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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百十六話

『おー……私も色白な方だけど、シーレはもっと白いわねー。ココの色も薄いわねー』

『メルト、はしたないのでそんなことは言ってはいけませんよ。はい、尻尾をこちらに』

『はい。んふふ……くすぐった気持ちい! シーレは上手ねー』

『そうですか? ……凄く手触りが良いですね、メルトの尻尾は』

『自慢の尻尾よー! 次は私がシーレのこと、洗ってあげるわ!』

『ひゃ! 私に尻尾はありませんよ?』

『ならお尻をピカピカにしてあげる!』




 すみません、全部聞こえてきてるのでもう少し声を抑えてください。

 共同浴場は、村の中でもかなり大きい施設だった。


 浴場は石の床とタイルで作られ、壁は恐らく防水性の高い石材を切り出した板。

 かなり力を入れた浴場に見える。なお、浴槽は頑丈に組まれた木製で、ほのかに甘いような木の香りが漂っていた。


 ヒノキ風呂ってやつだろうか?

 もしかしたら、共同浴場も元々、外部からくる探索者の慰安のために作られたのかもしれないな。

 だから、こんなにも村に不釣り合いなくらい、立派なのだろう。


「へへ……今、村の外から若い娘さんが来てるらしいな」

「声がもう若々しくてたまらねぇなぁ……」

「露天の方に行ったら拝めるかもしれねぇぞ」


 ほら、こういう人が出てくる。

 俺は、老朽化の影響だろうか、浴場に落ちていた古びたタイルを一枚拾い、ふざけたことを口走る男達に話しかけた。


「すみません、ちょっとこのタイル見てくれません?」

「ん? なんだ若いの、お前さんも外から来たのか?」

「そのタイルがどうしたってんだ?」


 力を籠め握りつぶすと、パラパラと粉砕され浴場に零れ落ちる。


「これ、材質が鉄でも同じことができるんですよ俺。で、今聞こえて来てる声、俺のパーティメンバーのものなんですよ。どうします? 鉄で試す前に人間で試します?」

「すみませんでした……」

「出来心です……すんませんした……」

「殺さないでくれぇ……」


 釘を刺しておきます。

 そそくさと浴場を去っていく三人を見送り、このヒノキ風呂を堪能する。

 ああ……これは良いな……身も心も浄化されるとはまさにこのことだ。


「ふぅ……魔物の縄張り争いか……深い森でも、水場が少ないとそうなるのか……村に池とか噴水があったら危なかったかもな」


 幸い、村には地下水由来の水道と井戸が完備され、溜池のような場所は存在しない。

 なら、食べ物が豊富な森から、わざわざ村まで魔物が出てくる理由もない、か。


 肥沃過ぎる森、か。一見すると問題がないように見えるが、こうして実際に村の生活に触れてみると、様々な問題が出てきているんだな。


 ダンジョン……もし達成してコアを入手出来たら、どこかでコアを使用できないか、調べてみないとな。この森の異常な成長を抑制できるかもしれないのだし。


 俺はお湯の中で今一度大きく伸びをし、身体を洗ってから脱衣所に戻って行く。

 やっぱり広い風呂っていいもんだな。




「あちゃあ……先に上がってたのか二人とも」


 着替えて共同浴場の休憩所に向かうと、先に上がっていたメルトとシーレが、先程の男三人にナンパされているところだった。

 おいおい、俺の力の一片を見たなら、その二人も同じだけの力があるって思わないのか。


 あんまり外から探索者が来ないせいで、俺達みたいな人間がどれくらい強くて危険なのか、分かっていないのかもしれないな。




「なぁなぁ、一緒に酒場に行こうって! 風呂上がりの一杯は最高なんだって!」

「お仲間さんも後で俺達が誘っておくから、な?」

「カー! もう色気がたまらん! なぁ早く行こうぜ、なぁ」


 見たところ、この男衆はまだ若いように見える。そりゃこんな僻地で暮らしている以上、出会いに飢えていることは理解できるが――俺、知らないからな。


「いい加減にしないと燃やしますよ。ほら、こんな風に」

「ヒッ!」


 突然、男の一人が手に持っていた財布だろうか? おおかた『奢るから』なんて言いながら見せびらかしていたであろう革袋が、音もなく燃え、床にコインが散らばった。


「ちなみに、そのコインも溶かせる温度の炎も出せますが、コインの前に人間で試すのもいいかもしれませんね」


「ヒェ! さっきのヤツと同じこと言ってる!」

「だからやめとけって言ったんだ!」

「殺さないでくれ! 助けてくれー!」


 ううむ……見事な三下ムーブ。そしてシーレの脅し文句が俺とほぼ一緒なのが笑える。

 やっぱり俺の中で過ごした時間が長いせいか、影響を受けているのだろうか?


「お待たせ、二人とも」

「あ、おかえりー。今ねー、シーレがまた男の人を追い払っていたわ! 私も参考にする!」

「おかえりなさい。どうやら、シズマもあの三人と何かあったみたいですね?」


「ああ、露天風呂を覗きに行こうとしてたから、軽く脅しておいたんだ。シーレと似たようなこと言ってさ」


「ああ、それで最後にあんなことを言っていたんですか……なんと脅したんです?」


 俺は浴場でのやり取りを、そのまま二人に話す。


「ふふふ! 本当に殆ど一緒ですね! ふふふ、やっぱり似てしまうのかもしれませんね?」


「そうだなぁ。さてと……じゃあ宿に戻ったら、採れた山菜を少しおすそ分けしようか。ついでに天ぷらを作れないか聞いてみよう」


「それでしたら、私が仕留めた鳥も一羽おすそ分けしましょうか。内臓抜きと血抜きしかしていませんが、それでも大丈夫でしょうか?」


「シーレ、そんなことまでしていたんだ……」


「ええ、水場の近くにあえて餌になりそうな内臓を残してきました。もしかしたら、魔物が持ち帰って、その痕跡を辿れるかもしれませんから」


「なるほど……本当に抜かりないね……」

「ふふ、狩人な上に学者ですから。野生動物の習性ならある程度は熟知しているんですよ」

「へー! じゃあ、もしかしたらラライスプラウトと、鳥の天ぷらの両方が食べられるかもね!」

「いやぁ、さすがにどうだろうなぁ」






「これはありがたい! 料理のリクエストかい? それなら一品程度ならお安い御用さ」


 普通に喜ばれたし、料理も作ってもらえることになりました。

 そうか……行商人も滅多に来ないから、森の奥でしかとれない山菜や動物の肉は貴重なのか。


 一応、近隣でも山菜を栽培してはいるのだが、やはり日光が少なく、満足な量は採れないらしいし、この鳥も、誤って木から落下してきたものを回収するしか手に入れる術がないという話だ。


 俺は早速、天ぷらの概要を説明し、調理法の詳細を伝える。


「ふむ、バッター液を作るやり方ではいけないのかい?」

「一応できますね。少し食感が重くなるかもですが」


「ふぅむ……打ち粉と卵水と少量の小麦粉か……もしよければ見せてくれないかい? もし料理ができるのなら」


「あ、良いんですか? じゃあ……鳥の解体だけお願いできるでしょうか。実際に揚げるのは俺がやるので」


「お安い御用さ。知らない料理だからね、ここじゃあそういう情報は滅多に入ってこないんだ。少しでも新しい知識は仕入れておきたいからね」


 という訳で、少々緊張するが、宿の主人に天ぷら作りを教えることになりました。

 一応【料理Lv4】だからな……ある程度はできると信じているからな……!




 薄く、最低限の衣をまとった具材達が、適温の油の中で細かい泡を放出しながら揚げられていく。

 具材を入れ過ぎると油の温度が下がってしまうので、入れ過ぎずに、かつ程良く間を開けて追加を投入する。


 その度に新たに小気味良い音と共に少しだけ油が弾け、薄っすらと衣が色づいてくる。


「食材の種類で油の温度と揚げ時間を変えるんです。山菜ならこれくらいが適温ですね。衣の広がり方で判断してください。お肉ならもう少し高い方が良いかな? 衣の広がりがもっと早い温度を目安にしてくだされば」


「ほー……上手なもんだ。油の温度に拘る必要があるか……凄いね、あんなに薄い衣でも綺麗に纏われている」


 無事に、軽くて薄い衣を纏うスプ……タラの芽でいいか。

 無事にタラの芽の天ぷらが揚がり、続いて鳥の天ぷら、今回は唐揚げじゃなくて同じ衣で作った鳥天を完成させていく。


 既に宿の方で用意していたラスクと野菜のキッシュは完成しており、あとは全て食堂に持っていけば準備完了だ。

 俺は天ぷらを大皿に盛り付け、宿の店主さんと一緒に頂くことにした。




「ほー! こりゃ確かにフリッターやシュニッツェルとも違う! 軽くてサクサクで、いくらでも食べられそうだ! 塩だけで食べるという潔さも気に入ったよ!」


「おいしー、ラライスプラウトってこんなに美味しくなるのねー」

「なるほど……私の記憶の奥底にあるタラの芽の天ぷら……浅草で食べたものと変わりませんね」

「何気にシーレの人格のモデルが都心住みなのが発覚した件」

「ふふ、実は結構覚えているんですよ、元になった方の記憶や開発時のことは」

「うわ、気になるから今度聞かせて欲しいな」

「いいですよ、シズマの昔のお話と交換条件です」


 和やかに、食事が進む。

 サクサクとした衣の食感と、ホクホクとシャキシャキの中間のようなタラの芽の食感、甘くて、どこか山の香り漂う山菜のワイルドな味。


 塩だけで食べているのに、どうしてこんなに美味しいのか。

 サイドメニュー感覚でパクパク食べることができてしまう。


 そして、同じく宿の主人が作った野菜のキッシュも、ニンジンと、恐らくこれはキャベツだろうか? 野菜と卵の甘さを、香ばしいチーズの香りがまとめ上げ、非常に完成度の高い一品に仕上がっていた。


「しかし、まさか山の幸をこんなに持ってきてくれるなんてね。ギルドに納品もしてくれたんだろう? 村は明日、どの家もお祭り騒ぎになるよ。君達が来てくれて本当によかった」


「そう言ってもらえて嬉しいです。俺達は明日から、森の中を巡回して、魔物の痕跡を探す予定ですので、そのついでにまた何か採ってきますよ」


「それは嬉しいね。よし、じゃあ私も代わりに、何か良いものを作っておくからね。ダンジョンに挑むのなら、日持ちする保存食を用意しておくよ」


「わー! 嬉しいわ! 料理ができる人の保存食って、凄く美味しいって記憶にあるもの! 私、前に料理人さんが作ってくれた干し肉を食べたことがあるんだけど、とっても美味しくて、そのまま食べてもご馳走みたいで、凄く味わってちびちび食べてたわ」


「よし、じゃあそういう保存食を作るよ。勝手にだけど、この村を代表してお礼を言うよ。ありがとう、親切で強い探索者さん」


 気持ちのこもった感謝の言葉を受け、お腹と一緒に胸も満たされていく。

 幸せな気持ちをお腹の中に抱えたまま、村で過ごす二日目の夜が過ぎていくのだった――




 そしてその翌日、件の水場に訪れた俺達は、早くもシーレの仕込みが実を結んだことを知ることになった。

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