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じゃあ俺だけネトゲのキャラ使うわ ~数多のキャラクターを使い分け異世界を自由に生きる~  作者: 藍敦
第十三章 心の成長

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第百九十四話

「や、やめてくれ! もうお前らに手は出さねぇ! だから――」


 少しだけ上等な装備に身を包む戦士に、拳を叩き込む。

 無論、一撃で事足りるのだが、私の殺意を込めた拳にはしっかりと【弱者必滅】が発動する。


 確率で即死。そして力の差があればあるほど確率が高くなる。

 内臓を全て潰された痛みで死に絶えるより、一瞬で命を失う方が楽でしょう。


「ああ、皆さん逃がしませんよ? どうせ『非合法な依頼で大金をちらつかされた』チンピラなのでしょう? 殺して金を貰うつもりだった穢れた人間なのでしょう? 私と同じ唾棄すべき存在なのでしょう? なので私達は平等に殺し合わなければならないのですよ!」


 逃げまどう人間に追いつき、逃げる背中に拳を打ち込めば、どうやらスキルの発動関係なしに即死してしまったようだ。

 殴った勢いで上半身だけ吹き飛んでしまった。

 ならば、先程の男は余程良い性能の鎧を身につけていたのでしょう。


 残る一人をしとめるべく、逃げた方向に視線をやれば、そこには既に槍に貫かれ、そのまま振り回されて川に投げ込まれる男の姿があった。

 ふむ、やはり強いですね。フーレリカ……シレントの力を振るう主でなければ、倒すのは難しかったでしょうねぇ。


 十三騎士と殺し合いたいが為だけに国を裏切るだけはある。

 こういう、純粋な己の渇望の為に、ひいては『信念』の為に悪をなす人間は嫌いではない。


「そちらも終わりましたか、フーレリカさん」

「ああ。……スティル、あんた魔法使いじゃなかったのかい?」

「ええ、拳で殺すことを生業としていますよ。ふふ、どうです? 手合わせしてみましょうか?」

「勘弁して。勝てる気が微塵もしないよ」

「ふふ、賢明な判断です。……さて、そろそろこの襲撃者達の正体に気が付きましたか?」


 私は、フーレリカに問う。彼女がギルドの追手だと思っていた相手が、何故この大陸に入ってから増えたのか、何故『向かっているはずのアジト方面から現れたのか』を。


「……私は、消されるのかい? あんたも……私を消すために監視に来たのかい?」

「もし『そうです』と言ったらどうします?」

「……人生の最期に飛び切りの強者と戦うことになるなんて、皮肉だなって思いながら戦うよ」


 そう言うと、彼女は未だ血濡れた槍を強く振るい、血を払う。

 決死の覚悟で槍を構える姿は、まぎれもなく本気の気概を感じる。


「ふむ、いいですねぇ! 流石は国を裏切った狂戦士だ! ああ、しかし安心してください? 用があるのはフースさんですから。貴女をどうこうするつもりはありませんよ」


 そう言うと、彼女の張りつめていた空気が僅かに弛緩し、緊張が解ける。


「……信じるからね、スティル」


「ええ、信じてくださって結構です。私は『殺す必要がある』相手しか殺しません。貴女を殺す理由が私にはないですから」


「そう……なの。でも、フースはたぶん私を消すつもりよね」


「恐らくそうでしょう。端的に言えば貴女は『任務を失敗して捕らえられた上に一人で逃げ出した人間』ですからねぇ。それもギルドに泳がされるという形で。恐らく、本当の監視は別にいるのでしょうねぇ」


 もし、何らかの方法でこちらを探っているのなら、好都合ではある。

『謎の第三勢力スティルは別な大陸に渡った』と知らせることができるのだから。

 できれば、フースさんの一味にも私の存在をこちらの大陸で認知してもらいたいのですがね。

 ……正直期待できませんね。


「さて、行軍再開です。アジトに行けば、もしかしたらなんらかの情報が手に入るかもしれません」

「そうね……はぁ、せっかく新しい落ち着ける組織を見つけたと思ったのに」

「必要ないでしょう、貴女の気質的に。好き勝手個人で戦いなさいな」

「そうする。スティルはそっちにずっといるつもりなんだ?」

「いいえ? 私は一時的な協力者のようなものですから。折を見て私も姿をくらましますよ」

「そうなんだ。なら私と組まない? 二人で探索者にでも――」

「んー、お断りですねぇ。生憎、そこまで自由の身ではないので。まぁ、メリットもありませんし」

「はっきり言うねぇ。まぁ分かっていたけどさ。じゃあ、行こうか」


 川を上り上流へ。

 後ろから、ドロップ缶がからからと鳴る音がする。

 まぁ早い時間なら舐めても夜に眠れなくなることはないでしょう。

 ……噛み砕く音もしない。感心感心。




 次第に川幅が狭くなり、河原もほとんど、ただの岩場と呼べる険しい道になる。

 流石に一度森側に移動して山の斜面を登っていくと、遠くの斜面に洋館が見えてきた。

 もしかしたらアジトなんて実在しないと思っていただけに、しっかりとした屋敷が存在しているのは些か想定外だった。


「あれだね? まさかあんなに立派な屋敷があるなんて思わなかったけど」

「同感ですねぇ。どこぞの道楽貴族の別荘か、はたまたフースさん達が作らせたのか」

「行こうか。あんなに立派なら管理人だっているかもしれないし」


 確かにその通りだ。が、そうじゃない可能性も十分にある。

 少なくとも戦争を引き起こせる程度の力は持っている組織。

 アジトの屋敷なんて『惜しげもなく使い捨てる』くらい、やってのけても不思議ではない。

 私はしっかりと【神の導き】を発動させ、おかしな様子はないか確認しながら、屋敷へと向かうのだった。




 山の斜面にそびえる屋敷は、一目で『普通の別荘として活用されていた屋敷ではない』と分からせる作りをしていた。

 ここに至るまでの『普通の道』が存在していないのだ。


 並の人間では、ここまで辿り着くのに厳しい登山ルートを使わなければ辿り着くことができず、明らかに『通常以外の方法でしか出入りできない』といった様子だ。


 かつてフースは転移の魔法のようなものを使い、私の前から女生徒を連れて離脱した。

 恐らく、この場所はそうした超常の力を持つ者だけが利用する前提で建てられたのだろう。


 まぁ、私もフーレリカも人並み以上の身体能力で崖を飛び越えたり飛び降りたりして辿り着いた訳ですが。


「じゃあちょっと殴り込みにでも――」

「お待ちなさい」


 屋敷の前に辿り着き、どうするべきか考えていたところに、この女が考えなしに踏み入ろうとするのを、服の後ろ襟をつかみ食い止めてやる。


「グエ!」

「これは……中々贅沢ですねぇ。フーレリカさん、ちょっと失礼しますよ?」

「え!? ちょ、なに!?」


 私は、彼女を抱き寄せる。

 抱いたまま前後の位置を入れ替えるように私が屋敷側に背を向け、彼女を遠ざけるようにする。

 間に合いませんねぇ、まさか近づくだけで起動するとは、私の目でも見破れませんでしたよ。


 私は念の為、防護の魔法を発動させ、この腕の中にいる足手まといになりつつある彼女を守る。

 背後から轟音が鳴り響き、その音に脳が揺さぶられる。


「キャアアアアアアアアア!!!??」

「煩いですねぇ……」


 腕の中の絶叫に、どうやら私の鼓膜はこの極大の爆裂音でも無事だったことが分かった。

 なんとも、不用心なお馬鹿さんですねぇ……消される可能性があるのだから、屋敷に近づくにしても慎重になるべきでしょうに。


「……随分大規模な爆裂の術式だったみたいですねぇ? 不用心に近づくから起動したんですよ? どうやらフースさん達は確実に貴女を消したかったのでしょうねぇ? 私が壁にならなかったら、恐らく逃げきれませんでしたよ」


「な……なんだいこれ!?」


 屋敷どころの騒ぎではなかった。

 山の斜面が、屋敷ごと大きく削り取られてしまっていた。

 遠目からでも山の形が変わったと、一目で分かってしまう程度には。

 と、いうよりも……私が魔法で守った範囲以外は完全に焦土と化していた。


「な、なんで私達は生きて……」

「私が強いからですねぇ。動かないでください、このままだと足場がポキっと折れてしまいますよ」


 もはや、無事なのはこの二人分の範囲だけ。

 柱のように残されたこの足場から、私はこの足手まといを抱えたまま跳躍し、そのまま急な斜面や崖を蹴り進み、なんとか森の中に身を隠した。


「恐らく、どこか遠くから屋敷は監視されていたのでしょう。あの爆発の発動イコール、貴女の死でしょうしね」


「随分と……私の雇い主は私のことを買ってくれたってことか……」

「しぶとそうですからね、貴女」

「いや、あんた程じゃ……って……あんたは無事なのかい?」

「一張羅が燃えてしまいましたよ。背中がスースーします」

「……なんで服だけで済んでるんだい……」


 一応、私の着ている服は最高級の装備のはず。

 それが一瞬で崩壊するとなると、ここの爆裂術式は……もしかしたら、この女だけでなく、もっと強大な敵を想定して仕掛けられていたのでしょうかね?


「……ふむ。やはりギルドにも虫は潜んでいるのかもしれませんね」

「ん? どういうことだい?」


「お気になさらず。まぁ、これで貴女は名実ともに死んだようなものでしょうし、これからどうします? どこかで顔や髪でも変えて活動しますかね?」


 このフーレリカを狙ったであろう術式は、過剰火力もいいところ。

 なら、このフーレリカと『接点』があり、この過剰とも取れる術式でないと殺せないと想定した相手がいるはず。


 それは私だ。そして私とフーレリカの接点は、ギルド内で治療を施したあの一度きり。

 なら、その事実を知っているのはギルドの人間だけだ。


 ギルドの長クラスの人間が繋がっていることはどうやらなさそうですが、もしかしたら木っ端の職員の中には紛れ込んでいそうですねぇ。

 まぁ、考えられるとしたら私にフーレリカの治療を頼んだ職員ですかね?


「姿を……そうだね、少し裏に潜ればその手の魔術師や医者も見つかるだろうから……そうした方がいいかもね。私、結構自分のこと好きだから、愛着あるんだけどさ」


「ふふ、それは結構。恐らく、貴女を追うギルドの人間も既に貴女を諦めていることでしょう。察するにこの山脈、超えれば隣の国に辿り着けるのでは? 貴女は一度国を抜けた方が良い」


「そうだね。……フーレリカとしての私は、これで終わりってことかな。スティル、あんたにはさっきも救われたね。本当に感謝してる。正直、私は殺されても文句を言えない立場だからね、中々貴重な経験だったよ。少しだけ寂しいよ、たぶんもうあんたと会うことはなさそうだから」


「おやおや、随分懐かれたものですねぇ。一度救った命、無駄にするのももったいないと思っただけなんですがね。まぁ、貴女が誰彼構わず武を振るうことを止めるなら、私から狩りに行くこともないでしょう。では、お元気で、フーレリカさん」


「ああ。まぁ約束はできないけど。さよならスティル」


 そう言って、山を超えるべく山頂へ向かう彼女に、私は餞別として……今度こそ、何の仕掛けもされていないドロップ缶を投げ渡す。


「持っていきなさい。他では手に入らない品です、よく味わいなさい」

「お、ありがと。じゃあ……ばいばい!」


 今度こそ、山奥に消えていく彼女を見送る。

 追手の気配も追撃の気配もないあたり、爆裂術式の発動だけ遠くで観測していたか。

 それとも……『観測すべき対象を変えたか』。


「さてと……私もどこかで姿をくらませる必要がありますねぇ」


 ここにいるはずのない姿にはなれない。なのでこれまで主が使ってきた姿に戻るのは論外だ。

 ならば……丁度良い、きっと『あの姿』ならば主も都合が良いだろう。

 私は道なき道を下り、山のどこかに都合の良い隠れ場所でもないかと捜索しながら下山する。


「程良く人の往来がある場所の近くが良いですねぇ……これは中々骨が折れそうです」


 見渡す限り広がる山と森。その自然の雄大さに若干の感動を覚えつつも、途方もない距離を歩くことになるのだろうと辟易としながら、山を進む決意をするのだった。


「……その前に服を着替えなくてはいけませんねぇ」


 同じ装備を沢山持っていたのが幸いしましたねぇ。主の物を取っておきたがる性分に感謝ですよ。

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