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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十六章 西都の大ダンジョン

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第二百四十四話

「これは……そうか、この大きさなら確かに大人数で挑むべき相手か」


 扉の先に向かった俺達の前には、とてつもなく広大なコロシアムが広がっていた。

 遥か下の戦場では、五人の探索者達が、巨大すぎる『猫』の猛攻から逃げまどっていた。

 そう、猫だ。巨大な猫が、このコロシアムの七割を埋めるようにして横たわっているのだ。


 まるで、ちょろちょろ動き回る虫を手で払うように、探索者達を弄ぶように前足を動かしている。

 敵意というよりも遊んでいるだけのようなその光景に、一瞬気が緩んでしまうも――


「あ!? あれまずいよ! あの人死んじゃう!」


 その瞬間、じゃれつくように振るわれた前足に、一人の探索者が捕まった。

 猛烈な勢いで壁にめり込み、動かなくなってしまっている。


「降りよう。俺達もあそこに向かうよ。シーレはできれば、ここか、もう少し狙いやすい場所に移動して、高所からあの猫を狙撃して欲しい」


「は、はい……心情的に凄く気が乗りませんが……容赦は出来ませんからね」


「ね、可愛いもんね大きいけど。ただ……たぶん強いよ、あの子。腕の動きとか、目で追うのがやっとだもん」


「確かに、猫って元々俊敏だしなぁ……あ」


 いや、だが逆に『メジャーすぎる動物』だから攻略方法も簡単に思いつく上に『必要な手段』もすぐに思いつく。

 そう、つまり……マタタビだ。


「メルト、昔お風呂屋さんで飲んだ飲み物、楕円形の丸い果物、動物がよく食べる果物、覚えてる?」

「えーと……あ、中が緑で黒いつぶつぶの種があるやつね。あれ『モキナシ』っていうのよ」


 恐らく、地球でいうところの『サルナシ』や『キウイ』の仲間だ。

 そしてこいつらはマタタビの仲間なのだ。


「メルト、そのモキナシの実とか茎とか、乾燥しててもいいから持ってない?」

「あるよー、薬の原材料だからね、いっぱい保存してるよ」


 そう言うと彼女は、自分の収納魔導具から干された蔓状の植物を取り出して見せた。

 俺の予想が正しければ……メルトの持つ植物でも代用できる。


「メルト、今から俺が下に降りて彼らに助太刀してくる。シーレは高所からの狙撃だ。メルトはその間、ここでその植物を粉々にして、あの猫に向かってふりかけてやってほしい」


「え? わ、わかった!」


「なるほど……確かに効きそうですね。では、私は狙撃ポイントを探ります。シズマ、お気をつけて」


 役割を決め、俺はこの巨大なコロシアムを駆け降りる。

 近づくにつれ、その巨体がどんどん大きくなっていく。

 若干、猫らしい、臭くはないがいい匂いというわけでもない、猫特有の癖になるような香りがしてくる。


 なるほど確かに、これはシーレが攻撃を躊躇うのも仕方がないと言える。

 それだけ、可愛いのだ。大きくてもふもふなのだ。だが――その考えを一瞬で消し去るような惨状が、目の前に飛び込んでくる。


 壁が陥没し、その真ん中で潰れた人間が、ドロリと地面に赤を広げている。

 その光景に他の四人が青ざめ、逃げるように散り散りに動き出し、それを追いかけるように、無邪気に巨猫の前足が振るわれる。


 その度にコロシアムの観客席が崩れ、悲鳴が上がる。

 この大きさ……今まで戦ってきたどんな敵よりも大きいな。

 俺はすぐに剣を大剣に持ち替え、いつものように『一撃に最大の威力を乗せる一連の行動』を取る。

 様々な職業のバフを全て自身に重ね掛けをし、大きく大剣を振りかぶる。

 ここまででかい身体なら、はずすことはない。

 この外見の所為で若干の罪悪感も湧くが、これは確実に倒すべき『敵』なのだ。


「戦場で動ける人は全員退避! シーレ! 退却の援護を頼む!」


 俺は戦場で逃げまどう探索者に大声で指示を出す。

 するとほぼ同時に、高所からシーレの援護射撃が放たれ、それが巨猫の意識を引き付け、戦場で逃げまどう探索者達が、大急ぎでコロシアムの観客席に逃げ込み、更に階段をを上り高い席へと移動していく。


 そんな中、戦場の崩壊した壁には一人、血まみれの人間が取り残されていた。

 ……生きているかどうかは分からない。ただ、せめて俺の攻撃が彼を巻き込まないように、角度を調整する。


「ニャアアアアアアアアアアアアアアアア!!! ギニャアアアアアアアアアアアアア!」


 突然、戦場で暴れていた巨猫が大声を上げ、その声量に耳が痛む。

 全身の表皮をびりびりと震わせる絶叫に、何が起きたのかと見やれば、シーレの攻撃に片耳を負傷していた。

 まるで、去勢を受けた野良猫のように、耳に切れ目が入っている。その痛みに絶叫したのだろう。


 すると次の瞬間、巨猫は身体を小さく屈むような姿勢を取り、俺にはそれが『これから跳躍する』と言っているかのように見え、大急ぎで大剣を薙ぎ払い、バフを大量に乗せた一撃『ゲイルブレイク』を放った。


 これまで、巨大なドラゴンも、骨のドラゴンも、ほぼ一撃で致命傷を与えてきた大技。

 だが――俺の一撃は、跳び上がろうとしていた巨猫の後ろ脚を微かに切り裂くだけに留まった。

 まるで、体毛に攻撃を逸らされたような、そんな印象を受ける。

 が、それでも跳び上がろうとしていたその動作をキャンセルさせ、後ろ脚に小さくない傷を負わせることに成功していた。


 更に、その傷が痛いのか、もう跳び上がろうとすることもなく、その機動力も失われつつあるように見える。

 だが……今の攻撃で脚の機能を弱めることしかできないって、相当強いぞこの巨猫。

 たぶん、殺すつもりで挑んでも、相当手間取るはずだ。


「シズマーーーーー!!!! 粉出来たよー!!!!」


 その時、遥か頭上からメルトの声が降ってきた。

 彼女はコロシアムを駆け下り、砕かれた乾燥植物を小瓶に入れてこちらに見せてくれた。


「これ、このデッカニャンの顔の近くにふりかけるのよね?」


「そういう愛称をつけると倒し辛くなるからやめよう。よし……じゃあその役目、メルトにお願い出来るかな?」


「分かった。シーレが今、気を引いていたけど、今はシズマが狙われてる……どうする? 待ち構えて、近くに来た時に顔にかける?」


「……そうだな、攻撃を誘って、直前で避けるよ」


 本来、俺の装備構成は『回避特化』なのだ。その気になれば、どんな攻撃も『スローモーション』のように感じられ、その遅延した時間を自覚しながら、余裕を以って攻撃を回避することが出来るのだ。


 久しぶりに回避盾としての役割を全うする機会だ。無論、ここまで巨大な相手なんて想定していない。怖くないと言えば嘘になる。

 だが、やるしかないのだ。


「メルト、観客席の影に隠れて、少し離れて。今から猫を引き付ける」


 静かに頷く彼女から離れ、足の痛みとシーレからの牽制で、俺を狙うべきか上に向かうべきか迷っている様子の猫の視界に入っていく。


「おらこっち見ろ! もう一回攻撃するぞ!」


 大剣を大きく振り回し、目立つように大きな声と身振りで気を引く。

 すると、その巨大な顔がこちらに向いた。

 元々は可愛かったであろう顔。だが、今は牙をむき出しにし、目を細め『シャーー!』という威嚇の声がこちらの全身を震わせる。


 そこで俺は更に、大剣を巨猫に向かい振りかぶるような動作を繰り返して見せた。

 つまり挑発だ。

 するとその瞬間――


「シャアフサアニャグルルウニャアグニャア!!!」


 もはや聞き取れない声を上げ、こちらに駆けだしてきた。

 その速さたるや、一瞬で前足がこちらの眼前に迫ってくるほど。

 この停滞した時間の中でも、かなり早くこちらに向かってくる前足。

 それを、身をかがめて回避する。


 空を切る前足の風圧で、着ている服が大きくはためく。

 ゆっくりとした時間の中、メルトがこちらに駆けよってくる姿も見える。

 前足の攻撃を空振り、そのままの勢いで猫の身体が観客席に飛び込んでくる。

 その眼前目がけてメルトが小瓶を投げつけ、瓶から大量の粉が、猫の顔にかかる姿が目視出来た。


 急ぎ距離を取り、安全地帯まで退避したところで、ようやく体感時間が正常に戻る。

 次の瞬間、停滞した世界の中、籠って聞こえていた猫の叫び声が元の大きさで耳に刺さる。

 そしてそれが、次第に『落ち着きを取り戻す』。


「……あれ、デッカニャンがおかしくなった……」


「そうだね、これがあの粉の効果だよ。猫はこの粉に弱いんだ。たぶん、メルトもいっぱい吸い込むと良くないかも」


「そうかも。なんだか少し、ふらふらするわ」


 巨猫が、瓦礫に頭を突っ込んだまま、まるで甘えるように身体をくねらせる。

 その度に観客席が更に破壊されるも、それを気にすることなく、どこか甘えた声で転がり続けていた。


「さてと……じゃあ倒すのに必要な攻撃は……『これ』しかないか」


 俺は『いつの間にか引き継いでいたスキル』を初めて発動する。

 絶対、普段は使えないスキル。もしかすれば、意図せず人を殺めてしまうかもしれない、そんな恐ろしい効果を持つスキルを。


『弱者必滅』


『攻撃に即死効果を付与する発動確率は自分と相手の強さに依存』

『最大で70%の確率で発動し発動しない場合は猛毒状態を付与またボスに即死は発動しない』

『状態異常耐性がある相手には永続スリップダメージ(極小)付与』


 そう、これはスティルから引き継いだスキルだ。

 この巨猫がボスだとしても、凶悪な毒やスリップダメージを付与する。

 そして直接触れる必要がある上に、発動するかどうかは確率による。

 この猫相手にどれくらいの確率で発動するかは分からないが、この状態の猫はもう、俺を攻撃出来ないはずだ。


「メルト、俺の傍に絶対に近づかないように。触るのもダメ」

「わ、わかった」


 俺は静かに、ぐにゃぐにゃと動く猫の尾に触れる。

 ふわふわの大きく太い尻尾。俺の身体よりも大きなその尻尾を、繰り返し撫でる。

 まるで可愛がるように繰り返し、何度も触れる。


 この行為が、大きな愛玩動物を愛でるようなこの行為が、相手を殺すための攻撃だなんて、凄く、嫌な気分になってくる。

 だが、俺は何度も何度も、繰り返し尾を撫でていく。やがて――


『ニャ……ア……ニ……ァ……』


 尾が、力なく地面に横たわる。

 客席を埋めるような巨体が、動かなくなる。

 やがて、巨体全てが光の粒に変わり、天へと昇っていくのだった。

 それを確認し、急ぎ俺はこの物騒なスキルの発動を止める。


「ふぅ……怖い力だな、これ」


 スティルはこれを自由に使いこなして生活しているのか。正直、まともな精神ではこのプレッシャーには耐えられそうにない。


「二人とも、無事に撃破できたよ」


 すると、シーレが上階から、先に逃げた四人の探索者を引き連れて降りてきた。

 その探索者達は、大急ぎで戦場の血まみれになっている仲間のところへ駆け寄っていった。

 だがどうやら――


「……ダメだ、もう息がない」

「マジかよ……だから言ったんだ……」

「攻撃を仕掛けるなんて言い出さなかったらこんなことには……」

「報酬に目を奪われたんだな……馬鹿野郎が……」


 既に、こと切れていたようだ。

 もしかしたら、俺が大急ぎで最高級の薬を使えば間に合ったかもしれない。

 だが、赤の他人に自分の力の一端を、そんな薬の存在を教えるつもりはない。

 申し訳ないが、ダンジョンに挑む以上、自己責任なのだ。


「そちらの皆さん、この魔物の落とした品は俺達が貰っても構いませんね?」

「あ、ああ。もちろんだ。すげぇな……あいつを倒せたのか」

「『神猫ヌワンモウ』を倒せたのかよ……何を落したのかだけ教えてくれないか?」


「いや、やめとけ。俺達にその資格はないだろ? 俺達は結果的に『選択と引き際』を間違えたんだ。本来なら……アイツと一緒に、死んでいたはずだ」


「ぐ……そうだな。俺達は……実質死んだのと同じ状態だからな。ここから先に挑む資格もなにもないんだ。大人しく帰るよ」


 何やらこだわりでもあるのか、四人の探索者達は、ゆっくりとコロシアムの階段を上り、入り口の扉から出ていってしまった。

 いや、もしかすれば……このダンジョンには『何かしらのルール』があるのかもしれない。

 その証拠に、四人がここを出ていったと同時に、戦場の中央に突然地下へ向かう階段が生まれていた。


「不思議ねー? 本当に不思議なダンジョンだわ!」

「ふむ……何かしらの仕組みで、戦闘に貢献したパーティを判別しているのでしょうか」

「ありえるね。俺達だけになったら道が生まれたんだから。とにかく、降りてみようか」


 と、その前に。俺は消えた巨猫の遺体があった場所から、二つの残された品を回収する。




『追憶“人を愛する者”』

 こことは違うどこかの記憶に意味はない

 ただ芽生えた感情に従い人と歩む道を選びし者

 繰り返される歴史を観測し続けた勇気ある者の記憶




『灰の巨大真珠』

 本来美しく輝いていた真珠に負の感情が混ざり変質した品

 だが負の感情が価値を下げると誰が決めたのか

 より美しく深い輝きを放つこの品は人々を蠱惑し魅了する




「なんだか凄く価値のありそうな宝石が出たね。なんだかんだで、結構換金出来そうな品も溜まってきたね……」


「おー! じゃあ、こっちの国でもオークションとかに出すのかしら! 私、学んだのよ。お金が多いと、心にゆとりが持てるのよ! 人にもっと優しくなれるのよ」


「シーレさん、この純真で人類の規範とすべき心の持ち主である彼女を見てどう思いますか」

「素晴らしい子だと思います。なのでこれからも私達が一緒にいなければいけませんね」


 こちらの報告にメルトがとても素晴らしい答えを返してくれました。

 これが……俗世に汚れていない、無垢な子の素直な言葉なのか!


「よし、じゃあ今度こそ地下に向かおうか」


 そうして、俺達は地下へと、次の階層へと向かうのであった。

 ……それにしても、毎度何かしらのボスのような敵を倒した時に手に入る、この『追憶シリーズ』はなんなのだろうか?

 こことは違う世界の記憶……? よく分からないな。

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