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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百十三話

「よし、じゃあ出発しようか」


「ええ、行きましょうか。地図も買いましたし、まずはここから馬車で三時間ほどの野営地で休憩、その後は夕暮れ間近まで移動、でいいんですよね?」


「そうだね、地図によるとその辺りは小さな林があるから、その中に馬車を停めて、魔法で地面に穴を空けて、そこにバスを召喚。その中で一晩明かそうか」


「おー、またあのブロロンってヤツね! 恐いから音出さないでね?」

「もちろんだよ。じゃあシーレ、御者をお願いするよ」

「任せてください。では……いざ新大陸、最初の目標は深緑の村『ムールダーム』です」


 朝食を食べ終えた俺達は、ギルドから馬車を引き取り、ついにこのライズアーク大陸の冒険を開始した。

 街の外には広い街道が完備されているが、俺達が向かうのはその次の街まで続く立派な道ではなく、途中からただの慣らされた地面に変わっている、沿岸沿いの細い街道だ。


 そのうち、人通りの少ない道で、俺も御者をもっと練習しないといけないな。シーレにだけ負担を強いるわけにはいかないのだし。




 馬車を走らせること一時間。初めのうちは都市周辺に住む人間の集落、村を見かけたのだが、すっかり人の営みとは無縁の、潮風と潮騒が届くだけの牧歌的な風景が続いていった。

 これはまたメルトが『退屈』と言い出しそうだなと思ったのだが――


「メルト、何をしているんだい?」


「うん? 船で抜けた尻尾の毛を、根元で揃えて束ねているのよ。村についたら、お湯で洗って、お薬をつけて、乾かすの。こっちの大陸でも売れるかなー?」


「なるほど……でももう他の手段でお金を稼げるんだし、自分の身体の部位とか売らなくても良いんじゃない? それこそ、自分で使うとかさ」


「むむ……言われてみたらそうかも。私の尻尾の毛、長くて綺麗だから、きっと素敵な布になると思うの。シズマの中に、そういうの作るの得意な人っているのかしら?」


「んー……一応裁縫とか細工が得意な人はいるんだけど」


 一応、過去に一瞬だけ全生産職になり、一通りの作業はできるようになっているのだ、俺以外のみんなは。

 しかし本格的に裁縫をするとなると、あれ以来一度も使っていない、それこそ一瞬しか顕現していない影響か、円卓にも現れていないキャラクターになる必要がある。


 なお、一応『細工』の完成品にも布製品があるため、シジマでも加工はできると思うのだが、せっかくならしっかりと『裁縫』ができるキャラクターで実行したいところだ。


「どの道、まとまった時間が必要になるかもしれないし、尻尾の毛は処理したあと、しっかり保管しておくといいよ」


「分かったわ。これで、シズマとシーレと私で、お揃いの何かが作れるといいわねー」


 そんな彼女の希望をいつか叶えるために、どこかの街に長期滞在するのも良いかもしれないな。

 出来れば、攻略に時間が掛かりそうなダンジョン最寄りの街だとなおよし、だ。


 その後、最初の野営地に辿り着いた俺達は、予想通り広さに対して、利用者が少ないその場所で遅めの昼食を摂った後、再び馬車での移動に戻ったのだった。




 日が落ち始め、もうじき右手側に広がる海も朱に染まる時刻。

 今日の移動はここまでとし、馬車を少しだけ街道から逸らし、草原地帯を進み、ちょっとした雑木林の中に停車した。


 こういう目立たずに停車でき、なおかつ地面に穴を空けても気づかれにくそうな場所があるなら、バスでの野営は便利だな。

 寝ずの番をしなくても恐らく大丈夫だろうし。


「でも、そうじゃない時、見晴らしのいい場所で一晩過ごす時はしっかりテントを張る必要がありますね。その場合は私が陣地形成の技で、外敵の接近を感知できるようにしますよ」


「あ、なるほど。狩人の技は便利なものが多いからなぁ」

「へー! シーレって器用なのねー?」

「ふふ、そうなんです。実は生活力の高い職業なんですよ? 狩人って」


 確かに、外敵の接近を察知する技もあるし、使い道の多いナイフの扱いも上手な上に、弓による狩猟も可能。さらに、彼女のサブ職業である学者の力で、目利きも属性付与も出来てしまう。

 生活に役立つ能力の宝庫だ。


「では、今回はメルトに活躍してもらいますね。地面に線を引くので、その大きさで穴を掘ってくれますか?」


「あ、前回と同じくらいでいいのよね? 任せて!」


 あっと言う間に、地面に穴が開く。が、正式には『その大きさの穴ができるように地面を圧縮している』とも言える。

 押し固められているので、崩れたりしない、頑丈な大穴になるのだ。

 今回もそこに、ビルドメニューからバスを召喚し、停車する。


「相変わらず突然こんなに大きなものが出てきて驚いちゃうわねー! 今回も階段型に土を変形させるね」


「お願いします。シズマ、そうしたらバスの周囲に光量調節が可能なライトを設置しましょうか。それに、もしかしたら水が必要な建築パーツも、この世界ならなんらかの魔法で再現されるかもしれませんし、試してみましょう」


「なるほど……ユニットバスとかもあったから、もし使えるなら便利ではあるなぁ」


 仮に、排水した水等が虚空に消えたり、どこにも繋がっていないはずの蛇口から水やお湯が出るようになれば、凄く便利ではあるのだが……さすがにそこまで万能ではなかったようでした。


 残念ながら蛇口から水は出てこないし、トイレの水もないので用を足したりはできないだろう。

 が、もしも水源が近くにある場所だったらどうだろうか……? いや、それでも難しいか?


「残念ですね……こちらの世界でもビルドスペースに転移出来たら、快適に夜を明かせたのですが」

「さすがにその項目はグレーアウトしてるね。もし可能なら、凄く快適だろうね」

「なになに? シズマにまだ秘密があるのかしら?」

「んー、たぶんこの世界だと関係ない力かなー」


 あれですよ、所謂『建築要素を楽しむための専用のサーバー』みたいなやつです。

 安全地帯である街中からなら、いつでも転移可能な自分だけのスペースがあるのだ。

 いやはや懐かしい。無駄に凝った建築とかしたなぁ、まとめサイトの記事とか参考にして、温泉郷みたいな専用スペースとか作ったっけ。


「よし……シズマ、ライトの調整が完了しましたよ。バスの中で休みましょうか」

「ありがとう、シーレ。じゃあ、後部座席は今回もメルトに譲るよ」

「わーい。シーレ、一緒に寝よう?」

「ふふ、良いですよ」


 そうして、俺は複数の座席を全部倒し、ちょっとしたフラットスペースの様にしてから、ビルドパーツの一つである布団を召喚する。


 メルト達の分も出したところで、寝ころびながら、行儀が悪いが朝にカフェで購入しておいたサンドイッチを取り出した。

 実は、しっかり道中の食料としてストックしてあるのですよ。


「なんだか楽しいわ、知らない場所で夜を明かすのって。明日は朝からずっと移動しないとだね?」


「そうですね、明日はひたすら海沿いに移動、地図によりますと、明後日には分かれ道に差し掛かるので、そこで少しだけ内陸部に向かい、深い森の中に入ることになりますね」


「結構近いと思ったけど、こんなに速度が出る馬車でも三日もかかるなんてね。森での移動はどれくらいかかるんだい?」


「森に入ってから半日程度で『ムールダーム』に到着しますね。恐らく日暮れギリギリになると思いますから、最悪の場合は村の外での野営になるかもしれませんね」


「了解。よし、じゃあ食事も済んだし、バスの照明を落とすよ」

「はーい」

「外のライトは薄っすらと点いていますから、もし眩しかったら言ってくださいね」


 そうして、野営と呼ぶには贅沢で快適な夜が過ぎていく。

 風情がない? いえいえ、そういうのはそのうち味わえると思いますので。

 今はただ、快適に、疲れを癒すのが優先だ。

 おやすみ、二人とも――




 朝。後部座席から聞こえてくる静かな寝息が途絶えないよう、音を殺してバスから降りる。

 エンジンを掛けなくても、手動で簡単に開けられるマイクロバスでよかった。


 薄っすらとバスの周囲を照らすライトを避け、土の階段を上り穴から抜け出す。

 カモフラージュのために穴を塞ぐ植物の層を抜ければ、外はまだ日が昇る前だった。


 林を抜けを遠くに目を向ければ、朝日が昇る前の海が、薄っすらと星を反射していた。

 もし、ここが西の沿岸なら、日の出を拝むことができなかったかもしれない。

 

「おはようございます、シズマ。日の出を見にきていたのですか?」

「あ、おはようシーレ。偶然だよ、ただ目が覚めて、なんとなく海を見ていただけさ」

「そうでしたか。……逆に夕陽が沈む海が見られるのは、随分と先になってしまうでしょうね」

「そうだね。メルトはまだバスの中かな?」

「はい、私だけそっと抜け出してきました」


 朝焼けに照らされたシーレが、いつもより少しだけ血色が良く見えた。

 薄幸の美少女のような、美女のような、そんな印象が若干薄れ、剥き出しの美しさが現れる。

 ……やっぱり、二人きりになるとまだ、少し緊張してしまうな。


「……明日は三人で見ましょうね」

「そうだね」

「……幸せですね、本当に」


 ふいに、隣に立つシーレが、頭をこちらに預ける。

 眠るように、目を瞑りながら。

 心拍数が跳ね上がるのを悟られないように、小さく、それでいて多くの酸素を取り込もうと、気配を殺すように息を深く吸い込む。


「こうして、シズマと一緒にいられる。メルトと一緒に旅ができる。私だけ、先にこんな贅沢をしてしまって、本当に良いのかと、たまに罪悪感が湧いてくるのです」


「良いに決まってるじゃないか。みんなも納得しているんだし」

「それでも、ですよ」


 頭を離し、少しだけ困ったようにはにかんだ彼女は、踵を返しバスに戻って行った。

 ……たぶん、罪悪感と一緒に、寂しさも感じているのかもしれないな。

 俺に頭を預けた意味……それはきっと、内に眠るみんなのことを思っていたから、なのかもな。


 そうして、今朝も朝食として購入したサンドイッチを頂き、本日も移動を再開、道中魔物やトラブルに遭遇することなく、俺達の旅は順調に進んで行ったのだった。




 それから二日が経ち、ついに街道が分かれ道に差し掛かった。

 このまま海岸沿いに進めば、当初の目的地である港町にいずれは辿り着くのだが、まずはダンジョンの攻略も兼ねて、内陸側に伸びる道を進んでいく。


 ここから半日、夕暮れ時にはこの深い森の中に存在する『ムールダーム』の村に到着する予定だ。

 果たして、どんなダンジョンが俺達を待ち受けているのか、そして村ではどんな依頼を頼まれるのか、期待と若干の不安、そして深い森の中という、これまで行ったことのないロケーションの村はどんな場所なのか、様々な思いを胸に、森へと続く道を進んで行くのだった。


「こっちの森、広葉樹が多いみたいですね。そのせいか日の光がかなり遮られていますし……そもそも、どの樹も樹齢が凄そうですね……どれも立派です」


「本当ねー! 故郷の森もかなり立派だったけど、こっちの森はさらに立派ね。たぶん森の恵みも沢山採れるんじゃないかしら?」


「確かに地図を見た限りだけど、とんでもない広さの森が広がっているね。村の規模に対して凄い広さなんじゃないかな」


「そうなると、もしかしたら豊かである前に、森の脅威に晒されている可能性すらありますね」

「脅威って、何かしら?」


「野生の動物や魔物、それに育ちすぎた植物による村の侵食、ですね。もしかすれば林業を生業にして、定期的に伐採、売却している可能性もありますけど」


「なるほど。じゃあ村で頼まれる依頼は森関係のものである可能性もありそうだね。村についたら、ダンジョンの情報を調べつつ、何か困ったことがないか聞き込みするのも忘れない方が良さそうだ」


 そうして、俺達はだんだんと鬱蒼と茂る森の中、届く日の光が弱まっていく森を抜け、ついに村へと辿り着いたのであった。

 いやはや凄いね……森を抜け村の周辺に出ると、夜なのに逆に明るくなったように感じたよ。

 こりゃ相当深い森だったんだな。


「そこの馬車、止まってください!」


 すると村の門番だろうか、申し訳程度の粗末な槍を携えた若者が、村に近づく俺達の馬車を止めに進路上に出て来た。


「こんな時間に我が村にどんなご用件でしょうか」


「私達は探索者パーティです。しばらくこの村に滞在し、ダンジョン攻略に挑戦したいと思い移動してきました。到着が遅れ、このような時間になり、余計な警戒をさせてしまい申し訳ありません」


 御者席のシーレの申し訳なさそうな言葉に、門番の青年が露骨にしどろもどろになっているのが窓から見えた。

 うむ、やはり対人相手ではシーレが一番警戒されずに済むな。

 思えば、リンドブルムを始めてシーレで訪れた時も、かなり甘い対応をしてもらったのだし。


「わ、分かりました! 宿は入ってすぐのベッド型の看板の建物です」

「ありがとうございます」


 そうして、俺達は第一の目的地である、深緑の村と評される『ムールダーム』に辿り着いたのであった。

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