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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十五章 そして彼女が辿る道

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第二百三十六話

「えー! 私の偽者がいたの!? 私も見たかったなー!」

「見た目はまったく同じでしたよ。言動も。ただ、少し持っている知識がズレていましたね」

「そうだなぁ、触ってはいないけど、尻尾も同じくらいもふもふだったよ」

「むむむ……それは是非ともどっちがもふもふか勝負したかったわ!」


 食堂のテーブルを囲みながら、ここでの出来事をメルトに伝えると、やはり自分の偽者がいたことに興味津々な様子だった。


「ところでメルト、それ美味しい?」


「美味しい! これ、初めて食べる味よ! 少し甘くて、ピリピリ辛くて、エビがぷりぷりしてて、味がよーく絡んでいて……すっごく美味しいわ!」


 食堂に残されていた料理を前にして、メルトは真っ先に『エビチリ』に手を伸ばしていた。

 稲荷寿司には一切目を向けずに、初めて見るエビ料理に夢中になっている姿は、なるほど確かに偽者とは全然違う。


「メルト、これも食べてみませんか?」

「なぁに? これもエビ料理なのかしら?」

「いえ、違います。でも美味しいですよ」

「へー。なんだか可愛いね、ぷっくりしてて。小さい枕みたいねー」


 シーレが、やはり反応を早く見たいのか、メルトに稲荷寿司を勧め始める。

 実を言うと俺も気になっているのだが、はたして――


「あーむ! ……むぐむぐ……んー? むぐむぐ……」

「どうですか? メルト」

「それ、中に入っている白いのがお米っていう食べ物なんだ。俺が探している食材なんだよ」


「ふむふむ……もちもちの丸麦みたいねー。うん、美味しいねーこれ。甘酸っぱくて、でも外の皮? この部分が甘くてしょっぱくて、不思議な味ねー」


 どうやら、真っ当な料理の感想みたいです。やはり『病的なほどに美味しいと感じる』わけではないようだった。


「でも美味しいねー。食べやすいねー」


 だが、ヒョイヒョイパクパクとメルトの口に吸い込まれている様子を見るに……結構気に入っているようですな……。


「なんでだろうねー? これ気に入ったよー私。お米だったかしら……見つかるといいねー!」


「……シズマ、この屋敷を消す前に、用意されていた食材、できるだけ回収していきましょう。もしかしたら中に『地球由来の食品』もあるかもしれませんから」


「あ、確かに! 俺達の出自を知る存在なら、食材も向こう由来のものがあるかもしれないな」


 さて、じゃあ食べ終わったら……消す前にこの屋敷にあるもの、貰えそうなものは貰っていきますか! へへへ……まるで強盗にでもなった気分だ。




「よし、では後はこの端末で、ルーラザレスのコアを使えば終わりですね」


「そうだね。……うん、どうやらこのコアで操作できるのは屋敷だけみたいだ。ただ、随分と細かく設定できるの……」


 範囲は狭くても、その分様々な効果が適用できる、ある意味では強力なダンジョンだったらしい。

 俺は項目を操作し、屋敷を消すのではなく……『俺達以外が入れない施設』に変更した。


「ここ、食材も補給されるし、いざという時はシェルターみたいに外敵の攻撃からも守ってくれるみたいだし、俺達用の別荘みたいにしてからコアを返還するよ」


「なるほど。良いですね、合理的です」

「別荘!? 知ってるわ、お金持ちの人が持ってたりする、もう一つのお家よね」


 まぁ、ここまで移動するのは大変だから、来ることはあまりなさそうではあるが。

 設定を終え、最後にルーラザレスのコアを使い、権限を破棄する。


「ふぅ……じゃあ名残惜しいけど、こことお別れだ。また暫く樹海を移動することになるだろうけど、頑張って外を目指そうか」


「そうですね……あれ? ですが樹海も操作したのではないですか? もしかしたら……外に出て確認してみましょうか」


 屋敷の外に出て、敷地の外からこの樹海が今どうなっているのか、周囲の景色を確認してみる。

 すると――見渡す限りの森であったはずが……遠くの方でそれらが途絶えているように見えた。

 明らかに、森ではなく平原が、視界の遥か先に見えているのだ。


「これで、当初の目的は達成されたってことでいいのかな」


「そうですね、これは明確に『境界破り』どころか『禁域ダンジョン』の脅威が取り除かれたと言っても過言ではありません。……この異常、流石に国が見逃すとは思えません。急いでこの場所から離れましょう。できれば……このまま姿を隠した方がいいでしょうね」


「でも、セリーンの石像、あの件はどうしようか」

「それは『誰か』に伝言を頼むしかないでしょうね」


 俺は、シーレが言わんとしていることを理解した。

 つまり『新しく外に出す人間に任せる』と言っているのだ。

 このダンジョンコア、どうやら二つとも『強い力を秘めているコア』だったらしく、オーダー召喚可能なキャラクターに制限が存在していないのだ。


「……よし、分かった。誰を出すべきか……決めておくよ」


 そうして、俺達はすっかり規模が小さくなった樹海を進みながら、今後の動きについてどうするべきか相談し、方針を決めていくのだった。




「じゃあ、今日は少し早いけどここで休もうか」

「そうねー。でもびっくりね、木が少なくなったし、魔物もめっきり数が減っちゃった!」


「本当ですね、ほとんど魔物を見ませんし、見かけても弱い魔物だけ。念のため夜は木の上ですけど、この木の大きさも少し小さくなった気がします」


 その日の夕方前、今回も木の上にツリーハウスのような土台を作り出し、テントを張る。

 シーレの指摘通り、木の高さが若干低くなり、森の密度もだいぶ低くなっているように感じた。

 明確に、脅威が去ったと分かった上に、自由にできそうな土地も増えた。必ず、ここに帝国がやって来るはずだ。

 俺達はすぐにでも預けた馬車を引き取り、あの建設途中の村には……俺が新しく外に顕現させた誰かに伝言を頼むことになりそうだな。


「よし、じゃあ俺は少しみんなと会議をするために、今日は早めに寝るよ」

「おやすみなさい、シズマ」

「おやすみー! あ、尻尾貸してあげるね」


 メルトが俺の頭に尻尾が来るように横になる。いやいや……目の前に可愛いお尻があるのは少しですね、刺激が強いのであります。

 だがしかし、この魔性の尻尾の魔力により、またしても俺の意識は、あっという間に滑り落ちるように閉ざされていく。






「よくやった、シズマ。完全な不意打ちで一撃で仕留めたな」

「うむ、値千金の大成果じゃ。強力なコアを一度に二つも手に入れたからのう」

「これで、取れる手段、作戦の幅がグッと増えましたねぇ……我が主、流石です」


 暗闇の円卓で目覚めると、すぐにシレントとルーエ、そしてスティルの三人が賞賛の言葉を口にした。

 今俺の心の中の円卓で顕現できる、バリバリの武闘派三人からの賞賛に、若干照れてしまう。


「我が主。実は、少し前から私達の中で、ある意見がまとまっていました」

「そうだ。実は……次に『人として独立する』なら誰がいいか、それを考えていた」


「うむ。シズマ達と共に行動するのではなく、遊撃、自由に動く者として誰か一人、外に出そうと考えていたのじゃ。シズマも『誰かに伝言を頼む』と言っておったし、ワシらの意見を聞いてもらえんかの?」


 三人の言葉を聞き、それは本当なのかと、円卓に集った他の面々の顔を見る。

 皆、頷きながらこちらを見ている。どうやら事実のようだ。


「分かった。じゃあもう、誰が外に出るのか、決めているんだな?」

「うむ。ワシは……スティルが適任じゃと思っている」

「俺もだ。単独で動ける人間として、こいつは申し分のない能力を持っている」

「と、言うわけです。いやはや、まさかこの二人から推薦して頂けるとは思ってもみませんでした」


 そう言いながら、どこか嬉しそうな笑みを浮かべるスティルからは、相変わらず胡散臭いものを感じてしまうのは、やはり俺の先入観の所為なのだろう。


 だが……悪くない選択だとも思う。少なくとも、スティルは黒幕連中には目をつけられているのだし、自由に動かすことにより、完全にこちらへのマークを防げると思えるのだ。

 問題は、こいつに伝言を頼んでいいものか、という点だ。


「別に問題ありませんよ『先を急ぐ探索者に伝言を頼まれる、親切な宗教関係者』。私のようないかにも神父や牧師といった風貌の人物が、新たな宗教に興味を示し、村の建設現場に足を運ぶのだって、極々自然な流れでしょう? これ以上の適任はないと思うのですがねぇ」


「それはまぁ……一理あるな。分かった。じゃあ……スティル、お前は俺達が馬車を受け取りに戻ったタイミングで顕現させる。そのまま、建設中の村に向かってくれ」


「ええ、畏まりました。ただ――一つだけ、お願いを聞いてもらえないでしょうか?」


 俺は、そのスティルの言う『願い』を、しぶしぶだが受けることを約束した。

 そうして、俺は更にもう一段階意識を閉じ、深い眠りに就いたのであった。




「……目覚めのお尻とは」


 この先! 尻に注意しろ!

 おはようございます、起きたら昨日よりさらに近くにメルトのお尻がありました。

 静かに起き上がり、毛布から抜け出す。


「そうかスティルか……」


 もう、アイツを疑ったりはしない。ただ俺のために、俺達のために動こうとしていると分かっている。だが同時に……『本来持っている狂信者』としての本質、狂信が本当に消えたのか……という心配もある。

 自由を得たアイツが……『俺達のために暴走』する可能性だってゼロではないのだから。


『この国を落としましょう』という決断を下し、平気でそれを実行可能な力を持っているのだ。

 シレントも、ルーエも強い。だが……別格なのだ、スティルという存在は。

 故に不安が付きまとうのだ。信じていても、完全なる善意で……国を、世界を敵に回しかねないのだから。


「……ま、『約束』のタイミングでしっかり念を押しておくかな」




 それからもう少しだけ太陽が高い位置に移動したタイミングで、テントから二人が出てきた。

 二人とももう完全に目が覚めているのか、身支度も完璧だ。

 さぁ……この樹海の広さなら、今日中に抜け出すことができるだろう。

 まだ大きな都市部から、国の人間が樹海を確認に来るまでもう少し猶予があるはず。早いところここから移動して、無関係を決め込まないとな。


 樹海での移動を開始してから三時間。本当に俺達は樹海を抜け出したのだが、今度はどこまでもただの平原が続いていた。

 こんなに広い土地、どう活用したらいいのか逆に困ってしまいそうだった。

 都市開発……農場や牧場、それとも工業地帯、産業特化の街を作るとかだろうか?


「ひろーいねー! ずーっとどこまでもはらっぱだよ! 凄いねー!」

「ふふふ、走り出したくなる気持ちも分かりますね。まるでどこまでも続いているみたいです」


「そうだなぁ、何日も通ってきた樹海が草原になったんだもんなー。村に着く頃には、都市部から国の騎士や役人がこっちに来てるかもしれないな」


 ならば、すぐに移動できるように、村に馬車を預けた時の姿、シレントになっておく。

 馬車を引き取ったらすぐに村を出発したいところだが……約束もあるからな。

 ……ちなみに今回のことで知ったのだが、何もない草原をひたすら歩き続けるのって、森の中を移動するよりも精神的に辛いです。もう本当に一切風景が変わらないから、方向感覚すら狂ってきちゃいましたよ。




 やがて、ようやく村に着いたところで、俺達は馬車を預けている宿屋に一泊することを決めた。

 村の人間に聞き込みをしたのだが、どうやら国の人間と思しき一団はまだ、こちらの地方にはやってきていないらしい。


 が、この禁域ダンジョンの消失にしか見えない、急激な地形の変化は既に住人達も把握していたらしく、この事件の前に馬車を預けていた俺達が、何か真実を知らないかとしきりに尋ねられてしまった。


 まぁ全部『俺達は秘密裏にダンジョンに挑もうと思っていたんだが、森の中を彷徨っていたら、森そのものが突然消えたんだ。お陰で外に出られたが、詳しいことは何も分からない』という嘘の話を村人に伝え、納得してもらっていた。


「ふぅ。シーレもメルトも、今日は早めに寝ると良いよ。俺は少しだけ、この姿のまま村の様子を見てくるよ」


「分かりました。では、先に休んでいますね」

「おやすみー……大きなお風呂に入りたいねー……」

「ははは、明日からの野宿で、また簡易お風呂を用意しないとね」


 さて、もうシーレには『俺達の総意』は伝えてある。

 この行動が、そのためのものなのだと、理解しているだろう。

 俺は、前回の村で、メルトが騙されて飲ませてしまった『薬』を預かっている。

 村の外れ、誰も周囲にいない状況で、俺はオーダー召喚を使い、スティルを顕現させる。


「口を開けてくれ」

「……」


 何も言葉を発さないスティルが、ただ静かに口を開ける。

 そこに、メルトから預かった薬をコップで一杯だけ流し込み、飲ませる。

 何も瞳に映していないような虚ろな表情が、俄かに生気を取り戻した。


「……これはなんとも、不思議な気分ですねぇ……できればその姿ではなく、本来の姿で目覚めを待っていてもらいたかったのですが」


「無理を言うな、この姿でこの村に来ていたんだから。……じゃあ、行くか? スティル」

「ええ、勿論。しっかり『約束』を果たしてもらわないといけませんからねぇ」


 そうして俺達は、まだ明かりが残る村の中、二人で共に歩いていく。

 スティルとの『約束』を果たすために。

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