第二百二十三話
『管理者情報【不明】簡易権限承認一部機能の操作のみ可能』
『管轄管理項目を選択してください』
『拠点管理』
『眷属管理』
表示されたのは、たった二つの項目のみだった。
今まで目的以外の項目には触れてこなかったが、この機会に二つの項目を調べてみる。
『拠点管理』
『権限有効範囲内の地形を操作してください』
『自然環境設定』
『環境維持設定』
『有効範囲設定』
ふむ……これか? どうやらこの項目が、このコンソールの周辺環境を操作する項目のようだ。
すぐに操作してみたいところだが、その欲求を抑え、もう一つの項目も調べてみる。
『眷属管理』
『防壁地形内における権限守護存在を設定』
『階層内における守護存在の設定』
『最終防衛守護の設定』
『亜竜種 死亡』
『新規権限コア発生まで残り一カ月』
『防壁地形の操作が不可である為新規守護存在の詳細設定不可』
『周辺環境を参照し自動生成されます』
ふむ……この『防壁地形』というのが、ダンジョンのことなのだろうか?
なら守護存在が、ダンジョンマスターの代わりに配置された最終ボスで『新規権限コア』というのが、このダンジョンで自然発生するダンジョンコアということか?
「なんにせよ今は使わないか……よし、森の操作ができそうだから試すよ」
「なるほど……恐らく『有効範囲』と『環境維持』の項目が関係していそうですね」
「私は読めない文字ね……これはシズマの世界の文字なのかしら?」
「たぶん、起動した人間が最も親しんでいる文字が出てくるんじゃないかな……」
「なるほどー……難しい形の文字がいっぱいあるのねー?」
確かに。ひらがなやカタカナはそうでもないが、漢字になるともう、知らない人間からしたら、なんらかの模様にしか見えないのかもしれない。
「なるほど、確かにこの項目で森の範囲と……森の生育速度、再生速度を操作できるね。どうやら今は森の再生速度が最大、有効範囲も最大になっているみたいだ。もしかしたら帝国内の木材需要的に必要だったのかもしれないけれど、現状はそこまで賑わっているようにも、木材を大量に消費、輸出している様子もないし……規模を今の半分、生育速度も……五分の一くらいにしようか。それでも十分に早いだろうし、供給的には十分なんじゃないかな」
「地図を見た限りですと、人の手が入っていなさそうな深い森が消えても、十分に生活を維持できるだけ森が残ります。恐らく、これまで新たな道、それこそ隣町までの道が切り開かれなかったのは、やはり木の再生速度が異常かつ、森の範囲が広すぎたからかもしれませんね」
「どうやら範囲だけじゃなくて密度も下げられそうだから、今後はもう少し楽になるんじゃないかな、伐採作業も」
周辺の採取依頼の際、森の中で木こりの皆さんが伐採をした跡を幾つか見つけたが、そのすぐ傍にはもう、それなりの大きさの樹木が聳え立っていたのだ。
あまりにも切り株の近くだったので、恐らくあれは切られた後に新たに成長した樹木なのだろう。
正直、異常過ぎる速度ではあるし、木材の需要がそこまである、というのも考えられない。
少なくとも、そんなに需要があるのなら、成長する速度を逆手に取り、この森の始まり付近に大きな木材加工場でも作って、常に木材を外部に供給……なんてことも出来たはず。
それがないのなら、そこまでの需要はないはず。そもそも、規模を縮小して突然森が消えるわけじゃないのなら、十分に樹木のストックがある状態と言えるのだから。
今すぐ環境が変わるわけじゃないのなら、村の生活もすぐに改善するわけではないだろう。
だが、村を広げることがこれでできるようになるはずだ。なにせ、もう異常な速度で森が再生しないのだから。
「操作完了……コアは無事に大地に返還されたよ。これで、たぶんオーダー召喚可能な人間が一人増えたはずだ」
「では、ギルドの支部長さんに、今後の森について、予測……という形で報告しましょうか」
「本当に……!? この村周辺の森の異常生育が治まったと!?」
「はい、その可能性があります。参考までに、これまで村の拡張、新しい土地の開拓は行われて来たのか教えてもらえますか?」
「毎年少しずつ開拓作業範囲を広げております。ですが……わずか一年で、通常なら一〇年はかかる大きさまで木が成長してしまうのです。それが治まるのなら、村への道を拡張することもできましょう。そうなれば、大規模な木材の運搬も可能となり、村の拡張にも繋がるはずです」
「なるほど、そういう状況だったのですね。実験的に、近いうちに一本だけ木を切ってみてください。まだ成長しきってないもので構いません。きっと、これまでだったら一晩でもかなり成長していたんですよね、太く成長する樹木は」
「そうですね、一晩で苗が育ち、三日もすれば、私の背丈くらいの若い木に成長していました」
「それは……想像以上ですね。是非、試してみてください。その結果次第では、今から大々的に拡張、開拓作業に着手するのもありかもしれませんよ」
こうして、森の異常性が失われた可能性があるという報告と同時に、検証をするように勧めることもできた。
なら、後はこちらの検証だな。本当にオーダー召喚可能な人数が増えたのか、その検証を。
宿の自室に籠り、メニュー画面を操作する。
クラフトメニューにある、オーダー召喚可能人数を確認してみると――
『オーダー可能キャラクター0/1※』
『シレント』 【門番】【採取】
『レント』 【門番】【採取】【観測】
『セイラ』 【門番】【採取】【料理】
『シジマ』 【門番】【採取】【鍛冶】
『セリーン』 【門番】【採取】【調合】
『ハッシュ』 【門番】【採取】【作曲】【演奏】
『ルーエ』 【門番】【採取】
『スティル』 【門番】【採取】
『低ランクオーダー可能キャラクター0/1』
『レント』 【門番】【採取】【観測】
「な……これは……」
表示された項目が、これまでとは大きく変化していた。
上のオーダー可能キャラクターは従来通り。だが、その人数は最大一人のまま変動なし。
が、新たなページが追加され、そこには『低ランクオーダー可能キャラクター』とある。
呼び出せるのはレントのみ……これはまさか、レベルが一定以下の、あまり育っていないキャラクター限定で呼び出せるということなのだろうか?
今回手に入れたダンジョンコアでは、一定以上の強さを持つ存在は召喚不可ということなのか?
「シズマ? どうしたのですか?」
「シーレ……実は――」
新しく仲間を増やせるかもしれないと、もしかしてシーレは期待していたのかもしれない。
それを裏切るようで申し訳ないのだが……包み隠さず、この事実を告げる。
「なるほど……私もそういう可能性は考えていました。となると……レントを召喚、自我を持たせるという方向でしょうか?」
「レントちゃん!? レントちゃんと一緒にいられるようになるの!?」
「ああいや、それはまだ決めていないんだけど……うん、これはちょっと、俺の中で会議する必要があるかな」
「そうですね、他の皆さんの意見も聞くべきでしょう」
「そっかー。じゃあシズマ、ベッドにごろんってする?」
「うん、そうするよ」
何故か、ぽふぽふと自分の尻尾を叩くメルト。
「枕にしていいよ! モッって膨らんでるから、少し重しで落ち着かせたいわ」
「えー? まぁ気持ちよさそうだからいいけど」
少し前にお風呂に入ったからだろう、シャンプーの香りがする、ふわふわもこもこのメルトの尻尾に頭を埋める。
ああ……これは気持ちいいな……本当に一瞬で意識が落ちる――
もうすっかり慣れてしまった円卓。
だが今回は、俺が気がついた時にはもう、ここに来られる面々が揃い、どことなくヒリついた空気が漂っていた。
「私だって……好きで弱いわけじゃない!」
「ええ、ええ、そうでしょうとも。しかし、それでも私は嫉妬してしまいます。貴女だけが、自動的に貴女が次に選ばれるのですから」
「スティル……落ち着きなさい。シズマがもう来ているのにみっともないわ」
「おや? これはお見苦しいところを」
「シズマー! スティルがいじめるー!」
二つ隣の席から、レントが駆け寄ってくる。
おお、おお、なんと小さい子供じみた言動! よーしよしよし。
「なんだスティル、召喚可能なのがレントだけだからって嫌味でも言ったのか?」
「ええ、その通りです! 私は彼女が主に庇護され、共に旅路に出ることに嫉妬しています」
「だから、それは私のせいじゃないってば! それに……足手まといになるのは嫌だよ」
スティル的には、半分からかっているつもりなのだろうが、レントとしては、少々デリケートな問題なのかもしれないな。
自分が放置されていたこと、まだ弱いこと、ようやく俺に魔法を習得させたという実績ができたこと。
少しずつ貢献できるようになったタイミングでの、自分だけが外に出られるという状況に、半分困惑しているのもあるだろう。
「スティル、これ以上は止めろ。彼女が苦しんでいることくらい分かっているはずだ」
「ええ、そうですとも。……そうですね、貴女は自分の弱さを嘆きながらも、主の為に努力していた。そのことを考えれば、今一番困惑しているのは貴女でしょう。今回は謝罪しましょう」
「うー……私だって、今の状況で顕現しても、足手まといになるって分かってるんだから。ましてやこんな見た目だもん……普通に誘拐とかされるかも。私可愛いし」
「自分で言いますか? まぁ可愛いのは認めましょう? 思わずいじめたくなるくらいには」
「でもそうよね、まだ自衛できるほどの力を持たないエルフ……旅で負担になることは考えられるわね。やっぱり無理をせずに、もう少しコアを集めてから考えた方がいいんじゃないかしら?」
セイラの意見には俺も同意する。正直、外見というのは重要なファクターになる。
この幼い見た目で、自分でも言っていたが可愛い。それにエルフはそれなりに希少な存在だということは、これまでエルフをあまり見かけなかったことからも間違いないはずだ。
誘拐、なんらかの危険に晒されることは十分に考えられる。
……だが、個人的には『どこまでの強さなら召喚できるのか』それを調べたくはある。
レントのことは、この世界に来てから少しだけ育成している。
なら、他のキャラクター、もう少し育っているキャラクターで実験してみるのもアリだな。
俺が持つ、あまり育てていない倉庫代わりにしてしまっているキャラクター……少し自分で使って、召喚可能になるようにしてから、低ランクオーダーに表示されるか試してみるか。
俺はその考えを、検証の為にもう少し試したいという旨を円卓の皆に伝えた。
だがその瞬間――微かな、小さな囁き声のようなものが、暗闇の中から聞こえてきた。
『――たら、私を――してみませんか? 私は――最も繋がりが――弱い存在です』
その弱々しい女性の声に、俺は『まだこの場にいない女性キャラクターは誰か』思い出す。
……二人。そして、自分のことを『繋がりが弱い』という存在は、一人しか思い当たらない。
「誰だ? シズマ、心当たりは?」
「ある。……そうだったな。俺が最後に作った、ある意味シレントと対極のキャラクターだよ」
倉庫にしてしまったキャラや、触ってみて自分には合わないからと、育成を止めたキャラ。
彼女は、後者だ。俺には少し扱いが難しい、育てることも、戦うことも難しいキャラ。
育成を止め、倉庫として色んなアイテムを持たせて、眠らせていた存在。
罪悪感もある。だが、俺の為に立候補してくれるなら……それに応えたいと思う。
「分かった。起きたら、暫くその姿になって戦い、それでオーダーが可能になるか試してみるよ。まだ自我を持たせたりはするつもりはないけれど、それでいいかな?」
『光栄――です。お役に――なら、それで十分――』
「じゃあ……この後は君も円卓に現れることになると思う。改めてよろしく『シズカ』」
そのキャラクターの名を最後に呼び、円卓での意識を落とす。
現実世界に――戻る。
ふわふわでもこもこで、肌触りの良い、シャンプーの香りがする枕。
メルトの尻尾で目を覚ますと、目の前に彼女の顔があった。
「あ、起きた! しっかり眠っていたわねー!」
「おはようございます、シズマ。会議の方はどうなりましたか?」
寝顔を二人にじっくり観察されたことが若干照れ臭いのですが!
シーレが気になっている、円卓会議の結果をまずは伝える。
レントがそこまで自我を持つことに積極的でないことや、検証の為に、もう少しだけ育っているキャラとして『シズカ』をオーダー可能になるまで使ってみることを。
「ええと……そのですね……シズマ、大丈夫ですか? その……シズカ、つまり『踊り子』×『歌姫』の組み合わせのバックストーリーは……ゲーム中は描写されていませんが、その……」
シーレは、開発者の記憶を持っているからこそ、俺達ユーザーよりもストーリーについて詳しいのだろう。
俺が『キャラクターの設定や境遇、過ごしてきた人生の記憶』までも引き継ぐことについて、心配してくれているのが分かる。
そう……この組み合わせの場合のストーリーは……描写こそされていないが、完全に――
『凌辱系十八禁ドエロストーリー』なのだ……!




