乗ってました! てっきり詐欺かなんかだと思ってました!」

「だって、蒼玉なんてありえねぇんだ! あれは英雄のランクだ!」

「助けてくれ! 頼む、頼む!!」


 殺すか、助けるか。

 見逃したらどうなる? 俺を狙うか? 報復するか?

 それともギルドに報告、俺が処罰されることになるのか?

 ……いや、俺が心配することはなにもないようだな。


「おい! お前も追跡しているのならもっと早く出てきたらどうだ!」


 満身創痍の三人組ではなく、近くの森に向かい声を掛けると――


「……邪魔が入ってしまいましたね。このまま追跡するつもりでしたが」

「どうせ振り切られるぞ。で、このゴミ共の処理は任せていいんだな?」

「はい。薄々こうなるとは思っていましたが、想定外なのはシレント様がこの男達を殺さなかったこと、でしょうか」

「殺してもいいが、楽が出来そうだったからな。レミヤ、後は任せた」


 途中、男たちにからまれた辺りから、森の方から気配を感じ始めていた。

 レミヤも俺を追ってきていたのだろう。俺の情報を手に入れる為に。

 まぁ途中で全速力で移動するつもりだったから、常人では追いつけないだろうが。


「今度こそさよならだ。ではな」

「……名残惜しいですが、流石にこちらの処理がありますからね。道中の無事をお祈りしています、シレント様」


 最後の最期まで、慌ただしい日々だったな……シレントは。

 が、さっきの男の一人が言うように『出る杭は打たれる』という言葉はこの世界にもあるようだし、あまり目立つとトラブルが増えるのは当然なのだろうな。

 たとえ、隔絶した武力を持っていたとしても――








「……任務達成、お疲れ様でした。こちらがお約束の『エリキシルポーション』です」

「……助かる。……く……凄い効果だ。もう視力が回復した」

「こちらも腕の骨が繋がったようだ。一口でこの効果……残りはこのまま頂いても良いという約束だったな」

「ふぅ……初めてじゃないが、気味の悪い光景だな。足がトカゲの尻尾みたいにまた生えてきやがった。じゃあありがたく残りの薬は頂くぞ、レミヤの姐さん」


 シレントが立ち去った後、レミヤは倒れていた男達に薬を手渡し、通常では考えられない回復力で、一生ものの負傷を癒していた。


「しかし、本当に化け物じみた強さだったな。今後はこういう依頼は勘弁してもらいたい」

「まったくだ。誰が好き好んで三下の真似なんてするものか」

「それを差し引ても、命を半ば投げ捨てるような依頼は勘弁してほしい。俺達傭兵は基本、総合ギルドの特命には逆らえないんだ」

「ふふ、申し訳ありませんでした。ですがこれは必要なこと……あの方が本当に善性に傾いた人間なのか知る、最後の試験でした。それで……お三方の見立てでは、どうでしたか? シレント様を有事の際、止める事は出来そうでしょうか?」


 そう、この一連のやり取り、ごろつき紛いの人間による襲撃は、レミヤが、総合ギルドの上層部が仕組んだものだったのだ。

 ひとえに、リンドブルムを守るために。得体のしれない力の持ち主が、本当に信用出来るのか調べる為に。


「……俺らは傭兵ギルドの中じゃ中堅よりちょいと上、上澄みには届かないが、それなりにやれる方だと自負していた」

「それがどうだ、赤子の手でも捻るようにあしらわれ、このザマだ。次元が違う」

「あの男を止めるなんざ……うちのボスでも出来るかどうか怪しいところだな。おっと、今のは絶対にボスには言うなよ?」

「……『十三騎士』の一角でも止められない、と」


 戦力分析をする一同。

 その評価は、十分に警戒、細心の注意を払うべきだというものだった。


「十三騎士全員で掛かれば流石に止められる、打ち倒せるだろうが、あの男はまだ敵ではないのだろう? 願わくば、このリンドブルムの守護者として居ついてもらいたいものだ」

「……そう、ですね。本当に……」


 レミヤもまた、心の底から、シレントが味方でい続けてほしいと願っていた。

 自分を屈服させ、また不器用ながらも優しく、粗暴なだけではない、知性を感じさせるあの男が、同じ陣営にいて欲しいと。


「…………」

「レミヤの姐さん?」

「なんでもありません。では、動けるようになったのでしたら帰還しましょう」


 そうして、本当にこれでシレントから手を引くリンドブルム陣営なのであった。

(´・ω・`)長かったシレント編終わり!

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