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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第二章 いくつかの顔と地位

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第二十六話

「騒がしい」


 大剣を大きく、身体ごと回転させながらなぎ払う。

 三六〇度全てをなぎ払い、切り刻む剣気を放った結果、今しがた暴走状態になりかけていた全ての魔物が――


「……で、なにが想定外なんだ?」


 血だまりに沈む。

 砦の跡地に佇む男を抜かし、この場の全てが今の一撃で死に至る。


「手駒はもうないようだが」

「な……なんだ……お前は――」


 瞬間、男の表情に恐怖以外の感情が過ったのを感じ取り、俺は全力で近づき、男の口に指を突っ込み、口の隙間にアイテムボックスから取り出した『麻痺薬Lv3』を流し込んでやる。


「自害する気だろうがそうはいかん。そのまま痺れていろ」


 口の中を探ると、案の定奥歯に小さなカプセルが仕込まれていた。

 それを慎重にほじり出し、他に異常がないことを確認した後に――


「……臭うな」


 麻痺で動けなくなった男を放り出し、すぐさま崩壊した砦に向かい――


「“氷縛陣”……間に合ったか」


 一瞬、砦から焦げくさい臭いを感じ取り、すぐに砦一帯を冷気の渦で閉じ込めてやる。

 魔法ではないが、便利な専用技が傭兵にはあるのだ。

 恐らくコンセプト的に『罠や毒や爆弾をフルに活用して戦う』という、なんでもありの傭兵っぽさを再現したかったから実装されたスキルだろう。

 所持してる罠をかなり消費してしまうが、こういう技があるのが傭兵の強みだ。


 流石に氷漬けとはいかないが、吹雪に一時的に閉じ込められ、くすぶっていた炎も消えたようだ。


「レミヤ、見ているな!? すぐに砦を調べろ、なんらかの証拠になりえる書類でもあるはずだ! こいつ、砦の崩壊と同時に証拠隠滅で火を放っていやがった!」


 遠くからこちらの様子を見ていたレミヤに指示を出すと、恐る恐る、周囲の死体、魔物の残骸を警戒しながら傍にやって来た。


「まさか、本当に……全て……」

「そいつは生きてる。ここの責任者だろう。強力な麻痺薬で行動不能にしてある。自害しようとしていた。コイツが奥歯に仕込まれていた」


 そう言って、毒薬と思われるものが詰まったカプセルを投げ渡す。


「これは……ある意味、これが一番良い証拠になりそうです。砦内の探索、承りました」

「任せた。俺は……そうだな、適当に魔物の頭だけでも切り離してくる。どうやら共通して額に何か細工が埋め込まれているようだ」

「了解しました」


 改めてこの惨状を見渡す。

 恐竜のような外見の魔物や、森で倒したライオンのような姿の翼竜に、マンモスのような鼻を持つ、これまた鱗に覆われた巨体。

 どれもこれも、一体でもいたら生態系を狂わせかねない大きさだ。

 それでいて、凶暴性も兼ね備えていることを考えると、この魔物を操ろうとしていた勢力は……本当に国一つとはいかずとも、リンドブルムを落とすつもりだったのかもしれない。


「……切り離したはいいが……どうやって持ち帰るか」


 アイテムボックスに収納するにしても、どうやって持ち運んだか追及されると面倒だ。

 もしかしたら、アイテムボックスのような魔法、道具だってあるのかもしれないが、少なくとも街中で見たことは一度もない。

 となると……適当な麻袋に詰めて担いでいくしかないか。

 俺も崩壊した砦に入り込み、使えそうな道具や袋を探す。

 すると、丁度魔物の飼料を運び込む為の台車や麻袋が、砦の裏側に積まれてあるのを発見した。


「よし、こいつでいいか」

「シレント様、何か見つけたのですか?」

「ああ、魔物の首を運び出す道具だ。この大きさなら数体分は持って帰ることが出来る。ついでに麻痺したあの男も連れて行きやすいだろう」

「なるほど……こちらも、暖炉で燃えかけになっていた資料や封筒、その他書類の数々を見つけました。こちらを持ち帰りたいと思います」

「そうか。では……水路の手配は任せた。想像以上に魔物の死体が湖に落ちてしまっている。川が血で汚染されるのも時間の問題だろう」

「そうですね。では……急いで戻りましょうか」


 眼前に広がる、深紅に染まり行くカルデラ湖。

 正直、地獄絵図としか呼べない光景だ。

 これ、下流の川まで真っ赤になるだろうな……あんな巨体の魔物を十数体もぶった切ったんだから当然ではあるが……技の選択、間違ったかもなぁ……。

 そうして、台車に魔物の首が詰まった麻袋と、麻痺して身動きが取れなくなった男、その男を縛り上げ見張っているレミヤも台車に乗せ、山を下って行くのだった。


「あの……私は歩きますよ」

「いや、乗れ。見張りも兼ねている」

「……ではお言葉に甘えさせて頂きます」


 よし、人力車シレント号、出発だ。







「なんだよこれ……血、か?」

「この匂い……間違いなく血だ。これはさらに上流で何かあったか?」

「ね、ねぇ……やっぱり今日は早めに依頼を切り上げましょう? なんだか嫌な予感がする……」

「うーん……そうだね。この匂い、私も知らないもん。どんな魔物か想像も出来ないし、ここまで真っ赤に染まるなんて……大虐殺だよ。今すぐ逃げる? それとも……アクスブレの木だけ回収する? 確か大ぶりな枝を六本回収するんだよね?」


 一方その頃、上流を目指し川の中腹を進んでいたメルト一行は、唐突に目の前の川が赤く染まっていくその様子に不穏な空気を感じ取り、依頼を中断するべきか否かの選択を迫られていた。


「アクスブレの倒木は……確かもう少し上流に進んでから、木がなぎ倒されてる森に入って行ったところなんだ。どうする、ここからならすぐだけどよ……」

「……川から離れることになるなら、危険からは遠ざかることになるのではないか? 最速で枝の採取を済ませて帰還すべきだと俺は思う」

「私は……出来れば早く帰りたい、かな……」

「けどよ、せっかくの機会だし、川から離れるなら問題ないんじゃないか?」


 意見が割れ、メルトの意見を求めるように三人の視線が向く。


「うーん、とりあえず川から離れるのは賛成。上流、もしかしたら水源で魔物同士の抗争でもあったのかも。だとしたらそのまますぐに川沿いに下ってくることなんてないと思うけど、何があるかわからないからね。それにこの辺りは見晴らしも良いし、一先ず身を隠すためにも森に入ろう? それで倒木の方に進んで、安全そうなら回収。もしおかしな気配があったら引き返す。それでどうかな?」


 メルトの折衷案とも取れる提案。だが今の状況では最適解とも言える案に、三人も同意するのだった。


「だな、まずは離れようぜ」

「ああ。そうだな、議論は後だ」

「森の中でも警戒、しないとね……」

「たぶん、大丈夫だと思うけどね。ここまでの出血、相当な大物か群れ単位の抗争だよ。戦ってすぐに動き回れるほど元気だとは思えないんだよね。アクスブレの倒木から手頃な枝を回収したら、すぐに帰ろっか」


 異常事態に対して、そこまで恐れていないメルト。

 それは森生活、それも魔物がひしめく天然ダンジョンの中での生活に慣れてきたが故の判断。

 だが、やはりその様子が、他の三人には『翠玉ランクの冒険者はやはり違うな』と思われるのだった。




「で、でけぇ……これ枝だけで他の木の半分の太さはあるぞ……」

「これを六本も持ち運べるか……?」

「ロープを括りつけて引きずって行けばなんとか?」

「それでいいと思うよ、だって丈夫だもん。なんなら坂道でころがしてしまおう?」


 四人が見つけた倒木は、その太さが木の範疇を越えていた。

 もしもここに地球の人間、シズマがいたら『屋久島の縄文杉みたいだ』とでも言っていてもおかしくない、そんな大きさ。

 メルト達は、その大木の枝の先、極力細い部分、とはいえそれでも大人の太ももくらいはありそうな太さの枝を、大きなノコギリで時間をかけて切断していく。


「ぜんっぜん切れねぇ! これノコギリにちゃんと刃ついてるよな!?」

「く! ああ! ゆっくりだが着実に切り進んではいるぞ……!」

「辛そうなら交代するよ? みんなで交代してやろう?」

「だな! 次は俺だ」


 三人が交代で枝を切断しようとする間、メルトは周囲の警戒を行っていた。

 巨大な魔物の気配や、何かしらの血の匂いが近づくのを察知しようと。

 だが、今のところ川側から漂ってくる臭いしか感じられず、少しだけ警戒を緩めていた。


「うーん……何か売れそうなもの……私も集めようかなー?」


 警戒しつつ、メルトは森の中に潜むお宝と呼ぶべきものを着実に集めていくのだった。




「やっと終わった! 腕がパンパンだぜ……」

「ああ……これ、下まで運ぶんだよな……気が滅入るな」

「本当ね……って、メルトちゃんは……?」


 六本の枝を採取した三人組は、周囲を警戒していたメルトの姿が見えないことに気が付く。

『もしや』と、最悪を想像して身震いする三人。

 だが耳を澄ませると、少し離れた場所から、自分達がさっきまで行っていたのと同じ、ノコギリで木を切る『ギコギコ』という音が響いてきた。

 その様子を確認しに向かうと――


「あ、三人共終わった? 私の方もいろいろ採れたよ」


 そこには、背負い籠を背負ったまま、何やら他の倒木を切断しているメルトの姿があった。


「おいおい、周囲の警戒はどうしたんだよメルト」

「うん? 大丈夫だよ、気配は何もないね。途中、遠くの方で荷車の音がしたけど、魔物の気配はなかったよ。ただ、荷車から濃い血の匂いがしたから……もしかしたら、どこか大規模な集団が、大きな討伐でもしてたんじゃないかなぁ?」

「ほ、本当か? なら……もう危険はないってことなのか?」

「確定ではないけど、少なくとも物凄い数の死体を運んでいる人がいたのは間違いないよ」


 それは、丁度仕事を終え、死体を運んでいるシレント一行の気配だった。


「なら……一先ずは安心ってことでいいのかな……?」

「ふむ……そうなるか。もしかしたら昨今の魔物の目撃報告、それを受けて上位ランクの冒険者達が討伐隊を結成したのかもしれない」

「あ、そういうことか。なら川の異常も、水源で大規模な戦闘があったからかもな」

「うん、その可能性が高いと思うわねー。だから安心して副産物を採って帰りましょ?」

「いや、枝がかなりの荷物でな……背負い籠に何か積む余裕なんてないんだ」

「あらら……じゃあ私が採ったものの売り上げ、みんなで分けよっか。私枝の伐採手伝えなかったし」


 メルトはそう提案するも、三人に全力で遠慮されてしまう。


「いやいやいや! 俺達が無事に依頼達成出来たのも、伐採に集中出来たのもメルトのお陰だろ!?」

「そうだよ、その採ったものはメルトちゃんの稼ぎだよ」

「そういうものなの?」

「ああ、そういうものだ」

「そっか。じゃあ倒木の採取依頼、その報酬は三人で分けていいよ? だって私、伐採してないもん。こればっかりは本当だよね?」

「いいや、それもダメだ。四人パーティで三分割なんて、そんな不正まがいな分割方法、よっぽど悪徳なパーティでしかやらないぞ。メルトは俺達をしっかりと監督し、安全に依頼を達成出来るように動いてくれた。立派に俺達を助け、依頼に貢献したじゃないか」


 グラントの熱弁に、メルトも納得せざるを得ない様子だった。

 そう、実際に伐採したか否かではなく、そこに至るまでの道中でどれだけ貢献したか。

 それを考えれば、メルトが報酬を一緒に受け取るのは当然なのだ。

 依頼とはそういうもの。貢献とはそういうものなのだと、メルトは学んだのだった。


「じゃあ……帰り道で『コレ』を見つけたら私の籠に入れて? その売り上げなら分けても問題ないよね?」


 そう言って、メルトは自分の籠の中から、細めの枝を数本取り出して見せた。


「それは何? ただの枝にしか見えないけど……」

「薪か? 確かに買取はしてくれるだろうが……微々たる値段だぞ」

「かさばる割に稼ぎにならねぇんだよなぁ……俺達も子供の頃はよく集めたっけ」


 三人の反応にメルトは首をかしげる。

『コレ』を知らない、いや『価値を知らない』ことに、納得がいかない様子だった。


「えー? これ『ファットウッド』だよ? この大きさなら一本で銀貨五枚にはなると思うよ? 掲示板には書いてなかったけど……前に行商人さんがそれくらいの値段で買い取ってくれたもん」

「マジでか!? それ、どんな枝なんだ!? どの木の枝なんだ!?」

「ふむ……ああ、焚きつけ剤になる樹脂の枝か!? だがそこまでの値段になるなんて聞いたことがないぞ……」

「たぶん、質の問題じゃないかな? ここってアクスブレの木も生えるくらい肥沃な山だもん。普通のファットウッドよりもかなり上質だよ? 採る人あまりいないんじゃないかな?」

「ね、ねぇ、それっとどうやって取るの?」

「んーと……ほら、あれみたいに、立ったまま枯れてる太い木。ああいう立ち枯れの木の枝の付け根とかがいいファットウッドの可能性があるんだ。ほかにも倒木の枝からも採れるよ」

「よっしゃ! 早速採ろうぜ! これならそこまで重くないし運びやすいしな!」

「ね。キノコみたいに崩れないもん。でも不思議よねー……この国って土地の実りが少ないって聞いていたんだけどなー」

「そうだな、実際この山やリンドブルム周辺くらいだろう、安定しているのは。これも人工ダンジョンによる恩恵だ」

「へー……どういう仕組みなのかしらねー?」

「おーい! 一本取れたぞ! 投げ落とすから気を付けてくれー!」


 そうして、メルトに教えられ一行はどんどん細枝を集め、持ち帰っていくのだった。

 果たして本当に高く売れるのか、それとも――

(´・ω・`)ファットウッド集めは作者が小学生の頃よくやってました。

(´・ω・`)削ると綺麗なのよね



追記

(´・ω・`)なんかカクヨムの方のブクマとかランキング凄い事になってた……恐い

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