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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百二十四話

(´・ω・`)いよいよあと三日で書籍版一巻が発売されます……!

 私は懸念していた。

 かつて、私がまだシズマの中にいた頃。

 そして、人格が完全に切り離され、皆と思考を共有できていなかった時代。


 その頃のシズマは、私の姿になった時に、私のキャラクターとしての設定や経験だけでなく、女性である私の自我の影響も受けて、酷く困惑していた。

 本来異なる性別、考え方が一時的とはいえ脳に上書きされるのは、危険だと私は判断した。


 だから、本音を言えばシズマが女性の姿になることそのものが、危険ではないかと思っていた。

 ただ……皆、シズマに協力的で、思考も全てシズマに明け渡していた為、悪影響はなかった様子ではあるけれど。


 が、今回は『思考うんぬん以前に過激な女性としての経験が蓄積される』ことが問題だ。

 私には『狩人』×『学者』の場合に設定される物語の元ネタとしての知識と設定と記憶がある。


 それが私という人格を独立させていた。が、今シズマが変身しようとしている『シズカ』、つまり『踊り子』×『歌姫』という組み合わせは……別な理由で危険なのだ。


 描写こそしていないが、悲惨な過去を持つ女性。そしてバックボーンを作るにあたり、様々な文献、歴史的な事件、取材だって行われている。


 結果として、制作陣の中での共通認識は『ハードな成人向け伝記』といったものになった。

 ユーザー間でも、それと似たような考察もされていた。

 その経験が、知識がシズマに流れ込み、何か悪影響を及ぼさないかと私は心配なのだ。




「よし、じゃあダンジョンの最初の階層、ここなら黙っていても敵が湧いてくるし、シズカとして経験を積むのに持ってこいだな」


「えっと、確か背中を向けていれば敵は出ないのよね? 一休みする時は、また手を繋いで輪になればいいのよね? シズマ、変身したら一人で戦うの?」


「そのつもりだよ。今なら、ある程度戦えるはずだからね」


 ダンジョンに移動した私達は、シズマがシズカとしてある程度経験を積むための手伝いとして、この最初の階層で戦うことを決めた。

 確かに今のシズマは、能力云々以前に、経験として様々な戦術と戦いの知識がある。

『踊り子』と『歌姫』が装備可能な武器は、徒手とナイフと一部の特殊な武器のみ。


 ルーエの知識で、恐らくキャラクターの性能以上の戦いができる今なら、きっと戦える。

 ましてや、シズカは倉庫キャラとして、様々なアイテムを持たされているのだ。

 余った装備や、不要な回復薬に、ステータスアップアイテム。


 それらを駆使すれば、きっと戦えるとは思う。

 なので、やはり私が心配なのは、シズマの精神だ。


「よし、じゃあ……変身」

「おー!」

「気を付けてくださいね」


 私の見ているすぐ傍で、シズマの容姿が女性のものになる。

 ……キャラクターのコンセプトとしては、セイラのような胸の大きな女性ではなく……均整の取れたスタイル。

 そしてそれは、決して『健康的な意味での均整』ではない。


 私も、資料として『様々な書籍』に目を通している。

 今、シズマが変身した姿は……間違いなく、女性の私から見ても『美しく、憧れ、触れたくなる身体つき』をしていた。


 胸の大きさ。くびれの細さと腰の位置。足の長さとヒップライン。

 正直、はしたないかもしれないが、あの姿の裸を見てみたいと……思ってしまうほどだった。


 シズマ改めシズカは、自分の身体を調子を確かめるように、手足を動かし、そしてナイフを取り出し、型のようなものを駆使し、身体をほぐしていた。


 私も同じナイフ、ダガーを使う人間だから分かる。あの動きは、しっかりと『戦い方』を知っている人間の動きだ。

 やはり、シズマとして蓄積した記憶が、戦う力が低いシズカの姿でも発揮されている。


 だが、何故だろう。何かが、私の頭の中で警鐘を鳴らしていた。

 何故……魔物の強さに対してシズカが弱すぎる? 他に何か危険が?


「メルト、ちょっとこっちに来てくれる?」


 その時、シズカからメルトに声が掛かる。

 何事だろうと私も共に向かおうとするも――


「シーレ、そこでストップ。まずはメルトだけ、こっちに来てくれる?」

「分かりました。メルト、いってらっしゃい」


 何かの検証だろうか? メルトだけを呼び寄せるシズカの様子を窺う。

 すると、何やら内緒話だろうか、シズカがメルトに耳打ちをしていた。


 少々話し込んでいる様子だが、しっかりと背中を互いに外に向けていることから、最低限襲撃には備えているようだ。私の立ち位置も……ギリギリ、三人とも外に背中を向けている状態だ。


 少しすると、話し終えたのかメルトが戻って来た。

 何やら嬉しそうというか、悪戯でも思いついた子供のように、ニマニマと笑みを浮かべている。

 可愛らしいけれど、少し気になる。


「メルト、シズカはなんの用事だったんですか?」

「ふふふー! 今はまだ内緒よ! 明日になれば分かると思うわ!」

「むむ? 気になりますね……ですが、それまでのお楽しみにしておきますね?」


 はて……一体何を企んでいるのでしょうか……?








 キャラクターチェンジを行い、一瞬の意識の暗転。

 そして再び俺の意識がこの場所に戻った時、手にはナイフが握られ、眼前にはどこまでも紅葉の積もる平原が広がっていた。


 不思議と、覚悟していた『シズカの記憶と経験のフィードバック』が俺を襲うことはなかった。

 たぶん、深く思い出そうとすると……色々と見てはいけない、知らない方が良い経験や知識が増えそうなので、極力考えないようにする。


 気がつくと、メルトもシーレも、かなり遠くでこちらを見守っていた。

 俺が背中を向けない限り……そのうち真正面、もしくは左右から魔物が襲ってくるはずだ。

 やがて、何もないはずの空間、距離にして一〇メートルかそこらしか離れていない位置に、突然狼にも似た魔物が現れた。


「これは……そうか、外の環境に合わせた魔物が出るとか書いていたな」


 現れたのは、俺達が森の中で討伐した『スカベンジャーウルフ』だ。

 狼にしてはやや巨体で、身体はまるで土に汚れたような、茶色とこげ茶のまだら模様。

 正直、現実世界で人間が相手をするなんて無茶な相手だ。


 シズカはまだ弱い。果たしてこの状態で戦えるのか、若干の不安がよぎる。

 が、まるで導かれるように、手に持ったナイフをゆっくりと顔の前に持ってきたと思うと、何かの流れに乗るように、身体が動いた。


 敵の行動が、手に取るように分かる。空気の流れを、全身の肌で感じ取れる。

 足が、ステップを踏む。しなやかな腕が、まるで舞のようにナイフを操り、魔物の襲撃をひらりひらりと躱しながら、着実にダメージを与えていく。


 そうか……これはハッシュと同じ能力だ。

 ハッシュもサブに『踊り手』を設定してある。つまり、同じように『リズムステップ』を習得しているのだ。


 メインジョブを『踊り子』つまり女性版の『踊り手』にしている関係で、ハッシュにはないスキルが他にもある。

 装備品も、汎用性が高く、様々なジョブで使っていたナイフを持っている。

 これなら……負けはしないだろう。




『死の舞踏』

『攻撃回避後の一回のみ通常攻撃に即死判定が付与される』

『発動確率はレベルに依存する(極低)』


『舞姫の加護』

『武器に付与されている特殊効果の発動確率が二倍』

『またナイフでの攻撃は当たり判定が+1される』

『徒手と蹴りの場合はクリティカル確率1.5倍』




 これらのスキルに加え、今俺が装備しているナイフは、装備制限がなく、代わりに攻撃力が低いが、様々な付随効果がついているレア装備だ。

 まぁ正直、純粋に攻撃力が高い武器にあっさりと使い勝手でも殲滅力でも負けてしまう性能だ。

 だが……ゲームではないこの世界なら……猛威を振るうだろう。




『尊き魔女の自刃』


『攻撃力が極めて低いが様々な状態異常を引き起こす呪いの短刀』

『攻撃ヒット時に5%の確率で麻痺が発生し5%の確率で毒が発生』

『いずれかの状態異常の敵に攻撃ヒット時に10%の確率で睡眠を付与』

『睡眠状態の敵に攻撃ヒット時に10%の確率で麻痺と毒の両方が発生』

『状態異常耐性がある相手には攻撃ヒット時に1%の確率で最大HPの2%のダメージ』




 非常に癖が強い。だが、踊り子のスキルとの相性が良すぎるのだ。

 正直、この武器を手に入れたから、このキャラクターを作ったというのが本当のところ。

『面白そうなビルドが組める』と思ったんだよ、当時は。


 だが冷静に考えたら、そもそもの前衛能力が低すぎるのと、普通に強いナイフで切った方が速く敵を倒せることに気がつき、お蔵入りになったのが……シズカなのだ。


「……現実になった以上、ここまで極悪な戦法もないな」


 正直、軽い攻撃だけで無数の状態異常を付与できるシズカは、スティルに匹敵するくらい、攻撃の危険度が高いと言える。

 ましてや、俺がルーエの知識を得て、戦いの基礎を学んだ影響がシズカにも出ているのだ。

 ……この辺りの魔物に、負ける気がしない。

 そうして、俺はメニュー画面の時間基準で二時間、ひたすらシズカで戦闘を重ね、元の姿に戻ってからダンジョンを後にしたのであった。






「シズマー! シズカちゃんを呼び出せるようになった!?」


 ダンジョンから出ると、やけにワクワクした様子のメルトが、シズカを呼び出せるようになったのか聞きに来た。

 ふむ……シズカの外見はかなり……いやもう極上だと俺も思っているからな、気に入るのは理解できる。


 あれですよ、ゲーム当時、インターネット掲示板にキャラ画像をアップしたら、スレの住人ほぼ全員が『すっげえエロ可愛い』って言ってくれたくらいですから!


「む、ちゃんと『低ランクオーダー』可能キャラにシズカが追加されてるね」


 そうか、シズカのレベルは現在『19』だが、このレベルならまだ低ランク扱いなのか。

 ふむ……なら、顕現させるキャラクター、あまり育てていないキャラは皆、シズカよりレベルが低いはずだから……全員いけるのか。


「ね、ねぇねぇ?」


 その時、メルトがチラチラとシーレの方を見ながら話しかけてきた。


「えっとね、私、シズカちゃんと少し一緒にいたいわ。今晩だけ、一緒に寝たいの!」


「ええ? そんなに気に入ったのかメルト。んー……まぁまだ呼び出すだけ、自我を持たせるわけじゃないから、それでいいなら問題ないよ」


「もちろん! じゃあ、今日は四人で帰らないと!」

「あ、そうなると宿、部屋一つだと足りなくなるか。メルト、じゃあシズカと二人部屋にする?」

「うん、そうするわ!」


 どことなく、メルトの様子が不自然な気がする。

 だが、断る理由もないし、何か思うところでもあるのだろうかと、とりあえず低ランクオーダーでシズカを顕現させた。


 雨上がりの空。日が傾き始める時間だというのに、木漏れ日が照らすシズカの姿は、そこにいるだけで眩しく輝き、周囲を照らしているかのように錯覚する。

 こうして、客観的に自分の目で見ると……確かにこれは脳裏に焼き付いてしまう、そんな姿だ。


「シズマ、シズカを顕現させたままにするのですか?」

「ああ、メルトが今日だけ一緒にいたいって言うんだ」

「ふむ……ちょっと妬けちゃいますね? メルト、シズカが気に入ったんですか?」


 シーレが少しだけ、意地悪な表情でメルトに声をかける。

 ふーむ……メルトの何か琴線に触れたのだろうか?


「そう、今晩だけ! じゃあ、宿に戻ろっか!」


 そうして彼女は、物言わぬシズカの手を引き、元気よく前を歩きだした。

 何か気になるが、一体メルトはどうしたというのだろう?

 ふむ……二人きりになりたいのか? 何かシズカについて気になるところがあるのだろうか?




 宿に戻り、主人に『古い友人が合流したので、今夜一晩だけ一人増えても良いか』と尋ねると、シズカの容姿……露出の多い格好もあってか、顔を赤く染め、目を逸らしながら許可してくれた。

 今夜は、俺とシーレの二人部屋と、メルトとシズカの二人部屋だ。


「よーし! じゃあ、晩御飯を食べたら、今日は私、早めに寝るね!」

「ん? ああ、了解。そうだなぁ……早めに寝て、明日の俺達の予定を早めに起きて決めようか」

「そうですね、ダンジョンを踏破した以上、次の目的地までのルートを考えませんと」


 少々メルトの様子も気になるが、それよりも、ダンジョンを踏破した以上、この村を発つことも考えないとだな。

 目的は港町。そこで『セリーン』として交流した人間がどうなったのか、確認しておきたいのだ。

 もしあの後、無事に皆が港町に辿り着けていなかったとしたら……悔やみきれないからな。

 そうして俺達四人は、この村で最後の夕食になるかもしれない、本日もたいそう美味しい鳥料理に舌鼓を打ち、まだ少々時間も早いが、床に就いたのであった。


 追伸、自我のないシズカでも、とても綺麗に料理を平らげていました。

 ……誰よりも早く。やっぱり自我がなくても美味しいものは美味しいのでしょう。






 翌朝。昨晩は早く床に就いた影響か、随分と早起きをしてしまった。

 太陽こそ上りつつあるが、まだ森の中からフクロウの鳴き声が聞こえてくるほどだ。

 隣のベッドでは、当然まだシーレが微かな寝息を立てている。


 まだ淡い光しか入らない窓。それでも、その薄明かりに照らされる彼女の寝顔は、恐らく俺でなくても……いや、むしろ俺以外の男なら、一瞬で恋に落ちてしまいそうで。

 そんな早朝。そんな静寂の時間。だが――その静寂が、突如として切り裂かれた。


 ほかならぬ、メルトの悲鳴によって――




 部屋から飛び出し、隣のメルトの部屋に向かう。

 するとそこには、ベッドの脇のサイドテーブルで何かを見つめ、しきりに『どうしよう』と呟き続けるメルトの姿があった。


「メルト、どうしたんだ!? 今、大きな『うわああああ』って悲鳴が聞こえたよ」

「んう……どうしたんですか……怖い夢でも……見たんですか……」


 この騒ぎに、シーレもさすがに目を覚ましたのか、眠そうな声で部屋に入ってきた。

 だが、メルトは先程と変わらず、何やら手紙のようなものを見て、青い顔をしていた。


「メルト……どうしたんだ? それに……シズカの姿が見えないけれど?」


 そうだ、シズカの姿が部屋にない。生理行動は自分の判断で動いてこなすので、トイレにでも行ったのだろうか?


「ねぇ……シズマ……昨日、私にしたお願い……覚えてる……?」

「え? お願いって?」


 ふいに、メルトが縋るような調子で俺に訊ねる。

 が、俺がメルトに何かお願いをした記憶がない。なんの話だろうか……?


「嘘……じゃあ……あれはシズマじゃないの……?」

「……メルト、一から説明できるかい?」


 すると、メルトは半泣きになりながら、手紙をこちらに見せてくれた。


「どうしよう……私、シズカに騙された……! お薬、飲ませちゃったの!!!!」


 そこには、こうしたためられていた。


『簡単に騙されてくれてありがとう、お馬鹿な狐さん』

『それと、この手紙を読んでいるであろうご主人様もさようなら』

『私は私の人生を自由に生きます、どうかお元気で』

『放っておかれる苦しみ、捨て置かれる悲しみ、精々貴方も味わってください』


 それは、俺への恨みがつづられた手紙であった――

(´・ω・`)発売前ということで、更新頻度をがんばりました!

書籍版の発売は13日となっております

また一部サイトでは試し読みで、口絵まで見られるそうです

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