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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十四章 別離と新たなる大陸

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第二百九話

(´・ω・`)お待たせしました。

(´・ω・`)作者の体調や仕事の兼ね合いで、しばらくは週二回の更新予定です

 船の揺れの大きさは、たぶん船体の大小に左右されるのだと思う。

 少なくとも、俺達が今乗っているこの外洋船は『著しく揺れて酔う』ということはなかった。


 ただそれでも、大きくゆっくりと上下するように揺れる足場というのは、慣れていない人間には違和感を覚えさせるのだろう。


「へ、変な気分……! ぐわわわんって……揺れてる!」

「島に渡る船とはだいぶ規模が違うからね。メルト、気分悪くない? 大丈夫?」

「う、うん。それは平気よ……でもシーレが」


 外洋に出て、揺れが幾分治まった船。ただそれでもゆっくりと一定の間隔で上下する船体に、ダウンしてしまったのはメルトではなく、シーレの方だった。


「シーレ、少し船室で休んだ方がいいよ」

「大丈夫です……じきに、慣れますから。一緒にいさせてください」

「……分かった。なら、せめて風を感じられる甲板で休もうか」

「シーレ、はい。手繋いで行こう?」


 メルトの手を取り、ゆっくりと甲板へと向かう。

 そう、俺達はついに……隣の大陸『ライズアーク』へと向かっていた。


 港町からヤシャ島に渡り、そこからさらに外洋船、巨大な、長旅に耐えられる客船に乗り換えて旅立った。

 大きな船である分、島行きの船とは揺れ方も違うのだが、逆にそれがシーレには合わなかったようだ。


 甲板に到着すると、温かな日差しと波風が出迎えてくれた。

 恐らくもう、ダスターフィルの領海を抜けた関係なのか、それともダンジョンコアの影響もあり、既にダスターフィルを蝕む気温が失われたからなのか、はたまた、そもそも季節が六月に入っているからなのか。


「あそこにベンチがある。シーレとメルトはあそこに座りな」

「うん。シーレ、行こう?」

「お手数おかけします……」


 温かな、微かに湿気を孕んだ潮風が、顔の表面を柔らかくコーティングするような心地良さ。

 もう出発したヤシャ島の姿も見えなく、周囲にも島や大陸の影すら見えてこない海。

 青に囲まれた、ただただ心地いいだけの世界。


「二人とも、一応船酔い対策にこれ、飲むと良いよ」


 俺はベンチの二人に、多少の回復効果がある、ゲーム時代の食品アイテムである『ただのレモンティー』を手渡す。

 柑橘系って、乗り物酔い対策にも良いって聞いた覚えがあるからな。


「ありがとう、シズマ」

「ありがとうございます。……美味しいですね」


 薄い紅色の唇が、ストローを可愛く咥えて、ちゅうちゅうと中身を静かに吸う姿が、なんとも庇護欲を掻き立てられる。

 同じようにメルトもちゅうちゅうと並んで飲み始め、その光景がなんとも可愛らしい。


「じゃあ俺も」


 ベンチの空きに腰かけて、同じようにレモンティーを口にする。

 海を眺めながら。追従するように飛んでいた海鳥が、甲板の手すりに止まるのを眺めながら。

 ゆっくりとした時間が、海だけの風景と共に流れていた。




「だいぶ、慣れてきました。ありがとうシズマ」

「シーレ、顔色良くなったわ。うーん、酔い止めの薬、自分の分も作っておくべきだったわ」

「無理はしないでな。船室も用意されてるから」

「ありがとうございます。もう少しだけ、ここでのんびりしていますね」


「私も! たまに、船と同じ速度で飛んでいる鳥が近くに来て面白いの。まるで止まってるみたいに浮いているのよ」


 しばらく休んでいると、彼女の自己申告の通り、顔色がだいぶ良くなり、儚そうな印象が若干薄れ、笑みを浮かべるようになっていた。

 いや、もともとシーレは儚い印象を受ける容姿をしているけれど。


「じゃあ、俺は少し船を見て回ってくるよ。二人とも、何かあったら知らせて欲しい」

「分かりました。夕方前には船内に戻りますね」

「船で寝るのってどんな感じなのかしらねー? 二週間くらいかかるのよね?」


 そう、船の種類にもよるが、俺達が乗った船は、客の快適性を重視した、ゆっくりと航行する巨大な客船なのだ。それ故に、ヤシャ島からライズアーク大陸まで、一三日も要するのだ。

 中々の長旅。が、幸いにしてシーレの船酔いも、そろそろ改善してくれそうだ。


 俺は念のため、船内を探索して、主要な施設の場所を把握しておくことにした。

 シャワーやトイレは備え付けられているが、食堂や医務室、ちょっとした売店だってあるはずだからな。もしもの時のために地理を把握しておくのは必須だ。


 二人を残し、俺は一人船内へと戻る。

 ライズアーク大陸……一度は偶発的な事故で迷い込み、あまり人や街とも関わらずに去ってしまった大陸。一体どんな場所なのだろうか――








 シズマが船内に向かった頃、メルトは気分が良くなったシーレに、少しだけ寄り掛かるように身体を寄せ、嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 まるで、大好きな母親や姉、そんな極めて身近な人間に甘える幼子のように。


「ふふー、なんだか嬉しいわ。知らないところに、シーレと一緒に行けるなんて。シズマまで一緒なのよ。セイムは……ちょっと残念だけど……」


「ふふ、セイムは街が大好きで、みんなと一緒に私達の家を守ってくれていますからね。帰る時は、たっぷりお土産といろんなお話、持って帰りましょう」


「もちろん! あ! また鳥が近くに来た!」

「本当ですね、可愛い」


 海鳥を、二人で楽しそうに眺める二人の美少女。

 遠目からも人目を引く、美しい頭髪。

 楽しそうな笑い声に、近くを通る人間も釣られて笑みを浮かべ、ちらりと盗み見た者は、その容姿に感心にも似た驚きを持つ。

 そんな二人に、ちょっかいをかけようと思う人間が現れるのは、もはや既定路線のようなもの。


 尤も、元々この客船が、隣国まで優雅に旅をする目的の豪華客船であり、乗客のほとんどが富裕層だということも、起因しているのかもしれないのだが。


「失礼、海鳥を一緒に眺めても良いかい?」


 一人の男が、海鳥が見たいと言い、ベンチの空いている席に座っても良いか遠回しに訊ねてくる。

 メルトはすぐに『いいよ』と言いそうになるも、シーレが代わりに応えようとする動きを察し、口をつぐむ。


 思い出したのだ。かつて、シーレが図書館で男に言い寄られた時に対応したことを。

 今度は、彼女がどう対応するのか、それを学ぼうとしていたのだ。


「ええ、どうぞ。ここはみんなの席ですからね」

「そうかい、ありがとう」


 シーレの隣に腰かける男。そして入れ替わるように立ち上がるシーレと、手を引かれ続いて立ち上がるメルト。


「メルト、彼を迎えに行きましょうか」

「あ、シズマのこと探す? 船の中に行ったはずよー」


 シーレは、聞こえるように男の存在を匂わせる会話をする。

 メルトはその意図に気がつくことはないが、ベストの返しをする。

 それは暗に『連れの男がいる』と知らせ、けん制する言葉となった。


 一人、ベンチに残される男。アテが外れ、そして追いかけるには少々、最初の言い訳が足を引っ張る。『鳥を見るのではなかったのか?』と。

 極力騒ぎを起こさずに、シーレはナンパ目的であろう男から離れることに成功したのであった。




「シーレ、あれってどういう状況だったのかしら」


「あれは、遠回しに私達とお近づきになろうとしていた方……の可能性がありますね。ただ、紳士的にかつ遠回しな物言いでしたので、こちらも遠回しに離れることができました。自意識過剰の可能性もありますが、普通、若い女が二人で楽しそうに話している席に、同年代くらいの見知らぬ男が無遠慮に相席しようとは思いませんからね」


「そっかー。難しいね!」


「そうですね、難しいです。とりあえずシズマのことも探しましょうか。きっと船内のどこかにいるはずですから」


「おっきい船よねー……シズマ、見つかると良いね! この船、きっと小さな村よりもたくさんの人が乗っているし、とっても広いもの」


 そうして二人もまた、船内を探索しはじめる。

 もう、すっかりシーレの船酔いは改善したようだった。








 船内探索を進めていると、思いの外、貴族以外の利用客も多く、そういった人間は船倉近くの客室に集中しているようだった。


 俺達の馬車は船の下層に多くの荷物と一緒に積み込まれており、引いていた半魔獣もしっかりと船に設けられた馬房で休まされているそうだ。


 俺は一通り船内の施設の場所を把握し、最後にその船倉、馬房や馬車のある下層を目指していた。

 この広さは、もしかしたら映画で見た『タイタニック号』に匹敵するのかもしれないな。

 ……その末路を知っているので、似ていると思ったこの船が同じような道を辿らないように祈っておこう。


「船倉がここか……ひっろいなぁ」


 船底近くの倉庫では、しっかりと巡回の人間が荷物や馬車を守っており、俺は荷物の主だという証を見せ、自分の馬車の元へと案内された。

 セイムが、俺達のために用意してくれた、最新式の馬車。

 今は馬が繋がれていないため、なんとなく『画竜点睛を欠く』のような印象を受けた。


「ふぅ」


 溜め息をつきながら、客車に乗り込む。

 揺れの少ない馬車は、どうやら船の揺れ程度なら完全に殺してくれるのか、乗り込んだ瞬間、今の今まで感じていた波の揺れも大きく軽減してくれた。


「……次の大陸、か」


 俺は、船室よりもさらに静かで落ち着けるこの場所で、一人目を閉じる。

 意識を、己の内に飛ばす。

『みんな』に、会うために。




 すっかり自分の意志で至ることができるようになった、精神世界に存在する暗闇の円卓。

 気がつくとその上座に座っていた俺は、周囲の席に座る俺のキャラ達の顔を眺め、そして……すぐ近くの空いている席、セイムの席をちらりと確認し、少しだけ胸中に去来した寂しさに苦笑いを浮かべた。


「や、久しぶり。みんな」

「ふ、そうだな。まずは……おめでとう、だな。メルトの薬の実験に成功した祝いの言葉だ」

「ありがとう、シレント。みんなも、いつかは外の世界に出せると思う」


 集まった面々に向かい、そう言葉を投げかける。

 すると、真っ先に手を上げたのは、予想通りではあるが……スティルだった。


「我が主。正直、セイムがこうしてリンドブルムに残った以上、私が遠方で暗躍、フースを含めた暗躍する者達の視線を集め続ける意味は薄くなっているでしょうねぇ。ですが、私は思うのですよねぇ……やはりそれでも、異質で強力で異端な存在は、この世界のどこかに潜んでいると思わせ続けるのは大事だと。是非、御一考をお願いします」


「ワシも立候補するぞい。一緒に旅をしたいという気持ちももちろんあるのじゃが、同時にリンドブルムの治安、セイムだけに任せるには些か範囲が広すぎるじゃろう。難民問題の件もあるしの」


 それに続き、ルーエも立候補する。そうだな、この二人は正直優先度が高いと思っている。

 逆に、できればこちらの手札として、俺の中に残しておきたい存在も何人かいるのだ。

 やはり、一芸に特化した存在や、純粋に強力な力を持つ存在は、もう少し残しておきたい。

 俺はその考えをみんなに伝える。


「そうだな、俺はできるだけシズマの中に残ろう。恐らく、今のシズマよりも武力で上回る人間は、すくなくともこの円卓にいる面々の中では多くない。ルーエとスティルが自由になることを望む以上、俺が残るのが適任だ」


「うむ、すまんの。……じゃが、実際ここに顕現してない者の中にも強者はおるじゃろう? シレント、主も今や、リンドブルムのギルドの中で頼られる人間の一人で戦争の功労者じゃ。主を求める存在もいると思うがの」


「それは、そうだろうな。だが、強者の中に安心してシズマを任せられる者は……正直、自信を持って言えるのは『ティストナード』くらいだ。だが、あいつを矢面に立たせるのは……」


「んむ。ふむ……シズマ、お主の目から見て、シレントに次ぐ実力者は誰かの? 手札を増やすこと、シレントをいつか外に出すことを考え、もう一人候補がいてもいいじゃろう?」


「え? んー……そうだなぁ『セイオン』とか……?」


 シレントとルーエの話を聞き、俺はまだ顕現させていないキャラクター、その中から『ティストナードやシュヴァイゲン以外でシレント並に強力なキャラクター』を思い浮かべる。

 俺の持っているキャラクター……ほぼ倉庫として使っているキャラクターを含めると、あと八人ほどいる。


 その中で、二人の言う条件に当てはまりそうなのはセイオンくらいだ。

 が――


「俺の代わりが務まるか……? あれはシズマ、お前の戦闘スタイルとほぼ同質だろう」

「確かに。けどまぁ、技能は絶対役立つと思うし、生き残る力はシレントにも並びそうじゃないか?」

「ふむ、一理あるのう。戦闘能力以外の部分を考慮するなら、確かにしぶとい人間ではあるの」


 セイオンの職業は『盗賊/軽戦士』だ。つまり……生粋の盗賊としての技を使える。

 そして、セイムで使えた鍵の構造を見抜くような経験や知識を、より高度な状態で習得しているのがセイオンなのだ。


「それに、俺はルーエの知識である程度の戦闘の技術を習得しているけど、生粋のスピードアタッカーであるセイオンの姿になって技術を身につけるのはありかもしれない」


「なるほど、確かにな。が、まだしばらくは俺もシズマの中に残る。今はまだ考えなくてもいいんじゃないか?」


「んむ、それはそうじゃの。これはあくまで未来の話、じゃ。ダンジョンコアを入手できるかすらまだ不透明じゃしな」


「そうだな。シズマ、俺としては、まずライズアークに渡った後は、ダンジョンの情報を調べるのを優先するのも大事だが、まずは地位、肩書きを作ることを優先した方がいいと思う」


 確かにそうかもしれない。

 他国、他大陸である以上、どこまで俺の持つ冒険者ランクや探索者ランクが通用するのか分からないのだから。

 まずは制度、地位について学ぶべき、だろうな。


「こういう時、案を出したりまとめてくれる二人、セイムとシーレがいないのは、少し不便ね」

「そうかもな。セイラ、お前の女性的な意見も期待しているから、これからもよろしく頼む」


 セイラが、この円卓を去った二人の名前を上げる。

 そうだな、確かにあの二人はまとめ役として優秀、だったもんな。


「みんなが、シーレがいなくて寂しがってるって伝えておくよ」

「ふふ、お願いね? それと、メルトの教育、しっかりねって伝えておいて頂戴」

「了解。じゃあみんな、今回はこの辺りで終わっておくよ」


 そうして、俺は皆に別れを告げ、意識を現実に戻す。

 ……そうだな、誰を残すか、誰を手札として抱えておくか、これからはそういうのも考えないといけないな。


 目を覚ます。薄暗い、光のない船倉、そのさらに客車の中。

 俺はそこで大きく伸びをし、甲板にいるであろう二人を迎えにいくのだった。

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