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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百十話

 船での旅にも慣れ、シーレが体調を崩すこともなくなった七日目。

 正式にこの船は、ライズアーク大陸の領海に入ったという知らせを受ける。


「って言われても実感湧かないけどね! 海に目印なんてあるのかしら?」

「そうだなぁ、最近ちらほら小島とか見えるから、それで判断しているのかもね」

「ええ、それに航行速度や羅針盤の動き、星や景色で大体の位置は特定できているでしょうし」


 甲板で周囲の景色を眺めながら、船での航行の話をする。

 この世界には、まだGPSのようなものは存在しないし、広範囲のレーダーだってあるか分からない。

 通信システムはあるだろうが、無線機的なものがどこまで開発されているのか不明だ。

 やはりまだ、長距離の航海はハードルが高いのかもしれない。

 技術の発展度合いも、どこかで知れると良いのだが。


「うーん……シズマ、私凄く贅沢なこと、あまりよくないことを言うね……少し、飽きて来ちゃった……船の旅は楽しかったのだけど……」


「ははは……いや、俺も正直飽きるよ。一応遊戯室もあるけれど、貴族も多いし面倒だしね」

「そうですねぇ……何か船室で作業でもしましょうか?」


「そうねー、お薬の調合は揺れで失敗しちゃうかもだから、ブラッシングでそろそろ冬毛の処理でもしようかなー」


「そういえば、以前よりも尻尾がふわふわになっていますね。ブラッシングのお手伝いしますよ」

「じゃあ、俺は引き続き船内の様子を見回ってくるよ」


 やはり、飽きてしまうよな。暇潰しになりそうな道具、今度から用意しておかないと。

 二人が船室に戻るのに同行し、部屋の前で別れる。

 かれこれ七日間で、この二人が他の乗客に絡まれてきたのを何度も見てきたのだが、今ではもう、すっかりその勢いも収まっていた。


 何故かはわからないが、恐らくシーレが何かしらの『強硬手段』に出たのかもしれないな。

 ……俺も暗殺とかできるようになるべきか? いや、ちょっと思考が物騒すぎたな。

 そんな海の上での日々。大きなトラブルが起きることもない、平和な日々。

 およそあと一週間か。確かにこれは飽きてしまっても仕方ないよな――






 船での旅も佳境に入り、いつもより船内の空気が慌ただしくなる。

 それは長旅をしていた乗客の下船準備の気配であったり、船員の作業量が増えたが故の騒がしさであったり。

 そんなどことなく忙しない空気にあてられたのか、メルトもそわそわし始めていた。


 ブラッシングや換毛の関係で、少しだけボリューム感の減った尻尾。

 そういえば、出会った時は既に冬毛が生え始めていたからか、今の彼女の尻尾は少々新鮮だ。

 そんな彼女が、既にまとめてある荷物を再確認してみたり、忘れ物はないかと部屋の隅々を確認したりと、まるで地震を察知した小動物のようにチョロチョロと動きまわっていた。


「メルト、大丈夫だから落ち着きなさい。私も一緒に最終チェックをしたでしょう? 到着は明日の朝。今から慌てても疲れますよ?」


「そ、そうなんだけどー! 私、こんなに遠くに来たの初めてだから心配なのよー」

「大丈夫だよ。俺もシーレも、周囲の様子を観察するのが得意だからね。何かあれば知らせるよ」


 シーレの【観察眼】と俺の【神眼】があれば、何かを見落とすことなんてないだろうからな。

 そうしてメルトを落ち着かせ、上陸した後はどうするかを二人と相談する。


「前も言ったけど、まずはライズアークでの身分、ギルドのような組織に登録する必要があると思うんだ。それで大陸について学んだ後に、ダンジョン攻略に向けて出発したいと思う」


「そうですね……私の印象ですが、こちらの大陸はより一層、近代化が進んでいるように感じますし、制度や組織の管理が行き届いているかと。まず身分や肩書きの確保は急務ですね」


「うーん……ねぇねぇ、お金ってどうなるの? 今までのお金もそのまま使えるのかしら?」


「あ、そうだ。メルトよく気がついてくれたね。ライズアークは今、新しい貨幣に切り替わっている最中なんだ。一応古いお金も使えるけど、両替した方が良いだろうね。外国からの旅行者も多い港街なら、きっと両替所もあるはずだよ」


 そうだった。

 今までは銅貨、銀貨、金貨、大金貨が単位の役割をしていて、〇〇が〇枚という数え方だったが、個人的にはライズアークの通貨の数え方の方がなじみ深い。


 やはり共通した単位があると便利だ。確か『リクス』という単位だったか。

 その通貨のことを『共通貨幣』と呼んでいたので、恐らくシジュウ共和国や他の国でも使えるのだろう。


「ふむ。一国が新たに発行した通貨、またはその国で元々使われていた通貨が共通貨幣として浸透すると、中々面倒なことになるかもしれませんね、後々。力を持ちすぎることになります」


「確かに。ただ大陸内だけは統一したいのかもしれないね」

「かもしれませんね。では両替もある程度しておいた方が良いでしょう」

「私が気がついたから誉めていいのよ!」

「よーしよし、偉いぞーメルト」


 なでなで。きっとこの子は可愛いので向こうに行っても何かに巻き込まれるかもしれない。

 が、もう一緒にシーレがいるので、大抵のトラブルは解決してしまいそうなのだが。

 ……この二人が並んでいる方がトラブルを引き寄せそうだな。


 そうして、船で過ごす最後の夜が更けていく。

 起きたら、もう新しい大陸だ。確かに俺も少し、寝つきが悪くなりそうだな、そわそわして。




 翌日、ついに船が港に到着した。

 甲板に出ると、そこから見える港、そして港町が、俺達が想像していた規模を遥かに超える規模だったこともあり、思わず――


「うお! こんなに大きいのか、港町で! っていうかもう都市じゃないか」

「わー……リンドブルムみたいに大きな建物でいっぱいよ!」


「これは一種の主都なのかもしれませんね。帝国である以上、皇帝が治める首都か帝都もあるのでしょうが、それに比肩する都市がいくつか点在しているのかもしれません」


 なるほど……つまり地方都市のようなポジションとして港を所有する都市がある、と。

 これはこれまで以上に長距離移動が続く旅になりそうだな。

 俺達は下船した後、早速手始めに両替所を探すことにした。

 幸い、文字は共通だったので、目当ての店や施設を見つけるのにそこまで苦労はしなさそうだ。


「港なのに屋台が少ないねー? 違う大陸の果物とかないのかしら」

「もうここは港町って言うか大都市だもんなぁ。たぶん別な通りに飲食店とか商店があるのかも」

「そうですね、両替したらまずは市場を調べて、物価についても調べてみましょうか」


 船を降りた人間の大多数が、元々この大陸の人間だったのか、思い思いの方向に向かう。

 だが、俺達と同じく馬車ごと乗船した商人達は、皆同じ方向に向かっている。もしかしたら、両替や商売に関する施設がそちらにあるのかもしれないと、俺達も自分達の馬車を引き取り、他の馬車に続き移動していく。


 大きな都市、人の多い街中での御者は初めての経験であるはずのシーレだが、問題なく馬車を操作している。これなら安心だ。

 やがて、ほとんどの馬車が港の外れの方にある、大きな建物へと向かっていたことが分かった。


「ええと『ライズアーク商会ギルド本部』って書いてあるね。商人ギルドの仲間よね?」

「なるほど、もしかしたら両替もしてくれるかもしれませんし、行ってみましょうか」




 馬車を預かってもらい、その建物の中に入ると、そこはやはり商人ギルド的な場所だったのか、多くの人間が総合ギルドのように沢山並ぶ窓口にて、何やら手続きを行っていた。

 そのうちの一つに並び、代表としてシーレが話し始める。


「すみません、実はお聞きしたいことがあって立ち寄ったのですが」

「はい、どういったご用件でしょうか?」


「実は、先程この大陸に上陸したところでして。この大陸で必要な『共通貨幣』に両替をしたく思っておりまして。こちらでも両替はなさっていますでしょうか?」


 代表者としてシーレを立てたのは、無論一番大人でしっかりしているように見えるというのもある。だが、その最たる理由は『美人』であることと『エルフ』であることだ。

 まず、外見上の若さで舐められることがない。そして、美人との会話を嫌がる人間は少ない。

 以上の理由でスムーズに会話が進むと思ったからだ。


「両替ですね。こちらでも行ってはいるのですが、商会や商人向けであるため、あまり少額では応じることができなく……」


「大金貨二〇〇枚分、お願いできないでしょうか?」

「な!? え、ええ、可能です。あの、どちらかの商会の人間なのでしょうか……?」

「いえ、旅人です。私はその代表です」


 まさか個人からそんな大金の両替を頼まれるとは思ってもみなかったのだろう。

 かなり圧倒された様子の受付が奥に引っ込んで行き、少しすると俺とメルトを含めて三人、別室に案内されたのだった。


 




「この度は我々のギルドをご利用いただき、誠に感謝いたします。こちら、大金貨二〇〇を両替なのですが、こちらの手数料で本来は二割頂き、八〇〇万リクスお支払いするところなのですが、金額が金額です、今回は八二〇万リクス、お支払いしたいと考えております」


 別室に通されると、ある程度大きな取り引きの担当を任される人間なのか、他の職員のような制服姿ではない男性が対応してくれた。

 両替の手数料、その相場が適正か適正でないのか俺には判断できない。

 だが、少しでも色を付けようとしているのが向こうから伝わってくる。


「シズマ。手帳に書き留めてください」

「ん、了解」


 突然、対応をしていたシーレが、返事をするでなく、俺に指示を出した。

 まるでそれは『立場ある人間が情報を記すように部下に命令を下す』かのような。

 なるほど、これはハッタリだ。『ただ大金を持つだけの旅人』から『部下に金額のメモを取らせる得体のしれない大金を扱う人間』となる。

 これは、向こうも慎重にならざるを得ない。


「ライズアーク商会ギルド、手数料二割。大金貨二〇〇枚にて手数料の割引発生、手数料が更に一割引きです」


「ありがとうシズマ。さて、ではこの金額が最終決定なのですね?」


 俺は、暗算で瞬時に答える。この程度の問題、元高校生ならさすがに答えられないとな。

 だがこの世界ではまだ、そこまで数計算、それも日常生活で使うような計算以上のものを修め、瞬時に暗算可能な人間は少ないはず。


 かつて、ピジョン商会の商会長が『数計算ができるならすぐにでも雇いたい』とセイムに言っていたくらいだ。

 当然、俺とシーレのやり取りを見ていたこの相手は――


「いえ、やはりここは八三〇万リクスお支払いします。非常に良い人材をお持ちですね」

「いえいえ、実を言うと――こちらの方が我々の主ですので」

「すみませんね、何分こういった性分でして。手の内は極力隠しておきたかったのですよ」


 突然シーレが俺に話を振るので、アドリブでごまかす。

 えー……そのままシーレが謎の女主人だと思われていた方がいいじゃないか。


「我々はこれから、こちらの大陸で活動を始めたいと思っています。直接こちらと関わることになるかは分かりませんが、この大陸の経済活動に関わる人間になれることをどうかお祈りください」


「なるほど……分かりました。では、こちらがこの大陸で扱われている通貨となっております。こちらの一〇〇〇リクス硬貨を三〇〇枚。そしてこちらの一〇〇〇〇リクス硬貨を八〇〇枚。ただいまこちらにお運び致します」


 そう言うと、男性は俺が旅の冒険者から頂いた硬貨とは違うデザインの、やや大き目な白みがかった銀色のコインと、同じ大きさだが、淡い金色のコインを取り出して見せてくれた。

 俺は【神眼】でそれを確認してみる。




『一〇〇〇リクス硬貨』


『コンソルド帝国が二〇年前から発行している新しい通貨』

『一枚で一〇〇〇リクスの価値があり銅に加えてニッケルが混ぜられている白銀のコイン』

『ジャーマンシルバーと呼ばれる合金であるがそれに加え魔法的な加護が付与されている』


『一〇〇〇〇リクス硬貨』


『コンソルド帝国が二〇年前から発行している新しい通貨』

『一枚で一〇〇〇〇リクスの価値があり金に微量の銀が配合されている淡い金色のコイン』

『シャンパンゴールドと呼ばれる合金であるがそれに加え魔法的な加護が付与されている』




 うん、これが贋金であることはなさそうだ。しかしそうか……合金を硬貨にする、か。

 量産をする意味でも、耐久性の面でも、恐らく勝っているのかもしれない。それに魔法もかけられているようだし。

 それこそ、偽造防止なのかもしれないな。


 運ばれてきた大きなトランクを、俺は係員の静止も聞かずに軽々と持ち上げ、自ら運んでいく。

 重いのは間違いないが、今の俺はもう、この程度の重さはどうってことないのだ。

 ある意味ではこれもアピールではあるのだけど。


 そうして、無事にこの大陸での活動資金を得た俺達は、次に冒険者ギルドに相当する組織を探しに、街に繰り出したのであった。

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