第二百四十一話
(´・ω・`)お待たせしました、新章開始です
俺はその夜、シズカと再会したことを二人に告げることなく、酒場に戻った。
メルトにとって、シズカの離脱は『自分が騙された結果』なのだ。
その責任を感じさせたくない。過保護かもしれないが、お俺はその考えの元、自分だけの秘密にすることを選んだ。
とにかく、結果的にあの悪質な観客は『この酒場』から消えた。どんな結末であろうと、依頼が達成された以上、俺は大人しくここのオーナーであり、俺達が借りている借家のオーナーでもある宿の女将さんに報告を済ませ、借家に戻っていた。
「シズマー? どうかしたのかしら? なんだか少し元気がないわ」
「んー? ちょっと疲れたのかも。気疲れってやつだよ」
「確かに、本来こういった人のトラブルにシズマ本人として立ち向かうのは、中々緊張するかもしれませんね。本来、まだ学生ですからねシズマは」
「そういうこと。本来酒だって飲めない年齢なんだしね。ふぅ……さて、この家の部屋は二つしかないけど、どうしようか? メルトとシーレが一緒の部屋で、俺が一人部屋にするかい? それとも二人が一部屋ずつ使って、俺はリビングのソファでもいいよ」
戻った借家では、リビングに座り心地の良さそうなソファが設置されており、そこで寝起きをしても、別段身体を痛めるようなことはなさそうだった。
そう提案したのだが――
「はいはい! 私に名案があるの! 三人で一緒に寝るのよ! ベッド、詰めたらいけると思うの」
「んー、私はそれでもいいですよ? シズマ、どうします?」
「却下で。じゃあ、メルトとシーレが同部屋、俺が一人部屋でいいかな?」
「えー……三人でギュって寝たらきっと幸せよ?」
はい、たぶん幸せだと思います。特に俺が。
だがしかし、そんな無邪気な提案に乗っかることを、俺のプライドが許さないのです!
というか、乗ったらシーレになんて言われるか……。
「じゃあやっぱり男女で別れようか。俺は疲れたからもう寝るよ。明日以降の予定は……明日考えよう」
「えー……分かった。シーレ、寝よう?」
「ええ、一緒に寝ましょうか、メルト」
二人と別れ、それぞれの部屋に入る。
簡素な家具が置かれているだけの部屋ではあったが、借家としてしっかり手入れがされているのが見て取れる様子だった。
埃っぽくもないベッドに身を投げ出し、目を閉じ考える。
もちろん、それはシズカのことだった。
恨まれていた。だが同時に、彼女から向けられる感情に、他のものが混じっていた気がした。
それは例えるなら、小さな子供が、親に向かって『凄いでしょ』と、何かを自慢するような、そんな……いじましいような、なんともいえない感情。
俺は、確かにシズカからそういった感情を感じたのだ。
「……だとしても、原因は俺なんだよな」
キャラクターが感情を持った時、それが負の感情ではないと、誰が保証したのか。
誰もしていない。皆、俺を恨んでいてもおかしくないのだ。
好奇心に駆られ、キチンと育てる為のプランも用意せずに作ったキャラクターが沢山いる。
生産職のキャラがそれだ。有用な装備や金策にならない品を生み出すキャラクターは、いらないアイテムを持たせておく『倉庫』として活用していたのだから。
シズカは、それに近い運用をしていた。育てようとして、期待外れだからと放置したキャラなのだ。
だが、もし育てていたら、このような結果にならなかったのだと思う。
だから俺は……今一度、自らの意思で、彼女の前に自分の力で立たなければならない。
天井を眺めながら、うっすらと『今自分がすべきこと』を見定めていた時だった。
部屋の扉がノックされ、声をかけられた。
『シズマ、私です。少しいいですか?』
「ん? いいよ、入って」
シーレだった。何か話があるのか、そのまま彼女を部屋に招き入れる。
既に寝巻に着替えていた為、やや薄手の生地に身を包む彼女を見るのが少しだけ憚られる。
が、そんな内心など知らない彼女は、そのまま俺の隣、ベッドに腰かけた。
「……シズマ、何かありましたね? 話してください」
「ん? 何かって?」
俺は、とぼけることを選ぶ。
メルトだけじゃない。シーレもまた、シズカと同じく『元は俺のキャラクター』の一人だ。
つまり、元はシズカも同士だと言える。そんな彼女の離反は、少なくない衝撃を彼女に与えたはずだ。
だから、黙っておく。黙っておこうと、決意したのだが――
「……シズマ、私は貴方の家族です。庇護されるだけの存在ではありませんよ、お互いに。話してください。私は、貴方の姉であり、母であり、娘であり、妹であり……共に歩む者だと思っています。だから、話してください。私は、大丈夫ですから」
ただ静かに、言い聞かせるように語りかけるシーレの瞳には『決して譲らない』という意志が宿っていた。
その言葉に、意志に、俺は折れる形で……今日、シズカと会った時の詳細を全て語ったのであった。
「なるほど、あの後そんなことが……恐らく、シズマが感じた彼女の気持ちは間違っていないと思います。私達は皆、心のどこかで貴方に……創造主であるシズマに認められたい、良いところを見せたいという気持ちがあります。シズカにも……それがあるはずなんです。ただ……それが負の方向に傾いている」
「そしてそれは、俺を倒すという方向で、俺に目に物見せてやるという方法になりつつあると思ってる。何かしらのアクションを起こされる前にここを離れた方がいいかもしれない」
「いえ、私達の本来の目的は強力なダンジョンコアを集めることです。そして、戦力を集めるべきです。シズカがもし、シズカと敵対することになったとしても、戦力は必要ですから」
「俺は、彼女を倒すつもりはない。もう一度シズカの前に立ちたいんだ。今度は、もっと話す為に」
「……やはり、シズカを諦めるという選択はないんですね?」
「当然だ。俺にわざわざ会いに来た以上、向こうだって俺にまだこだわっているはずなんだから」
「それは、間違いないかと。ですがどんな行動を取るか分かりません。警戒はしておくべきです……『こちらを殺しに来る可能性』を考慮した上で」
そう……だな。こちらに対話の意思があっても、向こうはもう『こちらを殺すこと』を最終目標に定めているかもしれないのだから。
シーレは、俺が本当のことを打ち明けたことに満足し、部屋を後にした。
だが去り際に『一緒に寝ましょうか?』と、意地悪な笑みを浮かべながら訊ねてきたことからして、案外本当に俺のことを『弟』のようだと思っているのかもしれない。
そんな頼りになる姉に感謝の念を捧げながら、俺は眠りに就いたのだった。
翌日。俺が目を覚ますと、シーレが台所で朝食を作っていた。
手際よく作業をしている様子だったが、それを見守っているメルトは、どこか心配そうな表情を浮かべていた。
「おはよう、二人とも。シーレはご飯、作ってくれてるんだね」
「おはようシズマ。うん、ごはんはシズマが作った方が良いって思ったんだけど、シーレがどうしてもって言うから……」
「おはようございますシズマ。今朝は私が作りますよ。ホットケーキなら私にだって作れますから」
「おー、なんだかお洒落だ。じゃあお願いしようかな」
確か、少しだけシーレは料理を失敗しやすかったはずだが、恐らく簡単なものなら克服したのだろう。
俺が見た限りでは、しっかりと分量を計り、材料を混ぜ合わせて生地を作っていた。
バターの溶ける甘い香りと、生地が焼ける香りが室内に充満し、とても幸せな気分になる。
朝から甘い匂いというのには少し慣れないが、不快なんてことはない。
「良い匂いねー。私の杞憂だったみたい」
「そうだね。じゃあお皿を並べておこうか」
だが、匂いと材料の段階で問題がないからと言って、それが成功を保証するものではないのだと、この時の俺は分からなかった。
「シーレ、なんだろうね、これ」
「シーレ、私ホットケーキって食べたことあるわ。でもこういうのじゃなかったよ?」
「おかしいですね……分量も何もかも間違っていないのですが……これではおもちですね。むにむにもちもちしています」
完成したのは、卵色のもちもちした塊だった。
皿に引っ付いているその有様は、ケーキではなく、溶けたもちにしか見えない。
俺の予想だが……シーレはそもそも、小麦粉以外の粉を使ったのではないだろうか?
「家に備え付けられていた材料を使いましたよ」
「それ、【観察眼】で確認した?」
「……ちょっと待ってくださいね……」
台所を振り返ったシーレが、苦笑いを浮かべこちらに視線を戻す。
そうかそもそもの材料、生地になる前が……違ったのか。
「『コーンスターチ』だったみたいです……」
「残念だったね」
「んー……でももちもちしてるけど、美味しいねー」
確かに、これはこういう物だと思えば……普通に食べられるな。
もちゃもちゃと、三人で謎の朝食を食べ終えた後、俺達は今日からどう動くか、それを話し合うのであった。
「私は、この都市のダンジョンに挑んでみるべきだと思います。元々それが目的ですからね」
「うん、そうよね? なんで改めて話し合う必要があるの? ダンジョンに行くのは当然よね」
「まぁ、そうだな。メルトの言う通りだ。ダンジョンに挑む……そうだったね」
話し合いなんてほぼ必要がないのは分かっていた。
昨夜、シーレに言われていたのだから。俺がただ、シズカのことを考えて、少しだけブレていただけなのだ。
この帝国における、最大クラスのダンジョン。
そこがどのような場所であれ、こうして探索者が多く集う大都会なのだ。産業としてある程度成立している場所なのだろう。
「じゃあ、今日はこの都市の探索者ギルドに行って、詳しい話を聞こうか」
「そうですね。探索者が多く集まる区画も、恐らくどこかにあると思います」
「宿の女将さんに聞いてから行くー?」
「そうだね。あと……馬車はどうする? 自分達の馬車で行こうか?」
「いえ、この広く交通量の多い都市内を進むのはまだ難しいと思います。大人しく乗合馬車で行きましょうか」
確かに。正直、目的地も分からない中、この都市内の馬車の流れに乗るのは難しすぎる。
その提案通り、俺達は宿へと向かい、女将さんからダンジョンに関係する施設の密集する区画、そして乗合馬車の停留所を教えてもらうのだった。
乗合馬車で都内を進んでいる最中、気が付いたことがあった。
大きな建物が立ち並び、他の都市ではあまり見かけない大きな印刷物や看板、そうしたメディア的な違いや都市の特色ではなく、純粋に――
「馬車、結構揺れるねー」
「そうだね。セイム、本当にかなり高性能な馬車を俺達に用意してくれたんだろうね」
「確かに、縦揺れも横揺れもかなり少なかったですしね」
そう、馬車の性能だった。まぁ都内の乗合馬車なのだし、そこまで乗り心地を優先していないのかもしれないのだが。
そうして、都市の中を進み、俺達は教えられていた『探索者区画』に到着したのであった。
シズマ達が『探索者区画』へと向かっていた頃、時同じくして『一台の乗合馬車』が、今まさにここ、『西都リーゼネーヴェン』に到着していた。
長距離移動を想定した馬車なのだろう、シズマ達が乗っていたものよりも大きく、車輪も立派なスポーク機構や弾力性のありそうな素材で覆われていたりと、長時間の乗車でも負担にならないようにという工夫が随所にちりばめられていた。
そんな馬車から、大勢の観光客や探索者、冒険者、そういった風体の人間達が下車していく中、最後に――黒い、法衣を纏う一人の男が降り立った。
「ふぅ……中々快適な馬車の旅でしたねぇ……しかし随分大きな都市だ。これは中々……人探しが難しそうな場所ですねぇ……」
シズカの痕跡を追っていたスティルもまた、この都市に辿り着いたのであった――
(´・ω・`)更新頻度は週一程度を目安にしていますが、体調が戻り次第、少しずつ増やしていきたいと思います




