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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百十二話

「ひっろいなぁ……ここが海運都市で……帝都はこんなに内陸にあるのか……馬車でも一月かかる距離じゃないか」


「となると、帝都に向かいながら、寄れそうなダンジョンを攻略……という形でしょうか?」

「わー……街がいっぱいあるねー。シズマ、次はどこに行くの?」


 俺は、一階ロビーに張られている大きな地図を前に、帝国の広大さに改めて度肝を抜かれていた。

 大都市の数だけで五つ、それよりも小さな規模の街に至っては……だめだ、数えきれない。


 だが、ダンジョンが最寄にある都市や街には限りがあり、そこを重点的に回っていけると丁度良いと思うのだが――


「ここ、こっちの港町の方に向かって、大陸の外周に沿ってダンジョン巡りってできないかな?」


 俺は、かつてこちらに転送された時に向かっていた港町と、その港町に向かっていた馬車の出発地点である村をもう一度見てみたいからと、そのルートを提案した。

 あの獣人の親子が無事に父親と会えたのか、そして一緒に魔物に挑んだあの時の冒険者がその後どうなったのか、それを知りたいのだ。


「なるほど……シズマの考えは分かりました。確かにこちらのルートでも、小さな村と……その付近にダンジョンがあるみたいですね。のんびりとした旅路になりそうなルートです」


「海の近くの道なのね? 楽しそうねー! 私はそのルートに賛成よ」


 地図を見た限りでは、内陸部にある帝都に真っすぐ向かうルートも存在しており、こちらのルートとなると、複数のダンジョンに挑めそうではあった。


 が、複数箇所に挑めると言っても、その度にシーレが付近で任務を達成しないといけないため、いっそのこと挑めるダンジョンが限られているルートで、シーレのランクを上げてからダンジョン密集地である内陸部に向かった方が良いと思ったのだ。


「よし、じゃあ今日はホテルで一泊してから、大陸の沿岸を進んで、もう一つの港町を目指そうか。途中、少し内陸に向かう道に逸れて、そこに小さな村があるみたいだし、そこにもダンジョンがある。手始めにこのダンジョンに挑む……ってことでいいかな?」


「ええ、問題ありませんよ。そうですね、私としてもいきなり人が密集する場所に行くより、もう少し人の少ない場所でこの大陸の感覚を掴みたいと思っていたところでした」


「私は海が近いなら、エビが取れるかもしれないから賛成よ!」

「はは、釣り道具もあるし、いい場所を見つけたら釣りもしようか」


 こうして、俺達の最初の行く先が決まる。

 ダンジョン密集地に向かった方がコアを集める上で効率も良いのだろうが、その場合は必ず、他の探索者との競争になるだろう。


 なら、まずは遠くのダンジョンで実績を積みつつ、シーレをランクアップさせるのもありだし、コアが手に入れば、そのまま戦力アップを狙うことだってできる。


 それどころか、もしかしたらパーティを分けて、複数のダンジョンに同時に挑めるようになるかもしれない。

 やはり、密集地帯に行くのはもう少し後の方が効率も良いだろうな。



 その日はホテルに戻り、昼食をホテル内にあるレストランで済ませることにした。

 随分と格式高いホテルだという印象を受けたが、どうやらドレスコードが設定されている訳でもなく、余所行きの服装なら問題ない様子だった。


 俺は、少しだけ作りがしっかりした普段着風の装備に変更し、メルトも最近は温かくなってきたので、ブラウスにスカートという、いかにも女の子といった服装に着替え、シーレも上品なロングワンピースという服装に着替えてからレストランに向かった。


「この都市ってやっぱり海の幸が多いのかなー? エビ料理、あるかなぁ?」


「ふむ……ランチタイムですし、注文して料理を選べるのだと思いますよ。エビがないか探しましょうか。逆に、夜になるとコース料理しかない可能性もありますが」


「やばい、知識としてはテーブルマナーを知っているけど経験がないからもしそうなら不安だな」


 これは夕食は別な店で摂るべきかもしれないな。もしくはルームサービスを頼むか。

 ……あるよね? きっとあるはずだ。 いや、普通にアイテムボックスに保管してある料理でも良いのだが。……でもその土地の料理を食べるのも、旅の醍醐味だからなぁ。


 席に案内される。

 当然ボックス席などではなく、丸テーブルに俺達三人分の椅子が用意され、メニューが三人分運ばれてきた。

 給仕の男性がグラスに水を注いだところで一度去り、その間にメニュー内容を確認する。


「ふむふむふむ……二人とも大変よ、私全部分からないわ!」

「なるほど、確かにあまり一般のお店では見かけない料理名が多いですね」


「おお……実物初めて見たかも『〇〇を〇〇し○○を添えて』とか『本日のシェフおすすめ』とか。具体的な料理が想像できないな、俺も」


「食材だけは特定できますからね、メルトはこの『シルクシュリンプのジュエルケース仕立て』にすると良いですよ」


「え、エビってことしか分からない……じゅえる……? ケース?」

「『まるでエビの宝石箱やー』みたいなノリかもしれない」

「??? とにかくこれにするね?」

「では私は『ソールフィッシュのコンフュ乳脂仕立て』にしましょう」

「シーレ、俺のも決めてくれない?」


 ごめん、ぜんっぜん分からん! 俺、料理の知識はセイラから引き継いでいるはずなんだけど。

 ……いや、一応分かるんだけど、なんかこう、名前の癖が強い……!

『小魚介のカルパッチョ子供達を思い遊ばせて』やら『白銀を纏った小魚の群を追いかけて』やら、なんか無駄に詩的なんですもん……!


「ふむ……こだわりがないのなら『本日のシェフのおすすめ』で良いかもしれませんね」

「無難にそれにするかぁ……」

「なんだか料理を決めるだけで疲れちゃうねー?」


 本当、その通りです……。今度からこういうレストランで食事するのは止めよう……いや、むしろコースで頼んで何にも考えない方がいいかもしれない。




 その後運ばれてきたのは、どれもこれも美しく飾り立て盛り付けられた、所謂フレンチに似た料理だった。

 中でも、メルトの頼んだ料理は本当に『宝石箱』のような様相で、美しく緑色に輝くエビの卵を纏うエビの身や、イクラに似た魚卵に飾られたエビのテリーヌ、香ばしく焼き目をつけられつつも、何かのジュレを塗られているのか、つやつやと赤とこげ茶のコントラストが美しい焼きエビが綺麗に盛り付けられていた。


 なお、シーレは普通に『舌平目のコンフュ』でした。どうやら料理名から推察できたようです。

 俺? 俺のはよく分からないけど、ブリに似た魚を美しくバラのように盛り付けられたカルパッチョと、同じくエビの風味がするポタージュの組み合わせでした。


「美味しかったけど……食べるのがもったいないくらい綺麗だったねー?」


「そうですね、確かにこれは想像以上でした。恐らく、レストランこそがこのホテルの売りだったのかもしれませんね」


「確かに。ただ……量が少ないよね?」

「ねー! シズマ、部屋に戻ったらしまってあるエビカツバーガーを頂戴!」

「あ、私もお願いします。まだ食べたことがないので」

「はは、了解。じゃあ部屋に戻ろうか」


 結局、この後俺達は三人でエビカツバーガーを食べ、それで満足はしたのだが、その影響で夕食は食べられませんでした。


 それじゃ、明日は早めに出発しましょうか。どうやらこの大陸では、探索者は移動して当たり前らしいので、転入、転出届けとか出さなくても問題ないみたいなので。




 妙に弾むベッドで一夜を過ごし、翌朝そのベッドを思いきり揺らされて起こされた。

 横を見れば、メルトがベッドを手で押して揺らして――いや、メルトじゃありませんでした。

 何故かシーレが俺のベッドの横に座り、身体を弾ませてベッドを揺らしていました。

 普通に起こして……!


「おはようございますシズマ」

「なんでこんな起こし方するの……」

「ふふ、面白いでしょう? ほらほら、早く起き上がってください」


 バインバインとまたしても座ったままベッドを揺らす、微妙に幼い言動を見せる我らがお姉さん。

 起き上がり、洗面所で朝の支度を済ませて部屋に戻ると、シーレが部屋の隅に立ち、隅々まで目を凝らし、忘れ物がないかチェックをしているところだった。


「チェックアウトまでまだ時間がありますし、朝食はどうします?」

「私は外で別なお店がいいかなー? ここだときっとまた難しい注文しなくちゃいけないわ」


「俺もメルトの意見に賛成かな。まだ、この都市の大通りしか見ていないし、少し下町みたいな場所を覗いてから出発しようか」


 ホテルの人間に早めのチェックアウトを告げ、馬車を探索者ギルドの方に移動した後に、俺達はこの都市を出る前に、下町がどんな様子なのかそれを確認し、朝食を摂ってから旅立つことにした。




 下町というか、この都市に住む一般の人間の居住区という場所がやはり存在した。

 それはどうやら、俺達が最初に降り立った港にほど近い場所らしく、地元の人間や、この都市の店のための漁を行う人間の港がある区画らしい。


 その場所を目指し、のんびりとこの発展した巨大都市を見て回りながら、徒歩で向かっていた。


「こんなに大きい街で迷子になったら大変ねー……」

「そうだなぁ。けど、市内を巡回している人間も多かったし、案外何とかなるんじゃないかな?」


「下町や居住区にもそういった方がいると良いですね。もしくは、それこそ探索者のダンジョン外任務として、そういった雑務を募集しているのかもしれませんし」


 なるほど、その可能性もあるな。

 この国の文化や在り方、都市の働きについて考えながら歩いていると、次第に背の高い建物が目立たなくなり、どことなくリンドブルムの居住区にも似た街並みに変わって来た。


 微かに潮の香りが漂い、この場所こそが『俺達が元々想像していた港町だ』なんて考えながら、その一帯を見て回ることにした。


「そろそろお腹すいたよー」

「そうですね……気がつけば随分と歩いていますし」

「じゃあ、まずは軽食が摂れそうなお店、行ってみようか」


 心なしか、メインストリートよりも、どこかぬくもりを感じる空気に満ちた区画。

 道行く人の服装も、きままな普段着といった印象で、特別な余所行きの恰好という感じもしない。

 少し、大きな都市に疲れていたのかもしれない。なんだか凄くこの場所の居心地が良いと感じる。


「あ、あれきっとカフェっていうのよ。ほらほら」

「あ、本当ですね。オープンテラスのカフェです」

「あそこで朝食が食べられそうだし行ってみようか」


 海が遠くに小さく見える、そんな特別好立地でもない、ただの港町のカフェといった様子の店。

 気取らない、地元の人間だろうか、多くの客が楽しそうに語らう、そんな店に入店する。


「いらっしゃいませー。三名様ですか?」

「はい。できれば外のテラス席をお願いしたいのですが」

「かしこまりました。案内、よろしくねー」

「はーい」


 この店の子供だろうか、制服を着た小さな子供が、俺達を外のテラス席に案内してくれた。

 いいね、こういう雰囲気。どうやらメルトは小さな子供が働くのが珍しいのか、しきりに目でその子のことを追っていた。


 シーレもまた、このどこか温かな店で過ごす時間が嬉しいのか、テラス席で目を閉じ、風を感じている風に、気持ちよさそうな表情を浮かべている。

 ……なお、見とれている男が多数。これは仕方ない。俺だって見とれていたし。


「あ、サンドイッチ! 私ね、サンドイッチって好きなの」

「私も好きですよ。ここのはどういうパンで出てくるんでしょうね?」

「あ、俺も朝は結構パンが多かったかな」


 いや、米も大好きなんですけどね? ただ朝は結構ギリギリなことが多かったんですよ日本にいた頃は……そうなると必然的にパン加えて家を飛び出すことになるんです。

 なお、知らない女生徒と道角でぶつかって、それが転校生だったなんてイベントはありませんでした。たぶん昨今、漫画にもアニメにも小説にも出てこないだろうな、そんなシーン。


「じゃあ私はこれ!」

「同じものにしますね、私も」

「じゃあ俺は空気読まずにこっち!」


 そんな、穏やかな時間が、この大都会の片隅で過ぎていく。

 朝の陽ざしが、テラス席のパラソルを照らし、色を帯びた光が俺達を照らす。

 潮風が、優しく吹き抜ける、小さなカフェで、和やかに――








「はい、間違いありません。確かにダスターフィルで発行されたものでした。あの大陸にあったダンジョンは三つ……いずれも我が国の禁域ダンジョンに匹敵する、天然の大ダンジョンでした。そこを二カ所も踏破した人間、恐らく大規模な探索隊のメンバーの一人だとは思うのですが……いかがいたしましょうか?」


『そうか……我が国で活動する以上、目だった働きをすれば必ず我々の目に入る。どう対応するかは、こちらが直接見極めて判断を下す。報告、ご苦労だったな』


「はい。では、引き続き私は探索者ギルドでの業務を続行致します」


 その頃、この大都市の探索者ギルドの職員の一人、シズマ達の手続きを担当した女性職員が、この国ではさほど珍しくない、遠距離の通信機を使い、彼らのことを報告していた。

 それはどんな目的の報告なのか、どんな理由で報告をしたのか、まだ分からない。


 それでも、この国に潜む何者かが、シズマ達の動きを注視しはじめようとしていた。

 それは彼らの道先を妨げる者なのか、それとも――

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