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第百九十三話

(´・ω・`)お待たせしました第十三章開始です

 激しくなる揺れ、崩れ行く地下深くの空間。

 ここは、恐らく現実の海底とも違う異空間なのでしょう。

 それでも、ここの崩壊に巻き込まれたのなら、確実な死が主を、我らを待ち受けているだろう。


 既にあの女、ダンジョンマスターの姿はない。

 ならば……使おう、少々予定外ではあるが、私の奥の手を。

『我らと我が主を脅かす存在』をまとめて葬るために準備した最後の手段を。


「……気に入ってくれていると良いのですがねぇ『あのドロップ』」


 私は、既に使われて片割れの状態になり、名称が変化した鈴『転移の鈴』をチリンと鳴らす。

 その瞬間、私は猛烈な加速を全身に一瞬感じ、気が付くと――






「うわぁ!? なんだ!?」

「ふむ……夜、ですか」


 私は、気が付くと深い森の中と思われる場所に立っていた。

 目の前には焚火と、それ見守る一人の女性の姿。

 恐らく、この深夜の森の中、一人野宿を決め込んでいたのでしょう。


 いや……どうやら『一人にした』と言った方が正しそうだ。

 少し離れた森の中に、数人の遺体が転がっている。

 恐らく、この野営地をこの女が襲い、奪い取ったのだろう。


「あ! アンタ! 私を治療してくれた――!」

「おや? あの状況で記憶が残っていましたか。お久しぶりですねぇ……名前は確か――」

「『フーレリカ』だよ。あんた、私を治療した人だよな? フースさんの仲間だよな!?」


 見れば、彼女の傍らには『私が以前渡したドロップの缶』が置かれていた。

 彼女は飴を取り出すたびに『中に入っている鈴』を鳴らしていたのだ。

 自分の意志で、その都度『使用した場所を更新してくれていた』のだ。


「その飴、気に入ってくれたようですねぇ」


「ん? ああ、これ舐めると体の調子が良くなるんだ。だから戦闘があったらこれを舐めて休むようにしてる。ほら、周りに追手がいるだろう?」


「追手……なるほど? 察するに『ギルド』の人間ですか。どうやら、貴方の逃亡をギルドがお膳立てしていた理由は、貴女を泳がせる為でしたか。てっきりギルドとフースさんが繋がっていると思ったのですがねぇ」


「流石にそれはないね。あの国の連中はどこまでいっても『女王陛下の犬』さ。ま、元神公国騎士の私も人のこと言えないけどさ」


「ふふふ、その若さで反旗を翻したのは中々ですがねぇ」


「だって、あそこにいたら一三騎士と本当の殺し合いができないだろう? 私はね、本当に強い人間と戦う為ならなんでもするよ。まぁ……それが自惚れだって、世界は広いんだって分からされたわけだけどさ」


 私のことを完全に信用しているのだろう、フーレリカは自分の身の上を語る。

 しかし……彼女一人か。黒幕連中を一度に殺すチャンスかと思ったのですがね。


「それで、フースさんに雇われた、と?」


「そ。計画の全貌は知らされていなかったけどね。ただあの国の心臓はリンドブルム、総合ギルドなんだ。あそこを麻痺させたら打てる手も増えるからって、私が襲撃したんだよ。勿論、例の捕まった男の口封じも兼ねてさ」


「なるほど、そうでしたか。だから『私とは面識がなかったのですね』」


 私は、更に自分が仲間だと思わせる為に嘘の言葉を混ぜる。


「ねぇねぇ、あんたの名前は? 一応、感謝してるんだ私。元々、万が一私が捕まっても、大きな戦争が起きたら、そのゴタゴタに乗じて私を助けるって言われてたんだ。でも、あんな化け物がギルドにいたなんて知らなかった。治療もされずにあそこに放置されてた以上、もしかしたら救助に来ても見捨てられるかもって思ってた。でもあんたは私を完全に癒してみせたし、こんなお土産もくれた。これ舐めてると本当に調子が良いんだよ」


 そう言いながら、フーレリカはドロップの缶をカラカラと振って見せる。

 もう、鈴の音は鳴らない。私が対になる鈴を使った為に消滅したのだ。


「あれ? 鈴の音がしない」


「ああ、あれは『まだ飴の数に余裕がありますよ』ということを知らせる魔法なんですよ。私が掛けました。もうそろそろ中身が空になるのでしょう」


「ん、そうか。なんだか寂しいね、私あれを聞きながらあの飴舐めるの好きだったんだ。こういう夜とか、舐めながらコーヒーを飲むようにしてるんだよ」


「ほう……」


 そう言うと、彼女は近くに置いてあったマグカップを手に持ち、揺らして見せた。

 以前は噛み砕いていた飴を、こうしてじっくりと楽しむようになっているとは、中々見どころがありますね。


「さて……貴女は今どこに向かっているのですか?」

「え? あんた、迎えにきてくれたんじゃなかったのかい?」


「いえ? 私はただ貴女の持つ鈴の魔法を探知したので足を運んできただけですよ? この辺りが合流地点なのですか?」


 ふむ、これは会話の流れが不味いか?


「前々から言われてたんだ、リンドブルムから逃げ出せたら『こっちの大陸』に渡れって。それでアジトの一つで待機しろって」


「なるほど……アジトの数も多いですからねぇ。しかしこの辺りにあったとは私も初耳ですね。せっかくですし、私も同行するとしましょう。よろしいですか? フーレリカさん」


「もちろん構わないよ。あ、そうだ名前、教えとくれよ」

「仕方ありませんね……スティルですよ。敬愛すべき人間に名付けて貰った大切な名です」


「スティルだね、分かった。じゃあ合流地点のアジトまでよろしく。いやぁ、ギルドの追手の対処も大変だったからね。正直助かるよ」


「ふむ……」


 私は、近くに転がっている死体を調べてみることにした。

 恐らくギルドの追手、元々フーレリカの脱走を促していたのも、敵の本拠地を見つけ出す為だったのだろう。


 私としては、ギルドが黒幕と繋がっている展開を期待していたのですがね。

 その方が潰し甲斐がありますから。


 だが……妙だ。この死体、ギルドの職員であることを裏付けるものが……ギルトタグしかない。

 恐らくギルドの暗部、あの女性『レミヤ』のような人間が、こういう場合の追手に使われるはず。


 私の記憶が確かなら、レミヤはギルドタグを装着せず、なにやら首輪を装着していたはずだ。

 これは……本当にギルドの追手なのか?


「フーレリカさん、追手は『この大陸』に入ってから現れましたか?」


「そうだね、頻繁に狙われるようになった。だから逆にこっちが連中を追跡して、油断してるところを急襲したってワケ。で、休憩中にスティルが突然現れたのよ」


「なるほど? ……ふむ、分かりました」


 私は、死体を一カ所に集めて、完全に消滅させる。

 浄化の魔法を【聖邪逆転】の反転させ、消滅の魔法として発動させて。


 本来はアンデッドを消し去る神聖な魔法ではあるのですが、逆転することで【邪悪な消滅魔法】と化すのだ。

 大人しく回復の効果になってくれれば、手軽に人を癒せるようになるのですがね?


「痕跡は完全に消しましょう」

「ヒュー! 回復術師ってだけじゃないんだね、やっぱり」

「ええ、そうですよ。私は『現状最強』ですからね」


 いずれ、我が主にも、そしていつの日か顕現する『あの二人』には負けるでしょうが。

 ……ルーエあたりも厄介そうですね、この世界の彼は強すぎる。


「なら安心して眠れるね。ここ最近、ずっと寝てなかったんだ。あの飴、舐めると眠れなくなるんだね?」


「おや、気が付きましたか。明日からは飴を控えても良いですよ、私が守ってあげましょう」

「守られるのってガラじゃないんだけどね? ま、お願いしようかな」


 ……少々、歪なこの女を、信用させる為に。

 私は少しだけ『良い人』になろうと、そう思った。


 本来なら、あの子狐さんに渡した鈴の片割れを今すぐ試すべきなのでしょうが、黒幕と会える可能性があるのなら、今はまだ少し、ここに残るべきでしょうね。


 ……恐らく、私が対になる鈴を顕現させていないと、あの子狐さんの鈴は鳴らない。

 鳴らない鈴に、彼女が辛い思いを、悲しい思いをしてしまうかもしれない。


 だが……黒幕を殺せるのなら。フースとその一味、暗躍する組織を消せるなら……今だけは許して下さいますか、我が主よ……。




 そうして、既に飴を舐めていた為眠る必要のないフーレリカと共に、一夜を明かす。

 この場所が『別の大陸』であることは分かったが、どの大陸かは分からない。


 尋ねるのも不自然でしょうからね……どうにかして現在地を知っておきたいところ。

 私はできるだけ自然に、彼女にここまでどうやって移動してきたのかを訊ねる。


「ん? 普通に貨物船に忍び込んだ形だよ。少し前、この国に沢山奴隷が運び込まれようとしてたらしくてさ。でも直前でギルドが解決したらしい。で、結局渡って来た船は積み込む荷物がないんで、適当な荷物を手当たり次第積み込んだみたいだよ。それに紛れたってワケさ」


「ああ、リンドブルムに溢れた難民の件ですか」

「そうそれ。たぶん帝国側の貴族におかしな人間でも紛れてるんじゃないかい?」


「ありえますねぇ。『この広大な大陸の実質的な支配国』である以上、多かれ少なかれ多少の淀みが生まれるのは必然。大きすぎるというのも考え物ですねぇ」


「同感だよ。まぁその分手ごたえのある人間も多いと聞くよ。今の仕事が終わったら、私も帝国内のダンジョン探索者に鞍替えしようかな? やばい連中と戦えるかもしれないし」


 これでここが帝国、ライズアーク大陸であることが確定した。

 ふむ……まぁ時間的に彼女が逃亡するのなら、このあたりが限度でしょうからね。


 最悪、もし子狐さんが鈴を鳴らさなくても、船で帰ることができる距離ですね。

 二月はかかりそうですが。


「さて、その合流地点のアジトとやらはここからまだ距離があるのですか?」


「んーと……そうだね、森に入ってから今日で三日目なんだ。そろそろ山脈にぶつかるはずなんだけど、そこに大きな川が流れてるね、地図上だと。その川を上っていくと古い洋館があるってさ」


「なるほど? では……行きましょうか。恐らくここからなら川を先に見つけて上る方が早いでしょう。見通しも良い、私達を襲う人間も攻めやすいことでしょう」


「あんた好戦的だね、私も人のこと言えないけど」


「ふふ、好戦的な訳ではないですよ。何が起きても対処できる以上、効率のいい方法を選んでいるだけです」


「世界は広いね……あんたとは戦いたくないよ」

「正解ですよ。私は貴方を半殺しにした男、シレントよりも強いですからねぇ」

「ひぇっ」

「ふふ、では行きましょう? フースさんと合流するはずのアジトへ向けて」


 ……まぁ、正直会えるとは思っていないのですがね。

 それでも、何かしら得るものがあるなら、今は一緒に行きましょう。

 まだ、彼女は直接我が主と敵対している訳ではないようですし。






 早速川の流れを察知したフーレリカの言葉を信じ移動すると、本当に河原に出ることができた。

 足場の石や切り立った岩が点在する様子から察するに、完全に上流ではないにしても、それなりに源流に近い場所なのだと当たりを付ける。


 少々足場は悪いが、これなら戦えないこともないだろう。

 ……それに河原は案の定木が少ない。見通しが良いのでこちらを発見しやすいだろう。


 何よりも『アジトへの道が明確な河原』だ。

 もし、私の予想が正しければ……『襲撃者は川上から現れる可能性』がある。


「さてさて……フーレリカさんはそろそろ武器、呼び出しておいた方が良いでしょうね」

「ん? 私が武器を持ってるってよく分かったね?」

「まぁ一応仲間? ですからね。槍を取り出せるのでしょう?」

「正解。っていうか武器を出せって……敵襲かい?」

「恐らくは」


 さて、では少々準備運動も兼ねて『何も知らない』であろう襲撃者を迎撃しましょうか。

 ……この女の処遇も考えないといけませんねぇ。

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