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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百十七話

(´・ω・`)今月13日に一巻が発売されますので、今日からまた少し頑張って毎日投稿するよ!

「食べられていますね、残しておいた内臓が。どうやら巣に一部持ち運んだようです」


 翌日、早朝から森の奥地へと向かい、恐らく魔物や動物の水場と思われる池へとやって来た俺達は、池のすぐそばに残されていた赤黒いシミを前に、シーレの見解を聞いていた。


「この水場は日当たりも良く、そこそこ見通しも良いですからね。ここで落ち着いて食べることをせず、巣に持ち帰ることを期待していました。血の跡が途中までですが森に続いていますからね、追跡してみましょう」


 彼女の指示に従い森へ入ると、確かに変色した、赤黒い血痕がぽつぽつと地面に残されていた。

 まばらな痕跡だが、彼女にはそれを読みとる力があるのか、淀みなく森の中を進んで行く。


「住人の証言から、恐らく魔物の群同士の抗争があったのは確実。水場に戻るのを躊躇していたのは、恐らく完全にほとぼりが冷めるのを待っていたから。荒らされていた付近の様子から察するに、勝った群にも相当な被害が出ているはずです。身体を休ませる必要もあり、慎重になっていたのでしょうね。相当知恵のある、そして肉食の魔物です。考えられるのは狼に似た魔物でしょう」


 シーレの推理を聞いていたメルトが、感心したようにウンウンと頷いていた。

 彼女も森生活が長い関係で、シーレの推理に納得しているのだろう。


「たぶん正解じゃないかなー。内臓を置いていったんだよね、シーレ。内臓を優先的に食べる魔物、いるよ。狼型の魔物で『スカベンジャーウルフ』っていうのよ。『フォレストウルフ』の変種で、仲があまりよくないの。これだけ深い森で、食べられる木の実とか山菜も多いから、普通は縄張り争いで大きな抗争って起きないのよ。でも、元々仲の悪い種同士ならありえるかなー」


「なるほど、そういう魔物がいるんですね。メルト、もしかしてその魔物は日光を嫌う性質があったりしませんか? ただ夜行性なだけではなく、極端に日光を嫌う、そんな習性が」


「あるよー。日光に弱い目をしているの。暗い所じゃないと満足に動けないのよ」


「なるほど。やはりそうでしたか。道が少々緩やかな傾斜になっているので、どこかに小高い山、洞窟があるような山がこの先にあるのだと思いまして。その中を根城にしているのかな、と」


 ……今回、俺は本当についていくだけになりそうだな。二人の知識と推理にまったくついていけない。せめて魔物の討伐には貢献しなければ。

 その後、俺達はシーレの予想通り、丘と呼ぶべきか迷うくらいの規模の、小さな山を見つけた。

 ここからでも洞窟の入り口が見えるが、さて……どうやって攻略しようか。


 この辺りはまた深い森の中なので、日の光もあまり届かず薄暗く、恐らく魔物の正体である『スカベンジャーウルフ』が活動するにも申し分なさそうだ。

 なら、明るい場所におびき出すか、それとも能力の高さでゴリ押すべきか。


「シーレ、どうやって倒すつもり?」


「……恐らく、夜になるまで極力動くつもりがないのでしょう。血の乾き方からして、内臓を持ち帰ったのは夜のうちでしょうしね。巣穴の中で眠っている可能性を考慮して……」


 すると彼女は、静かに物音を立てずに、洞窟の入り口へと向かって行った。

 中を探るように、入り口に耳を向け、さらに気配を探るように、暗闇の中を観察していた。

 恐らく暗くて中が見えなくても【観察眼】である程度情報が読みとれるのだろう。

 やがてシーレは入り口から離れ、俺達の元に戻って来た。


「間違いなく群の巣で間違いありません。目視はできませんが【観察眼】でかなりの反応がありました。少なく見積もって一三匹、洞窟の中で休んでいますね」


「どうやって仕留める? 炙り出して出てきたところを狙い撃ちとか?」

「んー、中に入るのは不利よねー?」

「メルト、入り口を魔法で塞げませんか?」

「あ、閉じ込めるの? 飢え死にするのを待つのかしら?」

「いえ、中に炎を放って蒸し焼きにしてしまおうかと」


 あ、結構えげつない。が、一番効率が良いか。

 メルトの魔法なら、そこまで大きな音を立てずに、あっという間に密室状態にできるもんな。


「シーレ残酷! でも効率はいいと思うわ! 他の出口がないか調べてからやろっか」

「ええ、お願いします。先に入り口を塞いでしまいましょうか」


 メルトの魔法で、洞窟の入り口が完全に閉じられる。

 土壁でしかないが、それでも分厚い壁なら、突破するのに相当時間が掛かるだろう。

 すると、今度はそこに――


「付与魔法で土壁に霜を発生させました。メルト、これをさらに操作して氷を広げられますか?」

「分かった! この壁を氷で補強するのね?」


「ええ。中で炎を燃やしても大丈夫なくらい、強力に凍らせてください。ただの氷より、中に不純物、植物の繊維や土が一緒に凍っているものの方が強度も高いですし」


 完全に塞がれる洞窟の入り口。そしてその状態で、この小高い山の周囲をぐるりと見て回る。

 俺の【神眼】も発動させ、この山に何か特別なもの、外に出るための他の通路が存在しないか確認しながら。


「どうやら他に出入り口になりそうな場所もありませんね。メルト、さっき塞いだ入り口に、小さな穴を空けてもらえませんか? そこから私が炎属性を付与した矢を大量に打ち込みます。メルト、内部の炎を操作できますか?」


「たぶんできるよー。不謹慎だけど、少しワクワクしてきたわ。一網打尽よ!」

「こりゃ俺が活躍する機会はなさそうだなぁ」

「ふふ、ダンジョン探索が始まったら、頼りにしていますよシズマ」


 我が家のお姉さんのフォローをしみじみと噛みしめながら、メルトの作業を見守る。

 凍り付いた分厚い土壁に、野球ボールくらいの直径の穴が空き、洞窟の内部まで貫通する。

 すると、今度はシーレがその穴から少し離れた場所に立ち――


「では……ハッ!」


 早撃ちというか、連射というか、もはや達人技と呼べるシーレの動作。

 指の間に挟んだ四本の矢を、次々に射出する。

 これは『クアッドシュート』という技だ。


 炎を纏った矢が、次々と狙い通り穴の中に飛び込み、中で炎が生まれているはず。

 すると、今度はメルトが穴を覗き込み、氷の土壁に手の平をあて、集中する。


「中の炎だけ操作……むむむ……いけた! 広がれ広がれー! 洞窟の中全部に広がれー」


 穴を覗いているメルトしか中の様子は知れないが、どうやら順調に内部で炎が広がっているようだ。

 が、次の瞬間――


「ひゃ!」


 何かに驚いたように、メルトが覗き穴から顔を離し、尻もちをついてしまった。

 一瞬遅れて、土壁から『ドンッ』という衝突音が何度も聞こえてきた。

 恐らく、中の魔物が外に逃げようと、壁に向かい飛び込んできたのだろう。

 それに驚き転んでしまった、と。


「メルト、壁の強度は大丈夫ですか?」


「う、うん! オウルベアのタックルでもへっちゃらよ。みんな、この穴を広げようと必死みたいだから、この穴も塞いじゃうね」


「そうですね、お願いします」


 完全に密封される。恐らく、暫くは時間が掛かるだろうが、内部の炎も酸欠で消えてしまうだろう。

 が、それはつまり酸素が失われ、一酸化炭素で内部が充満するということだ。

 魔物だろうと……生物である以上、助かりはしないはずだ。


「……えげつない方法だなぁ」

「ですが、一番安全で効率が良いですからね」

「壁に突進してくる音も聞こえなくなったねー」


 音がしなくなってからもさらに一〇分程時間を置いてから、ようやく壁を消し入り口を元に戻すと、そこにはあまりにも……むごい光景が広がっていた。


 大量の魔物がのたうち回った痕跡が残り、地面で口から泡を吹き出して窒息死していた。

 地面や壁をひっかいた跡が大量に残り、壮絶な最後を、必死のあがきをしていた様子が目に浮かぶような、そんな有様だった。


「まだ洞窟に入らないでくださいね。内部に悪い空気が溜まっていますから」

「分かった、じゃあええと……」

「ああ、それなら俺が」


 一応、【初級万能魔法】の効果で、初級と中級の攻撃魔法なら俺も使える。

 その中には『風属性初級魔法』も含まれているので、突風を洞窟の中に吹き込み、内部の一酸化炭素を散らすつもりで風を送り込み続ける。


「んー、そろそろいいかな? シーレ、この死体はどうする?」

「そうですね、討伐の証明になるような部位、この場合は牙を回収しましょうか?」


「そうねー。全部の死体から一番大きな牙を折って提出して、残りは穴を掘って、その中で燃やして埋めましょう? この魔物は食べられないからねー」


 やはり肉食の魔物はあまり美味しくないのだろう。

 ましてや『スカベンジャー』の名を冠しているのだし、かなりの悪食だと思われる。


 メルトがいつもの調子で地面に大きな穴を生み出し、そこに牙を採取し終えた死体を放り込み、全てを燃やした後に完全に埋める。

 これで、死体目当ての他の魔物が寄ってくることもないだろう。


「よし……スカベンジャーウルフ一三匹の討伐完了。村に戻ろうか」

「途中でまた山菜とか木の実があったら採って帰りましょう? きっと村のみんなが喜ぶわ」

「そうですね、どうやらこの森には、地球で言う『ユスラウメ』に似た木の実が多いようです」


「あ、それは『ジアース・チェリー』って言うのよ。おばあちゃんが昔、ジャムとかシロップをよく作っていたんだー」


「なるほど、では私達の分も採って帰りましょうか」


 さすが、二人とも切り替えが早い。

 そうだな、俺もちょっと考えが甘かったな。取れる手段は全部取って討伐する。

 えげつないかもしれないが、これが正解だったのだ。

 直接戦うだけが全てじゃない。時にはこういう方法で、容赦なく殲滅することだって必要なのだ。


「よーし、今回俺はほぼ出番がなかったし、木の実は全力で採るからなー」

「負けないわよー! 森生活の長さは伊達じゃないんだからねー」

「では私も、学者で狩人なので、負けませんからね?」






「お疲れ様、シズマさんに皆さん。首尾の方はどうだったかしら?」


「森の奥地で群を作っていた『スカベンジャーウルフ』を一三匹討伐してきました。これがその牙です。それとついでに、依頼にはありませんでしたが、大量の『ジアース・チェリー』を採ってきましたよ。常駐依頼ではありませんが、買い取って頂けますか?」


「あらま! 魔物の群をもう倒しちまったのかい!? ちょっと支部長を呼んでくるからね!」


 はい、採りすぎました。背負い籠が満杯になるくらい採ってしまいました。

 これたぶん一籠で八キロくらいあります。ちなみにアイテムボックスの中にメルトとシーレの分の背負い籠も、満杯の状態で収納済みです。


 これ、今度セイラをオーダー召喚して、ジャムとかシロップにしておいてもらった方がいいだろうな……たぶんそれでも大量に完成品ができてしまうだろうけど。


「お疲れ様です皆さん! どれ、私が部位の査定をさせて頂きますよ」


 とそこへ、支部長を伴い受付の女性が戻って来た。

 大きな牙を一三匹分、しっかりと鑑定する支部長。

 やがて、それが本物だと判断したのか――


「確かにこれは『スカベンジャーウルフ』の牙で間違いありません。いやはや……さすがは銀と銅のパーティですね。祖国の方でかなり活躍なされていたのでしょうなぁ」


「そうですね、それなりに、ですかね」


「木の実の方も喜んで買い取らせて頂きます。この村では、この木の実を使った果実酒、醸造酒の生産が盛んなんですよ。冬になる頃には外部から沢山の行商人さんが来るのです。言うなればこの村の書き入れ時ですな」


「なるほど、そうだったんですね。そうか……森の幸の加工食品が主力商品だったのか……」


「ええ、そうなんです。ただ……この森を持て余しているという面もあるのですよ。もう少し切り開いて、大規模な醸造所を建てたりできたら良いのですが、中々うまくいかず」


「そこまで木の生育が早いんですね」

「ええ、こうして村が存続できる程度の、木の生えにくい土地が森に点在はしているのですがね」

「なるほど……」


 これも、ダンジョンによる周囲の土地への自然災害の一環だよな、やっぱり。

 そうだ、これでダンジョンに挑めるようになったのだろうか?

 そのことについて訊ねてみると――


「もちろんです! これで我が地方のダンジョン『心穿つ久遠秋愁』への挑戦を許可できます」

「『心穿つ久遠秋愁』ですか……中々、難易度の高そうな名前ですね」


「そうですね……正直、最深部に到達した人間はいません。無論、挑んだ人間そのものが少ないということもありますが、それでも口をそろえて『難易度が高すぎる』と探索者の皆さんが仰っていました」


 心穿つ……か。名前の通り、心が折れるような、過酷なダンジョンなのだろう。

 少々気合を入れ、明日からダンジョンに挑むということで話がまとまる。

 さて……ライズアーク大陸、コンソルド帝国。

 その最初のダンジョンは、果たしてどのような場所なのだろうか――

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