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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百十五話

「『ラライスプラウト』かなり集まったね! これは比較的新しい依頼だったから、たぶんまだ待ってる人が多いと思うわ。依頼三つ分はこれで達成ねー」


 森の奥地にて、メルトはひたすら若い木の新芽を集め、俺は比較的素人でも見つけやすい木の実を採取、そして最後にシーレが、狩猟依頼を出されていた鳥を狩るために単独で行動中。

 手分けして森の中の依頼に臨んでいるのだが、こうして見ると、改めてこの森の豊かさに驚かされる。


 食べ物が、豊富なのだ。春ですらこうなら、秋にはもっと果物やキノコが実り、村の人間では食べきれないだけ採れるかもしれない。

 もしかしたら、林業の他にも、そういった森の恵みを外に輸出している可能性もある。


 が、そうなると……野生動物や魔物も活発化するだろうし、探索者や冒険者が滅多に訪れないこの村では、そういった採取作業も命がけになってしまうのか。


「ところでその山菜だけど……それたぶん、俺が住んでいた世界にもあったね。春の山菜で、お店に売っていたり、親戚が採って送ってきたりしてたよ」


 メルトが集めていた山菜だが、細かい特徴は覚えていないが、たぶん『タラの芽』と呼ばれていた山菜だったはずだ。確か……山菜の王様? とか呼ばれるくらい人気なのだとか。


「へー! シズマのところではどうやって食べていたの? 私は焼いたり、スープに入れて煮ていたんだけど」


「俺の世界だと天ぷら……唐揚げみたいに衣をつけて、油で揚げていたよ」

「おー! 私も食べてみたいわ! 宿でお願いってできないかしら?」

「頼んでみようか」


 彼女は嬉しそうに、今夜の献立が一つ追加されるかもしれないお願いの算段をする。

 俺も久しぶりに食べたいな、タラの芽の天ぷら。


「山菜は他の種類も採れた?」


「うん、全部採れた! やっぱりある程度日が入る場所に集中してるねー。お日様がないと植物が育たないもん。この森、やっぱり急激に育って、他の植物は奥地の方に追いやられているのね」


「なるほど……木が育ちすぎるとそんな弊害もあるんだ。じゃあ、シーレと合流しようか」

「そうねー。でも、シーよシー。今、弓で獲物を狙っているかもしれないからね?」

「了解。じゃあ、別れた場所でシーレが戻るのを待とうか」


 森の奥、木の密度が若干少ない地点で俺達は別れたので、その場所で彼女が戻るのを待つことにした。

 時折、遠くの方で鳥が一斉に飛び立つ音が聞こえたり、断末魔のような鳴き声が聞こえてくることから、シーレが順調に狩りを続けていることが窺い知れる。


「シーレ、きっと沢山獲物を持ってくるね! 血抜きとか川があればできるけど、大丈夫かしら」


「彼女も収納で持ち運びができるはずだから、大丈夫だと思うよ。鮮度の劣化とかはたぶん……しないかも? はっきりとは言えないけど」


 でも確か、以前巨大な鳥の魔物の両翼を、わざわざ収納もしないで、十三騎士のヴィアスさんに運んでもらっていたな。

 あの時はどうして収納しなかったのだろう?

 ……ああそうか、あそこまで巨大な翼を二つも収納できると思われるのは不味いと思ったのか。


 それから暫くすると、手ぶらのシーレが森の奥から戻って来た。

 今回はどうやら収納してきたようだ。そのことを聞くと――


「聞いた限りですと、この大陸はダンジョン探索を生業とする人間が圧倒的に多く、ダンジョンそのものもかなりの数がある様子ですからね。恐らく収納の魔導具の普及率はかなり高いかと思って、あえて隠す必要はないかな、と」


「なるほど、確かにそうだね。ただ時間の停滞みたいな機能はメルト曰く、凄く貴重だっていう話だから、そこだけ気をつけようか」


「ですね。そちらも山菜を集め終わったようですし……私もとりあえず狩猟依頼は達成できました。魔物の調査、および討伐はしばらくかかりそうですから、今日はこの辺りで切り上げましょうか」


 とりあえず、今日一日で魔物の討伐や、巣の調査といった依頼以外は一通り終えたな。

 もっと魔物の妨害、襲撃も予想していたのだが……今日は運が良かっただけなのだろうか?

 それについてシーレに訊ねてみると――


「恐らく、魔物同士の抗争があったのだと思います。森の奥に水場があったのですが、少々血で濁っていましたし、地面に争いの痕跡がありました。いずれ、なにかしらの魔物が戻ってくる可能性が高いですね。そうしたら巣を特定、討伐もできるのですが……今は待ち、です」


「なるほど、もう痕跡を見つけてたんだ。さすがシーレだ」

「ふふ、狩人ですから」


 心強い。我らがお姉さんは本当になんでもそつなくこなすな。

 もう次の依頼のために痕跡まで調べていたなんて。

 俺達は夕暮れ前に村に戻ると、そのままギルドへと向かっていった。






「んまー! 採取依頼が七つに狩猟依頼八つ! 二カ月前から溜まっていた依頼が一日で! 貴方達凄い探索者さんだったのねぇ! 流石白銀と赤銅よ!」


 ある意味では予想通りの反応で、俺達の達成報告は迎えられた。

 タラの芽……いや、ラライスプラウトを背負い籠二つ分に加え、各種山菜を目的の量以上に採取したのだから。

 無論、提出する分以外はアイテムボックスに収納してあります。


 本来、自分達が食べる量以上、必要とされている以上に採ってくるのはマナー違反なのかもしれない。だが、あの森はそうではない……圧倒的に、肥沃が過ぎるのだ。

 俺は詳しくないので木の実の採取に留めていたのだが、メルト曰く『こんなに採れきれない量が生えてるなんて信じられない、たぶん思いっきり行商人さんに売ったら、大金持ちよ』とのこと。


「『デミコッカ鳥』も七匹も……大変だったろう? こいつら、飛べないくせに高い木の枝の上で暮らすからね、中々狙えないのよ。ここの森、枝葉がとんでもなく育っているからねぇ」


「そうですね、かなり難易度が高かったですね。……元々は平地で暮らしていた鳥ですよね、恐らく。魔物に襲われないように知恵をつけたのでしょうか」


「おや、その通りだよ。襲われなかったかい? 三人とも。少し前に魔物の悲鳴と唸り声が森から響いてきていてね……最近は夜になると自警団が門に立ったいてね、以前は外から冒険者を雇ったりもしていたんだよ。この国じゃ冒険者なんて『ダンジョンに挑めない臆病者』だなんて言われてるけどね、とんでもない話さ。自分の利益よりも困っている人を優先してくれる、優しい連中さね」


「なるほど、そうだったんですね。とりあえずかなり依頼は達成したので、彼女のダンジョン探索も許可して頂けませんか?」


「おっと、そうだったね。ちょっと支部長を呼んでくるよ、さすがにこんなに達成して貰ったんだ、許可を出さないなら、私が支部長の頭、ひっぱたいてあげるよ」


 そう意気込み、受付の女性は建物の奥に引っ込んで行った。

 そうか……冒険者って、影ではそんなことを言われていたのか。


 ダンジョンに興味を持たない……か。ダンジョンで利益を出すより、住人の助けになることを選ぶ人間だなんて、立派ではないか。


 思えば、俺がこの大陸に転送されてきた時、バスに乗り合わせた中年の冒険者がいたが、彼はもしかしたら、バスに乗車し、万が一に備えるという、そんな役割を帯びていたのではないか?


 あの時、明らかに格上の『境界破り』というイレギュラーな相手だったにも関わらず、彼は迷いなくバスから飛び降り、自ら囮という役目を引き受けていた。


 この大陸における冒険者とは……もっと、特別な意味があるのかもしれない。

 人々のために己を犠牲にして、救いを求める声に応えるような、そんな意味が。


「待たせたね! これがうちの支部長さ。ほら支部長、とっととダンジョン探索の許可をお出しよ」

「んん? この依頼書の束はなんだい?」


「これ、全部この人達が今日達成してきた依頼だよ。これでまだダンジョン探索を認めないって言うんなら、私も黙っちゃいないよ」


 それから少しして、ギルドの奥から現れた受付の女性は、少し気弱そうな中年男性の手を引っ張るようにして戻ってきた。

 今日達成された依頼がいかに多いのか、それをまるで誇るように説明していく女性。

 すると――


「確かにこれは凄い! だが……一応、既定では『ダンジョンでの戦闘に耐えられる実力があるか否か』を調べる必要があるんだ。狩猟と採取だけを沢山達成しても、許可は出せないんだよ、ギルドの規定でね……最低でも討伐依頼をこなしてもらわないと」


「なんだって! なにをケチなこと言っているんだい! こんなにやってくれた人達だよ、きっと凄腕に決まっているさね」


「いや、この規定は君にもしっかり伝えてあるはずだよ。ほら、ここにマニュアルがあるだろう?」


 ……女性が、自分の机の一部を凝視し、固まってしまっていた。

 マジか……今日一日頑張った依頼、これ全部やるだけ無駄だったのか……。


「すまないね……何分外部の探索者なんて滅多に来ない場所なんだ。規則をしっかり覚えていないのは……まぁ、褒められたことじゃないけどね。しっかり、彼女にはなんらかのペナルティを課しておくよ。けれども、やっぱりダンジョンにはまだ挑ませることはできないんだ」


「あー……別にペナルティとかは課さなくていいですよ、どうせ森を調べるつもりだったんですから。討伐依頼、それって『魔物の巣を見つけて欲しい』『魔物の群を討伐して欲しい』この二つの依頼を達成できたら、条件達成ってことでいいですよね?」


「もちろんだとも。本当にすまなかったね……ほら、君もしっかり謝りなさい。こんな親切な人達に余計な仕事を沢山割り振ることになってしまったんだから」


「ご、ごめんなさい。すまないねぇ……すっかり忘れていたよ……以前は討伐依頼ばっかりだったから、勝手に条件が達成されていたんだよ……本当にごめんねぇ……」


「そんなに謝らないでください。村の皆さんが困っていたのは事実ですし、大量に達成できて、皆さんが喜んでくれるならそれで満足ですよ。な、二人とも」


 あまりにも申し訳なさそうな二人を逆に励まそうと、メルトとシーレに同意を求める。

 すると、やはり二人とも――


「自分の分も沢山山菜採れたからいいよー」


「ええ、同じくです。それに魔物の件ですが、既に調査は開始しています。もう二、三日様子を見て、巣を特定してみせますよ」


「おお……それは心強い。けれども、くれぐれも無理はしないでおくれよ。確か、魔物の大きな叫び声を聞いたと木こり達が言っていたよ。二日前くらいだったかな」


「でしたら、そろそろ魔物が縄張りに戻る頃合いですし、準備はしてありますから安心して下さい」


「おお! 助かります! なにぶん我が村は深い森に囲まれておりまして、定期的に魔物の群が棲みついて困っていたのです。前回は半年前に外部の冒険者をお呼びしたのですが、今回は手配が間に合わなく困っていたのです」


「この森って、昔からこんなに木が大きくて広範囲に広がっていたんですか?」


「いえ、それが私がこちらに赴任してきてすぐの頃はそうではなかったのです。それが年々、村の人間が伐採するのが追い付かない速度で成長を始めて……良質な木材が採れるからと、積極的に国も対処しない方針だったので……」


「なるほど……分かりました。討伐に関してはもう二、三日時間を頂きますが、必ず対処します」


「ありがとうございます。こちらも、求められていた食材を無理に森の奥まで採りに行こうとする木こりを止めることができてよかったです。実は、ここの依頼はたまに、木こりが無理をして受注、深部に向かって魔物に襲われる、なんて事件も多発していたんです」


「そうだったんですか……もし、追加の食材が必要なら依頼を出してください。俺達が滞在している間は、俺達が調達してきますから。魔物を討伐できてしまえばそれが一番ですけどね」


 なるほど、とりあえずこれではっきりした。

 このギルドができたのは当然、探索対象になるダンジョンが発生してからだろう。

 で、赴任当初、つまりダンジョン発生からすぐの頃はここまでの大森林ではなかったと。

 これで、この森の異常な生育具合も、ダンジョンの影響だってことがはっきりしたな。




「よし。じゃあ共同浴場に行って疲れを癒したら、宿に戻ろうか」

「わーい! 大きいお風呂、久しぶりねー! シーレと一緒に入れるわ!」

「ふふ、そうですね。私が尻尾を洗ってあげますね」

「お願いねー! シーレは尻尾、優しく洗ってくれるから歓迎よー」


 ギルドを後にしつつ、嬉しそうに語る二人に、胸が暖かくなる。

 この三人での冒険……予想以上に順調に進むな。

 やっぱり俺もメルトも、一八歳そこらの若造だ。実力はあっても舐められることもあるだろう。

 けれども、シーレがいればそれも解消されるし、信頼を勝ち取り易い。


 もし、こちらの大陸で大きな問題があれば、その時はシレントの姿なりなんなりで、強引に突破、解決する必要もあるだろうと思っていたが……これなら、穏便に事を運べそうだ。


 俺は、最初に外に出し独立させたのが、シーレで本当によかったと、改めて思った。

 楽しそうに、まるで姉妹のように手をつなぐ二人を見て、自然と頬が緩む。

 さぁ……あとは討伐任務だ。苦戦はしないだろうが、気を引き締めないとだな。

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