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第二百一話

「たぶん、俺の考えはみんなにも伝わっていたと思う。みんなのことを意識していたからさ」


 その夜、俺は眠る際にこの場所、つまり『円卓』を思い浮かべ、精神世界にやって来た。

 円卓には俺のキャラクター達が着き、その顔ぶれには今回、新たに『セリーン』が増えていた。


「みんな、集まってくれてありがとう。セリーンはこの場合、初めまして……でいいのかな?」

「はい、シズマ様。こうしてお会いするのは初めてですから、初めまして、ですね」


 さ、様付けとな! ううむ、キャラクターの性格って、ゲーム時代のシナリオに準じているとは思うのだが、そこまでシナリオ上で主人公に台詞って用意されていないんだよな、恐らく自分の分身であるキャラに感情移入をさせる為に。


 だから、境遇やシナリオでの扱い、周囲の反応や環境に応じた性格付けが、もしかしたらゲームの内部設定ないし、運営側ではある程度決められているのかもしれないな。


「シズマ様は私の身体を私以上に使いこなしていました。正直、感服しています」

「んむ、そうじゃな! ワシの教えと知識を糧にしてくれているようで嬉しいぞい」


 セリーンとルーエの言葉に、少し照れてしまう。でも、俺だってセリーンの強さを信じたから、あんな無茶ができたのだ。

 なにせ、しっかり時間をかけてサブジョブの槍闘士のレベルも上げていたのだから。


「話を戻そうか。みんな、俺のこれからの方針について、なにか意見はあるかな?」


 俺の問いかけに、皆が無言で返す。つまり異見はない、と。


「ならこの先、仮に召喚したみんなに意思がしっかり反映されるとしたら、誰を優先して解き放つべきなのか、それを今のうちに相談して決めておきたいんだ」


 まず今回一番の議題だ。

 皆の意見を聞く前に、まずは俺の意見を伝えるため、いつも以上に真剣な表情を浮かべた皆から伝わってくる緊張の中、俺は考えを述べる。


「最初に俺の意見を聞いて欲しい。現状、仮に意思を反映させられるとして、その人数は二人。なら、俺はそのうちの一人をセイムにしたいと考えているんだ。一番、この国と関わりが深いのはセイムの姿での俺だ。だから俺が旅に出るとして、リンドブルムに残す人間はセイムが適任だと考えているんだ。全ての責任を押し付けるようで気が引けるけれども」


 そう、セイムだけはこの国に残していきたいのだ。

 信頼も厚く、関係性も多い。その全てをセイムに託し、維持しろという願いでもある。

 仕事の引継ぎみたいなものかもしれないけれど、とんでもない量の引継ぎだよな。


 俺の言葉に円卓の一同は黙り込み、そして当の本人であるセイムもまた、目を閉じ深く考え込んでいる様子だった。


「……実は、今と同じような議論を僕達だけで交わしたことがあるんだよ。その時も、まず優先すべきは僕だ……という意見が出ていたし、僕自身、それが良いと考えているんだ」


「本当か! そうか……受けてくれるか、セイム」


 その返答に安堵する。正直、俺が築いてきた関係そのものは、心の中の皆もある程度は共有できているはず。


 だが実際に対面し、その関係を維持し続けるのは相当な苦労があるはずだ。

 俺と、みんなの人格、性格は違うのだから。


 確かに俺もキャラクターのイメージである程度演技をしていたし、みんなの人格、気持ちの一部を感じ取ってはいたけれども、同一人物ではないのだ。

 関係をそのまま引き継ぐのは難しいだろうな、絶対。


「よし……じゃあ次だ。もう一人、召喚そのものは可能なんだ。それをどうするか決めたい」


「ふむ……我がままだけ言うのなら、わしを出してくれと言いたいところだがのう、そうもいくまい。リンドブルムの守護、必要に応じて招致に応じることができる人間はセイムだけで事足りるからのう。となると――」


「セイムとは異なる方法でシズマの助けとなる存在か、いっそのこと二人目はなし、シズマが旅先で困った時に誰かを召喚し、役目を与えられる自由枠として残しておくのも手だな」


 シレントの言葉に、皆も一先ずの理解を示す。

 だが、それに異を唱える者が一人……スティルだ。


「余らせるくらいなら、自由に動き敵の目を引く役目として私を自由にしては?」


「業腹だけど一理あるわね。シズマ自身が私達の姿になれば大抵のことは解決できるんだもの。だったら私達みたいな一芸特化を無理に出すよりは、スティルのような人を出しておくのもありね」


「おや、セイラさんが賛成してくださるとは思いませんでした」

「まぁ、合理的な判断よね。ただ……私的にはもう一つ案があるのだけど」


 そう言うとセイラは、ある一人に視線を向ける。

 その人物は――


「メルトとシズマが旅に出るとしたら、保護者とアドバイザーを兼ねた人間を一緒に同行させるのも手だと思ったのよ。『根本に別な人間がいる』『生活に役立つ知識すら沢山持つ』『純粋に賢くメルトとも親しい人間』そんな人が、一緒に旅をするべきではないかしら? ねぇ、シーレ」


 それは、シーレに向けて言われた言葉だった。

 恐らく、精神世界に残りたいと思っている彼女にその提案は、少々残酷だとは思う。

 そして言われた彼女はというと――


「……確かに、その通りかもしれません。私の感じていた孤独も疎外感も、元をただせば『自分はどこか違う気がする』という私の思いが起因していたと、今なら感じます。……もし本当に外の世界で、一人の人間として生きるのなら……隣にメルトとシズマ、二人がいてくれるのなら……喜んでお供しますよ。流石にリンドブルムに残れと言われるのなら、絶対にお断り致しますが」


 意外なことに、その案に対しては乗り気だった。

 これで、現状上げられた案は『スティルを自由に行動させる』『保留状態を維持』『シーレを旅に同行させる』という三つだ。


「ふぅむ、そうじゃのう。それならワシも旅の同行に立候補したいところじゃが、ワシもリンドブルムの守護を、シズマ達の帰る場所を守りたいという気持ちの方が強いのう。セイムだけではカバーできぬことも必ず出てくるじゃろうし、な」


「俺は、シーレの同行に一票だ。元が違う人間であるが故の視点の違いは旅に必要だ。それに知識の量も俺達以上だ、学者が生きたな、シーレ」


「おやおや、これは私の案の旗色が悪いようですね。ただ、それも良いかもしれません。現状、セイムさんがリンドブルムに残るなら、ある程度の余裕は生まれますし、私の存在はライズアークで恐らくフースの一味に確認されたことでしょう。無理にかく乱する必要もないでしょうね」


「いーなーシーレ。私もシズマとメルトちゃんと一緒にいたいなー。でも私、まだ弱いの自覚してるからなー」


「ふふ、皆さん、もう一つの案を私が語って聞かせても良いでしょうか! ずばり、旅の夜を彩る音楽という癒しが――」


「ハッシュさん、お黙りなさい。私が案を自ら取り下げたというのになんと厚顔無恥な」

「ぐぬぅ……」


 ハッシュ、ブレなさすぎる……!

 だが実際、ハッシュの姿はいつでも変身できる状態にしておく方が便利ではある。

 前回もそうだったが、大貴族を相手にする時、そこに忍び込んだり取り入るのに、ハッシュの音楽家としての技術は有効な手段になりえるのだから。

 その考えをハッシュに伝えておく。


「おお! 流石よく分かっていますねシズマ! 良いでしょう、今しばらく私はこの円卓を音楽で彩っておくとしましょう!」


 ……ちょろいなって思ったのは秘密です。

 けどそうか……キャラを俺の中に残しておくということは、そのまま『手札を手元に残しておく』ということなんだもんな……。

 一度、俺がまだ使ってないキャラクター達のことも整理しておかないとな。


 そうして今夜の会議は終わり、今後の方針もあらかた決まったところで、俺は意識を手放した。




 翌朝、リビングで朝食を作っていると、メルトの部屋の扉が開く音がしたと思ったら、すぐに作業部屋に移動したと思われる音が聞こえて来た。

 なるほど、朝食ができるまでの短い間、少しでも作業を進めたいのだろう。


 今朝はメニューに残っていたイカの身を細切りにして、ニンニクや他の野菜と炒めて作った具を、ニンニクと唐辛子と油で味付けしたパスタに絡めた、なんちゃってシーフードアーリオオーリオだ。


 朝からにんにくは重そうなので、とりあえず口臭対策も兼ねたハーブティも用意しました。

 朝食が完成したところで、メルトに聞こえるように二階に声を掛けると――


『はーい! 今行くー!』


 すぐに出てきてくれた。よかった、世の子供達のように、何度呼んでも出てこないとかそういう反応じゃなくて。

 ……それ実家にいた頃の俺なんですけどね? 『ネトゲ止められねぇんだけど!』って具合に。


「おはよう、メルト。作業の方は順調かい?」


「おはよーシズマ。うーん……今ね、あのお酒の成分を全部分離させようとしているところなんだけど……凄く時間がかかるわねー。精密作業だから、一度分離作業に入ったら動けなくなるし、そうなると今度は他の作業が出来なくなるし」


「ふむ……ご飯を食べ終わったら少し実験してみようかな。メルト、助手欲しくない?」

「助手? シズマが手伝ってくれるの?」


「いや、いつもの召喚で、薬の調合の専門家さんを呼び出して、メルトの作業のお手伝いをお願いするんだよ。たぶん、指示通りに動いてくれると思うよ」


「おおー、誰かしら? 楽しみねー」


 という訳で最近お世話になった姿である、セリーンを食事を終えたら召喚してみようと思います。

 二人でパスタを食べ終え、食器の片づけは俺がしておくからと、実際に呼び出してみる。


「おー! 初めて見る子ね! この子の名前はなんて言うのかしら!」


 現れたセリーンとメルトの体格は、若干セリーンの方が背も高いのだが、顔立ちの影響か、同年代に見えた。

 シーレはほぼ同じ身長だったのに、逆に顔つきの所為で年上に見えたんだけどな。


「この子の名前はセリーンって言うんだ。セリーン、今から彼女、メルトの指示に従って、調合の手伝いをしてもらいたいんだけど、大丈夫かい?」


 俺は彼女へのオーダーとして【調合】を選択した後に、そう指示を出した。

 すると彼女はしっかりと頷き、まるで指示を待つように、今度はメルトに向き直った。


「お、おお……なんだか緊張するわ。じゃあ……一緒にお部屋に行ってから、やり方を教えるね」

「……」


 無言のまま、コクリと頷くセリーンを従え、早速作業部屋に向かうメルト。

 さて……じゃあ俺は今、特にやることもないから……家事をしたら、一度王城に向かうかな。

 ダンジョンコア、結局この国に使ったのだから、そのことを報告しなくては。


 俺はメルトにそれを伝え、しっかりと家事をした後、忘れずに歯を磨いてから城へと向かうのだった。

 ……ニンニク臭い口で女王陛下と謁見とか、不敬が過ぎるからな!

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