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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第二章 いくつかの顔と地位

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第二十七話

 無事に総合ギルドに戻って来たメルト一行。

 だが、そこは出発前とは打って変わり、人が慌ただしく行き交い、どこか緊張感と焦り、そして怒号交じりの指示が飛び交う、戦場とも修羅場とも呼べそうな様子だった。


「な、なんだよこれ……なにか事件でもあったのか……?」

「ふむ……どうやら冒険者ギルドと……あれは錬金術ギルドか? あの二つが慌ただしく動いているようだ」

「あ、それだけじゃない。今受付の中に王国騎士の人も入って行った! 国も関わるような事件……大事件の予感がする……」


 三人がどこか対岸の火事でも見るように感想を言い合う中、メルトは何食わぬ顔で背負い籠を下し、冒険者ギルドに持っていく。


「あ、ええと……シグルトさんだ。シグルトさん、依頼が終わったんだー。途中で色々採ってきたから、査定してくれますか?」

「ん!? ああ、メルトの嬢ちゃんか。すまねぇ、今は見ての通り落ち着いて査定なんて出来ねぇんだ……依頼達成の報告だけして、荷物はそのまま預かり所に預けてきてくれねぇか」

「ええと……分かった。みんなに聞いてくるね」

「すまねぇな、せっかくの初任務なのに」

「何かあったの?」

「ああ……ちょっとな。でかい事件が起きていたんだが進展があった。これ以上は言えねぇ」

「そっかー。じゃあまた今度査定してね」

「ああ、約束する」


 大人しく引き下がるメルト。そして、今まさにてんてこ舞いな様子でまともに業務を遂行できない冒険者ギルド。

 シグルトは、そんな忙しさを理由に、初めての依頼達成報告に赴いた純朴な少女を蔑ろにしてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。

 だが、それも仕方がないことだ。

 ギルドが密かに追っていた『謎の魔物とその背後にいる組織』の情報が唐突にもたらされたのだから。


 元々、『少しでも魔物の特徴でも知れたら儲けもの』という気持ち半分だったのだ。

 同時に『あの冒険者志望の男が魔物の背後に関係する人間』だった場合は、そこから情報を得られるかもしれないから泳がせていた、というのもある。

 だが、まさか首謀者に繋がりそうな情報源を捕らえ、さらには魔物を全て討伐、異常個体のサンプルを複数運び込むという、解決まで一気に近づきかねない成果を上げられ、上層部も他の関係ギルドも、まさに蜂の巣を突いたかのような騒ぎになっていたのだった。


「ありゃ本物だ……とんでもねぇヤツがギルドに所属することになりそうだな……」








「お初にお目にかかります。首都リンドブルムを治める理事の一人、総合ギルドの長を務める『バーク』と申します」

「シレントだ」


 予想通り、ギルドの上役が接触してきた。

 俺がギルドに持ち帰った死体の一部と、恐らく黒幕に繋がりそうな男。

 それを持ち込み、事情をレミヤが説明すると、俺はすぐさま総合ギルドの上階に通された。

 で、今目の前にいる初老の男性が、この総合ギルドのトップ……ということらしい。

 明らかに、こちらが委縮してしまいそうな立場の人間。

 だがシレントの記憶と経験がそれをはねのけ、対等に会話を繰り広げる。

 この心の強さは欲しいな、今後も。

 この絶対的な自信と揺らぎ無さは、生きていく上で最高のスキルだと思う。


「事情はレミヤから聞いております。この度は無理難題とも言える課題を見事に突破し、この上ない成果を上げてくださり、心より感謝致します。後日、正式に謝礼を支払わせて頂きます」

「そんなことはどうでもいい。俺は冒険者になれるのか? お眼鏡には適ったのか?」

「それはもう……正式に他のギルドにも声明を出し、シレント殿には蒼玉ランクを授与したいと考えております。無論、精査には時間もかかる上に、他のギルドの意見を聞く必要もありますが」


 マジか。まぁ確かに『ギルドに貢献した人間に贈られる』みたいな説明は受けていたけれども。


「なら今は紅玉で構わん。蒼かどうかが決まるまで無職なんてのは真っ平だ」

「そうですな、それが良いでしょう。して……貴方は過去にどこで何をしていたのか、それを聞くことはやはり出来ないのですかな?」

「出来ない相談だな。俺はただ殺し、依頼主に貢献する。それ以上でもそれ以下でもない」

「……左様ですか。ええ、これ以上過去を詮索するつもりはございません。どうやら貴方は善性に傾いたお人柄だとレミヤから聞かされております故」

「ふ、そいつは良かった。話は終わりか? なら身分証明書になりそうなタグをくれ。そろそろ宿を決めないと野宿になっちまう」

「そういえば……今朝、この街にいらしたんでしたか」

「門番から問い合わせでもあったか?」

「ええ。『今日、物騒な男が総合ギルドに来なかったか?』と。ふふ、すぐに貴方のことだとわかりましたよ」

「そいつは心外だ。今度礼をしないといけないな」


 そうして、無事に冒険者ギルドに所属することが許された俺は、とんでもない騒ぎになっているギルドの受付に戻されたのだった。


「ふぅ……疲れた。腹も減った……」


 朝から何も食べてないんです……ついでに寝不足なんです……もう限界なんです。

 頭に浮かぶのは『肉』『酒』『ナッツ』です。

 そうか……シレントはナッツが好きなのか。


「あ! シレントだ!」


 その時、ギルドの受付でタグを受け取っていた俺の背後に声がかかる。

 振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべたメルトと――見慣れない若者の三人組の姿があった。

 なーんでこの世の終わりみたいな顔でこっち見てるんですかお三方。


「メ、メルト……知り合いなのか……?」

「うん、知り合いだよ!」

「そうだな、一応知り合いだ。そうだな? メルト」


 念のため、知り合い程度の間柄、親しいわけではないと強調する。

 今、セイムと関りが深く、相棒と見なされているメルトとシレントが親しいと思われるのは……都合が悪いのだ。

『話を合わせてくれないか』と願いを込め、強めにメルトを見つめる。

 すると、しっかりとこちらの意図を汲んでくれたのか――


「……一応……そうだね、一応知り合い……だよ……うん……」


 全然! 理解してくれませんでした! 凄い可哀そうな様子で落ち込んでしまった!

 フォロー……フォローしないと……怪しまれないように……。


「お前の相棒はどうしたんだ、メルト。『今は単独で行動中』なのか」


 今度こそ、伝われ! 俺は今『単独行動中』なのだと、そして『メルトの相棒であるセイムは他にいる、今は無関係な男になっている』のだと!


「あ! そっか、理解した! うん、相棒は今お外に仕事に行ってるんだー」

「そうか。なら精々相棒を心配させないように働くんだな。お前は世間知らずが過ぎる」

「うん、分かったよ。邪魔してごめんね、シレント」


 ようやく通じたのか、あからさまにニコニコ笑顔を浮かべながら去っていくメルトだった。

 ……いやぁ……さすがにフォローしますわ……俺の感情的にも、そしてシレント的にも……。

 あんな『この世の終わり』みたいな表情されちゃったら……ねぇ?








「なぁメルト……さっきの人がお前のお世話になっていた人なのか……?」

「あの風貌……恐らく凄腕の冒険者、いや傭兵だろうか……今日行われていたかもしれない大規模な討伐隊に参加していたのだろうか」

「なんか半端じゃない覇気だったよね、近くにいるだけで肌がひりつくっていうか……」


 買い取りが行えなかった為、採取物をギルドの保管庫に預けたメルト一行は、ギルドを後にし、冒険者の巣窟へと向かっていた。

 その最中、三人は先程ギルドの中で遭遇した、シレントについてメルトに問う。


「んーん、違うよ。あの人はただの知り合い、ちょっと一緒に同じ道を通っただけの人だよ」

「そうなのか……よく平然と話しかけられたな」

「うん、私がお世話になっている人と普通に話してたから、悪い人じゃないんだと思うよ」


 メルトは、必要だと感じたのか、作り話を語って聞かせる。


「もしかして、今日ギルドが騒がしかったのって、討伐関係の所為だったのかもね? 明日またギルドに行って、買い取り査定してもらいましょ」

「そうだな。だが、アクスブレの枝の納品だけでなかなか良い値段になった。まだ装備の新調には届かないが、たまには美味い飯でも食べに行きたいところだ」

「お、そうだな! だったらメルトが依頼前に興味を持ってたし、パイ食おうぜ!」

「あ、覚えてくれてたんだ。パイってどんな料理なの? 食べたことないから気になるなー」


 すっかり晩御飯への興味に意識を奪われたメルトは、シレントがこの後どうするのか、いつセイムとして戻ってくるのかを考えていたことを忘れる。


「まぁ見たら分かるって! パイが出てくる店……どこだ?」

「それなら巣窟の奥にある酒場じゃない? あそこ、元々季節のパイで有名だし」

「『ジャンガリ庵』か。少し変わった名前の店だが、あそこなら間違いないだろう」

「確か、あそこの店主さんって元々『ハムステルダム』に住んでたっていう話よね? お話聞けないかしら」

「あれってマジなのか? つーかハムステルダムなんて実在すんのかよ」


 以前、メルトがセイムに説明した『ハムスター』という精霊種が住まう国の名前。

 だが、それは半ばおとぎ話のような存在なのか、カッシュは国の存在を疑っている様子だった。


「存在はしている……と聞くな。国へ向かうのには周辺諸国からの信頼と信用、功績が必要だという話だが……過去に国へ向かい、外に出てきた人間がほとんど存在しないという話だ。店主がそこから来たという噂は……眉唾程度に考えた方が良いだろうな」

「えー……ねぇメルトちゃん。メルトちゃんはハムステルダムって実在すると思う?」

「うん、実在するよ。私の死んだお祖母ちゃんがそこの研究者だったって聞いたことあるもん。家に文献もあったし」

「うそ!? じゃあ本当にいるの!? 蛇口を捻ったら出てくる精霊種とかって!」


 メルトの言葉に興奮するリッカ。

 無論、カッシュもそれに便乗する。


「じゃ、じゃあ服のポケットにいつの間にか潜んでる精霊種ってのもいるのか? なんか、ポケットの上から叩くと二匹に分裂するって聞いたぞ、俺は」

「ふむ……俺は使ってない鍋の蓋をあけると、みっちり精霊種が詰まっていた、なんて話を聞いたことがある。吟遊詩人の笑い話の類だとは思うのだが……」

「本当らしいよ? 精霊種ハムスターは、人の近くに勝手に潜んで、勝手に増えて、勝手にいなくなる自由な存在なんだってさ」

「へ、へー……本当にいるんだ……ハムスター……」

「いったいどんな姿なんだろうな?」

「ふむ……有名な精霊種だと、フェアリーなどがいるが……似た姿なんだろうか」

「え? たしか挿絵だと……」


 すると、メルトが道端の地面に、ナイフでハムスターの姿を描き出す。

 だが、お世辞にも絵心があるとは言えないメルトは、試行錯誤の末――


「……なにこれ? 潰れた丸パン?」

「スライムの亜種みたいなもんか?」

「ふむ……空気の抜けたボールに目がついている感じなのか?」

「あれー? おっかしいなぁ……もっと可愛かったはずなんだけど……私、絵って描いたこと殆ど無いんだよねぇ……」


 まるで潰れた豆大福のような絵を地面に描いたメルトは、不服そうな顔でその落書きを足で消し、再び歩き出したのだった。


「行こう行こう、パイを食べに!」

「はは、そうだな」

「今の季節はどんなメニューがあるのか楽しみだな」

「デザートのパイがいいなー私。アップルパイとか」


 徐々に夕暮れに染まる冒険者の巣窟。

 楽し気に語り合いながら食事へ向かう、どこか心温まる光景。

 そんな初めての経験をしながら、メルトは心から『森を飛び出してよかった』と思っていたのだった――








 あの、そろそろ何か食べないと空腹で倒れそうなんですが。

 なんでまだギルドに拘束されてるんですかね……。


「――以上が、現在あの男を警備、監視している面々です。シレント様も、この警備に加わっていただけると助かります。無論、報酬は支払いますので」

「……そうか。ならまずは何か食い物を寄越せ、朝から何も食べていない。それに寝不足だ。精のつくもの、それと眠気に効くものを用意しておけ。もう宿を取って眠るつもりだった」

「それは……申し訳ありません、配慮が足りませんでした。地下牢の詰め所にお食事を用意しておきます。眠気覚ましの薬剤も手配しておきますので」


 なんでそんな過酷な労働環境みたいなことをしないといけないんですか!

 けど自分で『刺客から情報を得る』みたいなこと言っちゃったしな!

 都市の隣にある王城から、正式に騎士団が派遣されて連行されていくまでは冒険者ギルドで監視しなければならないらしく、その間の警備に俺も加わることになったわけだけど、確かに万全を期すなら俺を配置するのがベストではあるんだよな……。




「地下牢って割には結構綺麗だな」


 総合ギルドの中庭から、地下へ続く小さな階段を下ると、想像していたような薄暗い石造りの地下牢ではなく、他のフロアと変わらない内装の、照明が幾つも取り付けられ、地下とは思えない程明るい空間が広がっていた。

 既に、ギルドの職員とおぼしき人物が、件の男を閉じ込めている扉の前に陣取っている。

 内部に入り込む他の手段はないらしく、通気口や窓といった、外に繋がる空間は存在しないらしい。

 となると、確実に刺客は正面から向かってくるって訳か。


「……薬で眠らせられるか、俺と同じように麻痺薬でも使ってくるか……はたまた地下牢ごと爆破するか……考えられる手段はそれくらいか」


 そう独り言ちると、警備をしていた職員が小さく悲鳴を上げた気がした。

 覚悟してください。なんかこの事件、結構根が深そうなんで……普通に消されてもおかしくないぞ。


「シレント様。お食事をお持ちしました。そちらの部屋へお入りください」


 するとその時、レミヤが食事の乗ったトレイを携えてやって来た。

 ああ……ようやく飯にありつける……。


(´・ω・`)ハムスター大好きでござる


(´・ω・`)あと書籍化決定しました(活動報告にも書いてあります)

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